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特別編  「異空のサムライ」の艦船 レムリア編

挿絵(By みてみん)

T‐ボート

※上図は一般に「101号工廠型」と称される初期生産型。

上図下はその101号工廠型の哨戒艇型。本艇特有の簡易な構造が前線における軽度の工作による上下の使い分けを可能にした。


 正式名称 ワスターヴ (戦時簡易雷撃艇)。大量生産に向いた簡易な構造を有し、少数艇での一撃離脱的な雷撃戦に特化した高速戦闘艇として開発された。


 地上世界への侵攻に際し、襲来が予想されるラジアネス艦隊を迎撃する戦術として、少数編成の機動部隊による遊撃的な迎撃の他、広範な浮遊島嶼帯に攻撃基地を建設し航空兵力を展開する方策が考案された。しかし後者の実施にあたり航空基地建設には膨大な人的資源と資材を要することが判明し、当時のレムリア軍にはこれを実現し得る人的な余裕も無く、専門の技術を有する人材もまた限られたことから、ある程度の機動力を有し民間の輸送船を改造した専用母艦から支援を受けつつ遊撃的な作戦行動が可能な本艇の配備が優先される運びとなる。飛行船舶であることから、採用基準の厳しい航空機搭乗員に比べて乗員の養成が比較的容易なことも、レムリア軍をして本級の配備を促進する要因のひとつとなった。


 本艇の技術的な特徴として、徹底的に単純化、軽量化が為された艇体構造、そして前線での反復使用を想定した整備性の高さが挙げられる。本艇の基本構造として、操縦席兼乗員居住区画、反応炉、燃料タンクの収まった主艇体に、航空機用機関を流用した推進機関及び推進機、変速機の収まった機関部四基が動翼を兼ねた支柱で繋がるという艇体配置を有し、重整備または損傷時の補修に際し、機関部をまるごと交換するという方式を取ることで稼働率の向上を図った。当然、交換作業及び交換した機関部の修復は可能な限り母艦において行うことを想定している。この方式は、機関部をより高出力のものに換装する際にも威力を発揮することとなった。艇体自体、生産性の向上を狙って頻繁に変更と改良が行われており、当初は全金属製だった艇体も、資源の節用という観点から可能な限りベニヤなどの木製部品が多用されるようになっていく。


 本艇の主兵装というべき空雷発射管は機関部ユニット内に二基実装されており、搭載機関数からして本艇は通常時は最大八発の空雷を搭載して行動することとなる。艇体自体も対艦、対空両用の単装機関砲を複数搭載しており、中小型船の撃沈にはむしろ此方の方が好んで使われた。(空雷自体極めて高価な兵器であるため)


 四基の航空機用機関と軽量な艇体の組み合わせは、本艇に従来の小艦艇の枠を超えた破格の機動力を与えることとなった。本艇の速力は水平状態で五十スカイノット/時に達し、降下加速を多用すれば時として八十スカイノット/時を超えることもあった。(さすがに、そこまでの加速を長時間維持するのに適切な強度を本艇は有していなかった) 


 航空機には遥かに及ばぬまでも、大型の艦船からすればこれは驚異的な速力であり、敵艦に対しあらかじめ高度の優位を確保し、降下加速しつつ接近、加速の付いた状態から空雷を投射し、余力を駆って一気に安全圏まで離脱するというのが本艇の標準的な戦術として確立する。空雷は旧型の大型艦船用中型空雷と専用に開発された新型空雷を混載する場合が多く、両者とも駆逐艦程度の艦艇までならば一発の被雷で行動不能に陥らせる程の威力を誇った。

(開戦を見越した艦船用新型空雷の急速配備に伴い、大量に余剰となった旧型空雷の使い処として、本艇の開発が進められた側面もまた存在する。)


 対艦攻撃、交通破壊の他、本艇は当初の想定に反する形で様々な任務に使用された。前線より遠い後方空域においては、推進機の搭載数を二基に減らし、機関砲を増設して高速哨戒艇としても使われ、簡易護衛艦的な運用も行われている。(推進機の数を減じてもなお、三十スカイノット/時程度の速力を確保できた。むしろ推進機出力の向上により、従来の四基配置は整備性の関係から徐々に廃れていく) 専用母艦による支援を前提としても本艇自体は一週間程度の連続航行能力を有し、それ故に敵勢力圏下での浸透偵察任務にも多用されている。空雷を下ろして物資を積載し、敵中に孤立した島嶼基地に対する「ネズミ輸送」――補給任務――にも使われるなど、性能面で過分な任務を課せられた点も見逃せない。



挿絵(By みてみん)

航空母艦「ダルファロス」


 レムリア同盟の政府指導部及び軍首脳が、将来的なラジアネスとの軍事衝突あるを確信したのは、「エルグリム戦争」終結を受けてのことであった。ラジアネスの一線級戦艦に匹敵する正面火力と前線における移動航空基地機能を併せ持った「飛行要塞」として本艦は「エルグリム戦争」の翌年に計画され、さらに五年後に進空を果たしている。


 本艦の特徴として、艦載機を迅速に展開し攻撃、防空戦闘を即応的に行うべく発艦口が多く確保されている。両舷に各三基設けられた発艦口は主に大型攻撃機の発艦用に設けられ、一度に六機の発艦を可能にする。艦体下部は主に戦闘機を対象とした切り離し式の発艦区画となっており、ここに配置された艦載機は予め機首を下方に向いた状態で固定され、俗に「パン篭」と呼ばれる扉を開放することで一度に最大三十機の戦闘機を発艦させるという変則的な手法で対応している。傍目にも複雑とも思われるこの手法が取られた背景には、当時のレムリア軍の想定する艦隊戦が、後年の「大空洋戦争」で展開されたような長距離を隔てた彼我空母航空戦力の応酬ではなく、砲戦可能距離において瞬間的に大量の航空戦力を展開し、航空機の機動力を以てラジアネス艦隊の数的優勢に対抗せんとした意図が存在した。


 レムリア側呼称「大祖国空戦」こと「アレディカ戦役」は、まさにそうした戦略構想に従って展開し、レムリア軍に望外の大勝利をもたらしたが、その大半が砲戦可能距離で繰り広げられた近接戦闘であったために勝者たるレムリア艦隊の損害も大きく、この点後の空母航空戦術に少なからぬ軌道修正を強いることとなった……ではあっても航空母艦としてのダルファロスは性能優秀な艦であり、大祖国空戦時には有力な航空戦力の拠点として機能するのみならず、その砲頓兵装を以てラジアネス軍巡航艦一隻を撃沈するという戦果を挙げている。十二スカイインチ相当の口径を有する三連装砲上部五門、下部二門というダルファロス固有の砲頓兵装は、「エルグリム戦争」時のラジアネス軍戦艦一隻の火力に匹敵し、この点から見ても、本艦計画時のレムリア艦隊の戦術構想の内実を窺い知ることができる。


 「大祖国空戦」で受けた損害が軽微なこともあり、ダルファロスは艦隊無きラジアネスの領空域を速やかに制圧し占領地域を拡大する任務に、文字通りの主力艦として従事することとなった。巨大な肉食魚を思わせる、流麗さと獰猛さを兼ね備えた本艦の巨体はラジアネス側にとって当然畏怖の対象となり、以後も数々の戦歴と彼女を住処とする多くの撃墜王を輩出することとなる……



挿絵(By みてみん)

巡航艦「レーゲ・セルト」級

※下図青色は本級内部の艦載機収容/運用区画を示したもの。


 その本土が異常低気圧帯の織り成す密雲の壁により深く閉ざされながらも、レムリア同盟では外界からの不測の侵犯よりその領域を防衛する必要上、空域上での飛行艦船による迎撃の主力としても、移動式航空基地としても機能する艦が求められた。その構想に沿って計画され、建造されたのが本級である。


 本級の特徴として、その計画当初より艦載機の運用機能が付与されていたこと、ラジアネスの同級艦に比して強力な空雷兵装を有することが挙げられる。前者の特徴は本艦に有力な偵察能力、長距離打撃力を与え、これは特に敵空域航路に進出しての交通破壊任務に威力を発揮している。後者は可動式三連装空雷発射管四基、艦首固定式の空雷発射管八基という強力な空雷兵装となって表れ、本艦をして戦艦をも撃破し得る打撃力を与えるに至った。これは空域上での艦隊戦にあたり、先行する数隻の巡航艦戦隊を以て敵艦隊の針路上に空雷を一斉発射し、主力艦に損害を与えるという構想に基づいている。それら以上に、戦略単位としての航空機搭載巡航艦という形式を確立した点で本級は特筆されるべき存在であろう。ただし、ラジアネスのスタンドバロ級と同規模の艦体に、航空機運用機能と過大とも見える空雷兵装を搭載した点はやはり「詰め込み過ぎ」との観を免れ得ず、居住性と戦闘用艦艇としての実用性、そして被弾に対する抗歎性に課題を残した形となった。


 本級は「大空洋戦争」全期間を通じてレムリア艦隊の主力となって稼働し、小規模な改修を施された派生型も建造されている。




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