教会に現れた悪魔
よければ、感想をくれるとありがたいです。
私は教会の孤児院で暮らしていた。
一応、親は元気に生きてはいるが、父は刑務所の中。母さんは病院にいるので私は孤児院にいる。
「いい子にしてれば、新しい親が表れるわよ」
シスターはよくそう言い、子供たちはその言葉を信じて、教会の手伝いをし、シスターたちの言葉は絶対に聞いていた。
「(私はいいや……)」
当の私は適当に暮らしていた。
新しい親なんか必要なかったし、病気の母のこともまだそれなりに愛してたので、いい子じゃなくてもよかったのだ。
「お前……可愛いな」
ある日、黒いジャケットを着た強面ながらも綺麗な顔の男性が教会にやってきた。
独身男性がくることはよくある。
妻はおらず、子供が欲しいが一から育てたくなくて、ある程度育ち、教会の厳しい指導でいい子な子供を欲しがる男性は意外と多いからだ。
何より、この男は金持ちらしく、皆は張り切っていたが、私はどうでもよくて絵をかいていただけだが、男性が話かけてきた。
「俺は火鷹。お前の名前、何て言うんだ?」
「死ね」
「は?」
男性は唐突にいった私の言葉に驚いたが、仕方がないだろう。
「詩音と書いて詩音」
便宜上、詩音と呼ばれているが、戸籍登録では詩音だし、母にも詩音と何度も呼ばれた。
「ふぅ~ん……詩音か、どんでもねぇ名前つけんだな……」
黒いジャケットの男は考えるような態度をとった後、唐突にこんなことを言い出した。
「詩音、俺の子供になるか?」
「いや」
私が即答すると、シスターは真っ青な顔をしてこちらへやってきた。彼はVIP扱いなのだろう。
「も、申し訳ございません!この子は、その……虐待を受けておりまして、まだ此方に来てまもなく、礼儀を分かっておられないのです……」
「あ?んなことどうでもいいから」
シッシと手をふればシスターは私を睨みつけた後、渋々といった感じに席を外した。
「お前、マジで虐待受けてたのかよ?」
「別に……どうでもいいでしょ」
私がジト目で見れば、彼は大笑いして私の頭を撫でた。私はそれをペシリとはねのけ、苛立った目で見つめればまた大笑いされた。
「よし、俺のことはお父さんって呼べ!」
「絶対にいや」
その日は大人しく帰ってくれたか、何が気に入ったのか、はたまた同情したのか火鷹さんはよくこの教会に表れては私を構い倒した。
それだけでも苛立つのに、火鷹さんは金を寄付したり、新品の遊び道具を寄付するので、シスターたちは私に失礼ない態度で迎えなさいというので私は嫌々ながらも相手をしなきゃならんくなった。
「うた~お前は何が欲しいんだ?」
火鷹さんは私をうたと呼ぶようになった。詩音は論外で詩音でも気味が悪いからと。
よく私を抱っこするわ、頬擦りするわなこの人が嫌いだった。
「いらない。もう私に構わないでよ……なんで構うの……」
正直な話、意味が分からなかった。ハッキリ言って、私は火鷹さんになついてないし、寧ろ毛嫌いしている。
「俺も昔、虐待を受けてたんだ……愛人の子ってだけで虐げられてきた……昔の俺は子供だから何も出来なかったが、今は違う。自分の力で掴みとって、俺を虐げた奴を全員破滅させた……詩もそうだろ?憎いだろ?俺と同じだ。」
「同じじゃない。私の母は病気なだけだし、虐待なんて周りから見たことにしか過ぎない。誰しも仕方がない事情を抱えている。後、私を詩と呼ばないで」
私が言い返すと、火鷹さんはドロリとした目をこっちに向けた。まるでトロミのある血のような目に一瞬怯えたが、火鷹さんはまた大笑いして、私に抱きついた。
「抱きつくな!」
今度こそ私は、本気で拒絶した。
****
「特別に外出許可がおりました」
ある日、シスターからそう言われた。
私たちの外出には厳しい手続きがあり、遠出するには更に面倒くさい届けや契約が必要な規則があるが、何故かその日は許可がおりた。
実は前々から母のお見舞いに行きたいと申請してたので、それがようやく受理されたのかと思ったが……
「よぉ……」
何故か火鷹さんが鍵をもって表れた。後ろには黒い車。
シスターは『よかったわね、感謝するのよ』とでもいいそうなニコニコ笑顔だった。
ぶっちゃけ嫌だったのだが、母の病院は遠いし、背に腹は代えられないので背を切り刻まれる思いで車にのった。
「一体、どうやったんですか?」
「べっつに~単に優しい気持ちで100万程寄付しただけだけどー?」
この男は本当に苛立つ。子供には出来ないことを、力でねじ伏せるやり方が大嫌いだ。私は苛立ちを押さえてフードを被り、火鷹さんを無視してそのまま無言でいた。
「ついたぞ」
そう促されて、私は下りる。火鷹さんにはついてくるなといった。
山に囲まれたのが特徴的な隔離された病院。中に入り、受け付けをすませれば、看護師が表れた。
「こっちへ来てください」
看護師に案内され、廊下を歩きながら私は考える。恨まれていないかと。
私は、母を襲った強盗との間に産まれた子供だ。だから、私に暴力をふるうのは、暴言をふるうのは仕方がないと親戚たちに言われたし、私もある程度育ててくれたことに感謝している。
最後は殺されかけたが、それも仕方がない……
そう私が自分を律してると、看護師が一つの病室に止まり、こちらですといってきた。
「桔梗さーん」
看護師が母の名前を呼ぶと、母はこちらを向いた。その美しさに私は驚く
。全然変わっていない。むしろ少女のように若返り、品のある可愛らしいお嬢様という感じだった。
何を言われるかと怯えていたら…
「あら、可愛らしい子ね、はじめまして」
綺麗な笑顔で、そんなとんでもないことを吐かれ、私は理解が出来なかった。
「お母さん……私、娘だよ?」
震えた声でそういえば、お母さんはキョトンとした顔をして笑った。
「なに言ってるのよ、私はまだ15歳よ?子供なんて出来ないわ」
母は本当に私を忘れているようだった。私がいくら自分が娘だと訴えてもお母さんはクスクスと笑い、面白い冗談ねと笑っている。
「精神的な記憶障害です。自分の悲しい過去を封じ込め、無かったことにすることによって、君のお母さんは自分を守っています」
と、医者は説明した。
いや、自分の悲しい過去ってなんだよ。悲しいのはわかるけど……こんなのってありかよ……
私は……恨まれてすらもなかったのか。
病院から出る前、私はお母さんに質問した。
「お母……桔梗さん…詩音って知ってる?もしくは詩音とか、何処かで聞いたことがない?少し違和感があるとか……」
もう必死だった。しかし、お母さんはそんな私の心を知ってかしらずか、少し困った笑顔で答えた。
「いいえ、知らないわ」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
母は私を悲しい過去で、向き合いたくないものらしい。あんな綺麗なお母さんの顔を初めてみた。恨まれてすらいなかった。
覚えられていなかった。私の存在を、私の名前を……
私は母が望むならばもう一回自殺することだって出来たのに……そもそも私の存在を見ていなかった。
「(私……なんなんだろ……)」
気がつけば病院の外にあるベンチに寝ころがっていた。
頭はお豆腐、体はこんにゃく。
「(仕方がない)」
そうだ。これは仕方のないことだ。誰も悪くない、お母さんは病気だし、こうなったのも仕方が……
「可哀想になぁ……」
悪魔のような声が上からふった。
大きな手が私の頭の上に優しくのせているだけなのに動かない。
「お前のお母さん……本当に最低だなぁ……自分の子供なのによ」
「やめて」
お母さんにだって仕方のない理由があった……
「仕方のない理由ってなんだ?そんなの大人たちが勝手にきめたことだろ?」
お母さんは病気だから……
「違うな、お前のことが嫌いだったからだ。お前を嫌がったからだ」
「やめて」
聞きたくない。耳を塞ぎたいのに防げない。体は硬直し、上から降り注ぐ声を阻めない。火鷹さんは、優しく、優しく私の頭を撫でる。
「お母さんは……私を恨んでもしかたが……ないから。嫌っても仕方がない」
震える声を必死で出すと、火鷹さんはまるで意地悪な子供のように、欲深い大人のようにネットリとこういった。
「でも、お前のこと覚えてねーんだろ?親に存在を消されている。
お前は一体誰だ?」
「……っ……うぅ……あぁぁあああ!!!」
もう、限界だった。
傷口に包丁を差し込んでグリグリと弄るように言われ、その事実に耐えられなくなって、私は涙を流す。
そんな私を火鷹さんは抱き上げ、自分の膝の上にのせて後ろから抱き締めた。
「可哀想にな……でも、アレは親じゃないんだ。お前のことなんて忘れている。けれど、俺は愛してやる。だから俺のことを『お父さん』って呼べ、何でも我が儘を聞いてやる」
悪魔が、耳元でささやいた。
「俺を『お父さん』って呼べ。我が儘をいってみろ。娘の我が儘を聞くのは親の役目だ」
思考力が著しく低下していたのだと思う。しかし、言い訳ばかりが頭に浮かんだ。
今の私は少しおかしい。だから変なことを口走っても仕方がない。
それに、きっと大人の戯れ言だ。本当に出来るわけがない。
子供の拗ねた言葉をいうだけだから……
「さぁ、言ってみろ……」
「お父さん、あの女を消して」
「いい子だ、うた」
悪魔はキバを向けて笑った。
とある病院で一人の女性が死んだらしい。
原因は自殺。女性は死ぬようには見えなかった等、多少の不可解な面は残るが、元々精神が『そういう』患者が多いためによくあることだと早急に処理をされた。
「元気でね」
シスターは優しくそういい、他の子達もバイバイと手をふり、花束をくれた。私はそれに対してありがとうという。
「おーい、そろそろ行くぞー」
外から急かす声が聞こえ、私は感傷に浸る暇もないまま、慌てて彼がまつ車へと急いだ。
「じゃあね!みんな!」
そういって私は皆に手をふってさよならをした。
「おまたせ、お父さん」
「じゃあ、行こうか」
お父さんは高そうな車にのり、私も横に乗った。走って風景が変わるのを見ていたら、脳内で何かが響いた。
『詩音……』
なにか、聞き覚えのある声でそれが響いた。
「お父さん、詩音って知ってる?」
「いいや、何も知らねえな。どうせ下らねぇことだから忘れとけ、うた」
「うん」
何か大事なことのような気がしたけど……まぁ、いいか。
火鷹さんはヤンデレというか、父性強すぎで詩音に対してちょっと執着しています。でも、邪魔者が消えればちゃんとした愛なのでなんだかんだで幸せにはします。
ちょっとした実験作です。よければ感想をくれると嬉しいです。