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特別編  「異空のサムライ」の艦船 ラジアネス編

挿絵(By みてみん)

 航空母艦「ハンティントン」

 有事戦力拡張計画「バレンタイン・プラン」の一環として大型貨物船を改造し、航天歴一八六六年に進空した航空母艦。通称「不死身のH(インヴルネラブルH)」。「大空洋戦争」劈頭に主力が壊滅し、劣勢に立たされたたラジアネス政府軍航空艦隊を、常に最前線に在ることで支えた殊勲艦と評される。


 「ハンティントン」の原型も連なる「テニスン1863型」と称されるSクラス量産型貨物船は、重量物を積載し、状況によっては暴風圏の迅速な通過あるいは回避を行う必要上、高出力の反応炉と機関を備えており、航空母艦への流用に格好の条件を満たしていた。「テニスン1863型」改装空母第一号となった「ハンティントン」は先行建造型、いわば試作艦であり、本艦建造の経験はその後に続く「テニスン1863型」系空母建造事業における工程の合理化に大きく寄与している。


 ただし大幅な改装作業自体前例の無い計画故に、重量増加に伴う艦本体の性能低下が懸念され、その対応策として反応炉の増設と機関のチューンナップが為されており、結果として「ハンティントン」は同級の艦船に比して高い上昇性能と高速巡航性能を得るに至っている。この対策は後に本艦の運用実績から「ハンティントン」以降の同型艦には実施不要と判断されることとなった。同じく改装の結果、左舷配置の艦橋を有することとなった「ハンティントン」は、艦載機の進入経路の関係から着艦の「やりにくい」艦となり、このときの教訓から彼女以降に進空した「テニスン1863」系改装空母の艦橋は全て右舷配置となっている。これらの事情が、結果として「ハンティントン」と彼女以降に進空した「テニスン1863」系改装空母の間を系譜的に断絶させる要因となっている。


 敵手たるレムリア軍は、ラジアネス軍再起の象徴として「ハンティントン」を最重要目標と見做し、度々攻撃をかけては撃沈したことを自国の報道媒体で大々的に報じ自国民の戦意高揚を図ったものだが、撃沈戦果が報じられる度に必ず出てくる「ハンティントン」の名を前に、レムリア市民は次第に畏怖の念を抱くようになったという……


挿絵(By みてみん)

 上図は「ハンティントン」の格納庫配置図。


挿絵(By みてみん)

 戦艦「クロイツェル・メラティカーラ」級

 「大空洋戦争」勃発時のラジアネス軍 航空艦隊の主力戦艦。この時点で既に二度の大改装を経ていた。


 「エルグリム戦争」後、ラジアネス中央政府は軍の戦力回復と、ラジアネスの施政権の及ぶ全ての空域に有効な防衛力を展開させるべく、既存の戦艦に優越する火力、装甲、速力を併せ持った新鋭戦艦の建造を計画する。その真意のひとつには、連邦国家としてのラジアネスを構成する諸国及び自治市の内包する連邦からの分離独立志向に対する無言の威圧という側面もまた存在した。


 本級の技術的な特徴として、ラジアネスの施政下にある広範な空域への迅速な展開を可能にするべく、その設計段階より高速巡航性能に重点が置かれたことである。具体的には艦体を前後に貫通する程に巨大な多重反転式の推進機を搭載し、艦体中部と艦首、艦尾に兵装と装甲を集中させる方式が取られた。この推進機配置により本級は常時二〇スカイノット/時を超える、当時としては破格の巡航速力を獲得し、機関及び反応炉といった艦心臓部への集中防御も期せずして達成された反面、居住性の悪化という副作用がもたらされることとなった。ちなみに推進軸内部に連絡用通路が配され、中央部と艦首、艦尾との交通に用いられている。


 主要火力としては艦首及び艦尾部上下に連装各一門、艦中央部上下に三連装各二門の一六スカイインチ主砲を、ラジアネスの戦艦としては最初に搭載している。しかし艦の構造上、主推進機の後流を受ける位置にある艦側面部の五スカイインチ連装両用砲と艦尾主砲の命中精度が全速航行時に著しく悪化するため、本級は火力の全力投射時の全速航行が制限されるという欠点をその公試段階で露呈することとなった。改装工事の度に副砲位置の変更と整流板の敷設といった改善策が施されても、この欠陥は最後まで修正されるに至っていない。むしろ当時は遠距離砲戦時における高速航行の必要性が艦体首脳部から運用サイドに至るまで認識されていなかったこと、従って高速の発揮は戦闘空域への移動時のみで十分と「割り切られて」いたことが、根本的な改修に対する消極性の根底にあったようである。その他、大改装時に行われた主要な改良として、射撃指揮装置の更新に伴う艦橋構造物の増設と特徴的な篭型マストの敷設、機関部の換装に伴うボイラーの重油/石炭混成燃焼方式から重油専焼方式への変更が挙げられる。


 政府軍の高速航行に対する認識の浅さは、その後の「大空洋戦争」の劈頭、「アレディカ戦役」時に辛辣なしっぺ返しとして跳ね返ってくることとなった。全速航行時の本級は主推進機の生む乱流により有効な対空射撃を実施することができず、それを成すために主推進機を停止すれば、たちどころに回避運動に必要な速力と運動性が低下するというジレンマに襲われたのである。これは常識を超えた高速で飛来するレムリア機、軽快な運動性を誇るTボート群に対しては致命的であり、さらには速力の低下により火力を展開して守るべき艦隊型空母に追随できないという事態まで現出させるに至った。「アレディカ戦役」は作戦に参加した同級一八隻中十二隻の撃沈、三隻の大破、三隻の中小破という惨憺たる結末を本級にもたらしている。それ以後の防衛戦で喪われた艦もまた多い。


 なお、「大空洋戦争」勃発と前後して本艦の改良型たるマルホランド級戦艦の配備が始まっており、こちらは最終的に八隻の配備が予定されていたが、「アレディカ戦役」の戦訓を受けて建造の主力が速やかに次級に切り替わったため、最終的には三隻の配備に留まっている。


挿絵(By みてみん)

 上図は母艦機能付与改装を施された「クロイツェル・メラティカーラ」級。下部主砲塔一基を撤去し、艦載機の収容スペースを設けている。

 「アレディカ戦役」前に、艦隊型空母の不足を補うべく少数の艦を対象に施されていたこの改装は、戦後残存していた同級全てに適用された。



挿絵(By みてみん)

 戦艦「エクイヴリウム」級

 「クロイツェル・メラティカーラ」級の前級にあたる戦艦。一番艦の就役は「エルグリム戦争」終結の二年前であり、終結までにさらにニ隻が就役し、戦闘にも参加している。


 計画が戦時中であったこともあり、本級の艦体は迅速な建造を可能にするよう徹底した合理化、簡素化が図られている。その結果として当時としては技術上の冒険を避けた可も無く不可も無いという外観に、高い実用性をも併せ持つこととなった。艦首に計八門の空雷発射管を有することも進空当時の標準である。(後の改装で空雷発射管は撤去され、発射口も塞がれる)


 速度が遅く、駆逐艦以上の主力艦や艦隊型空母に追随できない点を除けば、火力、装甲ともに一級の性能を有した艦であった。砲頓兵装を十四スカイインチ主砲と五スカイインチ副砲のみに絞り、上下計七基の連装主砲塔を艦体中心線に沿って配することで、持てる主砲火力全てを両舷に指向し得る主砲配置はラジアネス艦で最初の試みである。後には艦隊型空母の不足を補う方策として、本級の一部を対象に母艦機能の付与が改装時に行われた。


 運用サイドからの評価は高く、特に操艦のし易さ、機関及び反応炉の扱い易さ、後身の「クロイツェル・メラティカーラ」級に比して余裕のある居住性で評価されている。「クロイツェル・メラティカーラ」級戦艦計画時、本級の拡大改良型が提案され、実際に「ピースメーカー」級巡洋戦艦として二隻が試験的に建造され就役している。(二隻とも「アレディカ戦役」で戦没。装甲はともかく、火力、速力に優れた名艦と評価は高かった。むしろ推進軸が露出していない分、KM級よりも防御力は優れていたという意見もある。) また、「ピースメーカー」級の艦体設計は一部の艦隊型空母、後の高速戦艦建造計画にも流用されている。


 本級は二十三隻が建造され、「大空洋戦争」勃発時には現役、予備役含め一七隻が在籍していた。「アレディカ戦役」に参加した六隻のうち五隻が戦没している。



挿絵(By みてみん)

 巡航艦「スタンドバロ」級

※上図下は本級の母艦機能付与型。後述の「(フォース)」において旗艦として機能する。


 「エルグリム戦争」後に策定された艦隊再編構想に基づき計画され、建造された巡航艦。「大空洋戦争」全期間にわたりラジアネス軍の主力巡航艦として広く運用された。

 本級の外観上の特徴として、主砲及び空雷発射管をはじめとする兵装を艦体前部に集中配置し、操艦、指揮区画、機関区画を艦後部に集中させた点が挙げられる。兵装区画とその他の区画を明確に分離することで被弾時の生存性を高めることを狙い、艦体のコンパクト化、軽量化を企図した設計であるが、その反面主兵装の射界は制限されることとなった。その一方で艦体各区画をブロック化することで生産性と拡張性の向上を図っており、この特徴は「エルグリム戦争」時に大量に建造され、後に急速に陳腐化が進んだ旧型巡航艦を一気に更新するのに絶好の条件であるものと判断されている。


 「大空洋戦争」初頭の劣勢は、大量生産型巡航艦たる本級にひとつの有望な用途を提示することとなった。具体的には艦上部に簡易な構造のコンテナを増設し、仮設の艦載機格納庫とすることで簡易な護衛空母機能を持たせるというものである。強力なレムリア軍機動部隊と正対するには力不足の感が免れ得ない、応急的とも言えるこの措置は、任務を船団護衛および艦隊防空に限れば当座の苦境を凌ぐのに極めて有効な策として機能した。ラジアネス軍は護衛空母型の本級一~二隻を核に数隻の小艦艇からなる「(フォース)」を多数編成し、輸送船団の前路捜索及び掃討、あるいは敵勢力圏下での遊撃的な交通破壊任務に投入し少なからぬ戦果を上げている。同時に「アレディカ戦役」以降、一部の空雷兵装を廃して対空兵装の充実を図るなど、現下の状況に適した改装も行われた。



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