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召還された

 家に帰ったらリビングに置手紙。夕飯の買い物追加があった。横には、チラシ。あぁ今日は、牛乳が安いのかと、ちょっと笑いながら速攻着替える。

 玄関で靴を履こうとしていたら、懐かしい沈みこむ感覚がきた。慌てて、最近常備してある簡易お出かけセットと、ノート数冊、筆箱が入ったカバンを抱きしめる。笑みが浮かぶ。そのまま召還術に身を委ねた。






 現れたのは石造りの部屋。きょろきょろと辺りを見回す。あの時召還された部屋…だと思う。んでもね。んでも。誰?この目の前の人??

 

「初めまして、勇者殿」

 

 物凄いデジャブ。あ、でも前回は言葉が通じてなかったよねー。

 目の前に居る人。銀色の少し長めのサラサラショートヘアーに、薄い緑の瞳、細身の体、長くて白いローブを纏って、ローランさんが持っていたような木の杖を持っている。ローランさんの部下さん?年齢は、おっさんという言うには失礼なような。んでも、やけに落ち着いている雰囲気があって若者とも言いがたい。

 

「私は、研究所所長のギュスターヴ・バルローと申します」

「……研究所?何のですか?」

「あぁ、言葉がお分かりになるのですね。安心致しました。

 研究所は、術の研究開発を行っています」

 

 にっこり笑う笑顔が優しい。

 

「えっと…ローランさんは?」

「ローラン?どなたでしょうか?」

「ローランさん。術士長のローラン・フィノさん」

「術士長?そのような役職はありません。それに、そのような名の者も知りません………」

 

 えっと、どういう事?

 

「ここは、ギュールズ城ですよね?」

「はい、良くご存知で……あの、勇者殿は異世界の方で間違いありませんよね?」

 

 酷く訝しげな表情で聞かれた。

 

「……はい、そうです……けど……何で?何で、ローランさんじゃないの?」

 

 体が勝手に後ずさる。

 

「ディックさんは?ファビさんは?お姫様は?………」

 

 目の前が歪む。

 

「勇者殿、どうか落ち着いて」

 

 綺麗な布があたしの顔をぬぐってくれる。それでも、理解出来ない状況は自然と体を後ろで動かす。

 

「どうぞ」

 

 綺麗な布が手渡され、自分の前に杖が置かれる。そして、男の人は少し離れて床に座った。

 

「勇者殿の話をお聞かせ下さい」

「……あ、たしの?」

「はい。どうして、この場所、ギュールズ城を知っておられたのでしょう?」

 

 酷く不安だ。あの時、あたしに伸びた手は皆暖かかった。でも、きっとそんな事は稀で、危険な事はいっぱいある。いいんだろうか?この人に、あの話をして……。

 

「全てである必要はありません。勇者殿、例えば、なぜ勇者殿が、私達の言葉を話せるのかとか、断片的な事で構いません。それで、勇者殿がお尋ねになられた方々の消息が分かるかもしれません」

 

 優しげな顔に、少し茶目っ気が帯びた笑みが浮かぶ。それに少し安心をして、断片的でいいのならと、小さく頷いた。

 

「ここの言葉は、術で教えてもらいました」

「術?」

「はい。術士長さんの言葉の記憶を貰いました」

 

 所長さんの目が丸くなる。

 

「それならば……、そうですか。それ以上お話しいただく必要はないでしょう」

「あの…」

「勇者殿は、この世界の未来を知っておられるのですね」

「未来?」

「はい。術というのは、まだ新しい技術です。だからこそ研究所があるのです。

 今の術では、そのように己の記憶を他者に委ねる事は出来ません」

「ここは……過去?」

「そうです」

「もしかして、300年前っ?!!」

 

 ローランさんが言っていた300年前の書物。あたしを召還する魔法が書いてあった本。あたしの概要付録付き。目の前に居る人は、もしかして、もしかして、その著者殿ですかっ?!

 

「あの、あ、えっと、たぶん300年後の世界を知ってます。この時代は、まだ魔法があるんですよね?」

「はい。あの…もしかして、300年後には魔法が無いのですか?」

「無いです…って、あぁぁぁぁっ、未来を過去の人に教えちゃっていいのっ?!大抵ダメでしょっ!うわぁぁぁぁぁどうしよぉ~」

 

 あまりにも定番な事柄を忘れていた。未来を過去の人には言ってはいけない。だって、未来が変わっちゃうから。ただ、その知識は、ファンタジーとかSFとかのフィクションな世界の話の事……なら、だ、大丈夫?……だ、大丈夫だ、だといいなぁ~。

 

「勇者殿」

 

 目の前に、落ち着いた笑み。おおー大人の笑みってのは、落ち着かせる効果があるんだ。あ、挨拶っ!

 

「沙美です」

 

 音をたてる勢いで立ち上がり、おっさん達に教えてもらった礼をする。

 笑われてしまいました。な、なぜ?所作まで、300年前は、違うのっ?!

 

「えっと…」

「あ、失礼致しました。

 サミ殿、その礼は騎士様から教えてもらったのですね。そんな凛々しい礼をされる女性を拝見したのは、初めてだったものですから」

「あ、はは……。あの時は、動きやすい服を着てたんで服装に合わせたお辞儀の仕方を教わったんです」

 

 だいたい買い物に出かけようとしていたから、Tシャツ、ジーンズ、パーカー、スニーカーという、お姫様の礼をしようがない格好。もう騎士様の礼以外とれないヨ。

 

「そうですか。では、私も」

 

 非常に優雅な礼を見せて頂いた。ファビさんが、気合入れた時と同じぐらい。それが、品の良い目の前の人に良く似合っている。

 

「サミ殿。ようこそ、ギュールズ城に。

 そして、大変申し訳ありません。どうか、私の願いを聞いてもらえるでしょうか?」

「願い……あの、300年後でも、あたしは役立たずでして……あの、自分スキル皆無なのですが……」

「ご安心下さい。私の願いを叶えられる勇者殿を世界に望みました。

 間違いなく、サミ殿は私にとって勇者です」

 

 綺麗に微笑まれてしまった。あのですね、優しい容貌の綺麗なお顔で微笑まれますと、免疫の少ないあたしとしましては心臓が凄い事にぃ~。

 

「あ、あ、あの、と、とりあえず、その、その話を」

「はい。では、どうぞこれを」

 

 ほんのり暖かいカップを持たされた。立ち上る匂いは、柑橘系?爽やか風味。一口口をつける。美味しい!

 

「サミ殿にとってはご迷惑な話ですが、どうぞ飲みながら聞いて下さい」

 

 カップを持ったまま頷いた。

 

「300年後に魔法がなくなっているとするならば、私の願いが叶った証拠。サミ殿は、間違いなく勇者殿です」

「え?」

「私の願いは、この世界から魔法をなくす事です」

 

 えっと、目の前に居る方は魔法使いさんで、術の研究所の所長さんで……そんな魔法の頂点にいらっしゃるような方が、それを望みますか?

 

「あ……戦争ありました?」

「はい。サミ殿は、詳しくご存知ですか?」

「いえ。ただ、魔法を戦争に使っちゃったのかなぁ?って思いまして」

 

 酷く苦い笑みが、目の前にあった。

 

「魔法使いさん達は、農家の皆さんとご一緒するのと、戦争をするのとどちらが大勢なんですか?」

「昔も今も私達は、変わりません。

 確かに、農家の方々と働くより城に勤める事で多くの報酬をもらえますが、それは人の命が代償です。

 ですが、今この世界にいる支配者階級の人間は気づいてしました。魔法は、戦争の道具になると。

 私達魔法使いは、それを望みません」

 

 あたしは、知っている。うん、この望みを叶えられる人を知っている。

 

「魔法使いさん全員が、そう思っているんですか?」

 

 伏せられた視線が、答えだった。

 

「それでも、ギュスターヴさんはそれを望むの?それで問題は無い?」

「私達魔法使いには、声を繋ぐ独自のネットワークを持っています。

 天候を操る時に、各地の天気情報を伝え、的確に魔法を具現化する為です。

 全ての魔法使いは、そのネットワーク下に必ず居ます。例外はありません。

 そして、多くの魔法使いが、利益よりも悲しみをネットワーク越しに伝えてきました。

 私は、その代表としてサミ殿に願います。

 どうかこの世界から、魔法を無くして下さい」

 

 今度は、騎士様の礼では無い、杖をあたしに捧げるように持ち頭を下げている。きっと、魔法使いさん専用の礼。大事だろう杖を相手に委ねるようなその礼は酷く無防備で、ギュスターヴさんの言葉が真剣だとあたしに伝える。だって、確かにあたしは、運動神経並みだけど、そんな事を知るはずも無いギュスターヴさんが、大切な杖を渡すかのような仕草をしている。それは信頼にも繋がると思う。

 

「えっと、ギュスターヴさんは、魔法使いさん達の代表なんですね?」

「いいえ、私がこの役を担ったのは、私が術士として一番多くの知識を有しているからです。

 この大陸の中では、ギュールズの研究所が一番進んでいると言われています。

 そして、最近の私の研究は、異世界から人を呼ぶ術の開発でした」

 

 異世界から人を呼ぶなんつー術を開発しちゃうって、新しい技術だって言っていたのに。すっごい!あ、でも、この術が凄いかどうかって、一切理解外のあたしじゃ図れないじゃん。

 

「そうで、っ?!!」

 

 突然、物凄い勢いで扉を叩く音がした。

 

「サミ殿、私の背後に」

「え…な、何ですか?」

「魔法を無くす事を反対している者達が、来てしまったようです。

 大丈夫です。決してサミ殿にご迷惑はかけません」

 

 そう言ったギュスターヴさんは、杖を振り、「ミストラル」[グラース」と矢継ぎ早に言う。

 うっわ、魔法だよ。魔法。きっと、魔法!効果が全然分からないけど。扉の外の音がもの凄くなった。

 あ、いや、それ所じゃないって!

 

「あの、ギュスターヴさん、この世界の未来に居る人を、呼ぶ事は出来ますか?」

「……難しいですね。日付と………その方を示すような物があれば……あるいは……」

「ちょっと待って下さい」

 

 鞄の中を物色する。おっさん達から貰った手紙は、しっかりと持ち歩いていたりする。

 

「あの、これ、この三通。

 これが、ローランさんから。

 これが、ファビオさんから。

 これが、フレデリクさんから。

 この三人の、えっと……」

 

 そして、鞄の中から、旅の時に使っていた手帳を取り出す。

 

「ギュールズ歴632年の9月4日の三人をお願いします!」

「サミ殿……」

「大丈夫です。300年後に魔法がなくなっているって事は、これからやるギュスターヴさんの術が成功したって事だから!」

 

 ギュスターヴさんは、あたしの言葉に柔らかな笑みを浮かべて、杖を持ち直した。

 扉の向こうは、慌しい乱暴な音が引っ切り無しに続いている。

 どうか、間に合いますように。周囲を見渡す。あ、なんて立派な棒!あたしは、走って壁から棒を取り扉の前で構えた。へなちょこだけど、ギュスターヴさんの邪魔はさせない!

 

「世界よ

 折り重なる世界よ

 全ての時に手を伸ばし、全ての時間を抱かれよ

 世界よ

 我が愛の全てを貴方に捧ぐ

 世界よ

 我が心をご存知なれ

 この文字を記した三人の愛し児

 ギュールズ歴632年の9月4日にある

 貴方の愛し児の三人を我が元に」

 

 背後を振り返る。

 なんにもない空間に、突然三箇所穴が開いた。そこから、ローランさんとファビさんとディックさんがそれぞれ落ちてきた。

 

「助けてっ!!」

 

 そう叫んだ瞬間、目の前の扉が壊れる。あたしは、誰かに抱えられ、あ、あたしの前に出たファビさんとディックさんが、それぞれ剣と槍を構えているって事は、ローランさんに抱えられているんだ。

 

「ギュスターヴさん、一旦、脱出?」

「そう、…ですね。

 分かりました、脱出しましょう」

「じゃぁ、行っくぜぇ~!」

 

 ファビさんの軽快な声。行き先分かってないでしょ?

 

「こっちだ」

 

 ディックさん、こっちだって、どっち?しんがりを守っているギュスターヴさんの目が見開いているヨ!

 

「サミ殿、お久しぶりです!」

 

 何で、このおっさん達は、こんなに順応性がいいの?動揺一切無しって、どうして?

 

「ローラン……、あの、あのさ、な、何で普通?」

 

 一応、戦っている最中。ローランさんはにっこり笑って、後でお話ししますとの事。あたしには、さっぱり分からない。

 

「お嬢ちゃん、元気だったかぁ~?」

 

 敵が居るとは思えないぐらい、ご陽気な声。あたしは、ファビさんの方を向いて手を振る。

 

「サミ……、あまり大きくなってないな」

 

 上から下まであたしを見て、そんな事を言う。ディックさん、あたしは縦に成長するような年齢じゃないぞ。

 

「すみません、皆さん一旦どいてもらえますか?」

 

 あたしと、おっさん達の会話をぼおっと聞いていたギュスターヴさんが、ようやく我に返ったように目元を引き締めて言う。

 ファビさんは即座に後ろへ下がり、ディックさんは、ローランさんとあたしを庇うように前に来た。

 

「ミストラル」

 

 突然、ギュスターヴさんの前で風が吹き荒れる。当然、前に居て、あたし達に剣を向けていた人達は、通路の壁に吹き飛ばされた。

 さっき聞いた魔法。言葉だけで効果が分からなかったけど、風系の魔法だったんだ。

 

「では、行きましょう」

 

 ギュスターヴさん、酷く辛そうな表情。うん、自分で自分が嫌だと思っている仕事をしちゃったからだろうな。そんな顔をするギュスターヴさんなら、信用していいかな?未だ疑問系なのは、自分の人を見る目に自信が無いから。

 うーーー、おっさん達に任せていれば間違い無い部分だと思うけど……それじゃぁ、レベルアップが図れないヨ。

 

 

ようやく二部に到達しました(`・ω・´)+

一部で放置していた300年前のお話です。


おっさん+1!


さり気に加筆wwww

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