エピローグ
「真生! 学校に遅れるわよ~。早く起きなさい!」
最近、霊奈が毎朝起こしに来てくれるのは良いが、敷き布団ごとベッドから放り投げて起こすのは勘弁してほしい。幽奈さんのように、もうちょっと優しく起こしてくれないかな。
――まあ、もっともベッドから落ちた時の俺と霊奈の位置関係によっては、既に制服姿の霊奈のスカートの中が見えることもあるから、その日の運試しにはなっている。ちなみに今日のような白と青のストライプの時は午前中がラッキータイムだ。
「真生! どこ見てるのよ! 変態!」
そ、そんなところを踏みつけるな! また死ぬだろうが!。
スカートの中を見られたくないのであれば制服に着替える前に来ればいいじゃないか。まったく、霊奈の家庭内暴力はエスカレートする一方のような気がするぜ。
――でもまあ、お陰で遅刻をすることなく学校に行けているしな。って、あれっ、……そういえば霊奈の奴、俺に一人で学校に行けって言ってなかったっけ? ……結局、獄界に来てからずっと霊奈と一緒に学校に行っているなあ。……まあいい。とにかく早く着替えないと遅刻だ。
俺も制服に着替えてダイニングに降りて行った。
その日の食卓には珍しく龍岳さんもいた。家族全員で朝食を食べるのは久しぶりだ。
テレビでは、体調不良で総理を辞職した鬼崎議員が議員も辞職すると発表したこと、そして新しい総理には薫風会の代表者である党幹事長が就任する予定であると伝えていた。龍岳さんの派閥がいよいよ総理派閥となったということだ。龍岳さんにも幹事長への昇任打診があったようだが断ったようだ。
鬼崎元総理については、自首されると現在の厳しい情勢から党に大打撃になるということで、党の最高幹部会で事件として警察には通報しないということになったが、鬼崎議員の永久追放が決定され、「獄門の番人」による監視が許されたのだ。
政治のニュースが一段落すると龍岳さんがテレビの電源をリモコンで消した。
みんなが龍岳さんに注目すると龍岳さんは俺の顔を見ながら話し掛けてきた。
「真生君。儂から君にまたお願いがある」
「はい、何でしょう?」
「儂の養子になってもらいたい。儂の息子になってほしい」
思いもよらぬ言葉だった。確かに俺の肉体は元々は龍真さんの肉体でその中には俺の霊魂と一緒に龍真さんの霊魂も宿っている。俺の半分以上は龍真さんなのだ。しかし、俺は永久真生でもある。
「お父様」
「どうして?」
みんな、龍岳さんの突然の申し出に驚いていた。どうやら三姉妹にも相談することなく龍岳さんが一人で決めたことのようだ。
「真生君なら儂の後継者になれるはずだ。表でも裏でも。これから霊奈と一緒に儂の力になって欲しい」
「私と一緒にって……、お父様、それはどういう意味なんですか?」
霊奈が慌てた様子で龍岳さんに問い質した。俺も訊きたい。
「いや、そんなに深い意味は無い。一人よりも二人で協力してもらうと儂も安心できるということだ。それとも霊奈は真生君とずっと一緒にいたくはないのかな?」
「な、何を言っているんですか、お父様」
思わず俺と目が会った霊奈は顔を赤らめながらそっぽを向いた。
「妖奈はずっと真生兄ちゃんと一緒にいるからね」
「ちょっと! 妖奈ちゃん」
妖奈ちゃんが俺の側に寄って来て腕を組んで身体をすりすりしてきた。……妖奈ちゃん、嬉しいけど朝から刺激が強すぎだ。
「私も真生さんがいてくれたらご飯の作り甲斐があるというものです」
幽奈さんも俺のお代わりしたご飯をよそおいながら微笑んでいた。
「幽奈さんまで~」
「すぐに返事をくれとは言わない。じっくり考えてほしい。霊奈、……良いかな?」
「……まあ、みんながそう言うのなら……仕方が無いわね」
霊奈は口を尖らせながらも嬉しそうに見えるのは俺の気のせいか?
「真生君。また学校が休みの時には、儂の後援会事務所にもちょくちょく顔を出してやってくれ。みんな君に会いたがっているようだ」
「そ、そうですか。分かりました」
「そうだ! せっかくだから霊奈も一緒に行って二人で演説すれば? なんだか夫婦漫才みたいで面白いかも」
「止めてよ、妖奈! 何で私が真生と一緒に夫婦漫才しなきゃいけないのよ」
「良いじゃない、もう夫婦みたいなもんだから」
「え~っ! な、何を言っているのよ!」
「知っているよ。霊奈が真生兄ちゃんのお弁当を作ってあげたいからって言って、幽奈に料理を教わっていることを」
「えっ!」
霊奈が驚いて幽奈さんの方を見たが、幽奈さんは苦笑しながら首を横に振るだけだった。
「妖奈! あんた、鎌掛けたわね!」
「あれえ、図星だった~?」
「妖奈!」
食卓の周りを逃げる妖奈ちゃんを霊奈が追いかけて、その二人を龍岳さんと幽奈さんが笑顔で眺めていた。
――やれやれ、朝から騒がしい家だ。でも、…………地界で俺の供養をしてくれている親父とお袋と美咲には悪いが、この家の居心地はすこぶる良い。本当の家族として、御上真生として、この獄界で生きることも悪くないな。
こうして死んだ俺の新しい人生が始まった。




