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準備完了!王様に会いに行く

 ギュスターヴさんは、本を全部書き上げた。

 ローランさんは、それに全て術をかけ背負っている鞄の中に無造作に放り込んだ。

 ディックさんとファビさんは、楽しげに通りすがりの兵士をボコッている。

 そして、あたしはそんな皆に付いていってます。

 今、あれから二日後。全員でお城に向かっている最中。

 まだ、魔法は存在している。

 

「なぁ」

 

 ファビさんが珍しく不愉快そうな顔をして、ギュスターヴさんに声をかける。

 

「何でしょうか?」

「こいつら、城勤めの兵士達だよなぁ?」

「はい」

「何で、こんなに弱っちいんだ?」

「は?」

 

 ギュスターヴさんは、言われた事に目を丸くして立ち止まった。

 

「すっげぇ、弱いよなぁ?」

「使い物にならんな」

 

 ファビさんと同じような顔をしたディックさんが、忌々しげに肯定する。

 

「もしかして、強い奴等って城ん中かぁ?

 片手剣一位の奴ぐれぇは、ましな事を祈りたいぜ」

「確かに、強い方々は城の中だとは思いますが……、こちらへいらっしゃってる兵士達は二軍の方々だと思いますので、かなり強いはずですが……」

 

 そんなギュスターヴさんの言葉に、二人は一層目つきを悪くした。

 

「あの…一位というのは、何でしょうか?大会があるのですか?」

「まじ?武術大会ねぇの?」

「そのような催しは、一切ありませんが……」

 

 あー、ファビさんもディックさんも頭を抱えちゃったヨ。

 

「ファビ、ディック、大会が開かれるようになったのはこの頃だぞ」

「あー、もしかして俺、まずい事いっちまった?それとも、元々俺が原因かぁ?」

 

 うっわ、もー頭が混乱しまくり。やっぱり、あたし達が来ちゃった事で知っちゃったリスト激希望っ!

 迂闊に会話が出来ない~~。

 

「武術大会とは、どういうものなのですか?」

「得物別の競技会だ。ファビは、王女を抜いて片手剣一位。ローランは、大剣一位。俺は、槍一位だ」

 

 ギュスターヴさんは一瞬目を見開いた後、騎士様の礼を取った。

 

「色々お聞きしたい事がありますのに……残念ですね」

 

 本当に残念そうに、おっさん達を見ている。

 

「とりあえず、競技会は王さんに勧めておいとくといいぜぇ。みんな必死になるからな。レベルアップにはもってこいだ」

「分かりました。

 今日、無事に話しが進みましたら勧めてみます」

「そうしろ。このままじゃ心配で帰れん」

 

 にっこり笑ったギュスターヴさんに、ディックさんは眉間に皺を寄せて、ぶっきらぼうに言う。

 うんうん、三軍の長様としては、いくら300年前だとはいえ非常に気になるよねぇ。

 

「そういやぁ、何で、研究所が城にあるんだ?農家と友達してんだろ?」

「資金を出して頂いておりますので」

 

 凄く綺麗な笑顔が、目の前にあります。んでも、なんとなく違和感。

 

「どうやって脅したんだぁ?」

「脅すなんてとんでもない。

 当時私が知っていた術が2つ。一つは、先ほどお話した言葉を伝えるもの。そして、もう一つが人の体の流れを整える術でした。それを使い、内乱で疲れていた王に実け……いえ、癒してさしあげたのがきっかけです」


 おおい、ギュスターヴさぁん、実験って言いかけませんでした?王様に実験ですか?その術を使う前に自身で確認したよね?したよねっ?!!


「……脅しの台詞は?」

 

 ファビさん、脅したと決め付けていますが、えぇ、あたしもそう確信しました。えぇ実験ですから……。

 

「研究が進めば、奥様を癒せるかもしれません。とは、言いましたね」

 

 またまた綺麗な笑み。質問したファビさんは、「ディック並みの立ちの悪さ~」とぼそり。

 なるほど、ギュスターヴさんは、実は計略屋さんな性格なんですね。

 

「実際、現実になりそうです」

 

 ギュスターヴさんの度重なる微笑みが、少々黒く見えてきましたヨ。


「どうして体の流れを整えると癒されるのか現在でさえも解明中の状態です。ですので、術を使って病弱な方を癒せる現実がくるとは思いもよりませんでした。

 皆さんのおかげで、研究所の存続も救って頂いたという事ですね」

 

 そう言ってから、ギュスターヴさんは再び足を止めて暫し考え込んだ。

 

「あの…見たい魔法は、ありますでしょうか?

 皆さんにお礼をしたいのですが、私が出来る事と言えば魔法ぐらいですから」

「あ、俺、火ぃ出すやつ!」

 

 真っ先にファビさんが、物凄い勢いで火が見たぁ~いと主張。

 それに、にっこりと笑い、ギュスターヴさんは「フー」と一言。

 

「うっわー!」

 

 ギュスターヴさんの掌から、炎が上に向かってメラメラと。

 

「すっげぇなぁ!」

「松明がいらんな」

「便利ですね」

 

 ファビさん、ディックさん、ローランさんが、まじまじっと掌で踊っている炎を見て感心している。うん、凄いよ!生魔法だよ!生っ!うっわ~感動だー。

 

「なぁなぁ、お嬢ちゃんは何かねぇの?ファンタジーだっけ?そんな本を山のように読んでんだろ?おもしれぇ魔法知識を出せよぉ~」

「う……えっと……空から隕石やら、火の玉やら、水やら氷の塊やら、雷が大量に降ってきても、あ、地震…も迷惑だよね……闇とか聖関係の魔法は無さそうだし……毒を食らうのは地味そうだなぁ…召還関係も無さそうだし……あれだよね、天候と精霊が宿りそうなもの関係………………あ!」

 

 「そうだ」と言おうとして皆を見たら、どん引きされている?……何?そんな凄い事言った?

 

「サミさんの世界では、凄い魔法を考え付くのですね…」

 

 代表してローランさんが、あたしの独り言に感想を。

 

「想像力が、果てしなかったりするみたい」

 

 うんうん、確かに凄いかも。だって、実際見た事も無い魔法が、大量にある意味常識として扱われている。

 

「それで…綺麗で、大きな虹を大量に見たいです!」

「そうですか。分かりました。

 それなら、魔法が無くなる時に、ギュールズの魔法使い全員で作りましょう」

「うっわぁ!楽しみにします!」

「はい、頑張りますね」

 

 道々で、わらわらと現れてくる兵士達を面倒そうになぎ倒していくファビさんとディックさんを先頭に、あたしとギュスターヴさんが続いて、しんがりをローランさんが守ってくれている。

 そして、懐かしい?いや、前見たときよりは300年ほど新しいはずのお城の目の前に来た。

 

「ギュスターヴ、何をしに来たっ!」

「陛下に会いにきました」

 

 穏やかなギュスターヴさんとは対照に、怒鳴り声をあげている……おっさんが一人。

 

「裏切ったお前になんかに、陛下の御前に立てるとでもっ!」

「おや、私は陛下を裏切ったりしていませんよ。今も、陛下の望みを叶えようとしている所です」

「魔法を無くそうとしているヤツが何言ってる!それどころか、陛下に害を与えようとしているんじゃないのかっ!!」

「そうきましたか。困りましたね」

 

 本当に、おっとりおっとりと困ったなーという顔のギュスターヴさん。その表情と対を成すように、怒鳴っているおっさんの顔が一層険しくなる。

 

「この先も、こんな迷惑をかけられては困りますし…」

 

 杖を掲げた。

 

「この距離なら届くでしょう」

 

 地面に杖を叩きつけた。

 

「皆さん、耳を塞いでいて下さいね」

 

 言われたとおり、慌てて耳に指を突っ込んだ。

 

「ヴァン……陛下、私の声が聞こえますか?私は、貴方の一番の望みを叶えに来ました。最初に会った時の話を、まだ覚えておいででしょうか?」

 

 耳を塞いでいても十分聞こえた。それどころかかなり煩い。ってことは、耳を塞いでなかったら……チラリと周囲に居る兵士さん達を見る。うっわ……涙目だ。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

 にっこり笑って、ギュスターヴさんが言う。

 

「あ、あの……ヴァンってのが、魔法の呪文ですか?」

「はい。風の呪文なのですが、その強さを大きくして少し工夫すると、なぜかその中心の音が増幅されるようなのです」

「そ、そうですか。魔法も、色々と応用範囲が広いんですね」

「はい。ですから、それぞれが独特な魔法を持っていたりします。たまに、お酒の余興で披露して楽しんできたおかげですね」

 

 お、酒の余興ですか?あー、まぁ、術士さん達もしているのかもしれない。それに……ファビさんとディックさんを見る……絶対、余興とか言って剣で芸とかしてそうだ。うん、この世界では普通の事かもしれない………けどさぁ……よ、興~?

 

「ギュスターヴっ」

「聞こえたようですね」

 

 歯軋りしているおっさんの背後から、駆け足の音が響いてきた。

 

「ギュスターヴ殿」

 

 怒鳴ってたおっさんは、新たに現れた騎士様装備完璧なおっさんに「下がれ」と言われ、悔しそうに、んでも大人しく下がった。

 

「陛下がお呼びです」

「分かりました。では、皆さん参りましょう」

「いえ、陛下が呼ばれたのはギュスターヴ殿だけです」

 

 またしても関門だ。ギュスターヴさん一人では絶対危険。

 

「あのさぁ、面倒だから、これぶったおしていい?」

「彼は、王の次に強い方なのですが…」

「あの、へなちょこ兵士達の上だろぉ?簡単だと思うぜぇ、なぁディック」

 

 ファビさん…挑発しているのかな?

 

「雑魚」

 

 ディックさんは、チラリと目の前の堂々とした人を見て一言。あ…もしかして怒ってる?ファビさんとディックさん……すっごく怒っています?

 

「あんた、まさか自分が俺達より強いなんて寝ぼけたこと言わねぇよな?」

 

 ファビさぁん…っ。

 

「………やってみなければ分からんと言いたい所だが……言えんな。

 だが、だからこそお前達を陛下の御前に出させる訳にはいかん。危険すぎる」

 

 ちゃんとした大人の人が居る。おっさん達比です。や、別におっさん達がちゃんとしてない訳じゃないけど、うーーー真面目な大人の人が居るって方が言葉あってる?

 その真面目で、すっごくちゃんと職務をまっとうしている大人の人は、ファビさんの言葉を聞く限り、絶対負けると分かっているのにあたし達に向かって剣を向けた。

 

「俺達は、こいつをあんた達から守ってるだけで、ここの王さんには用はねぇよ」

「だが、ギュスターヴ殿と陛下が対立したら守るだけではすまんだろう」

「安心して下さい。私と陛下が対立することはありえません。私は、陛下の望みを叶えにきたのですから」

 

 少々殺伐とした雰囲気の中、ギュスターヴさんがふんわりと笑う。

 

「ラキル卿、貴方はご存知のはずですよ。もうお忘れですか?」

 

 ラキル卿と呼ばれたおっさんは、一瞬考えるような表情になって、激変した。

 

「で、ではっ?!!」

 

 まるで、ギュスターヴさんを押し倒す勢いで両腕を掴んだ。

 

「はい。ここにいらっしゃる方々は、その為に来て下さったのです」

 

 ラキル卿は慌ててギュスターヴさんから手を離し、あたし達に、恭しく騎士様の礼を取った。

 

「大変失礼致しました。

 ようこそギュールズ城へ。歓迎致します」

「さぁ、行きましょう」

 

 ギュスターヴさんは、にっこりと笑って、歩き出した。

 




 

 いかにも執務室という場所。実は、王様が居る場所は豪奢なだだっぴろい部屋の真ん中奥と決め付けていた。あれは、謁見の間だったね。あそこじゃ、仕事は…うん、出来ないな。

 あ、だからと言って質素な部屋って訳じゃなくて、とーても高そうな手のこんだ模様だったり細工の入った家具や、ふわふわの敷物なんかが置いてある。間違いなく、王様が居てもおかしく無い空気の場所。

 その王様は、執務机に必死になって座っているって感じ。本当は、さっきのラキル卿みたいに、詰め寄りたいんだろうなぁ。

 

「陛下、お待たせしました」

 

 ギュスターヴさんは、優雅に礼をする。その背後で、ラキル卿も同じ動作。

 確か、王政下で、王の騎士だったり王の術士だった気がするおっさん達は一切礼もとらず、その光景を眺めている。あたしも何もしてないけど、まぁ、あたしはいいんだ。だって、王政なんか知らない日本に住んでいるんで、対応付きませんから。んでも、おっさん達は心理的に抵抗ないのかな?一応、事前打ち合わせで役割を決めているから、礼をする訳にはいかないんだけどね。

 

「ギュスターヴ……」

 

 酷く感情が詰まったような声。あの腹黒王様よりは全然若い。というか、おっさん達と同じぐらいの年齢に見える。少し長めの金髪を後ろに撫でつけ、300年後のお姫様と同じような空色の瞳が、焦れたようにゆれている。

 

「はい」

「さ、先ほどの言葉は……」

「はい。その為に、この方々に来てもらいました」

 

 実は魔法を無くすのがメインなんだけど建前を作りましたー。

 

「では、我の望みを叶える為には、魔法を無くすしかないのだな?」

 

 おっさん達が、楽しそうな表情になった。あたしは、たぶんびっくりした顔をしていると思う。

 だって、王様だよ。王様。あの腹黒王様を代表に、なんつーか我がままの頂点にいそうな雰囲気で、真面目に民の事を考えている人なんて希少価値の絶滅危惧種っぽい職種。その人が譲歩している。確かに王妃様の健康という利点はあるけど、王様なら健康も魔法も全部取ろうとするのかと思った。

 

「はい」

 

 王様はその言葉を聞いて、大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。

 

「では、お主が連れて来た者達を紹介してもらえるか?」

「私がやるよりも、彼女にお願い致します。

 サミ殿」

「始めまして王様。私、人材派遣屋のサミです!」

 

 いいえ、一般女子高生です…が、事前打ち合わせにより、おっさん達が未来から来たというのを誤魔化す方策でっす。

 あたし、この世界に来ると一回は演技力試される?…今からでも演劇部に入るべき??

 

「ギュスターヴさんのご依頼により、最高峰の術士」

 

 ローランさんが、一歩前に出て会釈する。

 

「無敗の戦士二人を用意させてもらいました」

 

 ファビさんとディックさんが、一歩づつ前に出るだけ。頭は下げない。

 自分の王にでさえ頭を下げるのが嫌なのに、過去の王に下げる頭は無いというご意見と、この時代と同じ騎士の礼をする訳にはいかなかったという理由で、偉そうな態度の二人になっています。

 

「既に、ギュスターヴさんからは報酬を約束して頂いています。

 王様は、王様の望みと引き換えに、どんな報酬を用意してくれます?

 あ、お金とか地位はいりませんからね」

 

 あたし、顔引きつってない?こんな年上の人に、こんなこんな偉そうにするのは非常にしんどいんですけどー。

 

「報酬が決まり次第、私達を使う条件をお知らせしますね。

 その内容を受け入れられない場合、返せるものであれば報酬はお返します」

「そうか……」

 

 困った様子の王様は、ギュスターヴさんを見た。

 

「私は、魔法が消える前に、この辺りの魔法使い全員で綺麗で大きな虹を作る事になっています」

 

 王様の目が瞬いた。

 そりゃぁ、瞬きもするだろう。意味不明だろうなぁ。

 

「そうか………では私は、この世で一番美しい人を見せよう」

「美しい…人?」

「あぁ。この世界の中で一番美しい。いや、今まで生きてきた者これから生まれる者全てをあわせても、彼女より美しい者などあり得ん。

 人とは思えぬほど、まるで妖精のように儚い美の結晶。この世の者では無い、天上人が作りたもうた美。虹なんかより遥かに綺麗だぞ!」

 

 なんか、ギュスターヴさんが頭を抱えている。

 背後をチラリと見たら、ラキル卿と目が合った。そんな私に笑みを送ろうとしてくれたんだろうけど、ひ、常~に、温く、強張ってます。

 

「えっと……私、ものすっごく美しい人を知っていますけど…」

 

 儚いとか妖精だとか美しいとかいう単語は、300年後のお姫様、ナデージュ姫を連想させる。あの人ほど、本気で『美』っていう形容詞の似合う人はいないと思うぞ。

 

「いいや、お主の認識は間違っている。

 我が妻を一目見たら、間違いなくお主の一番は我が妻になるであろう」

 

 あ………のろけ?馬鹿夫?なんつーか、もーメロメロ?ギュスターヴさんが頭を抱えるはずだよ。これ、きっと、毎日臣下に威張ってたりしそうな勢いだよ~。臣下に迷惑だ。あ、だからラキル卿が、あんなへっぽこな表情になったのか…。

 

「あーーーーーー、んじゃぁ後で見て判断します。もし、一番じゃなかった時の報酬も考えておいて下さい」

「必要ない。我が妻は一番以外ありえん!」

 

 うっわ~、言い切ったよ王様。しかも「さっさと条件を言え」と、この問題は終わったとばかりの態度だ。

 始末に終えない愛妻家だなぁ。

 

「はぁ…まぁ…う~分かりました。

 条件は四つです。

 一つ目は、ギュスターヴさんを殺さないよう。傷つけるのも拘束も無しです。ちゃんと、寿命をまっとうさせて下さい」

「元々、殺そうなどとは思ってなかったぞ。

 腕の良い魔法使いを殺してしまっては、もったいないだろう?」

「えっと……脅すのも苛めるのも無しですよ」

「分かっている」

 

 なんつーか、王様って、300年後の王様の方が腹黒だけど王様らしいというか……。

 

「二つ目、魔法使いさん達を保護して下さい。魔法が使えなくなったからといって、迫害されないよう国中に伝えて下さい」

「我が国の中までならしよう」

 

 そうだよねぇ、他国の魔法使いさん達まで対処付かないよねぇ。

 

「もし、他国から魔法使いさん達が流れてきたら、その方々も保護対象として下さい」

「分かった、そうしよう」

「三つ目、術士というのは医者です。彼の術で多くの医療行為を伝授されますが、経験まではどうしようもありません。

 城の中に、お医者様がいると聞いています。どうか、軋轢無いようお医者様達と彼らを交流させて下さい」

「それで……そういう事か」

 

 ギュスターヴさんは、王様に向かって小さく頷いた。

 

「お医者様って多くないって聞いたんですけど、自分の立場が危うくなるからって、魔法使いさん達を苛めないよう配慮もして下さい」

「いや、あいつらは喜ぶだろう。医者というのはナリ手の無い職業だからな」

「は?無いぃ??」

「あぁ、無いな」

「何で?」

 

 医者っていったら、エリートコースじゃないの??ってか、驚いた勢いで言葉使いが乱れたぞ。それぐらい驚いた。

 

「元々、王の医師は、王が死んだら責任取って死ななければならぬ。医師が少ないから、少しでも医療行為が出来る者は城に来させられる。大抵、王は、医者より年上だからな。自分の寿命より短い一生を送りたい者はいないだろ」

 

 ……まじですか?

 

「その制度、直ぐに廃止して下さい。間違ってます!」

「私が即位してすぐに廃止してある。周知の事実になっていないだけだ。早々に広めればいいな?」

「お願いします」

 

 なんつーか不可思議な王様だ。あたしみたいな一般市民に、たとえ王妃様の命がかかっている場合でも、こう……威厳はあるんだけど話し安すぎやしない?

 

「あのー何で廃止にしたんですか?」

「必要な時に困るからだ」

「それ、さっきも言ってましたよね?」

「あぁ、有能な人材というのは希少価値だからな」

「…はぁ」

 

 う~ん…こう、王様は偉いんだぞ!権力ごぉごぉ!その特権を存分に使っちゃうぜ!ひゃっほい!って感じじゃなくて、なんつーか単にここに居ただけという風情。すっごく不思議な王様だ。

 

「四つ目、術研究所を今までの場所のままで存続させて下さい」

「当然だな。優秀な医者が増えるのは、この国にとってありがたい」

 

 う、うん……そうなんだけど。

 

「条件はこれだ…」

「サミ、追加だ」

 

 ディックさんに止められました。「どぞ」と譲って出てきたのは、ファビさん。

 

「五つ目ぇ~、希望者全員参加、得物別武術大会を年に一回開催しやがれ。参加希望者は、誰でも参加出来る事。上位者には褒美を用意する事。一位の者で希望があれば、身分の上下関係無しに軍の長になれる事…で、いいよな?」

 

 最後の確認は、ディックさんに。ディックさんは、うんうんと頷いていた。

 なるほど、これも条件に入れちゃったんだね。ここで言いたくなるぐらい、兵士さん達の不甲斐なさに二人は腹立ててたんだろうなぁ。

 

「なぜだ?」

 

 王様が不思議そうに、偉そうなファビさんを見ている。

 

「お前ら、弱っちぃから。こんなんじゃ、安心してギュスターヴを残していけねぇだろ」

「弱いか?」

「すっげぇ弱すぎ。あんたら、ちゃんと鍛錬してっか?昼過ぎまで走ったり、午後いっぱい戦い続けるとか、ねぇだろ?」

「……確かに…無い、な……」

 

 普通無いだろ?ってか、その耐久しすぎの訓練は何なんですか?

 

「俺は、鍛冶屋の息子だが、この世界のそこら辺の兵士よりも鍛冶屋の子供の方がはるかに強いはずだ」

 

 ディックさんが、冷ややかに。

 

「農民は、日々の労働で腕を鍛えているからな、城の兵士達よりは腕力があると思うぜぇ~」

 

 ファビさんが、嫌味ったらしく。

 

「私は、十七で初めて剣を持ったのだが、それでも日々の訓練と大会に参加することで経験を積み大剣一位になった」

 

 ローランさんが、「城の外の連中は、訓練を一切していないな」と呆れた声音で。

 

「どうせあんたは、精霊さんだかすっげぇ魔法使いの恩恵で、はなから強かったくちだろ?普通の人間様は、努力しねぇと腕はあがらねぇんだよ。

 だいたいあんたも、訓練はすべきだと思うぜぇ。錆るぞその恩恵」

 

 王様は、じっとファビさんを見てから、あたしに視線を向ける。

 

「人材派遣屋のサミ殿」

「はい?」

「帰る前に、半日でいいから彼らを貸してもらえないだろうか?」

 

 彼らって、ファビさんとディックさん?

 

「妻以上に綺麗な人間はあり得んから、宝物庫の見学ではダメか?」

 

 前置き、要りますか?

 

「えっと…」

「陛下、庭園にある遅咲きの薔薇が見頃だと思いますが……」

「それで、どうだ?」

 

 ラキル卿の申し出に、王様がのっかる。

 

「えー、まぁ、とりあえず条件は、全て受けてもらえるんですよね?」

「どれも、我が国の為になるものではないか。当然だ」

「では、王様の一番の望みを言って下さい」

 

 知ってるけど。とりあえず確認だ。おっさん二人のレンタルは後回し。

 

「我が妻、ナディーヌを健康にしてくれ」

「分かりました。それでは、我が術士を王妃様に会わせて下さい。まずは診察です」

 

 王様は立ち上がり、「よろしく頼む」と言って頭を下げた。

 

とりあえず、一旦ここまで。

切れ目がなかったらしいです<以前書いた感想よりw


基本私の話は、ほのぼの路線一直線なので、険悪なムードは、ほとんどないので、期待しないで下さいm(__)m

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