アラクネ
「知ってますか?
昔、昔、まだ神々が生まれる前の話
ある家にとても美しい娘が居たそうなんです
母と共に住むその娘は針仕事がとても上手で母親の自慢でした.
そんな娘も年頃になり嫁に行ったそうな
数年後彼女の母が床につき、
その死の間際に愛しい娘に会いに来て欲しいと使いを出したそうな、
しかし娘はこういった:
『針仕事があり其方に向かうことはかないません』と、
其れを使いのものから聞いた母親は
悲しみ、嘆き、叫び、激怒し そして死の間際にこう言った:
『そんなに針仕事が好きなら一生をかけて其れをすればいい
目が二つで足りないだろうから八つ与えよう
糸を切るために鋭利な物が必要だろうからその顎に生えさせよう
手も足りぬ様だ後六本与えよう
仕事にその美しい容姿は要らぬだろう
今のお前に相応しいものをやろう
我が娘よ、私の呪を受けるがいい!』と
そして母亡き後娘は彼女の呪のとおりの姿となって
私たちの知る蜘蛛となったんですって。」
そう、私に言ったのは、最近レース編みの教室で知り合った女性だった。
主婦である私はもともと興味があったこれを始めるのは自然なことで、
近所にあるその教室に行くその時間はとても楽しいものだった.
自分の思い通りに素敵なものを作り上げる
其れは、今の私を無垢な少女に戻す時間でもあった。
彼女はその教室でいつの間にか私にアドバイスをくれるようになった女性だ
何時始めて会話したのかは実は覚えていない、只いつの間にか其処に【居た】のだ。
彼女の作るレースでの編み物は彼女自身のように美しかった
同じようにやっていてこの違い、嫉妬すらも浮かばないほどの完成度
何故この教室に居るのかがいつも不思議だった
それでも何度か話すうちに私の家に来るようになった
二人で編み物をしたり話したりするのが最近の日課だ
「何で急にそんな話しを?」
そう、何時もの様に編み物をしてるときに唐突に先ほどの話しをされた
彼女の話は偶に可笑しな方向に行くがこういうのは初めてだった。
「さっきね、電話、聞いちゃったんです」
「お母様が危篤なのでしょう?会いに行かないのですか?」
「いくら仲違いしていてもこのまま合わずにいると後悔しますよ?」
これには少し眉をひそめた
おかしい、私は彼女に母と仲違いしてることも、
そしてその母が危篤であることもいっていない、
そもそもその電話がかかってきたのは彼女が来る前だったのだ
何故、内容を知っているのだろうか?
まあ、其れはさておき
「貴方に関係はないでしょう?どうやって電話の内容を聞いたのかは知らないけど
これはうちの問題なの、部外者の貴方は黙っててくれないかしら?」
少しきつい言い方をしたのかもしれない、でもこれが私の正直な感想だ。
いくら親しくてもやっていい事と悪い事がある
増してや家庭のいざこざに首を突っ込むのは一番だめだ
もし何かあったとき彼女が責められる
私ならまだこの程度で済むが他の人だとそうは行かないだろう
それで彼女が傷つくのは見たくない。
暫くの間沈黙が私たち二人を包んだ
うつぶいていた彼女が頭を上げた
そして何らかの決意をしたのか
静かに私に語りかけた
「其れでも私は口を挟みます.
貴方はこんな私を友人とし今まで接してくださいました
私の編んだレースをほめてくださいました
嫉妬すらせず、妬みもせず、排除もせず只ありのままの私を受け入れてくださいました
私が今後何らかのトラブルに会わないように今厳しく諭してくださいました
そして今貴女は在りし日の私と同じ過ちをしようとする
其れを止めるのは友人としての義務だと思うのです
お願いです、貴方の母親に会いに行ってください
【過去】に何があったのかは知りません
でも、【今】なら分かります!
今!あなたは彼女を許している!
同じ立場になって彼女の心情が分かって、もう許しているんです!
タイミングがなくて其れを言葉にしていなかっただけです!
お願いです!お母さんに会いに行ってください...
彼女が死んだ後では後悔しかできないのですよ...?」
涙をためた瞳で彼女は私を見た
その瞳の奥には切ないほどの後悔と悲しみを見た気がした
ああ、だめだ、今の私は彼女にどんな事を言うのかわからない
一度冷静にならなければ。。。
「帰って」
「..ッ、あの!」
「お願い今は帰って!」
「分かり..ました、お邪魔しました...サヨウナラ」
「っまって玄関までおくっ_」
顔を上げたら、つい先ほどまで喋っていた筈の彼女が消えていた...
まるで蜃気楼のように、最初から居なかった様に
淡く、寂しく、消えていた_
どれ程の間そうしていたのだろう
私はそのまま佇んでいた
しかし冷静にはなれたようだ
急いで支度をし、家族へと宛てたメモを置き、実家へと急いだ
玄関から外に出るとき、蜘蛛の巣を見た
その美しく、励ますような【ソレ】はまるで彼女が私を励ますような気さえした
息を吸い込み自身に気合を入れて、私は母の元へと急いだ...
数日後、母は天に召された。
だがその最後の日々は私にとって、そして彼女にとっても、穏やかで優しい日々だった。
喪が明けた後彼女にお礼を言いたかったのだが
彼女の連絡先を聞いていないことに気づいた
仕方がないので教室に行き会おうとしたのだが...
誰も 彼女のことを 覚えていなかったのだ...
まるでその存在が最初から居なかったかのように
同時に気づく彼女の名前を知らないことに
普通なら此処で背筋が凍り、恐れるべきなのに、
私はそんなことは一切なかった。
ただただこう思ったのだ
あの時のサヨウナラはそういう意味だったのだと...
もう二度と、彼女に会えないと...
瞬間、目に付いた蜘蛛の巣
あの日、彼女と最後にあった日と同じ場所にあった巣
今度はまるで安堵したかのような気がした
其の時思い出した彼女の言葉
《私の編んだレースをほめてくださいました
嫉妬すらせず、妬みもせず、排除もせず只ありのままの私を受け入れてくださいました》
排除、そう彼女は言っていた
ひとつの仮説が私の中に組み立てられる
まさか、彼女は...
穏やかな風が吹く
蜘蛛の巣を優しく揺らし
そのさまはまるでこの考えを肯定しているようだった...
如何でしたでしょうか?
少し意味不明になってしまいました...
感想待ってます(ペコリ)