ゾンビの登校
◆◆◆◆◆登校中◆◆◆◆
雲の切れ目から朝日が漏れ出る秋の空。それは寒々しい乾いた空気と見事にマッチし、私に爽快感を与えてくれる。
しかしながら乾いた空気は私の潤った肌から水分を奪って行く。それが玉にきずだ。
ちなみに今は登校中、腹を下したタケゾーを置いてヨーコと登校中だ。
「ハァー、外は一段と寒いッスね〜、凍え死ぬとはまさにこのことなりけりそうろういそうろう」
手に息をはいて少しの暖を取るヨーコ。
秋のくせにコート+マフラー+耳当てを着用しているヨーコ、それほど寒い。まぁ、私は丈夫だからそんな重装備はしていない。私がしているのは手袋ぐらいだ。
「ユーナちゃ〜ん、手袋貸してくれまいか?」
手をこすり合わせながら懇願な一言。呆れるとはまさにこのことなりけり。
さっきも言ったが、こいつはコート+マフラー+耳当ての重装備、なのに何故か手袋はしていない。
「全く…そんな重装備をしておいて手袋をして来ないとはどんな了見なんだ……」
頭を抱えるな、この間抜けさは。
「いやー、あっはっはっは〜忘れちゃったッスー」
あっけらかんとした吹っ切れた良い笑顔。こんな笑顔を出せるやつはヨーコだけだろうな、見てる私まで笑顔になりそうだ。
「お願いッス〜ユーナちゃん」
こんな笑顔を見せられたら渡さない訳にはいかない、そうゆう気にさせてくれる。
「ユーナちゃん〜」
「分かった分かった……。分かったからくっつくなッ‼離れろッ‼」
言ってなかったが、ただいまユーナは私に抱きついている。それも冬用のモフモフコートで。
さすがに暑いったらありゃしない。
「ありがとッス!サンキュー!」
「だからさっさと離れろ‼暑い‼蒸す‼」
体を引き剥がそうと力を入れるも、ユーナの抱きつきから脱することはできない。どんだけ怪力なんだ、単に私が非力なだけかもしれないが
「それにしても締め付け過ぎだッ…くっ……」
キシキシと体から不穏な音が聴こえてくる、ヤバい…このままでは…締め殺される……
こんな時の脱出法、その一
「これでもくらえ!」
こちょこちょこちょこちょ……
手袋を外し、ヨーコの首すじにダイレクトアタック。
「キャー!冷たい!くすぐったい!ユーナちゃ冷たいッス!まさに、悪魔のダブルパンチやー!ひゃひゃひゃ!」
とかお気楽に長文を言いながらも私から離れる。
ようやく脱出成功。
「ふぅー、ヨーコは加減を知らないのか、危うく死ぬところだった」
ただ抱きつかれただけで命の危険を感じる程の馬鹿力、見た目からは想像もできない馬鹿力。知ってはいたがやられるとなるとやはり焦るな。
そこでヒューと風が通る。
「ひゃっ!寒いッス!」
顔をしかめるヨーコはそんなことを言っているが私は違う。
あの地獄から解放された後の秋の風は涼しいったらありゃしない、まさに風呂上りの濡れ手ぬぐいだ。不思議と体がフワ〜っとする。
あー、癒される〜
「ではでは、早速着用」
寒いからと体を小さく丸めたヨーコは、いつの間にか取られていた私の手袋を何のためらいもなく装着。
すると表情が一気に柔らかくなり——
「あ〜温もりー、ユーナちゃんの温もり〜……が無い!ないッスよ!温もりないッス!」
一気に驚愕。先ほどとは一変して信じられないと言いたそうな表情だ。
「どーゆーことッスか⁉ユーナちゃんの温もりが感じられないぃぃィング‼」
一気に発狂。こいつのテンションも信じられないほどオーバーだな。
「そんなに驚くものか?私はもともと体温は低い方だが」
「それにしても低く過ぎッスよ!何もないじゃん!温もりゼロじゃんッス!ゼロッシュ!」
温もりゼロって……少し傷つく所があるな…
そんな私の表情を見たのか、ヨーコは私の前に立つと
「ごめんなさい!デリカシーなくって!傷つくことを言って!申し訳ないッス!謝りィング!」
腰を曲げて謝りスタイル。
「いや、良いんだ、謝る様なことじゃない。ちょっと気が沈んだだけだ、心配することはない」
「苦笑いしてそれを言われても納得できないッス!自分、覚悟を決めやんした」
体を上げ、いきなり時代劇風な口調になったヨーコ、そして表情も腹を括った様にキリッとする。
嫌な予感がする…
「いや、別に気にしてないから、大丈夫だから」
今のヨーコに私の言葉は届いていなさそう、そのくらい表情が据わっている。
そしてヨーコはそそくさコートを脱ぎ
「これもっててくれまいかそうろう」
「あ、うん」
そしてセーラー服を肩までまくると、意味深に私の手袋をした左手を前に突き出す。
「この落とし前……私の腕をかけやんす!」
右手で突き出した左手を掴むと、そのまま左手を引きちぎった。