表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

術士の治療

 王妃様の部屋に入った瞬間、あたし達は凝固した。これ以上固まれないぐらい、カッチカチに固まった。

 大きな窓の傍らに配置されたベッドの上には………お姫様が居た。あ、お姫様みたいな人が居たって訳じゃなくてナデージュ姫のこと。

 あのお姫様をもっと儚げに病弱にした、そのまんまの瓜二つな人がベッドに横たわっていた。

 

「………えっと」

「我が妻が一番だな!」

 

 同一人物って言っていい人なんですけどーーーーー!!

 

「ナディーヌ以上に美しい者など居らぬ」

 

 あーー、よくよく聞いたら名前まで似ているよ~~っ!

 あれ?隔世遺伝とかいうあれ?言葉は知っているけど、詳しい内容はさっぱり知らないんですけど~…んでも、用途は合っているような気がする。違う?

 

「フェルナン?」

「ナディーヌ、術研究所所長が医師を呼んでくれたぞ」

「ギュスターヴ?」

「あぁ、そうだ」

 

 ギュスターヴさんが、前に出て礼をとる。

 

「そちらの方々は……お医者様ですか?」

「あぁ、ギュスターヴが、異世界から呼んでくれた方々だ」

 

 王妃様は、にっこりとあたし達に微笑んだ。

 ………すっごい違和感。あの顔では、歯軋りか怒っているか冷ややかか騎士様のような凛々しい表情しか見た事が無い。

 背後に居るおっさん達を見たら、なんか毛羽立っていたヨ。

 

「どうした?……あぁ、我が愛しの妻の美しさに声も出ないのだな!」

 

 そうきましたか……妻馬鹿って言葉…あったっけ?

 周りのおっさん達を見たら、未だ硬直している。まだ、衝撃から抜けられない様子。おっさん達より衝撃の薄いあたしが、慌ててローランさんの袖を引っぱった。

 

「あ、あぁ」

 

 ローランさんは、頭を一つ振った後王妃様に近づいた。少々顔が強張っているのは仕方が無い。

 

「あーーーお前ら、そいつ等を連れていけ。訓練でもしてろ」

「あ~、す、する」

「お、おう」

 

 ファビさんは、王様の首ねっこを捕まえながら、あたしに手を振って出て行った。王様の「ちょ、ま、待てっ、ナディーヌ~~~……」という情け無い叫び声は、どんどん小さくなって消えた。

 ディックさんは「お前もだ」と言って、オロオロしているラキル卿を連れ出した。そんな二人は、ベッドの中の人には一切視線を向けない。うんうん、付き合いが長い分衝撃が強かったんだねぇ。

 

「あたしは、居ていいのかな?」

「サミさんは、治療と訓練とどちらが見たいですか?」

「あー、訓練はなんとなく想像付くから、ここで見てていい?」

「はい、ではお静かに」

 

 大きく頷いた。治療を見るのは初めてだ。すっごく楽しみ。

 

「ギュスターヴ殿は、しっかりと見ていて下さい」

「分かりました」

 

 ローランさんが、ベッドに近づき少し手前で止まる。

 

「王妃様」

「はい」

「これから体を見る事になりますが、術を使います。緊張されますと、術からの返答が分かりにくくなるのです。

 体に触れる事はありません。ただ、見知らぬ者に理解出来ない事をされるのは、不安かとは思いますが、少しの間我慢して頂けますか?」

 

 ローランさんの生真面目な言葉に、王妃様はにっこりと笑って答える。

 

「フェルナンが信頼しておりますお方に、我慢などありませんわ。

 こんな寝た状態でお頼みするのは心苦しいのですが、どうかよろしくお願い致します」

 

 ラブラブだ。もんのすっごいラブラブだ。

 んでも、お姫様と同じ顔で、しかも声まで同じで、そんな言葉通りの「お姫様」のような台詞を言われると、非常~に違和感。

 ローランさんを見たら、同じように激しい違和感に見舞われているらしく、一目見て動揺しているのがまるわかり。

 

「術士様?」

「あ、い、いえ、で、では、気を楽にしていて下さい」

「はい」

 

 ローランさんは、杖を持ち直し目を閉じた。

 

「世界よ……」

 

 その一言だけ。

 杖は、王妃様を辿る。

 あたしの目には、何も見えない。だけど、ギュスターヴさんは真剣にローランさんを見つめている。きっと、術士さんの目には、あたしとは違うものが見えていたりするのかもしれない。

 ローランさんは、何かを分析しているかのようにゆっくり確認しているように見える。

 杖が王妃様の体を全てを辿った後、ローランさんはゆっくりと王妃様から離れた。そして、ため息一つ。どうしたんだろう?

 

「……王妃様」

「はい」

「貴方の体は、貴方が一番良くご存知ですね」

「はい」

 

 王妃様は、小さく笑った。まるで悪戯がばれた子供みたいな笑顔。

 

「確かに、貴方は病弱と言っていいでしょう。出産が難しいと言われたのも間違ってはいない。

 それなのに、故意に体に負担をかけるのは、よくありませんよ」

「術は、そこまで分かってしまうのですね」

「術は、万能ではありません。だが、胃に残ったままのものぐらいは分かります」

 

 王妃様、何を食べたんだ?

 

「その為に、今貴方は、話すのもお辛いはずです」

 

 な、何を食べたのーーーっ。苦しいなんてものは一切表に出さずに、王妃様ったら優しく笑っているんですけどーーー。

 

「フェルナンは、こんな私の為に色々無理をなさってくれているのです。

 今朝は、遠くから取り寄せた体に良いと言われる果物頂きました。

 見た瞬間、負担になると思いましたが、彼の愛情に答えるぐらしか出来ない私にとって、食べないという選択肢は持っていないのです」

 

 ローランさんが、ものすっごいため息をついちゃってますよー。

 

「それで、体を壊してしまっては、貴方を大切に思っている王が困ると思うのですが?」

「そうですね。分かっています。

 でも、私は断る事は出来ません」

「分かりました。王には、私が言っておきます。

 これから、貴方は、出産子育てをして頂かなくてはならないのです。決して無茶をしないで下さい」

 

 王妃様の目がまん丸になって、ローランさんを凝視する。

 

「こ、子供を………産、める…の、で、…すか?」

「貴方のような方なら、いくらでも診てきました。

 その人達は、みな元気になって子育てをしています」

「ほ……んとうに……?」

「本当です。

 その治療法は、全てギュスターヴ殿に伝えておきます。

 だから、今日のような無茶は今後一切しないで下さい。折角の治療が無駄になります。

 それから、治療中に適した料理もギュスターヴ殿に伝えます。それ以外は、決して食べぬよう」

「は…い」

「では、とりあえず貴方の痛みをどうにかしましょう」

 

 ローランさんは、ギュスターヴさんを見た。

 

「今は、何も分からないと思いますが、術の流れを見ていて下さい」

「はい」

「医療用の術は、細かい術の流れを制御することが全てです。それが出来ないと、病気を悪化させることもあります。

 最初は、小さな怪我から治療をして経験を積んでいく事になるのですが、貴方方には、その時間を取る事は難しいでしょう。

 せめてギュスターヴ殿だけでも、私のやっている事を覚えていて下さい。そして、他の方々に伝えられるようにして下さい」

「分かりました。よろしくお願い致します」

 

 ギュスターヴさんは、より一層真剣な眼差しでローランさんの手元を見る。その視線に満足したようにローランさんは、再び王妃様に視線を移し、お腹の辺りに杖を沿えた。

 

「王妃様、術の効果の為にも楽しい事を考えていて下さい」

 

 王妃様は、にっこりと笑って頷いた。

 そして、治療が始まる。

 今までの術のように、呪文は一切無い。

 相変わらず術無しのあたしには、何も見えないけど、ギュスターヴさんには何かが見えているようで、一つ一つ確認するように頷いていた。

 確かにあたしは、術無しだけど、その効果は十分見られた。

 王妃様が無理していたというのが、ようやく理解。あからさまに王妃様の体から力が抜け、徐々に王妃様の頬がほんのりと赤みを帯びてくる。透き通るように肌が白いと思っていたけれども、それは、顔色が悪いというのと同義だって事が分かる。

 そして、数分過ぎた後、ローランさんは王妃様から離れて杖をおろした。

 

「どうですか?」

 

 王妃様は、不思議そうに自分の体を小さく動かし、そしてゆっくりと起き上がった。

 

「あの……痛くありません」

「だるくは、ありませんか?」

「それも………ありません」

 

 起き上がった王妃様は、不思議そうに自分の体を見ている。

 

「もう、私は健康なのでしょうか?」

「いいえ、それは違います。

 今、行った術は、貴方の食べた物を消化出来るよう手助けした事と、痛みでちぢこまっていた体を解しただけです」

「そう…なのですか……」

 

 王妃様の視線が、あからさまに下がる。

 

「突然体を健康にするという事は、体に負担をかけるという事なのです。

 徐々に、これが良い状態なんだと体に言い聞かせ、体自身に分かってもらってから、また一段階進むという方法が、一番体に負担がかからず治療にかかる時間も短くすみます。

 この治療は時間がかかりますが、決して諦めてはいけません。最後に貴方は、健康を手に入れられるのです。それを信じて治療を続けて下さい」

「はい…分かりました。ありがとうございます」

「今後、ギュスターヴ殿の指示を信じて、最後まで治療を続けて下さい」

「はい……はい、絶対、に」

 

 王妃様はぼろぼろと涙を零しながら、「あ、りがとう、ございます」とつっかえながら言った。

 そして、ローランさんは激しく慌てた。まぁ、元々女性の涙に弱そうな感じだし、加えてナデージュ姫そっくりの顔で泣かれると、そりゃぁ慌てると思う。いや、びびる?

 

「術士さん」

「あ、さ、サミさん」

「あのさ、治療が終わったんなら、みんなで訓練を見にいけないかな?」

「みんなとは、王妃様も入っているのですか?」

「やっぱり、直ぐには無理?術士さんが居てもダメ?」

 

 やっぱり、王妃様にも見せたいじゃない?ローランさんだけじゃなくて、ファビさんやディックさんの雄姿ってやつ。ちょっと、身内自慢がしたかったり。あ、王様しか目に入らないかな?

 ローランさんはじっと王妃様を見てから、ギュスターヴさんに困ったような顔を向けた。

 

「……王妃様を毛布に包んで抱いて運んだ場合、まずい状況になりませんか?」

 

 その言葉を聞いたギュスターヴさんも、「あ~」と言ったまま固まった。

 

「大丈夫ですわ」

 

 くすくす笑いながら王妃様が言う。何が大丈夫なんだ?あのラブラブな王様だぞ。もんのすっごく暴れそうなんですけど。

 

「私の愛は、全てフェルナンのものです。あの方は、ちゃんと分かっていますわ」

 

 全然大丈夫じゃないぞ、それ。

 

「私も、その訓練を見たいですわ。フェルナンが、剣を振っている所を見た事が無いのです。どうかお願いします。もし、私の体が大丈夫なのであれば連れて行って下さい」

 

 未だ目尻に涙が溜まっている顔で、お願いなんかされたら絶対断れない。あたしはポケットからハンカチを取り出して、王妃様に近づき手渡した。

 

「これは?」

「ハンカチです。涙を拭いていかないと、あらぬ疑惑があたし達にかけられます。激しく危険」

 

 ローランさんとギュスターヴさんは、同時に頷いた。

 

「ありがとうございます。……綺麗な花模様」

 

 王妃様の綺麗な指が、印刷された花模様を触っている。う~ん、王妃様の立場だとあれだよね?レースがふんだんにあしらってあって、刺繍が大量に付いたシルクの超~高級品のはず。花柄のタオルハンカチなんて、しかも印刷ものなんて……ごめんなさい。あたし、これしか持ってないです。

 

「あの…サミ様で、お名前はよろしいのですよね?」

「は、はい。あ、でも『様』いらないです」

「では、私も、ナディーヌと呼んで下さいませ」

 

 よ、呼べない。王妃様を呼び捨てなんて、激しく恐れ多いぞ!

 首をぶんぶん横に振る。

 

「サミ様、私は、このようにしてハンカチを貸して下さるお友達が、一人も居ないのです。どうか、サミ様がいらっしゃる間だけでも、私のお友達として過ごして下さいませんか?」

 

 う……儚げな月の精霊様に、そんな縋るような瞳で……ぐはっ……負けた。

 

「わ、分かりました。少しの間ですが、よろしくお願いします……あの…、ナディーヌ」

「はい、サミ」

 

 それは、それは綺麗な笑みを返してもらえましたーーーー。

 

「そのベッドの脇にある引き出しの一番上を開けてもらえますか?」

 

 このやけに、触るのを躊躇うような工芸品な引き出しでしょうか?うわっ、手垢が付いたら、いけないんじゃないのー?

 怯えながら開けたら、これまた眩暈がするぐらい激しく美しい、さっき想像したような綺麗な布地がぁぁぁぁっ。

 

「その中の好きな物を選んでください。この綺麗なハンカチと交換して下さい。

 ダメかしら?」

 

 うっわぁ、いけない、いけない、それって500円でお釣りがきた程度のハンカチですよーーーっ!こんな、一万円札を何枚も出さないと買えないようなものと交換しちゃ、ダメダメーーーっ!

 

「あの、それが気に入ったのなら貰って下さい。んでも、すっごい安物ですよ」

「サミにとって安いかもしれませんが、私にとってはとても貴重品ですわ。これは、サミが、術士様が居た証。それに、私のものをサミが持っていらしたら、帰った後でも少しは私の事を思い出してくれますでしょう?」

 

 ぐはっ、ナ、ナディーヌさんは、たらしですね?間違いなく、ものすっごいたらしですね!!

 胸が「きゅん」って言った。なんか、王様の気持ちがものすっごく分かった。こんな可愛い人が傍にいたら、そりゃぁ威張りたいだろう。間違いない!

 

「分かりました。それじゃぁ……」

 

 そぉっと、中の工芸品というか美術品をめくって見る。本当にこれ、触って大丈夫なんだろうか?なんか、泣きたくなってきたぞ。

 ん?……

 

「あの、これ、いいですか?」

 

 白いレースの縁取り、銀糸だろうか?で、描かれた、小さい花。この中でも、一番高そうじゃないのを選んだあたり、あたしは立派な庶民!

 

「では、交換ですわね」

「はい」

 

 あたしは、頂いた超高級ハンカチーフをそおっとポケットにしまう。うわぁ~あたしのポケットの中、今幾らぁ~?

 

「では、行きましょう!」

 

 なんとか気を取り直して、ローランさんに王妃様をお願いする。

 毛布にぐるぐる巻きにされた王妃様は、ローランさんにお姫様抱っこされて、「この部屋を出るのは、久しぶりです」と嬉しそうに言った。

 さっきとは違う意味で、胸がぎゅんってなる。速攻でギュスターヴさんに、『ばんばん出れるよう頑張って下さいっ!』って視線をなげたら、分かってくれたのか大きく頷いてくれた。

 


王妃様の顔の件は、寝しなに神様が教えてくれたものです。

そんな寝しなの神様から、大量にネタをもらっていますwww


ネタは、寝る直前しか湧かない為、朝になって忘れていたら、二度と出会えないという危険がはらんでおります(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ