ナディーヌの友達
あの後、ローランさんが魔法と言葉を伝える術を無くした。それで終わりで帰るはずだったけど、直ぐには帰れなくなりました。主に、ローランさんが。
精霊さん達に約束した悲しい子供を作らないような方策を、ローランさんと王様とギュスターヴさんが集まって、早急に対処する方法を打ち合わせする事になった。
その間暇になってしまった残りのおっさん達に、ラキル卿が「もう少し、訓練をお願いしたい」と頭を下げた。結局おっさん達は、いそいそと訓練をしに行った。
今あたしの周りには、おっさん達にあたしの保護を頼まれた妖精さん達だけ。
「あの…」
「なんじゃ、サミ」
「えーーーと、さっき強大な魔法使いさんが、あたし達にかけた術は出来ますか?」
「わらわ達の知らぬ術ではあったが、見ておったからな。その応用も可能じゃ」
「それなら、ずっと精霊さん達を見られるようになる事も?」
「当然じゃ」
オトンヌさんを筆頭に、妖精の長さん達は楽しそうにあたしを見ている。何で、こんなに好意的なんだろう?いやいや…えーとりあえず、それに付け込ませて下さいと心の中で頭を下げる。
「あのですね……ものすっごく良い人が、この時代に居るんです。あたしは、会ってまだ一日と少ししか経っていないんですけど、それだけで十分良い人だって分かるぐらいの良い人なんです。
…でも、あたしは、自分の世界に帰らなくちゃいけない……この世界でのあたしの居場所は300年後だから、もう二度と会えないんです……。
だから……その……もし良ければ、会って頂けませんか?」
「サミは、その人が大好きなのだな?」
「はい!」
あたしの顔を覗き込んできたエテさんに勢い良く頷く。
「だぁれ?」
今度は、まん丸の大きな瞳が覗き込んできた。プランタンさんだ。
「ナディーヌ。この城の王妃様で……あ~……欠点が一つあった…」
「なにかな?」
「ここの王様って、ものすっごく王妃様を愛していて……あたしが昨日一晩一緒だったのもかなり不服そうで……呪われるかもって視線もらったし……えー、まぁ、そんな王様が欠点?だから、バレると困った事になるかなぁ?って……」
少し思い出しただけでも、頭が痛くなるようなラブっぷり。そういう旦那様が傍に居るってのは、ナディーヌにとって幸せだと思う。
だけど、ナディーヌは、突然現れた訳分からない相手を友達にしちゃった。きっと、ナディーヌが欲してるのは、こんなあたしじゃなくてずっと傍に居てくれる友達。王妃様とか、地位がある人とか、関係無く傍に居てくれる人。あたしには、それが出来ない。
加えて、ナディーヌの肩書きが王妃様ってのは、友達を作るのを難しくするだろう。
「そんな事は、問題ではありませんよ。私達の姿は、王には見えないのですからね」
「…なんか、そういう事にだけは勘が働きそうで……」
「その時には、私達がどうにでも出来ます。それより、その方に会わせて頂けませんか?サミさんが、それほどまでに言われる方。お会いしたいと思います」
美人なイヴェールさんの穏やかで、優しい言葉。それに安心して頷く。
さっき精霊さん達と話した後、図々しいとは思ったけどナディーヌを頼みたいと思った。精霊さん達なら、地位なんか関係無くナディーヌの傍に居てくれるだろう。それに、300年後にナディーヌの話も聞ける。
「あの……ですね………何で皆さんは、あたしに親切なんですか?」
ナディーヌの部屋に向かいながら、周りを飛んでいる精霊さん達に聞く。
「それはな、わらわ達は何度もアニーに占いを頼み、サミの事を聞いていたからじゃ」
「あたしの事?」
「そうじゃ。サミは異世界の者だから、なかなかはっきりした事は分からなかったのだが、何度もアニーは読んでくれたのじゃ」
「……それで…あの…」
アニーさん、ものすっごく正確な未来を読む占い師さんの占い結果。激しく興味がある。
「それはな、騎士殿が出した宿題の答えと同じじゃ」
そう言ってオトンヌさんは、面白そうにあたしを覗き込む。しくしく、とりあえず自力で自分を理解しろという事ですね……。
「頑張ります…」
「サミさん」
「はい…」
「貴方なら、ご自身で答えを導き出せると分かっているから、騎士殿もオトンヌもそう言うのですよ」
イヴェールさんの優しい声が厳しい内容を緩和してくれてはいる。
でも、皆、あたしを買い被りすぎだヨ!って言いたい。言えないけど。頑張るって言った言葉を覆すようなことは言ちゃいけない。それこそ、失礼になる。おっさん達だって頑張ってきたのを聞いている。レベル遥か下にいるあたしは、もっと頑張るべきなんだ。たとえ届かないとしても努力はしないとね。おっさん達と遊べなくなってしまう。
「次に皆さんにお会いできる時には、それなりの答えが言えるようにしたいと……いや、しますです」
精霊さん達が、みんな笑っている。エテさんは、あたしの頭をがしがしと撫でてくれている。プランタンさんは、あたしをギュッとしてくれた。なんか嬉しくて、あたしも笑ってしまった。
「ナディーヌ」
「サミ」
「体調はどう?今日はギュスターヴさんに術をかけてもらったんだよね?」
ローランさんが、横について監督していたと聞いた。
「寝不足も解消して頂きました。ここで寝ていていいのかしら?と思えるぐらい元気なのに…フェルナンが…」
ナディーヌは、くすくす笑う。
「でも、サミが帰る時は、絶対お見送りをさせて下さいって言いました。だから、今は我慢、ね」
「あたし…王様に本気で呪われそうだな~」
「まぁ、サミ。大丈夫ですわ。私の一番は誰なのか、ちゃんとフェルナンは分かっていますもの。少し拗ねているだけ」
あの、おっきな王様に対して拗ねてるですか…凄いな…。
「サミ、お話の途中ですが宜しいでしょうか?」
「は、はい」
「ギュスターヴは、少々ミスをしたようですね」
「え?」
「サミ?どうしたのですか?」
あ、ナディーヌに説明してない。どっちに、返事しようか混乱していたら、オトンヌさんが、あたしの知らない言葉で謡い始めた。
「サ…ミ……」
「どうじゃ?ナディーヌとやら。わらわ達が見えるか?」
ナディーヌの視線がゆっくりと精霊さん達を辿る。うん、これは見えているよ!
「ナディーヌ、あのね、精霊さん達の長さん達に来てもらったの。お願いして、ナディーヌの目と耳に術をかけてもらったんだヨ!」
ナディーヌの目が見開いた後、慌てて起き上がりベッドから降りてきた。
「長様方?」
「うん」
ナディーヌは、美しい所作で頭を下げ礼の形を取った。
「始めまして長様方。ナディーヌと申します。このような失礼な姿で御前に立つ事をどうぞお許し下さい。
以前から一度お会いして、御礼を言いたかったのです」
「わらわは、地の精の長オトンヌと言う。丁寧な挨拶を嬉しく思うが、礼とは何でじゃ?」
オトンヌさんの言葉に、ナディーヌがニッコリと微笑む。
「長様方々のおかげで、王の家系が強くなったと聞いております。
ですから、フェルナンが王になったのも、私が王に出会えたのも、そしてサミに出会えた奇跡も、全て皆様方のおかげです。
ありがとうございます」
再びナディーヌが礼をとろうとしてよろけた。
「ナディーヌ?!」
エテさんが、速攻動いてナディーヌを抱き上げ、ベッドに横たわらせる。
「ナディーヌさん、無理をしてはいけませんよ。最初に立った時、自分の体の状態は分かりましたでしょう?」
「イヴェールさん?」
「強大な魔法使い殿を呼んだ方がいい」
頷いたら、エテさんに抱っこされた。
「サミ、場所は分かるか?」
「たぶん王様の執務室!あっち!」
エテさんに抱っこされたまま、廊下を勢いよく滑空。その勢いのまま、執務室のドアを物凄い音をたてて開け、乱入した。
「サミさん?」
「ごめん!強大な魔法使い!大至急ナディーヌの所へ行って!」
全員が速攻で立ち上がり、執務室を走り出た。あたし、置いてかれちゃったヨ。
「サミ」
「エテさん、なぁに?」
「あの人は、物凄く可愛いくて健気だな」
あたしの顔を覗き込んだエテさんは、もの凄く真面目に言った。
エテさんの選んだ形容詞が、名前を言わなくても誰を指しているか十分分かる。あたしは、嬉しくて「でしょ!」と力強く頷いた。
帰りは歩いて行ったら、既にローランさんの問診が始まっていた。
「もしかして、月の御印が始まりましたか?」
「…はい…今朝突然……」
「王妃様は、今まであまり月の御印が無かったのですね?」
「…はい」
ナディーヌは、ローランさんの問いに少し頬を赤らめて答える。月の御印って……生理の事だよね?
なんかこの世界の人達は、男の人にそんな話をしてはいけない風潮っぽいよね。なにせ、あたしの世界の昔でも月の穢れとかいう言葉があったくらいだ。穢れって…酷くない?隠せって事だよねぇ?
「それが原因ですね。
ギュスターヴ殿、私が渡した知識の中に、その件についてありますよね?女性に対する細かな診察方法も」
ギュスターヴさんは、重々しく頷く。
「月の御印最中の女性は、非常にデリケートです。治療にも細心の注意が必要になります。貴方は、その知識を得ています。ですが、経験の無い知識だけを受け継いでも、その知識同士が繋がらない。だからこそ私達は、知識を受け渡す術をほとんど行いません。己で勉強し、己の手で行うのが一番の経験ですから」
「分かりました。この国の中だけでも、全ての魔法使いに城に一回来てもらい、医師達と話したり実地をするような機会を設けるように致します」
「お願いします。それから、他国の方にも出来れば手紙でお伝え下さい」
「はい」
「では、見ていて下さい」
ギュスターヴさんは頷いて、真剣な眼差しをローランさんに向けた。
うわっ、さっきは見えなかったけど。何か見えてるっ?!
ローランさんの掲げた杖から、微細の糸のようなものがいく筋か、ナディーヌの体を這っていく。その一つ一つが小さく光り、ナディーヌの体がそれを吸収していく。
これって、前のあたしの目では見えなかったものが、見えてるんだよね?……精霊さん達に聞けば教えてくれるだろうけど、今は王様が居るから非常にまずい。後で聞いてみよう。
「立ってみて下さい」
ローランさんは、杖を下ろしながら、ナディーヌの体に手を伸ばして支えるようにする。ローランさん…背後が見えてなくて良かったね~。ってか、忘れていて良かったね。王様の顔が強張っていますよ~。
「どうですか?」
立ったナディーヌが、にっこりと笑う。
「ありがとうございます」
ローランさんも穏やかに笑いながら、ナディーヌをもう一度支えてベッドに静かに寝かせた。
「女性にとっては恥ずかしい事かもしれませんが、治療の最中はそれを忘れ、体の変化の一つ一つをギュスターヴ殿に詳しく伝えるようにして下さい。何気ない事でも、治療の仕方を変えなくてはいけない事もあります」
「はい。分かりました」
ギュスターヴさんが、一歩前に出る。
「ナディーヌ様」
「はい」
「初心者と言っていいぐらいの未熟者ではありますが、今まで以上の努力を致します。ナディーヌ様のお子様方を見るまでは…いえ見てからも、努力を惜しむつもりはありません。
どうか、よろしくお願い致します」
「……達ですか?」
「そうです。達です。確かにお世継ぎとして男子は必要でしょうが、ナディーヌ様似のお姫様達がいらっしゃいましたら、陛下はきっとお喜びになられると思います」
うっわ、王様、ものすごぉく頷いている。なんか、ナディーヌ似のお姫様がいっぱい産まれたら、王様…嫁に出せるんだろうか?絶対、嫁なんか行かせないぞ~とか、俺を倒せないヤツには姫はやらぬ!とか言いそう。この界隈で、一番強いくせに。
「もうナディーヌは、大丈夫だよね?」
「はい」
ローランさんに、お墨付きをもらったっと。
「では、王様達は、お仕事に戻って下さいねー。
あたしは、ナディーヌとお話がありますから」
にっこり笑って、後ろ髪を大量にひかれている王様を追い出した。これからも毎日会えるでしょう!少しぐらい、あたしにナディーヌを貸して下さい。まったく、本当にナディーヌラブな王様だなぁ。
王様に続いて、ローランさんとギュスターヴさんも出て行った。
よし!これで、大丈夫だ。
「ねー、エテさん」
「何だ?」
「強大な魔法使いが術を使った時に淡い光の糸が見えたんだけど、あれは、あたしの目が変わったから?」
あたしの言葉に、ナデージュも「私にも見えました」と、興味深げにエテさんを見上げている。
「そうだ。
それから、オトンヌは、サミの目と耳にも術をかけたからな。サミの目と耳も、永劫に私達が分かるようになったぞ」
そうだったのか。これはラッキーだ!
300年後に、ちゃんと妖精さん達に会えるって事だもんね。
「サァミ」
プランタンさんが、いつの間にか目の前に居て、逆さまになった顔で覗き込んできた。
「僕達を紹介して」
にっこり笑った顔を見て思い出した。忘れてたヨ。そうだ、紹介しなくちゃだヨ!
「あ、うん!
ナディーヌ」
「はい」
笑われてしまった。
「逆さまに浮かんでいる、ものすっごく愛らしい男の子は、風の妖精の長、プランタンさん」
「初めまして~」
「初めまして」
逆さまのままの笑顔に、ナディーヌは動じる事なくにっこり笑い返す。
「ナディーヌと同じぐらい美人な男の人は、水の妖精の長イヴェールさん」
「サミさん……。
初めまして、イヴェールと申します」
「初めまして。
私も、凄く美しい方だと思いますわ」
うんうん、イヴェールさんって本当に美人だよねぇ。
「真っ赤な、カッコいい人は、火の妖精の長エテさん」
「サミ…私は、カッコいいのか?
初めまして、可愛い王妃」
「初めまして。
ありがとうございます」
不思議そうに、あたしに向かって言ったエテさん。えぇ、その辺の男の人なんか、束になっても敵わない位のカッコよさで、あたしを即座にローランさんの所へ連れて行ってくれたじゃないですか!
「オトンヌさんは、さっき自己紹介してましたよね?」
「じゃが、サミの言うわらわの印象をぜひ聞きたいのぉ」
「う……あ……えっと、オトンヌさんは、あたしが住んでいる国にある、少し西洋風な日本人形みたいな方だなぁと思っていたんですけど……通じないですよね?」
「残念じゃが。それでは分からぬ」
オトンヌさんがくすくす笑ってから、ナディーヌの近くに寄る。
「ナディーヌ、これから先、お主の長い時間の間よろしゅうにな」
ナディーヌの目が、見開いた。
「だめか?」
「い、いえ……あの……」
「ナディーヌは、わらわ達が見えない者では、初めての友じゃな」
「友……」
ナディーヌの口元に伸びた指が、微かに震えている。
「……あ、ありがとうございます……」
うっ……泣かせてしまったヨ……やばいやばい、ど、どうすればいいの?
「ナディーヌ」
「は、はい」
「泣き顔も可愛いが、私は笑顔のお前が一番可愛いと思うぞ」
エテさん。カッコ良すぎですよ~。あたしの印象、間違って無いヨ!
「え、エテ様は、本当に、カッコ良いのですね」
涙を必死で止めて、にっこり笑うナディーヌ。
「そうか?」
「えぇ」
慌てて、工芸品の引き出しの中から、これまた工芸品というか美術品レベルのハンカチーフを取り出して、近くに居たイヴェールさんに渡した。
うっわ、美人さんと月の女神様が寄り添っている光景が、もーー目にゴウジャス!
「ナディーヌさん、この事は貴方の夫君に内緒ですよ」
ナディーヌは小首を傾げ、不思議そうに優しい声の主イヴェールさんを見上げる。
「どうしてでしょうか?」
「ギュスターヴが、サミさんを呼んだ理由は、戦争の道具に我々をしたくなかったからです」
「戦争……」
「えぇ。今、どの王家も、魔法を戦争の道具として使える事に気づいてしまいました。強い精霊を友と持つ魔法使いが居れば、この大陸の全てを手に入れられるかもしれないと考え始めました」
ナディーヌの首が、横に振られる。
「貴方の夫君は、違うかもしれません。ですが、そんな王だけでは無いのです。
誰だって、自分の友達を人を殺す為の道具として使う事なんて出来ないでしょう?」
「は…い」
「だから、ギュスターヴは、サミさんを呼んだのです。
今、この世界には、魔法の知識を持つ者は居なくなりました。そして、私達は魔法を具現化しないと、強大な魔法使いに約束しました。誰も魔法は、二度と使えません。
ですが、この世界には、まだ私達の友達が生きています。今後、術が広まり精霊を知る者が居なくなるまで、私達は友の傍に居るでしょう。貴方の傍に、私達が居るように」
イヴェールさんが話を進めている間、エテさんがナディーヌの頭を撫でている。
「友の危機に、手を貸さない妖精は居ません。それが、私達の友とのあり方。
だからこそ私達は、貴方の夫君とは友になれません。
それは、文字通り命を賭け、サミさん達を召還したギュスターヴの、そしてギュスターヴに魔法を無くす事を願い自分の生きる糧を無くす決意をした魔法使い達の意思を、無視する事になります」
「そうだったのですね……」
ナディーヌは、あたしを真っ直ぐに見た後、精霊さん達を見回す。
「分かりました。
私は、ギュスターヴの魔法使い達の意志に従います。
決して皆様方にご迷惑は、おかけいたしません」
ナディーヌは、白い掌をゆっくり拳に変える。
「私は、長い間何も知らず、寝て遊んでいたのですね。
体が弱いという事は、言い訳にはなりません。私は、フェルナンの妻であり王妃なのですから。
私は、私の務めを行いましょう。
フェルナンと共に政務を行い、皆様に魔法使い達に国民の為に努力をしましょう」
「ナ、ナディーヌ、まだ健康になった訳じゃないんだよ。無茶しちゃダメだって!」
目の前に居る人が、お姫様に見えた。言葉使いは違うけど、間違いなく自分の意思で強く剣を振るうお姫様、ナデージュ姫その人に。
物凄い無茶をしそうに見えた。
「サミ、大丈夫ですわ。
執務室に、一つベッドを置きます。ちゃんとギュスターヴの言う事も聞きます」
絶対徹夜とかしそう。
「にっこり笑って、徹夜したのにしてませんわとか言わない?」
その想像通りの笑顔で、「えぇ」とか言われても~。
「サミさん、安心して下さい。
ナディーヌさんが無茶をする前に、私達が寝かせましょう」
「イヴェールさん、くれぐれもお願いします!絶対、無茶する!!ものすっごく無茶すると思う!」
お姫様を知っているだけに、断言出来るぞ!
「サァミ、僕達の術の腕を知っているよね?いくらでも寝かせちゃうよ」
「その眠らせる術、ばんばん使って下さ~い」
プランタンさんの言葉に安心した。あれがあれば大丈夫。
「サミ、酷いですわ」
首を横にぶんぶん振る。酷いといわれようと、同じ遺伝子としか思えない人、何をやるか分からない。絶対だ。
「本当に可愛いすぎるぞっ!」
エテさんが、ナディーヌをぎゅっと抱きしめる。
「サミ、ナディーヌを紹介してくれてありがとうな」
「いえいえ」
これで、安心だ。ナディーヌのあの性格なら、精霊さん達に気に入ってもらえると思った。というより、誰でも好きになる!
そうか…あたしがお節介しなくても大丈夫だったかも。きっと、お城の中でも、自然に友達が出来たに違い無い。
「サミ」
「はい?」
他の精霊さん達は、ナディーヌと話をしている。
オトンヌさんだけが、あたしに近づいて耳元で囁いた。
『300年後、わらわに日本人形とやらを見せておくれ。この時代の思い出話と交換じゃ』
ばればれだ。
『はい。絶対』
『だから、寂しがるのではない』
ものすっごく、ばればれでした。必死になって頷いた。
「サミ」
「なぁに?ナディーヌ」
「貴方に、私に沢山の幸せをくれた貴方に、私はどうして何も出来ないのかしら?……サミ、サミ、貴方に心からの感謝を……ありがとう」
ベッドに近寄ったあたしは、ナディーヌにぎゅってされちゃいました。
「んじゃ、あたしはナディーヌに会えた事……召還してくれたギュスターヴさんに、感謝すればいいのかな?」
あたしも、ナディーヌをぎゅってし返す。
「そうでしたわ。えぇ、ギュスターヴにも感謝しなくては」
精霊さん達が楽しそうにあたし達を見ている中、ナディーヌとあたしはのんびりと会話を続ける。ローランさんが迎えにくる、ほんの一時の間。
そして、そのままナディーヌの部屋で、あたしは300年前の最後の景色を見ることになった。いっぱい手を振って、情け無いぐらいにボタボタと涙を落として。
そして、次に現れたのはあたしの部屋だった。
ようやっと、元の世界へ帰れました。
次は、エピローグ。あと一話でこのお話は終わります。
さて、次は寝物語なんですがね……サイトでは、プロローグから始まって、ギュールズの始まりの物語、不敗の赤い刃の物語 上 下、ローランとフレデリク 上 中 下、ナディーヌ6話、ナデージュ6話なんですよ……それぞれ分けてあるんですね。
えっと、一つにまとめるべき?それとも、それぞれ話しを立てるべきですかねぇ(´・ω・`)ここでは、どうしたものやら……