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再会

 

 どこを走ってきたか、さっぱり分からない。沢山走って、沢山曲がって、気がついたら目の前にある建物の中に入ってた。

 300年後のギュールズ城下町も全然詳しくは無いんだけど、流石に300年前とは随分雰囲気が違ったと思う。あ、もしかして、ここってギュールズ城下町じゃない可能性も。だって、随分長い時間走っていたよね?

 

「いつまで、ここに居られるかは分かりませんが、それまではどうぞお寛ぎ下さい」

 

 ギュスターヴさんが、台所から飲み物とグラスを人数分持ってきた。

 

「初めましてギュスターヴ殿。どうかお構いなく。時間があるかどうかが、本当に分かりませんから」

 

 ローランさんが立ち上がり、さっきギュスターヴさんがやったように杖を掲げ、礼をとる。

 

「私は、ローラン・フィノ。術士長をしております。お名前だけは、ギュスターヴ殿が書かれた書物で何度も拝見させて頂いております」

「私は、研究所所長のギュスターヴ・バルローと申します」

 

 ギュスターヴさんも同じように礼をとったけど、再びあがった顔には困惑の表情。

 

「あの…私が、本を書くのですか?」

「はい。私達術士になったものにとって、貴方の名前は一番最初に見るものです」

 

 ギュスターヴさんが、眉間に皺を寄せて考え込んじゃっている。

 

「はたして、その知識は本当に私のものでしょうか?」

「どういう……」

「貴方が、術士長の貴方が、今ここに居ます。もしかしたら、その書物を書いた私の知識は貴方から授かったものかもしれませんよ」

 

 う…ややこしい。なるほど、SFで時間移動をした場合の制限が大量に付くはずだ。頭が混乱するって。

 ローランさんは、黙ってしまい。ギュスターヴさんは、困ったような顔をしている。

 やばい。速攻で手をあげた。

 

「はい!唐突でごめん。ちょっとしたお願いがあります!

 あ、あのね、あたしの世界の空想小説の話なんだけど、時間移動の話って良くあるんだ。その中で決まり事のように言われている台詞があるの。過去の人に、未来の話をしちゃいけないって。歴史が狂っちゃうって。今までの歴史が無くなって新しい歴史になっちゃって、もしかしたら自分が産まれないかもしれない未来になっちゃうかも…って。

 空想話なんだけど、既に300年後に魔法が無くなってるって、あたし言っちゃった後なんだけど、皆が居なくなっちゃったら困るから、あの……そういう事で、よろしくお願いされて下さい!」

「分かった~」

「あぁ」

「はい、サミ殿分かりました」

 

 ファビさん、ディックさん、ローランさん、それぞれ楽しげに、面白げに、生真面目に返事してくれる。うっわ、本当に帰ってきたんだ。300年前だけど。

 

「それで、今回のあたしは、この世界から魔法を無くして欲しいっていうギュスターヴさんのお願いで召還されました!」

 

 三人の目が見開く。

 以前の旅の時、何で魔法が無くなったかローランさんも知らないって言っていた。それで終わった話に、続きが来ちゃった感じ。あれから300年前だけど。

 ギュスターヴさんはあたしの話を受けて、さっき話してくれた事を三人に話しはじめた。

 あたしは、ここの歴史がどこまで、この時代のあたし、いやいやあたし達によって、300年後が書き換えられたかリストをものすっごく切望していますです。なんか、あたし、すっごくボロ出しそう。それがあれば、しちゃいけない事が分かるじゃない?

 

「あれ?」

 

 壁際にある小さな机の上にある本。非常に見慣れた雰囲気を醸し出してるんですけど……。

 皆は会話の最中なんで、邪魔をしないよう静かに机の所へ行って本を手に取った。

 あたしが知っているのより、真新しい……中を見る……最初の文章に、激しく読み覚えあり。これ、本じゃなくてノート?パラパラとめくって見たら、3/4以降白紙。

 振り返って、ギュスターヴさんをまじまじっと見ちゃったヨ。

 

「お嬢ちゃん、どうした?」

 

 相変わらず、周りの人の感情に物凄い早さで反応するファビさん。

 

「これ…」

「それが、どうした?」

「えっと、これ、あたしの家で預かってる本……だよ」

 

 おっさん達が、ギュスターヴさんを慌てて振り返った。

 

「ギュスターヴさん…」

「それは、子供の魔法使いが見つかりましたので、早急に書いている教本ですが……」

「あの、魔法使いって見つかるってものなの?」

「はい、突然何かの拍子に魔法を具現してしまう事で見つかるのです」

 

 ローランさんを見ちゃったヨ。ローランさん、頬をポリポリ掻いている。あの術まだ無いのか。

 

「えっと、魔法使いさんは、血筋とかで魔法が使えるんじゃないんですか?」

「それは無いようです」

 

 も~一回、ローランさんを見る。うんうん、頷いていた。

 

「あの、ギュスターヴさんのお話は、全部終わりましたか?」

「はい、サミ殿にお話しした分は、全てお話しました」

「あのー、あたし達だけで話をしたいんですけど、えっと…呼んで貰って失礼かとは思うんですけど……いいですか?」

「分かりました。では、私は二階に居ます。部屋は一つしかありませんので、お話が終わったら呼んで貰えますか?」

「はい、了解です!」

 

 ギュスターヴさんは、皆にあの優雅な礼を取ってから、部屋から出て行った。

 その扉が閉じられて直ぐ、ローランさんが杖を一振り。

 

「なぁに?」

「一応、ここでの会話を聞かれないようにしました」

「え?だって、術って対人にしか出来ないんだよね?」

「サミ殿、聞くのは人ですよ」

「うん」

「私達の周りにあるモノに対して、人に作用させるよう術を展開するのです」

 

 うーんと、凄い事言っているぞ。モノ経由で術をかけられるって事だよね?なんか、応用範囲すっごく広そう。

 

「あ……へ?ひゃぁっ?!」

「こ、のっ、ディック、ファビっ!!」

 

 えー、ファビさんの腕の上にあたしが移動してて、ローランさんはディックさんに拘束されてます。

 

「お前ばっかし、ずりぃだろ?な、お嬢ちゃん、ひっさしぶりだなぁ」

「あはは…おひさし~」

 

 なるほど、さっきまでローランさんに抱えられていたのが問題だった模様。あれか?訓練するなら、全員でやりましょうって風味?ディックさんが、次は俺だと主張している。そんなディックさんは、ちょっと珍しい。でもなんだかなぁ…おっさん達、訓練必要ないでしょ?だって、あたしを乗っけている腕微動だにしてませんよ~。あたし、重し以下だよ。

 

「あ、そだ。何で?何で、驚かなかったの?」

 

 うっわ、たちの悪い笑みが三つも~。

 

「や、いいや。その話は忘れる」

 

 不穏な空気から、逃れるが勝ちだヨ。

 

「サミ殿~」

「本が沸いて出てきた」

「そうそう、ギュスターヴ・バルロー著ってやつ~」

「ギュールズ歴632年の9月4日に、サミ殿を召還した部屋で、武器を携帯し、三人で居るようにと書いてありました」

 

 うっわ、えっと、過去の人が未来の人にご指定?!

 

「お前が、助けを必要としていると書いてあった」

「お嬢ちゃんが関係している内容だったもんだから、嘘でもそこに居るしかねぇだろ?」

「その後の行き先も、記してありました」

 

 嘘でも居てくれて、ありがとう!!う、すっごく嬉しいぞ。

 と、感動していたら、「次は、俺だ」とファビさんからディックさんに移動させられました。折角感動していたのに、荷物扱いはどうだろ?

 

「本が、沸いて出てきたって…」

「えぇ、今までの術士長の誰も気づきませんでした。

 当然一昨日までの私もです」

 

 あ、建物経由で術をかけられるなら本もって事?

 

「だとしたら、この本も?!」

「はい……きっと、そうでしょう」

「えっと、そうすると、前の旅ってギュスターヴさんが起こしたって言っちゃう?!」

「だろうなぁ」

 

 ファビさんとディックさんが、苦々しげだ。

 

「だが、もしかしたらギュスターヴ殿だけではなく、我々も入っているのかもしれん」

「その可能性が高いだろうな」

 

 ローランさんが言った言葉に、ディックさんが嫌々肯定する。

 

「あたしが、おっさん達に会ってなければ、ここに召還しても意味ないし……だって、ローラン……を召還する方法は、あたし経由だったし。それに、言葉通じないままだよねぇ。言葉を教える術っての、まだ無いって言ってた」

 

 おっさん達三人が、ため息ついてるヨ。

 

「ってことは、俺達がここでする事は、ロニーにその本を渡せるようにする事かぁ?」

「これ、まだ完成していないヨ」

 

 ファビさんに、白紙部分を見せる。

 

「速攻で仕上げてもらわないとな。それから、俺はその本へ術をかける…のか」

 

 ローランさんが、非常に嫌そうなんですけど。

 

「それに、ロニーは、ヴァートの者だろ?」

「詳しい事は、俺が聞いている。それも俺の分担分か…」

「ローラン……が見つけたっていう、本の事も教えないと」

 

 あたしが言った言葉で、ローランさんはもう一回ため息をついたヨ。

 なんか、ローランの仕事ばっかりだな。

 

「あ、それから、あたしの外見説明付き召還呪文の本もだ」

 

 ローランさんの肩が、がっくり落ちました。

 

「最後に、魔法を無くす仕事もお前だろ」

 

 あぁっ、ディックさんがとどめを。

 

「俺は、忙しくなったからな」

 

 突然顔をあげた、ローランさんの目がすわっています。ひゃぁ~。

 

「ギュスターヴ殿を守るのが、お前らの仕事か?」

 

 楽しそうに二人が頷く。がってんでぃっ!風味。心底嬉しそうだヨ。

 あ、そうか、それにローランさんが、参加出来ないことを悔しがっているのか。……どこまで体育会系なんだ、ローランさん。

 

「ディック、お前は、王に筋を通す方法も考えとけ!」

 

 あ、王様は、魔法を知っているんだ。反対派の人が、お城に居たって事は、ギュスターヴさんが何をしようとしているかも知っているかもしれない。そうすると、魔法が無くなった後ギュスターヴさんの命が危ないって事なんだ。

 

「それと、サミ殿」

「は、はいっ!」

 

 うっわ、怖いぞ、その、座りきった目。何ぃ?何でぇ~??あたしは、戦いませんよぉ~。

 

「ローランです!」

「は?」

 

 ずいっと、寄ってくるの止めて下さいーー。

 

「私は、ローランで。間を取って下さい。じゃないと、働きません」

 

 真面目にギュスターヴさんの事を考えていたのに、ローランさん……おっさん年齢なのに……未だに根に持っていますか?きょ、脅迫はいけないんだぞ!

 

「あ、あの、ギュスターヴさんを、信用していいんだね?」

「サミ殿、まずは私への呼びかけから」

 

 ひぃ~、話が全然逸れないっ。

 

「ローラン……」

「付いていますね」

「うっ………」

 

 なんて鋭いんだ。ファビさんとディックさんを見たら、二人して目を逸らしやがりましたよ。

 

「ローラン、これで、いいよね!」

「はい、サミ殿の為に全力で仕事をさせてもらいます」

 

 なんて、なんて、現金なんだ。くっそ~、その満面の笑みは腹がたってくるぞ!

 背後で、「俺もぉ~」とか言う台詞は、無視だ、無視!絶対呼び捨てなんかしてあげないっ!

 

「サミ殿」

「あたしは、そのまんま?殿、取ろうね」

「いいのです。それで、ギュスターヴ殿の事ですが」

 

 何がいいんだ?ってか、自分の台詞は棚の上に放り投げ?!

 

「……会えなくても、良かったんだ。ローランは、あたしと会いたくなかったんだ…」

「サ、サミ殿」

「そうか~、ローランって、もう魔法使いの事が終わったら、あたしなんてどうでもよかったんだ」

 

 脅迫の視線に対抗するは、恨みがましい視線。ローランさんが、そんな事思ってない事ぐらいは分かっているけど、脅迫するのはずるいと思う。だって、あたしだって、ローランさんにサミって呼ばれたいぞ。

 

「サミ殿ぉ~」

「殿つけるようなおっさんは、仲間じゃないっ!」

 

 ディックさんを覗き込んで、「ねー」って言う。ディックさんも、あたしに合わせてくれて頷いてくれた。

 

「そうだよなぁ。仲間で、殿はねぇよなぁ」

「ファビっ!」

「という事で、殿無しで」

「さ…サミど…」

「ローラン」

「サミ……」

「間ぁ付いている」

 

 普段、頭の中で「さん」をつけていたから、その間ぐらい分かる。

 

「あたし、なくしたのになぁ」

「サミさん」

 

 うっわ、「さん」ですか?

 

「こ、これが、限界です!」

 

 しかも、胸張りやがりましたヨ。このおっさん。

 

「………ローラン……、あたし元に戻す…」

 

 そう言ったあたしに、ディックさんとファビさんが、「これ以上の譲歩は無理だぞ」「そうそう、諦めた方がいいってぇ~」だと。ローランさんは、うんうんとか頷いているし。ずっるいヨ。

 

「分かってないけど、分かった。

 んで、ギュスターヴさんを信用する理由って?」

「信用している訳じゃない」

 

 ディックさん、そろそろ下ろしてもらえませんかぁ?

 

「とりあえず、言動を眺めてっところ」

 

 なるほど、言動を観察するのか。うっ……それを解析する能力が無いじゃん。

 

「私は、同じ術士として信じたいのですが……、なるべく先入観を持たずに見ていこうと思っています」

 

 各種本の著者様だもんねぇ。長年慣れ親しんだ名前を持つ当人に対し、疑う事は難しいよねぇ。

 

「とりあえず、ギュスターヴさん呼んでくるね。もう話す事ないよね?」

「おう!」

 

 代表ファビさんの景気いい返事。

 しっかし、最後の方の会話は要らなかったね。かといって、ギュスターヴさんの前でやりたいとも思わないけどさ。

 

「あのー、降りたいんですけど」

 

 ディックさんが、あたしを持ったまま扉の方へ歩いている。えー、このまま行ったら、あたし扉の上の壁にデコをぶつけるヨ。

 

「ディック!

 サミさん、危ないですから」

 

 ローランさんが、無理やり奪還?してくれた。

 

「お前の方が、時間が長かっただろ」

「それなら、俺は、もっと短かったよなぁ~」

 

 えっと、鍛錬時間は均等に!という合言葉でもあるんですか?

 

「あー、あたし行ってくるね」

 

 おっさん達の爆笑会話を聞いていたら、また時間が経っちゃう。する~して、さっさか行くに限る!

 

「って、何でファビさん?」

 

 背後から、ファビさんがついてきてた。

 

「そりゃぁ~お嬢ちゃん一人で、知んねぇヤツに会わせられねぇだろ?」

 

 なるほど。

 って、目の前にファビさんの掌。

 騎士様のように、ってたぶん、一応、きっと騎士様だけど、えーと、手を前に出して跪いている。

 

「はいはい。さぁ、行きましょうぞ。騎士様」

 

 ファビさんの掌を掴んで、階段を上る。「ちぇぇ~、お嬢ちゃん、のりが悪ぃ~」なんて声が聞こえるけど、ちゃんとのったから。行きましょうぞって言ったから。ったく、おっさんってのは~!

 

この話は最初の予定とまったく違うものになった話でした。

勝手に手が動いて、話が違う方向へざんざん進んでいったのは、物凄い現象でしたw

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