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第八章  「ポート‐カステル航空戦 後編」

 ハンティントンを飛び立った編隊が到達する頃、味方機が離脱を始めているのを見る。秩序もなく黒煙を曳いてこちらへ向かってくる味方機を、カズマは増援の編隊に連なり上空から見下ろしていた。対航する友軍機と擦れ違い様、胴体に描かれた機番号からカズマは所属を察する。


「097飛行隊?」

 戦場を離脱し、こちらへ向ってくる機の多くが097飛行隊の機体……ということは、187飛行隊は壊滅したのか?


 いや……違う――目指すポート‐カステルの空岸線を水平線の彼方に見出し、まだ広がっている空戦の環に眼を転じたとき、カズマは内心で安堵する。187はまだ戦っている。097の離脱を援護しているのか。それとも、097が離脱しているのを知らず。いまだ不利な戦いに身を投じているのか?


 空戦の上層から下に広がる海原へと視線を転じたとき。二機の敵機に追われる一機の味方の姿をカズマは見た。優位な姿勢から放たれる射弾、白煙を曳き追い掛ける緑の光の矢、一機のジーファイターに及ばず、あるいは追い抜いて海原を抉って沈む。追尾と射撃を懸命に回避しているジーファイターの挙動には、カズマは見覚えがあった。


「バクル――!?」

『――編隊長より全機へ、攻撃開始!』

 戦闘機隊の後背、BDウイング攻撃機編隊を率いるバットネン少佐が命じた。小隊長クラスこそいるが、戦闘機隊で編隊の総指揮を引き受ける者は結局出なかった。自然、バットネンに引率される様にして戦闘機隊はハンティを発ち、そして漠然とした群れとなって空戦域へと殺到する形となった。

 バクルを追う敵機の機動に、陰りが生じた様に見えた。新たな編隊の出現に浮足立ち始めたか――スロットルを全開にして銀翼を翻すと、カズマは一直線に海面へ突っ込んでいった。

 切り離された増槽が、残りの燃料を吐き出しながらくるくると落ちていく。

 大きく傾けた主翼が太陽を反射して刀身の如くに煌き、翼端から噴出した真白い蒸気が勢いよく背後へ流れていく。


 一度大きく息を吸い込み、眼を閉じる。


 眼を見開いたそのとき――カズマは、鯉口を切った。


 速度計が一気に400を越えた。

 回転を刻む高度計とぐんと傾く傾斜計。

 回転計の数値は50000に達し、エンジンの回転音が一層重厚さを増した。

 かなりの距離を置いて、海面スレスレを行くバクルと上方から急降下するカズマは擦れ違った。

 

『――――っ!』

 今だっ!――左にフットバーを踏み込み、加速度に抗いきれず振動する操縦桿をわずかに左に傾けた。それだけでも加速のついたジーファイターは、上から横殴りに二機のゼーベ‐ラナを襲った。ラナの斜め後ろに、カズマは機首を滑らせた。ラナとの性能差は身にしみていたが、その処理にはすでに絶対の自信をカズマは持っていた。

尖ったスピナーの鼻先、はるか向こうの空間に、照星が重なった。


 それは一瞬の出来事――しかしカズマには、それで十分だった――操縦桿の引鉄を押す指に、力が篭った。

 一連射は、寸分たがわずゼーベ‐ラナの空冷エンジンを貫いた。均衡を崩した敵機は低空、傾けた主翼で海面を叩き、スマートな肢体を何度も海原に打ちつけながら四散した。驚いた僚機があわてて機首を上げる瞬間をも、カズマは見逃さなかった。さらに放たれたもう一連射はラナの操縦席を打ち抜き、風防を弾き飛ばした。尾部から派手に一回転し、次には海面に打ち付けられるゼーベ‐ラナ。天を突くように湧き上がる水柱をカズマのジーファイターは軽々と飛び越えていく。


「バクルッ!」

 横転の姿勢に入った操縦席から、カズマは喉頭式のインターコムに怒鳴った。圧し掛かる加速度を物ともせずに顔を上げた先に、漸く拘束から解かれ、上昇するバクル機の後姿があった。

「2-0-5へ逃げろ。援護する!」

『――カズマかっ!?』

 と、バクルが汗だくの顔を上げたときには、加速のついたカズマのジーファイターはバクルのはるか上空を一気に駆け上り新手の敵編隊へ向っていた。その数四機。典型的なレムリア軍戦闘機隊の最小戦闘単位だった。

「こしゃくなっ……()れ!」

 真正面から機銃を撃ちかけながら突進する四機。ロールを打ってそれを回避する。カズマは操縦桿を前に倒し下へ突進した。たちまち、速度の増した四機と一機が交差し、すれ違う。四機の末端と軸線が重なる一瞬、擦れ違い様に一連射を放つ――ラナの発動機から生じた白煙が、カズマが上昇し態勢を整えるのと同時に火焔に転じ、ラナを分解させた。

「逃がすなっ!」

 否、逃げたのではなかった。再び加速のついた機体の中で、カズマは一気に操縦桿を引いた。すばやい動作で宙返りの頂点に入ったところで、カズマは機体を水平に復した。その眼前に、カズマの姿を見失い、右往左往する敵編隊。そこをカズマは見逃さなかった。照準器の中にはリーダーと思しき機影。背後を振り向いたパイロットが、追い縋るカズマのジーファイターに眼を剥いた。


 左右各三、計六丁の重機関銃の一連射がゼーベ‐ギガの胴を捉え、尾翼を引きちぎった。飛び散る破片。安定を失い錐揉みの姿勢に入って機首を落とすゼーベ‐ギガの最期を見届ける暇など無かった。続く一撃で慌てて旋回を終えかけたゼーベ‐ラナの機首を発火させた。残る一機がカズマを追う機会はもはや無かった。新手の敵編隊接近の報と、それに続く援護要請を受け取ったからである。それ以上に、普段彼が知るジーファイターとは明らかに違う異質な敵に、不気味さを覚えたのかもしれない。発火した一機の行方は、さすがに追うことができなかった。


「逃げた……?」

 戦闘を放棄して離脱する二機の敵を、カズマは眼で追った。その先に、小さな空戦の環が広がっていた。多数の敵機に囲まれてもなお奮闘する少数のジーファイターの内一機の標識に、カズマは見覚えがあった。

「隊長!」

 カズマは機首を向けた。接近し、必死で射弾をかわすバートランド機の姿を確認できる距離まできたとき、新手の編隊が上空から接近してきた。

 それは味方機の編隊だった。一本棒の隊形から一気に散開すると、カズマの眼前でレムリア軍の中に逆落としに突っ込んできた。忽ち、カズマは乱戦に巻き込まれた。追いすがる敵機を巧妙にかわし、その内数機に煙を吹かせた。さらにのこのこと眼前に後背をさらけ出した一機に食いつき、数回の射撃で主翼から炎を吐かせた。外板を撒き散らし、背面の姿勢から回復しきれずに下へ突っ込んでいく敵機。それをなおも追尾する横手で、二機のジーファイターの機影が太い煙を吐きながら急降下で離脱していくのをカズマは見た。


「――――!」

 殺気!――背後を振り向くまでも無かった。蹴るように踏み込んだフットバー。加速度に抗うように引く操縦桿。機体を滑らせ、水平の姿勢に戻りかけたジーファイターの傍の空間を、黄色く粒が太い弾幕が通り過ぎる。そのとき初めてカズマは背後を振り向いた。


 双発戦闘機!――精悍なフォルムの双発機の正面が、機首を煌かせながらこちらを追尾していた。間髪いれずフットバーを蹴り、スロットルレバーを絞った。



 回避された!――ジャグル-ミトラを駆るヴィガズは、追尾する敵機の突然の挙動に眼を剥いた。

 必中とは言わぬまでも、命中させるのには自信があった……言い換えれば、彼にとってその程度の射撃でも撃墜ちてくれたのが地上人の戦闘機であった。このときは、出だしから調子が狂った。

 雲海を背景にしたジーファイターの後姿――幾度見たところで、機能美も設計の妙も欠片ほども感じられない地上人の戦闘機の尻を追い、ヴィガズはミトラの機首を旋回させ続けた。旋回が早い、今まで会敵したジーファイターと違って、こいつは空を切る勢いで左右に滑り、此方の撃った弾丸を軽々と回避する。そうして追尾を続けている間に、ミトラのエンジン出力が勝る以上、徐々に距離が詰まる。射撃の好機とは思えなかった。むしろ予定時間内に敵機を撃墜出来なかったことから来る接触の危機だ。


 こいつは何者だ?――困惑はそのまま迷いへと転じ、同時に仕切り直しへの未練を生む。

 こいつは諦めるべきか?――それとも、一度距離を置き、加速を生かしてもう一度襲うべきか?

「――――!?」

 降下――ロールから機首を下に転じたジーファイターを追った直後、不意に敵機との距離が詰まった。スロットルを絞ったのだとヴィガズは直感した。


 勢い余ってジーファイターを追い抜き、眼前に飛び出したジャグル‐ミトラ――無駄を削った精悍な胴体、鴎のそれの様にぴんと張った広い主翼から突き出る液怜エンジンの組み合わせ――の機影に、カズマは思わず目を見張った。太平洋の戦場で幾度か手合わせしたP‐38「ライトニング」に、相手の機影が重なる。低空から中高度で組めば双発機にしてはやけに運動性のいいことを除けば、大したことの無い敵。しかし高高度から一撃を掛けられれば先ず逃れる術が無い――お前、戦法を間違えてるんじゃないかと、内心で問いかけてしまう位にカズマは双発機に「同情」した。


 敵はスロットルの操作が遅れた。水平面でのこちらの追尾に集中するあまり、降下の瞬間に加速が付くことを、彼は忘れていたのに違いなかった。双発機が加速し始めるのを見る。その途上で照準器に重なる機影――当然、逃すつもりは無かった。


「――――!」

 射弾はジャグル‐ミトラの各所を穿ち、引き裂いた。弾け飛ぶ外板が陽光を吸い込んで煌き、カズマの網膜を灼いた。降下を止めた双発機の加速が目に見えて衰える。水平飛行で距離を詰め、さらに撃ち込んだ二撃目で片翼のプロペラが吹き飛び、エンジンが黒煙を吐き出した。

 背後に回られたと察した直後、何が起こったのかは分からなかった。操縦系を破壊され、力なく銀翼を翻し機首を下げたジャグル‐ミトラの操縦席でヴィガズは死んだ。脱出など考える暇も無かった。燃え上がる機体の中、隔壁を突き破り操縦席に回った炎が彼に襲い掛かったのである。


「…………」

 曳いていく煙は、すでに炎へと変わっていた。焔に染まった紅の翼。二度と飛び上がること適わぬ地上へと吸い込まれていく敵機を、カズマは無意識のうちに敬礼し見送っていた。

 強敵ではあったのだろうが、不思議と達成感とか、勝利感とかは感じなかった。以前の世界での度重なる戦闘経験が、敵機を撃墜(おと)すということに関してカズマを鈍感にしていたのである。ちょうど、古の剣客が敵を斬ることを重ねるうちに、人間の生き死にに鈍感になっていくのに似ている。背後から接近してくる一機に気付いて、カズマは眼を凝らした。


 バクルのジーファイターだった。カズマの顔が綻んだ。先程までずっとカズマの後方をフォローしていてくれたのだ。撃墜を見届けたかのように、バクル機はカズマに並んだ。

 カズマは周囲を見回した。すでに敵機の姿は何処かへ消え、生き残りの味方機が力なく周囲を舞っていた。空を漂う黒煙と硝煙が、戦場を染める血痕を思わせた。カズマ個人から見れば勝利であったのかもしれないが、部隊全体の観点から見れば手痛い敗北と言ってもいいのかもしれない。その要因は決して機材とか操縦士の優劣で片付けられる問題ではなく、明らかに戦術上の不手際に起因するものであるようにカズマには思われた。

 不意に襲ってきた脱力感に、カズマは疲れきった身体をシートに委ねるようにした。バクルが、カズマの機に機体を寄せてくるのが気配でわかった。


 操縦席からカズマの様子を伺うバクルが、酸素マスクを外した。その下に現れた笑顔が、カズマには嬉しかった。

『大丈夫か?』とバクル。手信号でだ。

「大丈夫」とカズマも手信号で応じる。それにしても、バクル機の損傷具合は酷い。機体の各所には穴が穿たれ、外板は剥れ内部を醜く晒している。風防ガラスに到っては半分以上が割れている。

「バクル。酷く撃たれたなあ」

『――カズマのは、今さっきに飛んできたみたいに綺麗だぜ。ところでカズマ……』

「ん……?」

『――また特装機(エスクラス)を撃墜したな』

「エスクラス?……あいつが?」

 機上から、バクルはカズマに頷いて見せた。ばつ悪そうにカズマは周囲を見回す。空戦特有の禍々しい火と油の痕が蒼を穢していたが、生き残った友軍機の他には既に静寂しか、この場で飛ぶことを許されるものは無くなっていた。再び向き直った先で、バクルが微笑と共にカズマを待ち構えているのに気付く。

『――カズマ』

「…………?」

『――ありがとう』

 二人は、互いに微笑みかけた。それだけで十分だった。戦闘機の多くが機首を廻らせて母艦への帰路を取り始める一方で、酷く損傷し母艦への帰還がままならない機には、比較的近くのポート‐カステルへの針路を取る機もぼつぼつ出始めている。彼らにとって、機位の喪失は考慮しなくとも良い問題となっていた。何故なら編隊の中には、航法装置に優れた攻撃機も多く混じっているのだから。


 カズマの傍らを飛びながら、バクルは新鮮な感慨に身を委ねていた。


 ツルギ‐カズマはまた特装機(エスクラス)を撃墜した――先程カズマが撃墜した双発機は知っている。名はジャグル‐ミトラ。破格なまでに高性能。だが操縦性に難があって乗り手を極端なまでに選ぶ。それでも性能と機体の希少さ故に、これに乗ることを熱望する空戦士は多い。それ位レムリアの空戦士の間では人気がある。緒戦で個人戦果を重ねたタイン‐ドレッドソンが、撃墜された機体と同級の機体を与えられたという噂を聞いたこともある。


 それをわずか一瞬で倒すとは――撃墜の瞬間、バクルは思わず乾ききった喉に生唾を飲み込んだものだ。

 ひょっとすれば、カズマの技量はあのタイン-ドレッドソンと同等。いやそれ以上かもしれない――そう思ったとき、バクルは目を細め傍らのカズマ機を見つめるのだった。

『――バクル、飛べるか?』

「ああ! 大丈夫」

 力強く、バクルは応じた。エンジンと操縦系が生きていればいくら被弾したところでなんとも無いのである。

 今度は張りのある、元気な声が割り込んできた。

『――ボーズ。聞こえるか?』バートランド少佐の声だ。視線を廻らせると、右主翼外版の半分近くを吹き飛ばされ、各所に穴をあけられたバートランド機が迫っている。その傍らを飛ぶキニー大尉の機も、エンジンカウルの半分を吹き飛ばされ、シリンダーむき出しのエンジンからは黒煙の塊を吐いていた。

「はい、聞こえます!」

『――見ていたぞ。そうとう撃墜(おと)したろ?』

「それほどでは……」

『――バートランド少佐。自分は六機の撃墜を確認しておりますが』と言ったのはバクルだ。

『――それは凄い。早速ハンティにケーキの予約をしとかなきゃいかんな』

「あのう少佐。コルテ少尉は……?」

『――ロムはとうに戦場を離脱したよ。酷く撃たれていたからなぁ。ハンティに着いてればいいが』と、キニー大尉。更にもう一機がバートランド機の真横に割り込むように入り、そして並ぶ。


『――よう相棒。酷いやられ様だな』

 操縦席の風防を開けっ放しにしたBDウイングが、翼を(わら)わせてバートランドの気を惹く。機上のバットネンすら、意味有りげに髭面をにやけさせていた。

『――“バット”か? 今更ノコノコと何しにやってきた? お前さんも勲章が欲しいくちか?』

『――それもあるが、借りを返しに来たのさ。丁度いい機会だったからなあ』

『――そういや貸しもあったな。そっちの方はまた来るレムリアンの阿呆どもにツケといてくれよ』

『――貸しなら、そこの坊やの方に振り替えとくといい』

『――はあ?』

『――坊やが言い出しっぺなのさ。ハンティントン一家総出でレムリアンにカチ込もうってな』

『――…………』

『――ある意味賭けだったが、どうやら当りに出たようだ。レムリアンのやつら、翼を並べて来た俺らを戦闘機と勘違いして逃げ出しやがった』

『――たまげたな。今度はボーズに編隊長でもやってもらおうか』


『――ハンティントンより全機へ――』 今度は、管制室の声だ。

『――残余の機で燃料、弾薬に余裕のある機はポート‐カステルまで損傷機を援護されたし。繰り返す――』

 バクルに手を振ると、カズマは銀翼を翻した。バクルもそれを追おうとするのを、カズマは止めた。

『――カズマ……』

「バクル。明日ハンティで会おう」

『――しかし……あすこは地獄だぞ』

 カズマの口元が、微妙に歪んだ。

「地獄には……もう慣れたさ。それに……」

『――それに……?』

「向こうには、ルウが待ってる」

 それで十分だった。バクルは微笑むと、機首を廻らせ離れて行くカズマに何時までも敬礼を送るのだった。



 カズマが向き直った先に、リューディーランド沿岸の僅かな輪郭が広がっていた。空岸線は、レムリア軍の攻撃を受け炎に包まれるポート‐カステルのそれではなかった。要するに空戦をしているうちにカズマのジーファイターは守るべき場所からそれほど離れてしまっていたのだ。それは空域に取り残された他の機も同じではある。途上で損傷した二機を見出し、続航を促した。


 航空図を開くと、カズマは脳裏で計算式を駆使しつつ鉛筆で図上に加筆を始める。時折雲々の流れに視線を転じ、頭上の蒼にも目を凝らす。その一方でフットバーを踏む足が、交互に動いて針路を調整している。長い飛行経験――それも、荒漠たる太平洋の空と海原を踏破した経験――で培った、一種の職人芸のようなものだ。


 追従する機がさらに二機増えた。眼を転じた各所に傷ついたジーファイターの姿が映る。エンジンに被弾し、辛うじて浮いているだけの機体。操縦系に被弾し、操縦士の努力によりだましだまし陸地へ向っている機体……それはカズマに、合戦に敗れ鋒鋩の体で戦場を離脱する落ち武者の群れを思わせた。


『――こちら03。機位を見失った。誰か誘導してくれ』

「了解。自分について来て……」カズマは、少しスロットルを絞る。更にもう一機が、退避の列に加わる。いつの間にか、カズマは編隊の先頭にいた。カズマの周囲に集まるジーファイターの数は目に見えて増えていた。ジーファイターはすでに岩がちな沿岸線を飛び越え、リューディーランド特有のなだらかな丘陵地帯に差し掛かっていた。


「リューディーランド……」

 声にならない声で、カズマは呟いた。

北上――カズマの機の、快調に回るプロペラの指し示す方向に、目指すカステルはある。



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