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第一章  「第001任務部隊」

あの頃のレムリア軍は確かに強かった。精強と言ってもいい。

だが彼らと何度か戦っていて生命を拾ううち、腑に落ちない点に私は気付いたのだ。

それはこういうことだ。

彼らはあれ程高性能の戦闘機や艦船を生みだしておきながら、それを完全たらしめる装備や戦術というものにあまり関心を払っていないのではないかと。

レムリア人は自分の操る「武器」としての航空機や軍艦を優秀たらしめる努力こそ惜しまないが、それはつまるところ個人としてのレムリア人の強さを極めるものでしかないのではないかと。

まあ……彼らの言う「地上人」が、真に彼らより劣等種だというのならば、その考えで良かったのかもしれないだろうが。


――とあるラジアネス軍航空機搭乗員の証言 ラジアネス放送協会編「証言 大空洋戦争」より――




 耳障りなブザー音が鳴り続けている。ブザーが止まるには眼前の戦いに勝つかあるいは負けるか、ふたつ以外に未来が存在しなくなったことを状況は示していた。ただし、鉱石運搬船を装った仮装偵察艦にとっては十分予想された状況だ。


『――艦影は「ブファリス」級二隻と確認。的速三十。依然六時方向より追尾中』

 船体上方に設けられた見張り台からの報告が、船内回線を伝い船橋(ブリッジ)に響く。その頃には仮装偵察艦「ウダ‐Ⅴ」は、すでに船体の過半を雲海の真っ只中に没しかけていた。周囲に浮かぶ陸地や航行する船舶も見えない代わりに、こちらの所在を悟られることもまずない……という余裕混じりの打算は、執拗な追尾が時間にして一時間以上も続くに至り裏切られた形となった。今更速度を落としごく善良な鉱石運搬船を装うには遅過ぎる。一時間程前の発見から通算七度に亘り投掛けられた停船勧告の悉くを無視した結果が今の状況……とあっては。


 落雷の様な爆発音が雲中に生まれる。一度では無く二度以上の爆発の連鎖が「ウダ‐Ⅴ」のゆく空路のごく至近で生まれ、同時に生じた衝撃波が船体を烈しく揺るがす。船体自体は衝撃に耐えることが出来ようとも、中の構造や乗員の場合はそうはいかない。船内灯が火花を発して弾け、足許を揺るがす動揺に三半規管が悲鳴を上げる。固定されていなかった物資が崩れ、それが衝突による破壊や圧迫という形で船内に新たな災害を(いざな)った。それにも構わず、「ウダ‐Ⅴ」はその貧相な外見に似合わない破格の駿足を維持し、只管雲の回廊を驀進し続ける。



「空中爆雷か……威嚇だな」

 尚も動揺を続ける船橋で、「ウダ‐Ⅴ」船長セギルタ‐エド‐アーリスは平然とした顔で呟いた。船橋から臨んだ限りでは、空中爆雷の炸裂する位置が手に取る様に判る。船体に直接損傷を与え得る破片こそ飛んで来ないが、それでも投射方向と炸裂のタイミングがフネに程近い空域に集中しているのは気分のいいものではない。執拗な追尾といい、こちらの大凡の位置を掴んでいるというのか?


 電波探知機か――前線基地から出航する前、風聞程度に聞いた単語をセギルタは脳裏で紐解いた。地上人が目視や聴音に拠らず、電波の放射を利用し物体の位置を探知する機械を作っているという情報。それは物理的に困難な試みである筈であるし、天空の民を自認してなるレムリア人にとっては笑止とでもいうべき試みであった。空は自らの五感を以て征くものという観念こそが、レムリアの民に空の支配者としての自信と、「穢れた場所」たる地上に対する優越感を満足させてきたものであったし、事実彼らの空を征く技術が他者の追随を許さぬものであるからこそ、彼らのやり方に拠らない空を(わた)る術に対し、セギルタは平静ではいられなかった。


「艦長、針路を変更しますか?」

 乗員最先任の船務長、ルヴィ准尉が聞いてきた。恐怖心故では無い。彼、ひいてはセギルタの下で与る乗員の生命を守る方策を准尉は探り、常に適切な助言を与えてくれる。船内通信機のインカムを取り、セギルタは見張員に告げた。

「敵艦の位置報せ」

『――敵艦、依然本艦の十空浬後方を追尾中……発砲炎を視認!』

「――――!」

 一時の静寂を置き、烈しい光と炎の波がウダ‐Ⅴの至近に生じる。衝撃波が船体を一層烈しく揺るがす。至近での爆雷炸裂により散った破片が無数、広範囲に亘り外板を切り裂く。同じような炸裂がウダ‐Ⅴの周囲で連鎖的に生じ、薄暮を迎えつつある空を禍々しく彩るのだった。時限信管を使用した炸裂弾。その投射間隔は短く、炸裂点に基づく弾着修正を経て次第に正確さを増していく。

「キラ‐ノルズで出る。準備を為せ」

「はっ?」

 上官の言葉を疑ったルヴィ准尉に、セギルタは微笑で応じた。

「本官自ら出撃し、追跡者を撹乱する。適当な空で落ち合うことにしようではないか。それに……」

「はぁ……」

「フネでの暮らしにも、倦んできたところだ。散歩がしたいところだな」

「ハッ……!」

 准尉の眼から困惑が消え、次には上官に対する純粋な敬意に転じた。傍らでふたりの遣り取りを聞いていた副官ヒラン少尉が軽々と身を翻し、船橋から格納庫へ続く階段を勢い良く駆け下りた。搭載機の出撃準備を告げるためだ。



 ――三十分後、精悍なレムリア軍の飛行服に着替えたセギルタは、船腹の格納庫で点検を受ける自分の愛機を見つめていた。


 プロテクターに包まれたつなぎの赤いスーツに、同じく赤いフルフェイスのヘルメット、それがレムリア軍の制式飛行服だ。セギルタの細身の引き締まった肉体に程よく密着したその飛行服は、彼女本来の女性らしい精悍さをいっそう引き立てるのに役立っていた。


 その彼女の視線の先には、主翼を折り畳んだ状態で収容され、出撃前の点検を終えかけた愛機の優美なフォルムが広がっている。強力な液冷エンジンと六翅プロペラを鷲のような機体に推進式に組み合わせ、操縦席と共にぐんと前方に突き出された機首下部からは無機質な蛇の眼を思わせる偵察用カメラが覗いている。本来指揮官用単座強行偵察機の試作型として製作されたキラ‐ノルズは、その精悍なフォルムからも伺い知れるように破格の空戦性能を有する機体であり、「ウダ‐Ⅴ」艦長専用機としてこの機を二ヶ月前に与えられて以来、セギルタはキラ‐ノルズで各種の困難な偵察飛行をこなすと同時に通算で七機のラジアネス機を葬っている。だが――


 ――表情にこそ出さないが、そのキラ‐ノルズを以てしても抗し得ない敵が、実体の掴めない影という形ではあっても存在しているという事実に、内心では軽い困惑を覚えているセギルタがいる。遡ること数週間前に行われた空母「ハンティントン」攻撃作戦の失敗、それと並行して行われた虜獲機たるキラ‐ノルズ奪回作戦の挫折――敵基地からの脱出を成功させ、一路ウダ‐Ⅴとの会合を目指し飛行を続けていたキラ‐ノルズとセギルタが差し向けた直援機二機が、会合直前になって痕跡すら残さずに空の一点に消え去ったのだ。傍受したラジアネス軍の通信は、脱出経路上でレムリア機の残骸を収容したこと、その数が三機分に及ぶことをセギルタらに教えてくれたが、「自由」を謳う地上人の社会ではその後にお決まりの公式発表が無いという現実が、セギルタらに新たな疑念を掻き立てた。


 何が起こった?――ここ数週間に亘り内面を支配して止まない疑念を弄ぶ内、整備班長がセギルタの傍に立ち報告する。

「点検終了しました。いつでも出せます!」

「ご苦労」

 スーツに包まれた細い脚がキラ‐ノルズの操縦席に向かう。ラダーを踏み締めて昇った先、一本の枠も無いバブルキャノピーが口を開け、乗り手の搭乗を待ち兼ねていた。赤い飛行服に包まれた優美なボディラインを滑り込ませる。スライド式のバブルキャノピーを撫で付けるような手付きで閉め、通話用と酸素供給用を兼ねるコードをヘルメットに繋ぐ。頭を上げると、格納庫内に設けられた管制室の窓からヒラン少尉が手信号で船内無線が使用できる状態にあることを知らせていた。


「ハッチ開け!」

 動揺はなお激しい。敵の威嚇射撃だ。それが目標の強制停止を意図した本射に転じるのに、それ程時間は残されていない筈である。

 絶叫のような作動音と共に船体下部に設けられたハッチが開くにつれて、差し込んでくる光で格納庫がほのかに明るさを増してきた。と同時にキラ‐ノルズを乗せたレールが、機体をゆっくりと外界へ誘導していき、機体を拘束していた無数の電気コードや燃料、冷却液供給用のチューブが自動的に切断されていく。その間、スロットルを始動位置まで押し上げ、燃料供給ポンプを使いエンジンに燃料が行き渡る様に務める。


「回せ!」

 回線にセギルタが声を荒げた直後、整備員の操作でノルズの液冷エンジンと格納庫とを唯一繋ぐ始動装置が勢いを付けて回転を始める。接断機スイッチに指を触れつつ計器盤の専用回転計を見、内蔵始動装置の回転が既定値に達するのを見計らったところで接断機スイッチに力を入れた。

「――始動(フォルガス)!」

 点火時の暴力的な爆音にエンジン冷却用ファンの金属音が重なる。爆音だけで狭隘な格納庫を震撼させるのに十分な力をノルズのエンジンは有している。配管の材質、ボルトの一本に至るまで量産の効かない一品物の芸術品と言うべき専用エンジン。択ばれた者のための、択ばれた戦闘機たるノルズの側面を痛感する僅かなひととき……始動装置が外され、十分な位置に来たところで折り畳まれていた主翼を開き、キラ‐ノルズは矩形の射出口から雲海を睥睨するに至る。「ウダ‐Ⅴ」とキラ‐ノルズを繋ぐものは、今や機体の遥か前方で下界へと通じるかのように下へ曲がったレールのみだ。


 スロットルを暖気から全開にまで押し開く。エンジンの反応は極めて良い。スロットルレバーを全開に維持したまま、発進に備えて操縦桿をやや下げ気味にする。眼下には一面の雲海が広がっている。気流に導かれて蠢く様はまるでセギルタを今にもその白い腹に飲み込もうとしているかのようだ。

「キラ‐ノルズ 出るぞ!」

 セギルタ自らの号令一下、レールのロックの外れる鈍い音と軽い振動の後、名状しがたい浮遊感がキラ‐ノルズに訪れた。母船から切り離され、機首下げの姿勢のまま高度を下げ続ける僅かな間、ノルズのエンジンは上昇に必要な速力をすぐに稼ぎ出してくれる。1、2、3――脳裏で数えた後、操縦桿を引き上昇。急機動時の加速に顔を歪め、身体の力を抜いて耐える。


「…………」

 セギルタは後方を振り向いた。母船ははるか下……手を伸ばせば握り潰せるほど小さく見えるまでに高度と距離差は開いていた。セギルタは微笑むと、ロールを打つと同時にキラ‐ノルズを反転させ、再び母船へと向かう針路を取った。高度差を付けて空を睥睨すれば、追われる母船、追う地上人の駆逐艦という追撃戦の構図を眼前に見出すことが出来る。主砲を撃ち続ける駆逐艦の艦影を睨み、セギルタは呟いた。

「癇に障る……!」


 所属不明船から分離する様に伸びた飛行機雲が、蒼空を背景に迫り来る異形の機影と化した瞬間、ラジアネス軍の駆逐艦を驚愕が襲う。対艦戦闘から対空戦闘への即座の転換など、後方基地所属の、それも旧型駆逐艦では望むべくも無く、またそのための装備も不足していた。


『――所属不明機接近!』

 対空機銃が照準動作を始めた頃には、彼我の距離は一空浬を切っている。照準が追い付かない程の高速、駆逐艦の対空科員はそのような高速で迫り来る敵機を想定してない。射撃を始めた対空機関砲も、直進する敵機を捉えきれずに更なる接近を許すこととなった。理論上では照準輪を敵影に重ねて撃てば当たることになっている筈が、実際には対空機関砲というものは数を揃えて一空間に向けて濃密な弾幕を作らない限り有効弾を期待できるものではない。そのことをセギルタは身を以て知っている。


「遅いんだよ……!」

 陰性の、殺意に溢れた気迫が翼下から小型ロケット弾の束を吐き出す。通称「軽量多目的ロケット弾(ウラガン)」。片翼に付き一基ずつ繋がった専用カプセルの中に六発が詰め込まれた小型ロケット弾は、こと対艦用途の焼夷弾頭に限れば三から四発の命中で駆逐艦クラスの艦艇を戦闘不能に陥れることが出来る。


特装機(エスクラス)だ!」

 ノルズに頭上から被られる形となった駆逐艦の艦橋で誰かが叫ぶ。矢束は正確に一隻の艦橋を撃ち抜き、そこに詰めていた乗員全員を殲滅した。一撃にして耳目を奪われた駆逐艦が急回頭し追撃から脱落する。太陽に向かい急上昇に転じ、追い縋る弾幕を晦ます。急上昇の頂点、背面に転じて加速。その先に健在なもう一隻を見出しつつ降下を続ける。


 眼前に飛び込んでくる弾幕を無視し、あるいは機を滑らせて回避(かわ)す。光像式照準器一杯に広がる駆逐艦の中央――操縦桿上の引鉄を引く。白煙を曳き飛び出した機銃弾が上方より駆逐艦の砲座、そして甲板を蹂躙し火花を走らせる。そこに再度のロケット弾斉射――軽量ゆえ装甲の薄い駆逐艦にとってそれは痛撃だった。機関部に被弾し、穿たれた孔より濛々と白煙を吐きつつ速度を落とす駆逐艦、断末魔を堪能する暇も無くノルズは下へ抜け、そのままさらに加速し追跡者から距離を開いていく――

 

「セギルタ、二隻撃破。これより帰投する……!」

 機体が悲鳴を上げないよう、徐々に機首を上げる……持ち上がった機首はノルズを操るセギルタの眼前に新たな空の地平を開いていく。ハンティントンの件以来、堪能することの叶わなかった勝利の味に、セギルタは均整の取れた細身を震わせた。




 ラジアネス中央政府軍航空艦隊空母「ハンティントン」は、南海特有の沸き立つような入道雲を眼下にして悠々と航行していた。あたかも灰色の、巨大な鉄塔を思わせる艦体の所々に無造作にとって付けられたような巨大な昇降舵や方向舵が変針の号令を受けて動くたびに、ハンティントンはその巨体を小刻みに振動しながら緩慢な動作で旋回し、何時終わるとも知れない変針を繰り返している。運動を始めた後、若干の時を置いて進路の安定する艦体とは対照的に、その左に設けられた艦橋と半ば一体化した巨大な煙突から濛々と立ち上る蒸気が、変針の度に気流に翻弄されるかのようにそのたなびく方向をしょっちゅう変えていた。


『――現在風向二時北西。風速二七航空ノット。本艦の現在速度二十航空ノット。各種計器異常なし。反応炉全て異状無し』

『――こちら機関室。三番缶室の油温上昇。冷却液を注入』

『――上昇角修正。艦首三度下ろせ。右一番舵下げ二度を維持』

『――こちら管制室。第三次哨戒隊全機発艦準備よし。針路変更指示願います』

「艦長、指示願います」

 副長シオボルト‐ビーチャ少佐の声に、今まで艦橋の艦長席からから臨む入道雲の雄大さに見とれていたハンティントン艦長アベル‐F‐ラム中佐ははっと我に帰った。彼は元来商船乗りで、世が世なら今頃豪華客船の船長という花形ポジションにあって夜毎船上パーティーで着飾った紳士淑女方に囲まれているはずなのだが、戦況が逼迫してきたばっかりに本来一生関わることが無かったであろう軍隊に身を置くこととなったラムの周囲にあるのは大型貨物船を改造した航空母艦のあまりに機能的で無骨な艦橋司令室の概観と、煌びやかというには程遠いむさ苦しい連中なのであった。それでも指揮者たる艦長の意思を他所に、艦の各部署は彼らの為すべき仕事を続けている。それが一層、新任艦長に気遅れにも似た感慨を喚起するというわけであった。


 ラム艦長の商船乗りとしての二十年以上の経験は、その業種に携わる者としてはきわめて長い部類に入っていたが、その事実を感じさせないほど彼の容貌は若々しく、年季や経験の豊富さを感じさせるいかなるものも彼の外見から見出すことは出来なかった。そんな彼にとって航行する船の外の光景は見慣れたものであったはずなのだが、本来畑違いの部署である上に制式に着任して二ヶ月も経っていない彼には軍艦の指揮を執っているという自覚に乏しかったのかもしれない。


 十分ぐらい前から手に握ったままのコーヒーは、彼の掌の中であらかた冷めてしまっていた。それすら気付かないほど彼は眼下に広がる幾条もの雲海の筋の雄大さ、美しさに見とれていたのだった。不覚を取り繕うかのように、ラム中佐は少佐に聞いた。

「ええっと、現在の航行状態は?」

「ですから、先程航法室から上がってきた報告のとおりですが……」

「ああ……そうだった。発艦準備完了だったな。艦首を風上に向け、順次発艦させるように」

「細部のご指示はなさらないのですか?」

 シオボルト‐ビーチャ少佐は、その下腹の突き出た太い身体を揺するように艦長席へ向けて聞いた。中年太りしたふっくらとした顔つきの上に、丸眼鏡にあばたの浮き出た丸い鼻の下に蓄えられた口ひげの白さからして、彼がこの艦唯一の彼の上官より一回り年上であろうことは容易に想像できた。そして、彼が艦長に細部の指示について戸惑いがちに尋ねたのは、何もラムに艦長の指揮者としての資質を疑ったというよりむしろ自身の副長としての資質に疑いに近い実感を持っていたからである。


 そんな彼の思惑お構い無しに、ラムは言った。

「構わない、君に任せる」

 幹部学校の操艦教本丸暗記の号令を、しどろもどろの口調で発して、艦が艦載機発艦のための運動を始めると、ビーチャは押し殺していたように胸に貯めていた空気を一気に吐き出した。着任してそろそろ二ヶ月が過ぎるが、年のせいかこういう仕事には一向に慣れない。確かにフネの指揮はとったことがある。しかしそれはもう三十年も前のこと、それも港にこもって主力艦を押したり引いたりするような曳船(タグボート)の船長を三ヶ月程度だ。それ以降はずっと本職の会計畑。五年前から艦隊経理学校の教官を勤めてそろそろ退役――憧れの年金生活に手が届きかけていた――という時に、レムリアンがやってくれたのだ。戦争を……!


 かの「アレディカ戦役」における「大虐殺」の後に来たものは、戦死、負傷による航法、砲術、機関などの技術将校の層の払底と、それに伴う人材不足だった。艦艇や航空機の現物ならいくらでも補充が効くが、一線級で使える人材となるとこのように行かない。学校で知識を教えこんだとしても、経験を積ませる必要がある。それを極端に制限された環境下、時間中にやってのけねばならない。そこでそれまでの時間稼ぎとして、わずかでも経験のある者、代替の利く者が戦場に引き出されてきたわけだ。このような「時間稼ぎ」が終わったとき、ラジアネスの反攻が始まるという寸法である。


 ビーチャは嘆息した。自分も自分なら、艦長も艦長だ。

 現在この艦で唯一自分より上座に座っているこの男は、自分より若いばかりか、ただ単にフネの経験があるというだけで、現在ラジアネス軍にとって最も戦略的に重要な軍艦の指揮を任されているのだ。空母に乗る前は豪華客船の副長をしていたというが、まったく、上の連中はフネなら大きければ何でも良いというのだろうか? 確かに操艦が上手いのは認めるが、傍目に見てさっきの様に艦長として、そして軍人としての自覚に欠ける時が多々あるようだった。

しかも離婚経験者。すでに息子と娘を社会人にし、自宅に二十年以上連れ添った妻を残している彼としてはそんな人間が艦長をしていること自体信じられない。普通上級士官クラスで離婚経験者や独身者はただその事実だけで軍での栄達を妨げられるものなのだが、上層部としては追い詰められれば何でもありらしい……

 そんなビーチャの思いを他所に、ラムはコーヒーを飲み干すと艦首の射出口へと視線を転じた。訓練発進第一陣のBDウイング 艦上戦闘/攻撃機、哨戒飛行の訓練に臨む一個中隊八機が、手旗を振る甲板員の誘導に従って外界へとゆっくりと滑走していくのが見えた。



 エンジン音を轟かせながらBDウイングが滑走しきった瞬間、機体が艦首の彼方に沈んだ。その直後、機首を酸欠の熱帯魚のように上げたBDウイングが上昇したその姿を再び眼前に現すまでにたっぷりと三秒の時間を要した。


「機首を上げるタイミングを見誤ったな。失速寸前だ」

 ハンティントンの滑走路を一望する管制室。芯を抜いた軍帽を目深に被った髭もじゃの男が言った。

 身長に比して広い背を覆う使い込まれたフライトジャケットには、一糸纏わぬ女性の裸が描かれていた。彼女の肢体に絡みつくように青いポップ体で描かれた「SWEET BELLE」の文字は、すでに掠れて薄くなっていた。

 ポケットからしわくちゃになった煙草を取り出し、乗馬用のブーツに黄燐マッチを擦り付けて火をつける。火の付いた煙草を咥え、紫煙を吐き出すまでの間がやけに気障で、伊達ぶっているように見えた。その男――第177空兵攻撃/偵察飛行隊隊長 セシル‐E‐“バット”‐バットネン少佐は、傍らの第187戦闘飛行隊隊長 カレル‐T‐“レックス”‐バートランド少佐の方へ向き直った。

「で、お前さんの秘蔵っ子は何処にいるんだい?」

「ああ……そいつなら今外にいる。多分最終返針点を抜けたところだろう」

 バートランドはにやりと笑うと、後甲板の方を指差した。バットネンの手から煙草をもぎ取って一服したところで彼に返すと、先に歩き出す。拍子抜けしたバットネンもそれに続く。

 通路の途中にはところどころに工事中を示すシートが掛けられ、工具やら未接続の配線やらが散乱していた。足元に転がるそれらに注意を払いつつ、途中で民間人らしき数名の作業服とすれ違いながら、二人は歩を進める。ハンティントンはでかい。その複雑に入り組んだ区画、通路から慣れない者には徒歩での移動はかなりの辛苦を強いられる。


 バットネンが言った。

「やれやれ……陸上と違ってフネの上は疲れるぜ。ここに居るってだけで苦痛だ」

「こいつが完成するまでの辛抱だ。我慢しろよ」

「無駄にでかい上に未完成ときた……こんなんでレムリアンと戦えるのかねえ」

「空兵隊に心配されるほど、艦隊は落ちぶれちゃいねえよ」

 バットネン少佐は空兵隊司令部の命を受け、幾下の部隊と共に「ハンティントン」に前進を果たしてきた。浮遊大陸に対する強襲上陸部隊に航空支援を与えるという主任務がある以上、空兵航空部隊は地上、艦上を問わない即応展開能力が要求される。それ故に第177空兵攻撃/偵察飛行隊はハンティントンへの展開を命じられ、母艦に順応するべく訓練を続けているというわけであった。バットネン自身、個人的にはバートランドとは艦隊士官学校(アカデミー)の同期でもあり、学校のスカイボールチーム「スカイスウォーズ」のクォーターバックを争った仲だ。


 さりげなく、そのバットネンは話題を転じた。

「なあカレル、着任したときは言ってなかったが、ロブソンが死んだそうだ……」

 バートランドの足が止まった。

「……そうか、あいつは確か駆逐艦の艦長だったな」

「船団護衛任務の時に、フネが……レムリアの特装機(エスクラス)に沈められたそうだ」

「誰が操縦()っているのか判っているのか?」

「わからない……また未知の撃墜王が出て来たってとこだ」

「…………」

 バートランドは不機嫌そうに黙り込んだ。レムリアンはこと戦闘機の運用に限り、ラジアネスとは違う特殊な考え方をする。やつらは特に腕の立つ戦闘機乗りにワンオフ機同然の「エスクラス」――希少生産の高性能機――を預け、空戦に関しより大きな力を揮わせるように仕向ける。「エスクラス」を託された凄腕もまた個性派揃いで、彼らは乗機を思い々々に改造し、あるいは独特の塗装を施して自身の存在と実力を誇示する傾向にある……そんなレムリアンのやり方は、今のところ上手く行っているように見える。


「スマン、気を悪くしたか?」気がつけば、バットネンが心配そうにバートランドの横顔を窺っていた。

「……いや。いい奴だったんだがな。定期試験の時には世話になったもんだ」

「ああ……そうだった。学校のカンニング王だったからなぁ……お前さんは」

「そういうお前さんは女子寮のノゾキの常習犯だったろうが……」

 それきり、無言を保ったまま二人は歩を進めた。着艦スペースを見渡すキャットウォークにたどり着くと、再びバットネンが口を開いた。

「……で、お前さんとこの秘蔵っ子は?」

「だから、外に出てると言ってる」

「何だ、外って空の上か……ところで、期待していいんだろうな?」

 新しい煙草に手を伸ばしながらバットネンは聞いた。それには答えずにさりげなく、バートランドも聞き返す。

「ところで、お前さんのとこに有望株はいるかい?」

 バットネンは苦笑した。

「そんなわかりきったこと聞くなよ。いたらいたでどうするんだ? 戦闘機にでも勧誘するのか? そいつだけは勘弁な。こちとらただでさえなり手が無いんだ」


「あのフィルムは、見たよな?」

「ああ……あれか」

 バットネンは、着任した昨日の夜に、バートランドに見せられたフィルムを思い出した。そのフィルムの中に繰り広げられていた光景は、彼にとって信じられない光景だった。いや、おそらく、特にラジアネス軍全ての戦闘機パイロットにとって、それは信じがたい光景だったかもしれない。

 的確な位置から銃撃を受け、外板を撒き散らしながら燃え上がるレムリア軍戦闘機。それも三機連続して――飛行経験だけはバートランドに勝るとも劣らないバートネンにとって、それがガンカメラからの映像であることぐらい、すぐにわかった。


 だが驚くべきは、そのフィルムを見る限りではラジアネス軍の戦闘機より遥かに高性能であるはずのレムリアンの戦闘機が、いとも容易く後方へ占位され、あっさりと撃墜(おと)されているかのように見えることだった。何時しか銜えていた煙草が燃え尽きようとしているのも忘れて、バットネンはその光景に見入っていたものだ。接敵から占位、追尾、そして射撃――全てが空想の世界の出来事の様に鮮やかで、淀みの無い撃墜の経緯。フィルムが終わった後で、バットネンは興奮を抑えられないかのような口調で言った。

「すごい光景じゃないか!」

「……だろ?」

 バートランドは、穏やかな笑みを湛えながら応じる。電灯が消され、カーテンが締め切られた真っ暗な部屋の中、写像器の発する光に顔の半分を照らされたバートランドの顔が、バットネンに得体の知れない、軽い戦慄を感じさせた。

「君が撮ったのか?」

 君が撃墜したのか? とバットネンは暗に聞いたのだった。

「そう言いたいところだが、実際はそうじゃない」

「すごい奴が君の隊にいるんだな。あのレムリアンの戦闘機を撃墜(おと)すなんて……それに三機、あと二機で撃墜王の仲間入りじゃないか?」

「もともと俺の隊じゃない。無理を言って隊に入ってもらった」

「どういうことだ?」

 バットネンは怪訝な表情を浮かべた。

「あの腕からして、アレディカ戦以来の歴戦の勇士なんだろ? 無理を言って他の隊から引き抜いてきたとか?」

「それも違うんだな、エド」

 指を軽く振りながら、バートランドはさりげなく否定して見せた。

「?」

「ま、そいつに明日会わせてやるよ。きっと驚くぞお前さん。それにもうひとつ……」

「今度はなんだよ?」

「そいつの撃墜機数は正確には六機だ。このフィルムの後にこいつはさらに三機レムリアンを撃墜(おと)してる。だが、こいつの撃墜記録は公式にはゼロだ……当人もおれも、ここまで来るのに少しばかり危ない橋を渡ってるもんでな」

「非公認記録ってやつかい? よほどのわけありだな」


 ……その日一日を、ハンティントンに割り当てられた私室のベッドの上で、バットネンはあのフィルムの主のことばかりを考えていた。

 凄まじいまでの腕前だった。バットネンは純粋な戦闘機専修ではなかったが、あの撃墜フィルムの主がとてつもない操縦士であるということぐらい、容易に想像がついた。あんな技量の持ち主はラジアネス軍の何処を引っ掻き回しても早々に見つかるものではない。戦闘機操縦士のエリートが集う戦闘航法学校(FAS)の教官連中にもあれほどの凄腕は稀であろう。

 あのフィルムを思い出す度に、背筋に震えが来る。それは翌日の現在(いま)でも…… 


 後甲板へ行ったところで、二人が飛行甲板まで降りるのと、上空見張りの整備員が声を上げるのと、同時だった。

「五時方向より二機接近。収容準備!」

 バットネンが外を覗き込むようにして見ると、二機のゴマ粒のような機影が、はるか後方から着艦へのアプローチをかけて来るのが見えた。その影が次第に近づいてくるに連れ、それが旧式のウレスティアン‐タマゴ艦上戦闘機であることをバットネンの視覚が認めるのに、三秒もかからなかった。それら二機は引き込んでいた主脚を下しつつ、ハンティントンの後を追うコースに入った。


 先頭の一機が速度を落とし、機首を上げた。同時に軽快なエンジン音がみるみる近づいて来た。タマゴが着艦フックを一杯に下ろし、さらに高度を少しずつ落としながら飛行甲板の端に接近してきたそのとき、一陣の横風が軽く甲板を撫でた。それは艦自体の挙動になんら影響を与えうる強さを持ってはいなかったが、その横風で、アプローチに入った機体が微妙にぐらりと揺れた。

先頭の一機は、危なげない接地を見せた。だがその後に軽く二、三回バウンドしたところでしばらく滑走して、一杯に下ろしたフックをようやく四本目の拘束ワイヤーに引っ掛けたところで機体は動きを止めた。空母のパイロットとしてごく平均的な着艦技量程度にしか、バットネンには見えない。あえて言えば、やや未熟といったところか。


 バートランドが言った。

「バット、次の奴だ」

 バットネンは、その「次の奴」に目を転じた。横風はあいも変わらず甲板に吹き付けていた。その二機目も、一機目と変わらない動作で飛行甲板へとアプローチをかけてくる。下ろされた主脚の車輪が、甲板に触れようとしたそのとき――

 再び、甲板を撫でる横風。危なげにぐらつく機体の姿を、バットネンは想像した。

 だが――

 あっさりと、微塵の揺らぎも見せずに、タマゴは飛行甲板に接地し甲板を滑る様に走る。傍目から見ればあまりにもあっけない光景だったが、それを眺めていたバットネンの目は、すでに純粋な驚愕と感嘆にその光を譲っていた。


「どうだ?」

 確認を求めるかのように、バートランドはバットネンに笑いかけた。

 それは完璧な着艦だった。風向、気流の流れ、あらゆる要素に左右されずにそいつは驚くほどスムーズで、曲線的な着艦をやってのけた。そこに至るまでの修正が、意識的に可能なものではないこと、生半可な経験では不可能であることを、二人は自らの経験から知っている。


 その機は、一本目のワイヤーで機体を制動させた。着艦失敗に備えて全開にされたエンジンが、制動に成功した後には萎むように出力を一気に低下させる。ワイヤーを解いた機体が整備員の誘導に従って滑走を始めた。一機目の待つエレベーター上まで滑走してエンジンを停止させたところで、整備員の助けを借りながらパイロットが降りてくる様子を二人はじっと見つめた。


気が付くと、一番目の機体のパイロットが、二人に近づいてきていた。

「コルテ少尉、訓練飛行からただいま戻りました」

「ご苦労さん、調子はどうだ?」

「毎日タマゴじゃきついですね、たまにはジーファイターに乗りたいですよ」

「きついのはお前さんだけじゃない。近いうちに新しいジーファイターの配備がある。それまで待つ事だ。今は空母そのものの慣熟訓練をやっているようなもんだからな。我慢しろ。ところでジェイム、ボーズの方はどうだ?」

 コルテ少尉は苦笑した。

「ダメです! 全然バックを取らせてもらえません。逆にこちらが追い回されるばっかしで……どうなってるんですかあいつ?」

「言っておくが、それもお前さんだけの問題じゃない。気にせず精進することだな」と言って、バートランドはコルテの肩を叩く。コルテ少尉が艦橋へ向かうのと入れ替わりに、こちらへ近づいてくる二機目のパイロットの姿に、バットネンは目を見張った。

「少年?」


 実際は少年ではないのであろう。しかし少年と形容したくなるほど小柄で、端正な、落ち着いた容貌をその青年は持っていた。丸く、大きな黒い瞳の奥には、豊かな淡い光が蓄えられていた。細い、良い形の顎を包むように整った頬が、紅潮を顕す淡いばら色に染まっていた。自分でも知らない間に、彼の眼はその青年に惹きつけられていた。

 無表情のまま、二人の前に立つと、彼は敬礼した。

「ツルギ一等空兵。訓練任務より戻りました!」

 バートランドは黙って答礼し、バットネンは我が目とともに耳をも疑う。空兵といえば、未だ後方の練習航空隊で訓練を受けているような階級だ。普通、航空機操縦士は最低でも下士官にまで昇任しないと第一線部隊での勤務は有り得ない……バートランドが渡った「危ない橋」が、バットネンの脳裏におぼろげながら輪郭を作り始める。


「ボーズ、タマゴはつまらんだろ?」

「いえ、操縦し甲斐のある、面白い飛行機だと思います」

「そうか、そう思ってくれるんならそれでいい。ああ、こいつは攻撃機隊のバットネン少佐だ」バートランドはバットネンを後手に指差した。カズマは彼に黙礼した。

「そういえば、BDウイングはタマゴよりもアシが速いんですよね。実戦になったら上手く援護してあげられるかどうか……」

「…………」

 カズマの言葉に、バットネンは会釈の中にも苦い表情を隠さなかった。全金属製単葉、しかも引込み脚を採用したBDウイングは偵察及び対艦攻撃機としての用途の他に、邀撃機としての艦隊直援任務をも想定し設計されている。国防予算の効率的な運用という観点から生まれた、複座万能機構想の徒花とでもいうべきBDウイング。だが去年より生起した実戦は、そのような「妥協」が破滅的な打撃と混乱に直結することを、数多の犠牲という形でラジアネス軍の用兵サイドに突き付けた形となった。攻撃機としての性格を持たせたが故に鈍重で、戦闘機として必要な運動性を削がれた駄馬が、純粋培養の競走馬に打ち勝てる要素など、その実何処を探したところで見つからなかったのである。翻ってレムリアの戦闘機などは、まさに眼前の敵機を斃すためだけに設計され、熟成された競走馬であったのだ。


カズマに励ますような眼差しを注ぎつつ、バートランドが言った。 

「そのためのジーファイター受領が、間も無くある。安心していいぞ。ボーズ」

「はい……!」

 カズマは笑顔で頷いた。カズマを退かせると、バットネンは信じられないと言った様子でバートランドを見返した。

「あの坊やが、六機も撃墜(おと)したのか? レムリアンを……」

「そうだ、驚いたろ?」

 バートランドは、笑いかけた。

第187戦闘飛行隊(うち)の隠し球さ」



 ハンティントンには、軍民合わせて三千名近くの人間が乗り込んでいる。その内三分の一の一千名弱がパイロット、整備員、誘導員などの航空要員であり、さらに一千名が航海、機関など艦そのものの運用要員である。後の一千名は現在のところ民間の工員や対空砲の操作要員が半々を占めるが、艤装工事を終了し次第次の寄港地で工員を降ろし、代わりに補充の対空要員や寄港地で先回りして乗艦を待つ残余の乗組員を乗り込ませることになっていた。特に対空火器を含めた兵装操作にあたる要員は最終的に千五百名に達する見込みだった。これは当初の想定を大幅に上回る数である。


 対空要員の人数が多い傾向が見られるのは何もハンティントンに限ったことではない。レムリアとの戦闘はその開戦当初から高過ぎる対価を伴ってラジアネス軍に対空戦術の重要性を認識させることとなった。当然各艦ともに対空兵装を充実させる過程でそれを運用する人的資源の需要が増大していくこととなる。後に大量養成された兵員の補充がスムーズに進むようになると、戦艦や空母などの大艦では乗員の三~四割が対空要員で占められるケースがざらで、小艦に至っては対空戦に特化した結果として設計時の想定乗員の一.五倍の乗員を抱え込むことになった艦も続出することになるのだ。


 軍艦はそれ自体が強大な戦術単位であり、それ自体が一つの巨大な生活空間である。乗員が増えれば増えるほど、それだけ付帯設備の充実を強いられることになる。特に複数の兵科の連携によって運用される航空母艦はその傾向が顕著なものとなる。食堂、シャワールームはもとより乗員専用の医局、歯医者、乗員専用の売店(PX)、郵便局、トレーニングルーム、図書室……それらの設備を運営、維持するだけでもかなりの人間が必要であるし、空母自体にもある程度の生産能力が必要とされる。艦内の医療区画は平時には最大四十名の患者収容能力を持ち、売店(PX)は艦内に四箇所設置されている。少量ながら航空機用の消耗部品の生産能力も持つ上に、推進機用タービンを利用した大気液化装置の産物として、ハンティントンは一日に八十万リットルの真水を生産し、その食堂は一日に最高一万食の給食能力を持つ。


 このような巨大な戦術単位を運用するからには財政、技術、社会システムの面で様々な強固な裏付けが必要となる。要するに国力である。その点で「地上世界唯一の統一政体」たるラジアネスは敵手たるレムリアより遥かに恵まれていた。戦争遂行に際し最も威力を発揮するのは最新の兵器でも優秀な軍組織でもなく、その戦争行為を支える工業的、農業的な生産力である。全面的な軍事的衝突――つまり、総力戦――の場合、莫大な物資の生産、供給能力は長期的にはそれに劣る側のあらゆる戦略的、戦術的な優位と努力を瞬く間に帳消しにしてしまうことが多々あるのだった。だがラジアネスの場合、その強大な生産力が戦争遂行に際し巨大なダイナモと化すにはこの時点ではまだまだ時間が必要であった。


 ――午前の訓練を終了したカズマは、黙ってウレスティアン‐タマゴ艦上戦闘機の容姿を眺めている。

 お世辞にも格好がいいとは言えない。だが愛嬌のある外見だとカズマは思い始めている。愛嬌と言うのはつまり、ジュラルミン塗装にぎらついたずんぐりとした胴体と、そこからピンと延びた複葉の主翼が古めかしくも愛おしく感じられた。


 気流を拾い易い複葉の恩恵もあって着艦はやり易かったが、それに加えて日本にいた時、延長教育で空母への着艦訓練を経験していたことがここで役に立った形だった。ただ空の上と海の上を行く空母の違いは、前者の方が目測を誤って海に突っ込む心配をしなくて済む、といったところだろうか……もう少し合理的に自身を納得させうる着艦の「コツ」を、いまのカズマは探している。


「――とにかく、自分の乗る飛行機を黙って見てれば判るのさ」

 それは昔のこと、カズマの師、星野分隊士はそう言っていた。上手い飛ばし方が判らないとき、もっと上手く飛ばしたいとき、どうすればいいのか? というカズマの問いに対しての答えだった。

「見るだけで、いいのですか?」

「黙って見てれば、そいつがどんな飛び方をするか、どんな癖を持っているかが少しずつ判るってくる。黙って見ながら、そいつを自分が操縦している光景を想像するんだ。実際飛ぶ傍らにやって見ればいい。そうした方が、想像力もついてくる、イザという時どういう操作をすればいいかも判って来る」

「なるほど……」

 分隊士は、カズマに聞いた。

「ところで、弦城は、何故予科練に入った?」

「…………」

 カズマはうつむいた。いずれ召集され戦争に行くのならかっこいい配置の方がいい……そんな単純な思考が、カズマを空へと向かわせたのだから――このご時世にそんなことは、口が裂けてもいえなかった。

「言って見ろよ」

 星野分隊士は、笑いかけた。丸い黒眼鏡を貫く暖かい視線が、カズマの瞳をじっと見据えていた。煉獄をくぐった勇士が醸し出す男臭い笑みに、カズマは逆らえなかった。

「楽を、したかったからであります。地上より楽そうでしたから……」

 言い終えたところでカズマは目をつぶった。分隊士は怒り出すのではないか。彼は本気でそれを恐れた。

 だが、分隊士は笑った。沸き起こった爆笑を押さえ込むようにすると、星野はカズマの肩を叩いて言った。

「ハハハハッ……そいつは俺も同じだ。俺は航空に進む前は戦艦の砲手だったが、航空(こっち)の方が楽そうだったんで航空隊を志願したまでさ。ま、俺の乗ってた戦艦(フネ)も今じゃあソロモンの海の底だがな」

 星野分隊士の手が、カズマの頭に延びた。伸びきった髪の毛をクシャクシャにするように撫でると、彼はカズマに言った。

「空で死ぬ方が地上や海の上で死ぬよりはるかに上等(マシ)ってものさ。何せ天国に近いからな」

「……そうですね」

「もっとも、俺が天国に行けるかどうかは判らんが……」

「行けますよ、行けなきゃ自分が連れて行きます」

「……その心意気だけは買うぜ。あんがとよ」

 カズマの頭に触れながら、分隊士は空を仰いだ。あたかも南方のぎらつく日差しに抗うようかのように、黒眼鏡がきらりと光った。同じくカズマも空を仰いだとき、哨戒任務から帰った二機の零戦が高速で二人の頭上を駆け抜けていった……それは、昭和十八年の半ば頃、まだラバウルが多少なりとも楽園の面影を残していたときのことだ。以後ラバウルは急速に連合国軍の反攻作戦の矢面に立たされ、「搭乗員の墓場」として膨大な機材と人命をその海と空の(はて)に飲み込んでいくことになる――


「カズマッ! あんた邪魔!」

 カズマの回想を女の声が破る。癇の高い声の持主は背が高く、臍を丸出しにした薄手のシャツに、豊かな胸と引き締まった背筋を覆った女性の姿となってカズマの傍に立っていた。男の興味を強く惹く筈の均整の取れた女体よりも、カズマにとっては顕わになった上腕で揺れる刺青(タトゥー)の方が珍しく、そして奇異に見える――翼を生やしたハートの紋様。天辺で束ねられた青黒い髪の毛がくすんだ金色に染められているのも相変わらず、小振りの丸眼鏡を貫くようにカズマを睨みつける茶色の瞳が、対象に対するじっとりとした、隔意溢れる光を湛えていた。


 ハンティントン整備小隊長補佐のマリノ‐カート‐マディステール空兵少尉。腕のハートだけでは無く、外見ではわからないが脚に女神の刺青、腰に茨の刺青など、「空兵の(たしな)み」としてマリノが身体の各所に墨を入れているという噂を、カズマが同乗の女性兵たちの会話を聞いて知っている。さすがに彼女の前で、「まるでらくがき帳みたいな身体だな」という感慨を口に出すことは無かったが……


「今から翼を畳むんだから。其処どいて」

 カズマを退かせ、マリノは手にしたトルクレンチとバールを器用にアタッチメントに突き立ててロックを外すと、本来なら二人掛りで畳む主翼を一人で畳み始めた。翼を抱える彼女の腕の筋肉が隆々と震えるのがカズマにははっきりと見えた。

「マリノ、手伝おうか?」

「いらないっての!」

 マリノはぶっきらぼうに言った。そして続けた。

「あんたさ、さっきからずーっとタマゴを見てるけど、コイツの何処が良いわけ?」

「……見てたら判るんだよ。コイツの上手い飛ばし方が」

「ハァ? カズマ、あんたがどうあがいても飛行機ってのはね、性能以上には飛んでくれないんだよ? 判ってる?」

 呆れたように、マリノはカズマを見据えた。訝りと嘲りが、多分にそのつぶらな瞳には含まれていた。翼を畳み終わったところで、手信号で格納庫上の管制盤に合図を送る。数秒の間を置いて、タマゴと二人を乗せたままエレベーターが絶叫のような轟音を上げて下の格納庫へ向けて下がりだした。エレベーターがベルを鳴らしつつ下まで下がり切ったところで、機体から離れようとするカズマの襟をマリノは掴んで引き戻した。

「ホラッ、あんたも手伝うっ!」

 機体を押して、収納するのである。


 エレベーターはハンティントン艦体に上下二層存在する内の上部、第一、第二格納庫の所在する層で停まった。上層の第一、二格納庫、そして下層の第三、四共に主翼を畳んだ艦載機一機を通す程の幅を有する交通路一本でこそ繋がっているが、相互の格納庫の間にはハンティントンの心臓と言うべき機関部と、翼とでもいうべきフラゴノウム反応炉が収まっている。モック‐アルベジオを出て直ぐに行われた艦内見学の際、カズマは艦内に三基存在する反応炉のうち一つの稼働ぶりに、文字通りに度肝を抜かれた。


 俗に「プール」、あるいは「ティーポット」とも呼ばれる、水を満たした巨大な風呂窯を思わせる反応炉、その中では棒状に結晶化され蜂の巣状に組み上げられたフラゴノウム鉱石が、浮遊作用の臨界に達したことを表す青い光を眩いばかりに放っている。機関部のボイラーから送られる高熱の空気により加熱された炉内の水がフラゴノウム結晶を熱することで巨艦は揚力を得、ハンティは自在に空を行くという寸法であった。浮沈の加減は炉内の温度調整によっても為し得るが、主に制御棒と呼ばれる特殊合金製の遮蔽材をフラゴノウム結晶内に出し入れすることにより行われる。フラゴノウムは結晶個々の発光を感知することで生じる共鳴作用によりその揚力を倍加させる性質があるため、耐熱、耐腐食性に優れた遮蔽材を以て結晶間の連鎖反応を加減速する……という仕組みであった。


 水熱によりフラゴノウムを臨界させ、反応を制御するのは、結晶に対する直接の過熱では反応が急激に過ぎ、ともすれば莫大なエネルギーの連鎖放出――具体的に言えば「爆発」――を引き起こすからである。事実、航天暦一八世紀中期に反応炉の原理と制御技術が確立されるまでは、フラゴノウム制御には熟練した個人技量と細心の注意が必要とされ、それが伴わないばかりに空路開拓事業の途上では数多の悲劇が発生したものであった。特に浮揚に莫大な量のフラゴノウムが必要な大型船ほど事情は深刻で、事実反応炉方式の実用化以後、飛行船舶の大型化と建造方式の合理化が急激に進行したというのが、多くの史家にとっての共有された認識となっている。


 ――再び、ハンティントン。

 薄暗い周囲を見渡すと、タマゴの他にBDウイング、CAウイングといった艦載機群が主翼を畳まれた状態で所狭しと並んでいるのが見える。甲板に収容しきれないものは分解され、天井に吊るされて収納されるほどの徹底振りだ。上層でも感じられた燃料や弾薬、金属の混ぜ合わさった独特の匂いが、ここではいっそう濃い配合で空気中を漂っていた。但し旧い上に統一感の無い搭載機群の姿に、カズマは内心では不安を覚えている。今すぐ用意できるだけの飛行機をかき集めてでっち上げた「空母の様な何か」――少なくとも戦うためのフネの在りようではないと、カズマは思った。格納庫の配された第一層、二層の下――つまりは艦底にハンティントンはもうひとつ飛行甲板を有している。ただし上部の飛行甲板が運用上のメインである現在、最下層の飛行甲板も専ら格納庫として使われる運命にあった。こうして収容能力をフルに使った状態では、ハンティ単艦の収容艦載機数は最大百機にも達する。


「カズマ、押して」

 マリノに促されるがまま主翼を掴んで、全体重を掛けて機体を押す。ゆっくりと動き出した機体に寄り添うようにしながら、カズマはマリノに聞いた。

「タマゴって、いい飛行機だよ」

 訝しそうな視線で、マリノはカズマを睨んだ。

「何処がよ?」

「いや……何となく」

「パワーが無い、ケンカが弱い、アシが短い、おまけに寸胴……ダメ男の典型みたいな飛行機じゃない。まるであんたみたい」

 カズマは、少しむっとした。

「ケンカは強いと思うけど?」語気が少し荒くなった。

「そういうことはコイツでレムリアンを撃墜(おと)してみてから言ってよね?」

 てんで取り合わない、といった感じでマリノは言い放つと、早足で去っていった。形の良い、熟れた洋梨を思わせる丸みを帯びた尻が、歩く度に優美に揺れたが、カズマはそっちの方には点で関心が無い。マリノが去った後で、カズマはタマゴを見上げた。前のレムリア軍機三機撃墜の記憶が、自然と脳裏に浮かんできた。

「おまえ……いいやつなのにな」

 ポツリと出た言葉とともに、エンジンカウルを撫でる手が滑らかに滑った。



 パイロットだが、階級では兵士のカズマは、兵員食堂で昼食を採る。

 本人の意思は別として、客観的に見ればこれでも結構恵まれた立場にカズマはいる。飛行士だが兵士というのは通例では教育課程にあることを意味している。当然学生の身分では空母に乗せてもらうことはおろか実戦部隊で実戦機の操縦桿を握ることすら許されない。本来ならクビに怯えながら地上で練習機の操縦桿を握っているところを、カズマの場合実戦部隊に身を置いてさらには実戦機を操縦する立場にあるということは、逼迫した戦況もさることながら、第187飛行隊長バートランド少佐の配慮も有効に働いていたのであった。格別の配慮とはいっても、飛行隊内での配置は「飛行隊長付」という、スポーツの世界ならば補欠扱いと同じような極めて宙ぶらりんな立場ではあったが……とにかく、バートランドが「書類上は」何の実績も無い飛行学生風情を前線に引っ張ってくるのに、相当の無理をしたのは確かである。


 部屋は、兵員集会所を改造した大部屋の一角を割り当てられた。カズマと同時に同じ階級の十数人が寝起きするという光景はかつてのモック‐アルベシオの訓練施設と変わらない。ただ、陸上の教育部隊とは違って作戦行動中の空母では勤務時間が各兵科、個人ごとに不規則なため、一人が寝床に着けばもう一人が起き出して配置に付くといった光景が引っ切り無しに繰り返されることになり、おまけに構造上飛行甲板の直下に位置するこの部屋では着艦の度に不気味な振動音が部屋一帯に鳴り響くので、このような場所でぐっすりと眠るのには多少の慣れと神経の頑健さが必要だった。ただ、むき出しの二段ベッドを宛がわれた訓練施設と違ってここのベッドには厚手のカーテンが付いているので、ある程度のプライバシーが確保できるところが嬉しいところといえる。


 話を戻す。

 何しろ前例の無い、稀有な存在ではあるから、「延長教育中の飛行学生」もしくは「政府軍で最も階級の低い実戦部隊パイロット」ということでカズマはたちまち航空科はおろか他の科の人間にまで顔を覚えられる存在となってしまった。

「学生さん、チョコレート食いたいか?」

「え、くれるの?」

「俺に食わせてくれよ」

 ごった返す食堂のカウンターに並ぶ列の中、給食班の兵士との間に、こういう冗談めいた会話も成り立つほどだ。


『――明日は楽しいデート

寝る前に少しおめかしをしたの

うっすらと塗った口紅が

きれいねと鏡の向こうの私が

語りかけてきそうな雰囲気に

私は眠気をわすれたわ――』


聞き覚えのある歌が、艦内放送局の放送を流すスピーカーから流れてくるのが聞こえる。透明感のある、まだ子供の面影を声の端々に残すそのアイドル歌手がフラウ‐リンという名であることをカズマはすでに知っていた。この世界では特に、男性に格別に人気のある歌手らしかった。


『――私の心はすでにあなたのもの

あなたの輝く空へ私の心からの愛の言葉が届きますように

銀翼きらめかせて、熱い戦いの場へ赴くあなたの元へ

私の心からのエールがとどきますように――』


 先程の歌が終わると、間を置いて次の曲が流れる。「パイロットに送る歌」という名の新曲だった。曲を軽く聞き流しながら、軽く惣菜を皿に盛って席に着いたとき、歌が中断し、スピーカーが空電音をガリガリ立て始めた。何かの訓辞が始まるのだ。次第に静まり行く喧騒の中、マッシュポテトを頬張りながらカズマは聞き耳を立てていた。

『――総員へ告ぐ、こちらは艦長である。これより本艦は残余の艤装を終了し、カレースタッドへ向かう、途上で他空域に展開する友軍艦艇と合流し、第001任務部隊を編成。当地に終結を果たした後、本格的な訓練に移行する。訓練期間終了の暁には、近い将来の南大空洋に対するレムリア軍の侵攻に備え当該地域の居留民の救出作戦を支援することになるであろう。総員の奮起を期待するや切である。以上』


「おい、第001任務部隊だってよ」

「そんな名称、初めて聞いたぜ」

 作戦に応じて各部隊から自在に艦艇を抽出し、戦闘単位を編成する――従来の艦隊、戦隊単位で作戦を行うという方式を覆すこの「任務部隊」方式は緒戦の大敗によって発生した戦力の不充実ぶりを補完しようとする艦隊司令部の苦肉の策であった。そしてこの方式が強大なレムリア軍相手に、何処まで通用するかその実力、効用の程は未知数であった。困惑と不安、そして戦闘への欲求が、お互いの視線の交錯を介して周囲に拡散しつつあった。怪訝な顔で、兵員達は互いの顔を見合わせていた。


「俺たち、これからどうなるのかな」

「さあ……」

「おい! あれを見ろ!」

 一人が舷窓を指差した。多数の視線が其処に集中する。舷窓の向こう側には細いフォルムを持つブファリス級駆逐艦が一隻、推進器(プロペラ)の回転数を微妙に調整しながらこちらへ近寄ってくるのが見えた。他の港から出航し、新たに合流してきた艦であった。駆逐艦の艦橋の一端が、先程からチカチカと光っているのが見えた。ハンティントンと発光信号のやり取りをしているのだった。艦橋からは多くの乗員が出て一群の人だかりを作り、こちらを伺っているのがわかった。よほどこちらが珍しいのだろう。


 そろそろ戦闘か――冷めたコーヒーに、カズマは目を落とした。戦闘に参加する……それは、カズマにとって必ずしも本意ではなかった。しかし結果として、空を飛ぶ代償としてカズマは戦いに赴くことを選んだことになる。


「…………」

 面白く無さそうな表情で、カズマはフォークでオムレツを突付く。オムレツにまだ見ぬ敵機の機影が、何となく重なっては消えた。



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