特別編 「異空のサムライ」の艦船 ラジアネス編 その2
航空母艦「クロイツェル・ガダラ」
本来、軍縮により退役予定、あるいは建造途上で廃棄が決まったクロイツェル・メラティカーラ級戦艦の再利用法として航空機輸送艦 (空母ではない)への転用が決まった四隻のうち一隻が本艦であった。通称「グッピー」。
本来想定されていた「航空機輸送艦」としての本艦の本来の運用方法としては、後方に在って地上基地への航空機運搬、前線に展開する正規空母に対する損耗分艦載機の補充任務であり、それ故に本艦は個艦兵装、防御力共に最小限のものに留められる筈であった。軍事費削減を企図して本艦を艦隊所属ではなく、「輸送船」として運用する専門空運業者を政府支援の下で開設する計画もあったようである。
しかし、正式な改装作業の途上でレムリアとの戦争が始まり、開戦劈頭のアレディカ戦役における大敗により、稼働可能な艦隊型空母を喪失したラジアネス軍は、早急な空母戦力の立て直しを迫られることとなる。同型他艦に先んじる形で「輸送艦」への転用工程が九割がた完了したクロイツェル・ガダラが、空母部隊再建の先鞭を付けるかのように「空母化」の対象となるのに、それ程の時間を要しなかった。
主な改造点として、格納庫容積が拡大され、艦体下部に新たに非常用飛行甲板をも兼ねた格納庫が新設された。同じく「アレディカ戦役」の戦訓から対空兵装の充実も図られた結果として、「通常航行に支障を生じるほど」全体の重心が変化し、艦体の再設計と全面改装によりそれらを修正する時間的余裕も無かったため、艦隊の設計/技術開発部門では多数の姿勢安定翼を取り付ける、半ば応急的ともいる手法で問題の解決を図っている。これらの処置は本艦の復元性になお不安を残した一方で、良好な旋回性をも付与する形となっている。後に「クロイツェル‐ガダラ」級と称される四隻全艦が改造を経て空母として再就役し、レムリアとの激戦に投入される運命を辿ることとなったのであった。
レギュリアス級駆逐艦
ラジアネス軍の主力駆逐艦。対艦、対空両用に運用可能な「万能艦」として計画された。
前級のブファリス級で成功した単装両用速射砲装備を、その砲口径、射程を強化する形で引継ぎ、かつ艦体中心軸上に配置することで全方位への砲遁火力の全力投射を可能にしている。また、同様の意図から空雷もブファリス級の二連装から四連装の中心軸上配置に変更された。
推進機の数もブファリス級の四基から八基に増強され、加速力、戦闘速力の向上、巡航速力の延伸を実現している。また、推進力の分散による損傷時の生存性の向上にも繋がっている。
ブファリス級駆逐艦
レギュリアス級と並ぶラジアネス軍の主力駆逐艦。しかし一番艦の就役はエルグリム戦争後に始まっている。前級のダコマ級の拡大改良型として計画されており、レギュリアス級の就役が始まってもなお、レムリアとの開戦時には本級が数的な主力であった。
後継であっても前型のダコマ級とは設計思想史的に同系統の艦であり、艦首部に背負い式の主砲塔が一基追加された以外には機関部、兵装にも特筆すべき改良点は存在しない。ただし、ダコマ級に比べて居住性が向上したこと、ラジアネス艦で最初にCIC (戦闘情報室)の運用を前提にした艦として、本級がラジアネスの軍事史上に微かながらその名を残す。
ダコマ級駆逐艦
ブファリス級の前級。レムリアとの開戦時にもなお二百隻余りが残存しており、本級の中にはアレディカ戦役に参加した艦も存在する。一番艦ダコマはエルグリム戦争の終盤に就役し、従来型の駆逐艦に無い巨体と攻撃力で戦時の彼我諸勢力に衝撃を与えた。
ラジアネス艦隊において、駆逐艦の主任務は艦隊決戦が生起し得る空域における偵察警戒と船団護衛、そして敵性軽艦艇 (空雷艇、武装舟艇、商船など)の排除であり、それ故に目標捕捉から短時間の連続射撃で有効打を与え得る速射砲の開発と多数装備が優先された。それ故に本型は単装速射砲八基という、従来の駆逐艦に無い強力な砲遁兵装を有することとなった。これは、目標を狙うよりもまず目標の所在する空域に弾幕を展開し、目標に対し公算的に命中弾を与える、あるいは目標の機動を掣肘するのが有効という、エルグリム戦争時の戦訓を多分に反映している。また、雷撃兵装として本級は連装空雷発射管を両舷上下に一基ずつ、軽四基搭載している。
これらの重武装を搭載し、且つ居住性と航続力を確保するために、本級は葉巻状の小型基本船体二基を左右に繋げて艦容積を拡大するという手法を採ることとなった。本級の基本船体及び艦構造物は地方の中小造船所でも製作可能であり、大型貨物船に積み込んだこれらのユニットを大規模造船所に持ち込んで最終組み立てを行うという方式により、本級はエルグリム戦役終結までに三百隻に及ぶ大量建造を達成している。これはラジアネス造船史に残る快挙として記録されている。エルグリム戦争が終結してもなお、船台上には五百隻に及ぶ建造途上の本級が存在していたと言われている。
しかし、三百隻に及ぶ大量建造と就役は、その後のラジアネス艦隊の駆逐艦整備事業に著しい困難を来たすこととなった。新造艦が多過ぎる上に平和な時期の到来が重なり、後継艦の開発と整備が遅れ、それは本級の性能を陳腐化させた。後継艦たるブファリス級にしても、実質本級の同型艦であり、設計面で特筆すべき進歩が見られないとあっては、それは後に出現したレムリアという大敵の前にあっては、悲惨な戦況を現出させる要素の一つでしかなかったのである。それでも本級及びブファリス級は、性能面で遥かに優越するレムリア軍駆逐艦に健闘を以て報い、あるいは壊滅の危機に瀕した艦隊の「働き馬」となって劣勢の戦線を支えた。その拡張性を買われて即席の護衛空母、高速輸送艦、工作艦といった支援艦艇に改造された艦も多い。
重巡航艦「タニアポリス」級
軍により本来二十七隻が要求されていた「エクイヴリウム」級戦艦の建造予算が、ラジアネス連邦議会と財務省の抵抗により二十三隻分のみしか認められず。後に残り四隻分の予算を以て八隻の建造が認められた艦が本級である。巡航艦というより、「準巡航戦艦」という性格の方が強い。
戦艦と同等……とまでは行かなくとも、戦艦に準じる火力と装甲に、戦艦以上の高速力を兼備させることに本級設計の主眼が置かれている。本級設計の際に参考にされたのがエルグリム戦争の敵手たるエルグリム艦隊の「ジェロム‐マディステール」型高速私掠艦であり、戦艦以上の速力と巡航艦以上の火力を有する本艦に苦闘を重ねた経験が、ラジアネス艦隊をして本型の建造を指向させる結果となっている。
本級は主砲として三連装8スカイインチ砲を六門搭載し、雷撃兵装としても四連装長空雷を四基搭載する。また、その性能要求から本級は艦隊型空母に随伴し得る高速を有しており、この点は後年、本級を戦艦部隊の補助戦力から空母機動部隊専属の主力護衛艦としての性格を与える要因のひとつとなった。事実、本級の対空兵装はラジアネスの主力艦で最初に高射砲の標準装備を図るなど充実しており、後の重巡航艦建造の性能面での指針としても評価が高い。
本級は改良型の「カリブランド」級を含めて二十隻が建造され、うち七隻がアレディカ戦役に参加している。アレディカ戦役において三隻が大破したが戦没艦は無く。俊足と充実した対空兵装が、本級の生存性を高める要素となっていたことは後に編まれた戦闘報告を鑑みても明らかであった。軍艦としては極めて使い勝手が良く、戦艦、空母といった主力艦を差し置いての艦隊旗艦の他、島嶼占領作戦においても揚陸部隊の指揮艦として使われたケースも多い。




