第二章 「鋼の贈り物」
リューディーランドの空は、すでにレムリアのものだ。
レムリア軍の空襲が始まってすでに三日……対するラジアネスの空の抵抗は、何度かの大規模な空戦の環となって現れている。その空戦の環の起こる度、リューディーランド展開のラジアネス軍航空戦力はその貴重な戦力をすり減らし、一方では迫り来るレムリア軍を前に何等有効な打撃を与えることが出来ずにいた。それに伴う補充と再編成の連続は、結果として相互の連携を崩壊させることは勿論、さらには貴重な予備戦力をも失わせている。
レムリア軍による空襲が本格化し始める前、リューディーランドにはレムリア艦隊の襲来に備え、戦闘と攻撃に各一群、合わせて二個航空群に及ぶ航空戦力が展開を果たしていた。航空群はその隷下に三ないし四個の飛行隊を有し、数的にはリューディーランド近傍に浸透を果たしたレムリア軍機動部隊の作戦機と拮抗した。ただし、機材の性能と搭乗員の技量において、迎え撃つべき敵に及ばないこと甚だしい。リューディーランド防衛を管轄する南大空洋軍司令部のみならず、より上級のラジアネス国防省の中央からしても投げ掛けられた懸念は、最悪の形で的中することとなった。奇襲同然の第一撃により、リューディーランド各地の航空基地に分散展開していた戦闘、攻撃機の多くが地上に在ったまま破壊され、その後には圧倒的なまでの劣勢が航空戦の常態となった。レムリア軍が市街地や工業施設の破壊ではなく、リューディーランド各地の航空戦力の減殺に作戦目標を絞ったことが、彼らの被害を拡大したのであった。
――リューディーランド州都カステル郊外 局地防衛軍ヒュイック飛行場。
この日二回目の空襲警報に、ADF所属 第582追撃飛行隊指揮官エリソン‐G‐“ダック”‐ディクスン中佐は、胸を押しつぶされるような緊張を覚えた。甲高い、絶叫のような空襲警報は、普段、訓練や機械の調整などで鳴らす分には、あまりに聞くに堪えないほど喧しいものであったが、ここ数日それが鳴りっぱなしの状況は、これまでの空戦を生き残ってきたADFのパイロット達の聴覚にある程度の耐性をもたらしている。
「急げぇーっ!」
拳を振り上げ、整備員にエンジン始動を促しつつ迎撃機の列線に駆け寄る操縦士の数は、目に見えて減っていた。初日の頃は命令一下まるで巣穴から這い出る蟻の群れの如く機材に駆け出し、意気揚々として迎撃機の操縦席に身を滑らせていた操縦士達が、本格的な空襲が始まって三日目の今となっては、どうにか十名を越えるかどうかという程までに戦力を減じている。
リューディーランド全体を見ても、もはや現時点で生き残っているADF、飛行学校など、浮遊大陸に展開しうる航空戦力全てを合わせても辛うじて一個航空群を編成できるかどうかという程度だ。それほど、敵は強力でその攻撃は執拗だった。乗機に駆け寄る中佐の傍を走る副官のデルフォン大尉も、頭に巻いた血の滲んだ包帯が痛々しい。先日の空戦で強かに被弾した乗機を必死に操って基地に滑り込んだとき、着陸に失敗し、乗機を転倒させた結果に作った傷だった。彼だけではなく、乗機に取り付いた操縦士の中には手に包帯を巻いた者、足を引き摺る者もいる。本来なら後方に下げるべきこれら負傷者を借り出さねばならないほど、操縦士は払底してしまっている。
製図用ペンの先っぽのように尖った機首で天を仰ぎ、布切れを切り裂くようなエンジン音を轟かせ目覚める乗機――F‐21E「スターガード」は、F‐24B「スカイダガー」と並ぶADFの主力戦闘機だ。空冷エンジンのF‐24Bが運動性と軽量さを生かし低高度に置ける邀撃戦闘、地上軍支援を前提に設計されているのに対し、高出力の液怜エンジンを搭載し、加速と上昇力に優れたF‐21Eは、大型攻撃機を対象とした中高度以上の邀撃戦闘を想定して設計されている。ただし機体開発時の前提は、今となっては完全に崩壊していた。F‐21と言えど、今となってはより敏捷なレムリア軍戦闘機と渡り合わねばならなくなっている。
機首よりずっと後方に配置された操縦席、短い全幅に比べて団扇のように縦に広い主翼……寸詰まりという印象を免れない胴体全体の半分近くを占めるエンジンルームが、見る者にF‐24Bとは趣の異なる、「重々しい」までに直線的な逞しさを感じさせた。確かに、F‐21は現在ラジアネス軍が保有するいかなる戦闘機よりも速く、上昇力も優れていたが、翼面荷重が高い上に尾翼寄りに配置された操縦席が災いし運動性は極端に悪かった。しかも、さらに致命的なのは上記に起因する操縦性の悪さに、劣悪な失速特性と離着陸性能が重なってしまったことだ。当のディクスン中佐も、この失速性能の悪さで着陸時に何度きわどい思いをしたかわからない。
売りであるはずの高速と上昇力も、レムリア軍の戦闘機を前にしてはそれほど比較優位を保つほどには至らなかった。実戦では、専ら高々度からの一撃離脱戦法でしか、レムリア機に対抗する術を持たなかった。対抗と言っては聞こえはいいが、その戦法に徹したところで、墜とされないように回避に接するだけで精一杯だ。
F‐21の操縦席に身を滑り込ませながら、中佐は周囲の情景に目を凝らした。飛行場の各所で設営された土嚢の中では、四連装の対空機関砲がその砲身を空に向けくるくると回っていた。すでにヒュイック近辺の飛行場、航空施設ともにレムリア軍機動部隊の攻撃を受け壊滅的な打撃を受けている。これまでこちらは手付かずで済んでいたものの、今度こそが、こちらの番だろう。
狭い操縦席に腰を沈め、さり気無く視線を移した先――飛行場を見渡すことの出来る丘では、一週間前に建設された新型の電波探知機が稼動を始めている。リューディーランド全体でもまだ一基しか置かれていない、設備全体ではひとつの家のように巨大なレーダー設備は戦闘機隊の場合、初戦に限りこれまでの邀撃戦闘における健闘に貢献していたが、その優位が巧く続かない。目標の方位こそはっきりと判るが、高度となると概算でしか判らないところにその真因があるのかもしれない。
大地に対し鳥かごを縦に差し込んだようなレーダーアンテナ、迷彩の積りか濃緑色の網を被ったそれが回転する様に滑稽さを感じ、中佐はほくそ笑んだ。整備兵にベルト装着を手伝わせながら、彼は無線機のケーブルを繋ぎ、スイッチを入れた。果たして、防空指揮所の慌ただしい報告がイヤホンに飛び込んでくる。
『――敵攻撃隊はヒュイック西方八十空哩を西進中――稼動可能な全戦闘機は発信せよ……繰り返す――』
整備兵が離れるのを見届けると、中佐はスロットルレバーを滑走の位置にまで押し上げ、ブレーキペダルを離した。充て舵も忘れなかった。F‐21のエンジン出力は強大だ。ちょっと気を抜けばトルクで機体を思いっきり左に持っていかれてしまう。絶妙なブレーキ操作で誘導路を走り、アスファルトの滑走路に出ると中佐は一気にスロットルを開放した――離陸位置にまでレバーを押し上げた。
速度計の針が150に達したところで尾部が浮き上がり、180で機体そのものが宙に浮く。全般的に軽量で、速度150で完全に空に舞い上がるF‐24と違い、150とはF‐21では失速速度ギリギリの数値だ。さらに機体重量のせいか、低空での加速はとてつもなく悪い。あまりの緊張に先ほど食堂でかっこんだレーションのシチューを戻しそうになる。地表スレスレの高度で直進の姿勢を保ちながらも、眼は速度計と水平儀に釘付けだ。
「…………」
速度計の数値は未だ190――スロットルを弄っていた左手は、今となっては昇降舵トリムハンドルに触れている。トリムを軽めに調整しつつも未だ操縦桿は引けない。この速度で機首を上げようとすれば、機はたちどころに失速し地上に叩き付けられる。あと30は速度が欲しい……焦れるその間も、通信機は防空指揮所からの報告を送ってくる。
『――敵攻撃隊50空哩に接近! 一部がF‐24隊と交戦中――ヒュイック隊は援護に向え!』
『――こちら……隊……敵機が散開してこちらへ向ってくる!』
『――こちらバーンズ……敵に後ろを取られた……』
速度220!――ハンドルを回して昇降舵トリムを調節し、ゆっくりと操縦桿を引く。フラップを完全に閉じ、脚を引き込む。F‐21のような高出力機の場合、所定の高度に達し、かつスピードが乗ればその分エンジン出力の余勢を駆り自然と上昇していく。高度も三千スカイフィートを越えると、機体は大体安定し周囲の様子に気を配れるまでになる。敵と距離を取るべく北方に針路を転じながら、中佐は追従してくる列機の姿をバックミラーで確認した。列機は自分を含め11機。これで何処までやれるか……中佐は唇を噛む。
旋回を繰り返しながらスカイガード編隊は上昇し、やがては雁行状の陣形を組み、彼らは遥か下方にヒュイック飛行場を見下ろす位置に占位する。
『――敵編隊接近! 十一時下方っ!』
指揮所の情報はもはや絶叫に近かった。心を落ち着かせながら中佐は下方を覗き込んだ。千切れ雲の隙間から、地上の丘陵地帯を舐めるように低空で進行するレムリア軍編隊の姿が見えた。いずれも双発の攻撃機。それらが一直線にヒュイックへと向っていた。
『隊長、攻撃指示をっ!』
「待て!」
中佐はさらに目を凝らした。攻撃機がいるからには、きっと直援の戦闘機もいるだろう。そいつらは大抵攻撃機隊のはるか上方に位置して、ちょっかいを出してくる敵機を見張っている。それは度重なる邀撃戦のうち、同僚の血を以って贖った経験だった。
目を凝らし、戦闘機がいないのを確かめると、中佐はバンクを降った。攻撃の合図だった。高度差と速度を生かして優位のうちに敵機を屠るのだ。機銃の安全装置を解除し、中佐は逆落としに突っ込んだ。
幾重もの雲を突き抜けるうち、速度計の針は一気に400を越えた。位置を修正する操縦桿に、力が篭る。襲い来る重力加速度で、操縦桿が堅くなっているのだ。速度を生かして上昇、攻撃を繰り返せば教科書の中では圧倒的な優位を得られるはずだが、実際はそう簡単にいかないことを中佐は知っていた。何より、速度が乗るとその分旋回半径が開く。
攻撃機編隊の最後尾を下方に見出し、ディクスン中佐は撃った。初めから命中など考えてはいなかった。敵機に攻撃されたと感じれば、敵は爆弾を落として逃げていく。あるいは敵編隊が乱れたところを編隊がかりで叩く。友軍の戦力が払底し、攻撃機に護衛機がいる状況では、獲物の品定めをしていられる状態にないという事情もある。
『――命中! 命中!』
『――敵編隊が散開した! 二機二時方向に行ったぞ!』
続航する部下たちの声を聞きつつ再び高度を上げ、下方に一機の敵攻撃機を照準器に捉えた瞬間、中佐の前方を黒い影が横切った。
「――――!?」
戦闘機?――そう思ったときには反射的に左にフットバーを踏んでいた。左旋回の姿勢のまま、襲い来るGに顔を歪ませながら中佐は背後を覗き込んだ。はるか遠く、駆け上る一機のレムリア軍のゼーベ‐ラナ。一瞬の後には反転してこちらへと向って来る。まるで鳥か何かの様な急旋回――F‐21でこんな芸当は出来ない。
直進の姿勢のまま、中佐はさらに操縦桿を左に傾けた。満身の力、それも両手で押し込んでも操縦桿が巌のように固い。F‐21は、横転性能は良好な筈だが操作そのものがとてつもなくまだるっこしく、到底戦闘機とは思えない。しかもこの高度では操縦桿を引き過ぎれば一気に減速してしまう。更には高度も落ちる。もう少し接敵まで時間的な余裕があったなら――
『――後ろに付かれた!……誰か助けてくれ!』
『――ツー! 離脱しろ!』
『――こちらスリー、エンジンに被弾。脱出する!』
無線機のレシーバーに飛び込んでくる絶叫。敵機の急襲を前に回避が遅れた部下たちの悲鳴であった。自機のエンジン音を貫いてコックピットに飛び込んでくる外の射撃音とエンジンの加減速の音。中佐の乗機の外にはすでに煉獄が広がっていた。
垂直旋回の姿勢のまま、中佐は首を擡げた。その視線の先に素早く旋回を終え、黄色い正面を向けて突っ込んでくる敵機。まさに旋回性能の圧倒的な差が生み出した光景だった。
敵機の機首が、主翼が煌くのを中佐は見た。反射的に、中佐は頭を伏せた。
ガンッガンッ……ガン!
大きな金槌で全身を何度も叩かれたかのように機体が震える。風防ガラスが割れる音。エンジンからオイルが噴出す音がその後に続く。コックピットの足元から鮮血の如く噴出すオイルに、顔がどす黒く染まる。
「――――!?」
乱回転するプロペラ、一気に下がる機首。安定性が悪いだけあって墜落するときには一気に行く。案の定、オイルに汚れたゴーグルを跳ね除けた眼前には、地上の草原が迫ってきていた。脱出が間に合わないことを、瞬時のうちに中佐は悟った。意識して、というより生物的な本能の赴くがままに伸びた手が、不時着に必要な手順を楽器の演奏の様に成し遂げていく。
動け!――フラップを全開まで操作した。
エンジンを切った。
コックを捻り、燃料の供給を止めた。
計器盤に目を凝らすと、主脚操作ランプの片方が緑に輝いていた。恐らく被弾の衝撃で片脚が飛び出してしまったのだろう。滑空する機体がやたらと傾くのは操縦系を破壊されたのと同時に、これも原因にあったようだった。かと言って、もはや修正は効かなかった。前方に広がる斜面の頂をスレスレで飛び越えた瞬間、ガクンという音と衝撃とともに、弾かれたように機首が下がった。それが中佐の最後の記憶だった。
「…………?」
――眼を開けたときには、中佐はヒュイック市内の中央病院のベッドの上にいた。
三日前から病院を覆う喧騒は、部下の見舞いに訪れた初日に比して一層その度を増しているように思われた。朦朧とした意識を引き摺ったまま、中佐は横目で隣のベッドを覗き込んだ。その瞬間、包帯を巻かれた頭に走る疼痛に、思わず目を顰めた。
「お目覚めですか?」
女性の声がした。頭を気遣うように見上げた先に、看護兵の服装をした少女がいた。豊かな黒髪と見る者を魅了のうちに吸い込むような大きな黒い瞳が、微笑とともに中佐を見下ろしていた。
「どれくらい、寝ていた?」
「ええっと……八時間くらいかしら」
「そうか……」
灯火管制下に置かれた照明は薄暗く保たれ、窓から一望できる市外の全容を飛び越えた先に延びる地平線は、すでにどす黒い朱に染まっていた。南半球に位置するリューディーランドでは、地軸の傾きと自転の関係からこの時期日の沈みが極端に遅かったのだ。
中佐は言った。
「君は、見ない顔だな?」
妻がこの病院に看護士として勤めていた。だからこの病院のことは大体知っている。
少女は、一礼した。
「一週間前にコムドリアからここの軍基地に着任しました。でも、人手が足りないからここで働けって……」
「名前は?」
「ルウ、ルウ‐カウベラ‐アルノーと申します」
中佐は微笑んだ。初々しさと明快さが入り混じった口調が、壮年期に差し掛かった中佐にはいじらしかった。
「ミリアム‐ディクソンを知っているかね?」
「ここの婦長さんですね。どういう関係かしら?」
「僕の妻だ」
ルウは、感銘したような表情をした。
「今、どうしている?」
「二日前からずっと働き通しだったみたいで……今仮眠をとっておられますが。お呼びしましょうか?」
「いや……いいんだ……眠らせてやってくれ。無事ならばいい」
ここまで言って、ルウの白衣が朱に染まっていることに中佐は気付いた。
「大変な患者が、いたんだな」
ルウの幼顔が、陰鬱さに染まった。
「ヒュイック基地に詰めていた人たちがいっぱい運ばれてきたのですよ。この世のものとは思えなかった……」
中佐は目を見開いた。
「俺の隊は……? 皆はどうしてる!?」
「起きてはダメです」
半身を起こしかけた中佐の頭を、再び疼痛が襲った。思わずその場に蹲る中佐を、ルウは支えるようにした。
「そうか……もう終わったのか……」
ディクソン中佐はゆっくりと頭を上げた。何時の間にか彼は、窓から臨む街並みを放心したように眺めていた。
『発 ラジアネス航空艦隊司令部
宛 第12艦隊司令官 フョードル‐ダオ‐ヴァルシクール中将
レムリア軍機動部隊はリューディーランド攻略の前段階として航空優勢を確保せんものと判明。
リューディーランドは地勢的に重要な拠点として防衛の要ありと認む。これが達成されざれば戦局は重大な苦境に陥る可能性大なり。
第001任務部隊各艦は予定空域に合流後直ちにリューディーランドへ前進。住民避難作戦の支援後、十分なる戦機あらばレムリア軍機動部隊を捕捉し、これを撃滅せよ』
「簡単に言ってくれる」
何度か読み返した電文を、艦隊中将フョードル‐ダオ‐“D”‐ヴァルシクールは強く握り潰した。彼の陣取る指揮シートを中央に、航空母艦「ハンティントン」の艦橋はすでに戦場を目前にした独特の緊張感に包まれている。元来のオイルと鋼板の臭いに加わったアドレナリンの匂いが艦橋に充満し、兵士から幹部に至るまで、その場の面々を否応無くフネそのものより一足先に戦場へと置いていた。肩を触れ合い、押合いながら行きかう乗員の立てる足音。艦内通話の声。空図を前に議論する航法科員の話し声……洗練されているとは言い難いものの、ヴァルシクールはこの雰囲気が好きだった。視線を艦橋の窓よりさらに向こうに巡らせば、真白い航跡を曳きながら進む直援の駆逐艦。艦隊は数条の航跡を曳き、絡ませつつ一路リューディーランドへと向っている。
髭の剃り跡も生生しい、尖り気味の顎を撫でながら、ヴァルシクールは艦内放送用のマイクを握り直した。
「ラム艦長。通信は、繋がっているかね?」
司令専用席より一段下の艦長席。艦隊中佐アベル‐F‐ラムはその傍らで部下に指示を出すシオボルト‐T‐ビーチャ副長に確認の目配せをした。「準備完了です」と、ビーチャの目は言っていた。ヴァルシクールの方へ向き直ると。ラムは無言のまま彼に頷いた。前方へ向き直ったまま鷹揚に頷くと、ヴァルシクールはマイクのスウィッチを入れた。
「諸君――」語りかけたところで一息置き、続ける。
「私は第001任務部隊司令のヴァルシクールである。現在我が艦隊は全速力でリューディーランドへと向っている。我々の有能にして獰猛なる敵レムリア軍が、遂にリューディーランドへの攻撃を開始したのだ。同時に我が艦隊にも、新たに任務が課せられたことも伝えておきたい。それはすなわち、押し寄せて来るであろうレムリア軍機動部隊を迎え撃ち、南大空洋のはるか西の彼方へと追い落とすことである」
反応を想像するかのように一息つき、再び口を開く。
「レムリア軍は確かに手ごわく、その将兵は歴戦の勇士揃いである。だが、今回リューディーランドに手を出してきたことに関し、ただひとつだけ連中には誤算があった。それは、彼らの忌み嫌い侮っている地上人の軍隊、すなわちラジアネス軍に本官ヴァルシクールと、諸君らがいたことである! これまでの我々の訓練は、まさにこの時のためにあったのだ。あの空賊どもに、ガツンと一発食らわせてやろうではないか。 私はそれ以外の何も命令するまい。では諸君、総員配置に付けっ!」
『――二時下方より艦影! 急速に上昇してきます!』
一斉にその場の全ての視線が集中した。雲は盛り上がり、それを突き破って現れた威容に、誰かが歓声を上げる。
「艦影及び艦番号視認! クロイツェル‐ガダラですっ!」
ハンティントンと並び新設のラジアネス機動部隊の一翼を担う一隻の出現。戦艦を改造しただけあって、その風貌は堂々たるものだ。戦艦譲りの滑らかな加速を誇示するかのように、「クロイツェル‐ガダラ」は「ハンティントン」に並び、やはり滑らかな減速を誇示するかのように並航状態を維持する。遅れて上昇を果たした護衛駆逐艦三隻がガダラの一千スカイフィート上空に占位し、即座に重厚な対空戦闘陣形の一角を成した。
『――第三群、合流完了』
『――前方警戒班 マッキンタイア編隊より報告。第一群、艦隊外縁二時方向より四十空浬に視認。本隊との会合完了まであと一時間』
「間に合ったか……」感慨の篭った一言を、ラム艦長は放った。「ハンティントン」を基幹とする本隊六隻は第二群で、ガダラを基幹とする隊八隻が第三群。第一群は空母部隊たる第二、三群を護衛する戦闘艦群で、戦艦「アミダール」と重巡航艦「タニアポリス」の二隻から成る。二艦ともかつてはかの「アレディカ戦役」に参加し、満身創痍の身を安全空域まで滑り込ませるという死地を彷徨った経歴の持ち主で、その結果として充実した対空戦闘能力を手に入れるに至っている。ただし完全に修復の終わらないまま戦闘空域に出てきたという点は、看過し得ざる不安要素でもあった……言い換えればそれだけ、今のラジアネスに「戦える」軍艦は足りていない。
これら十六隻と支援艦艇六隻の他、別動戦力として特設航空母艦を中核とした四十隻あまりの群がリューディーランド近傍に展開している。彼らの主任務は輸送船団の護衛であり、合流しての戦力強化は望むべくもない。むしろ第001任務部隊はリューディーランドよりやや離れた空域に在って、機動的に敵艦隊に対処することを期待されているとも言える。
ヴァルシクールは言った。
「ガダラに打電してくれ。文面はこうだ……貴艦の参入を歓迎す。いざ共に前線へと向かい侵略者を討たん。とな」
僚艦となった「クロイツェル‐ガダラ」の奏でる推進器の重厚な響きが、舷窓の共鳴となってひしひしと此方へと伝わってきた。
「艦長、総員配置完了しましたっ!」
「完了まで何分か?」
「三分ジャストであります!」
ヴァルシクールの口元に、笑みがこぼれた。
「いい傾向だ中佐。その調子で行こう」
古ぼけた軍帽を被りなおすと、ヴァルシクールは遠い目で前へと向き直った。艦隊の向かうそのずっと先には、思わず仰け反らんばかりに巨大な層雲が拡がっていた。そのさらに、はるかな先に、目指すリューディーランドはある。
真白い航跡は、幾重にも重なって前線へと向っていた。
空母「ダルファロス」の搭乗員食堂は、異様なまでの熱気に包まれている。
航空母艦にして、艦隊戦の中枢たる「ダルファロス」には、六種類の食堂が存在する。兵員食堂、下士官食堂、准士官食堂、士官食堂、高級士官食堂、搭乗員食堂――それらは階級社会たる軍隊においてはごく自然な区別の一環ではあったが、一方で階級社会たるレムリア同盟の縮図でもあるというのが、社会における地位の上下を資産の多寡によって決するラジアネスとの決定的な相違であった。ただし、現在の「ダルファロス」の場合、搭乗員食堂のみがこうした階級制度の枠外に置かれているような観があった。何故かと言うに、空戦士は生まれ出でた階級ではなく、操縦士としての経験と技量が地位の上下を決する、レムリアでは唯一の「世界」であったのだから――
戦闘と紙一重に生きる平時には無い賑わいであった。スープ鍋から沸き立つ湯気や、食後に燻らす煙草の煙、帰還を果たした搭乗員が引き摺ってきた戦場の余韻、今日の戦果や敵の抵抗について話し込む操縦士の放つ熱気が、渾然一体となって金属製の天井に滞留していた。熱気は戦に疲れたパイロットに明日の出撃への活力を与え、士気の向上へと繋がっていく。
「こいつ、初陣で一機を食いやがった。しかも隊長機だぜ」
レラン‐グーナ中尉が、笑って隣に座らせた一人の航空兵の頬を抓った。今日の出撃で初陣を飾った、まだ少年の面影を残した航空兵だった。
「ほお、そいつぁ期待株だな」
頬を紅潮させて俯く少年航空兵の肩を、リッカラ‐ヴィガズ中尉が叩いた。その手には占領下にある殖民都市から分捕ったビールの瓶が握られている。同じく過去に撃破、あるいは拿捕したラジアネス船籍の貨物船から押収した物資が、軍の補給ルートに乗って艦隊の酒保にまで充足し始めている。その物資の潤沢なることを目の当たりにし、「おれ達まるで空賊だな」とぼやく者も艦隊にはいる……と同時に、これほどの物量を誇る敵を相手にすることに、一抹の不安を抱き始めている者もいるにはいた。ただし戦勝の勢いの只中に在っては、それは未だ極少数派に留まっていた。
ここ数日の間、艦内での飲酒は「職務に差し支えない」限りでは許されている。三日間にわたる作戦行動中に上げた戦果は予想以上のもので、三日間の絶え間ない空襲でリューディーランドに点在する全てのラジアネス軍の航空基地を破壊。各種軍事施設や民間の鉄道、港湾施設にも計り知れない損害を与えていた。
撃沈、破壊した飛行船舶に至っては百隻に上り、空中戦でも合計百八十機の敵機を撃墜し、百機余を地上で破壊したことを報告されている。空中で撃墜破した敵機に比して、地上で破壊された敵機の数が少なかったのは、おそらく敵が新型の電波探知機を運用して事前にこちらの接近を察知し、効果的な迎撃態勢を取ることに成功したからだろう。それでも、敵機の大半が失われたと判断された現時点ではリューディーランドの緑の大地が、レムリアの赤に染まるのももはや時間の問題であるかのように思われた。
その賞与がわりといっていいのか特にパイロットには酒類や煙草などの嗜好品の配給が優先的に増やされていた。度重なる戦勝の報を前に、艦隊の主計担当者の機嫌はすこぶる良好のようである。
ヴィガズが少年兵に囁いた。
「これで童貞脱出ってわけだ……でも、本物の女の方はまだなんだろ?」
突然の言葉に、口に含んでいたビールを少年兵は吐き出した。それが周囲の笑いを誘った。
「よしよし……こんどタナトに還ったら……手取り足取り指南してやろう」
「おいおいヴィガズ。子供をからかうもんじゃないぜ」
「こいつぁ子供じゃない。もうリッパなオトナだぜぇ?」
「よぉ貴様ら、景気が良さそうだな?」
食事のトレイを手に、背後から歩み寄ったタイン‐ドレッドソンの姿に、少年兵が背を正した。彼のような駆け出しにとって、タインのような「超」撃墜王など、神にも等しい存在に見えるのかもしれない。タインの手が、少年兵の両肩を包んだ。
「硬くなることはない。そこにいろ」
タインの微笑みに、少年兵は畏敬に満ちた顔を以って応えた。タクロ‐ロイン中尉が、隣の席を空けてタインに勧めた。腰を下ろすと、先ほどとは打って変わってタインは険しい眼で三人を睨み付けた。突然の緊張に戸惑う少年兵のことなど三人にはもはやどうでもよくなっていた。駆け出しが入り込めない領域というのは、戦闘だけではなくこういう砕けた場にも存在する……というわけだ。
「じゃあ、始めようか」
タインの口元に、冷たい笑みが宿る。
「まずはグーナから」
グーナが、意を決したように口を開いた。
「二機撃墜。二機不確実」
「一機撃墜。三機不確実」これはヴィガズだ。
その瞬間ロインの顔に、勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。
「三機撃墜。二機不確実! ゲームは俺の勝ちだな」
ロインが、タインを睨み付けた。眼が、『隊長殿は?』と聞いていた。
タインの口元が、笑みに歪んだ――一瞬の沈黙。
「五機撃墜」
直後、三人を拭いがたい落胆が襲った。
「チッキショウ!……また隊長の勝ちかよ」
「お前らがきちんと戦果を確認してくれているおかげさ。礼を言うぜ」
ぶつくさ言いながら掛金の紙幣をテーブルに置く三人。それを鷲掴みにするタイン。四人はその日の個人戦果を競っていたのだ。戦場のちょっとした娯楽と言えば、語弊があるかもしれない。ただし自身の生命と他者の生命を秤に掛けた、危険な娯楽であった。
戦果に喜色を絶やさぬ男たちの様子を、遠く離れたテーブルからエドゥアン‐ソイリングは数名の部下とともに眺めている。
「あいつら、景気がいいなぁ」
「いい飛行機に乗ってるんだ。それで結果を出せなけりゃ非国民ってもんさ」
無言のまま、吹かしていた煙草を、エドゥアン‐ソイリングはスープの残り汁に押し付けた。ジュッという火の消える音を聞きながら、エドゥアンは何杯目かのビールを飲み干した。防腐剤入りの本国産ビール。植民都市やラジアネス製のそれと比べ味も品質も著しく劣る。それでも愛国心と地上人に対する蔑視が、エドゥアンたちをして本国産を択ばせていた。
「隊長殿、俺らは何時こんな詰まらん任務から解放されるのでありますか?」
部下の不満も当然だ。ここ三日間、エドゥアンの中隊はずっと艦隊の直援任務に回されている。これではラジアネス軍の方からこちらに攻めてこない限り、武勲を立てる――敵機を撃墜できる――機会など皆無に等しかった。二日目に攻撃参加を直訴すべく、空母「ダルファロス」艦橋最上階の防空指揮所を訪れたエドゥアンに対し、セルベラ‐ティルト‐ブルガスカ大佐は冷淡だった。少なくとも、エドゥアンにはそう見えた。
「……中尉、貴公の出身階層は?」
「独立階層であります!」
「では、貴公に相応しい任務を果たすことだ。現在の任務こそ、貴公の階層に相応しい任務だ」
そこまで言って、セルベラはエドゥアンを上席から見下ろすようにした。突き放すような視線が、本当にエドゥアンを後ずさりさせた。取り付く島も無い。とはこういうときのことを言うのであろう。
この日初めて、エドゥアンはセルベラを「雌虎」と罵った。もちろん、彼女のいない士官食堂で。あの女――「雌虎」も独立階層の出身だというが、エドゥアンにはそれが信じられない。その冷厳なる事、自分よりずっと上の階層――「頂上階級」のような――であるような気がする。
「頂上階級」――それは階級社会レムリアにおける最上級階層であり、社会における最大のタブーでもあった。彼らは相互に強固な閨閥を形成し、軍、政府などの上級官職を独占し、実質的にレムリア社会を支配している。レムリアでは全てが彼らの意思の下で動き、下層階級の人間がそれに逆らうことなど許されない。レムリアでは神にも等しい存在と言ってもいい。
部下の中には、エドゥアンの出身階層にまで言及して、それを現在の「不遇な」状況の理由にする者もいることをエドゥアンは知っている。大切にしているあまり、司令部はエドゥアンを前線に出すことを渋っている。というわけだ。それもまた、エドゥアンにとっては面白い話ではなかった。
「――早く前線に出てぇなあ」
「――隊長殿がアレじゃあな」
「――アレって、何だ?」
「――ウチの隊長は、ここじゃあお坊ちゃま扱いなのさ。さすがの『雌虎』も隊長のママに泣付かれてどうしようもなかったと見える」
幾ら思い返したところで、エドゥアンにしてみれば腹の立つ話ではあるが、それを表に出せないところがエドゥアンの辛い所であった。何より作戦開始の直前、機動部隊を追求してきた仮装偵察艦により持ち込まれた「贈り物」の存在が、エドゥアンと彼より下層階級に属する部下との溝を却って深めてしまった様にも、エドゥアン自身には思われた。
エドゥアンはビールを注いだ。これまでの面白くない経緯を押し流すかのように、コップ一杯のビールを一気に喉に流し込んだ。
「地上人の連中がやってくるまでの辛抱だ。地上人の空母にでも捕捉されりゃあ、敵機を食うチャンスも廻って来るってものさ」
「俺、待つのは性に合わねぇんだよなあ」
「待ち続ければ……」
エドゥアンは続けた。言葉に隠しようの無い苛立ちが顕れていた。
「獲物は向こうからやってくる」
頬の紅潮と眼の充血は、酔いのせいだけではなかった。
エドゥアンの足は食堂から格納庫に向かう。ダルファロスの様な巨艦の場合、内部空間的に膨大な比重を占めるのは搭載機を収める格納庫ではあったが、それも第一、第二といった、幾層にも重なる雑多な空間の集合であって、個々の格納庫も無数の隔壁や通路に直接的な交通を阻まれてはいた。
先日、艦載連絡艇によりダルファロスの胎内に運び込まれた「贈り物」の所在を目指し、レムリアの青年幹部は格納庫を渡り歩く。それだけでも、さながら空中に浮かぶ、装甲化された都市的な趣のあるダルファロスでは、いい暇潰し――言い換えれば気分転換――にはなるのだった。
無言、その間居合わせた誰にも声を掛けられることなくゼーベ‐ラナ、ギガといった主力機の並ぶ一角を歩き切った先、発動機の換装と試運転、機体の分解をも伴う搭載機の重整備を行う区画でエドゥアンの足は止まった。ゼーベ‐ギガが一機、特徴的な空冷発動機を外された「首無し」の状態で佇んでいる。ギガに取り付く整備員から視線を転じ、見上げれば天井クレーンで吊るされた発動機が一基、今まさにギガに繋がれようとしていた。本国からエドゥアン個人への「贈り物」が――それまでギガの傍らにあって、作業を見守っていた女性士官が、エドゥアンの姿を認めて会釈する。
「エドゥアン‐ソイリング中尉でいらっしゃいますか?」
「そうだが何か?」
素っ気無く言い、エドゥアンは女性士官を凝視した。背丈は自分と同じ、取り立てて美人というわけではない。ただし、その顔立ちから身体付き、そして明るい口調まで、何処か創り物のような印象は拭えなかった。
「空戦士軍団技術部のマウアー技術少尉と申します。中尉にはご多忙の中お手間をお取らせして申し訳ありませんが、必要書類にご記名をお願い致したく、お待ち致しておりました」
「記名……?」
「中尉にお引き渡しする装備一式は、同盟鉄鋼産業共同体参加事業者の協同国防献金により調達されたものです。被供与者たる中尉ご自身の引き渡し書類への記入により、引き渡しは完了する運びとなっております」
「…………」
そこまで少尉と遣り取りを続けなくともエドゥアンには判っていた。レムリア同盟の国防部が市井に広く献金を募り、それを以て国防予算の枠外で装備の調達を図る制度が始まったのは、地上人との戦争が始まってすぐのことであったように彼の脳裏には記憶されていた。献金による調達の対象は将兵の衣服から銃器、小艦艇に至るまで幅が広く、エドゥアンの乗る戦闘機もまた例外ではなかった。むしろ優勢に運ぶ戦況の中で特に華々しく喧伝される空戦士軍団の活躍振りが、レムリア市民の戦闘機献納に増加傾向をもたらしているかもしれない。それが撃墜王、あるいは若き将来の撃墜王を指名した専用機の「贈与」へと変質するのもまた、時間の問題であったというわけだ。特に実家が富裕な鋼材製作工場で、同業者と官界にも太いパイプを有する父を持つエドゥアンからすれば、父がぽっと出の新米空戦士でしかない息子に、制度を利用して専用機の贈与を図ったと勘繰らせても無理からぬことであった。
言われるがまま、必要事項への記入とサインにペンを走らせたエドゥアンは書類を突き返す。少尉はやや時間を掛けて書類に目を通し、満足げに嘆息して言った。
「これで引き渡しは完了致しましたエドゥアン‐ソイリング中尉。中尉の御武運を小官が献金者を代表し、この場を借り御祈念申し上げます」
「委任状も貰っているのか? おれに祈るにしても」
「……いいえ、これは慣習ですので」
「社交辞令、とも言うな」
我ながら下手な冗談だと思うエドゥアンに、少尉は猫のそれの様な口元を綻ばせて微笑んだ。架台への固定が終わり、発動機を備えたゼーベ‐ギガの、見た目だけはより長くなった機首が骨材剥き出しの天井を睨んでいた。その機首すらカバーは未だ付けられず、液冷エンジン特有の複雑な配管と排気口の配置が、前衛芸術のオブジェのように剥き出しになっている。プロペラも未だ付けられていなかった。エドゥアンの記憶が正しければ、「改良型」のプロペラはギガ純正のそれよりも幅が広い、櫂のような形になる筈だ。「贈り物」の装着により、エドゥアンの愛機はゼーベ‐ギガ本来の機体設計を損ねることなく、その性能も、そして名前すらも一変させることになる。
「名前……こいつの名前は何と言ったかな……」
「ゼーベ‐ギルスですわ中尉。ゼーベ‐ギルスとお呼びください」
「献金を取りまとめてくれた人には、ぼく自身でお礼の手紙を書くことにするよ」
「そうして頂ければ助かりますわ」
「次の出撃には、こいつで飛べそうだな」
ゼーベ‐ギルス、ゼーベ‐ギルス……ゼーベ‐ギルス――何と語感のいい名前。
形になっていく鋼鉄の猛禽に眼を細めつつ、エドゥアンは脳裏で愛機の新しい名を唱え続けていた。




