夏休み2日目の朝
心地よい眠りを溶かすように、朝の日差しは瞼を通り抜けて眩しさを覚えさせる。
あぁ、もう朝か…
梓はそう思いながら、まだ半分は眠っている脳に逆らうように左目だけあけてみる。
枕元に置いてある目覚まし時計は、6時半を少しばかりか過ぎたところだった。
まだ、起きる時間ではない。なんせ、夏休みが始まってまだ2日目なのだから、もう少しは寝ても良いだろう。そんな事を思っている間にも、左目は眠気に負けてしまった。
夢と現の間。あといくぶんもすれば、再び心地よい眠りにつける。
すぅ…と息を吸い込んだ時、何かが廊下を駆け抜ける音がした。
「ばーちゃん!おれの虫かごどこにあるのー!?」
間違いなく弟の、桔平の声だ。
やめてくれ…!私の私の眠りを妨げないでくれ…!!
うるさいっ!と叫ぶために口を開けた瞬間、梓の部屋と廊下を遮っていた障子が勢いよく開け放たれた。
「ねーちゃんいつまで寝てるんだよ!!今日カブト虫とりにいくって、約束したじゃないか!!」
あぁ、とんだ約束をしてしまった。
「おれ、虫かご探して来るから!その間に準備してよ!」
そう言い残して桔平は、また廊下を走って行ってしまった。おそらく、虫かごが見つからなくて機嫌が悪いのだろう。
小学校の終業式の日、学校へ行く直前に話をふってきたのは桔平だった。今年小学5年生になった桔平は、国語と社会が苦手で、4年生の時の成績も2つの教科は良いとは言えなかった。
「おれ、1学期は国語と社会頑張ったから!二重丸が2つの教科合わせて4個以上あったらカブト虫とりに行こうよ!」
ちなみに、桔平の4年生の最後の成績は二つの教科あわせて2個しか二重丸はなかった。
だから梓は
「来週の日曜日ならいいよー」
と軽々しく返事をしてしまった。
その日桔平が持ってきた成績表には国語と社会合わせて5個も二重丸がついていた。
しょうがない、約束してしまったのだから…
寝ていたいという気持ちは依然として消えないが、桔平に泣かれては後が面倒だ。
そう思いながら、梓は怠さを感じながらも起き上がって、朝食を探しに台所に向かった。