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Powergame in The Hell   作者: 粟吹一夢
第六章
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復讐(2)

 その日の夜。

 俺は新しく支給を受けたエア・スクーターに乗って、霊奈と一緒に都心に向かっていた。中央官庁街の中心に広々とした敷地の国会議事堂があり、その隣に総理官邸があった。

 霊奈はソウルハンターの女性用制服である黒のゴスロリドレス、俺も新しく支給を受けたソウルハンターの男性用制服であるタキシード調スーツを着ていた。

 俺と霊奈は総理官邸の近くにエア・スクーターを停めて、総理官邸まで歩いて行った。

 総理官邸は、内閣の執務事務室などのパブリックスペースと、総理の家族の住居であるプライベートスペースを併せ持つ、全面ガラス張りのような五階建ての建物だった。目には見えないが当然、人工結界が張られているだろうし、塀の周りにも武装警官が巡回していた。正門も大勢の武装警官が警備をしていた。

 俺と霊奈は正門から堂々と乗り込んで行った。当然、警備の警官に止められた。

「止まれ! 何の用だ?」

「総理に話があって来ました」

「誰だ?」

「神聖自由党の御上副幹事長の娘、御上霊奈です」

 霊奈はIDカードを見せながら言った。

「そちらは?」

「同じく御上副幹事長の秘書、永久真生です」

 俺は沙奇さんから借りた男性秘書のIDカードを見せた。

 警備の警官達の言葉使いが変わった。そりゃそうだろう。龍岳さんは世間話をするだけでも総理とすぐに会うことができる実力者だ。その娘と秘書が来ているんだ。話も聞かずに追い返すことがあったら後で責任者の首が飛びかねないからな。

「アポはお取りですか?」

「いいえ、緊急の用件なので取っていません」

「それでは少々お待ちください」

 武装警官の一人が正門横にある詰め所の電話で連絡を取っていたが、しばらくして俺達の近くまで戻って来た。

「残念ながら、総理は現在来客中であり、本日はお会いすることはできないということです」

「国会は閉会中で、それにもう午後十一時だというのに、まだお客様の相手をしなければならないなんて、やっぱり総理ともなるとお忙しいんですね」

 霊奈の皮肉とも取れる台詞に武装警官達も苦笑するしかなかったようだ。

「とにかく今日はお引き取り願います」

「分かりました。どうも失礼しました」

 俺と霊奈は踵を返して正門から出て行った。

「どうする、霊奈?」

「とりあえず総理が官邸の中にいることは確認できたわ。少なくとも公務での来客予定はなかったはず。どんなお客様がいらっしゃっているのか知らないけど、こっちは今すぐ会いたいの。そのお客様にはキャンセルしてもらいましょう」

 俺と霊奈は官邸と車道を挟んで反対側の歩道を歩いて行き、官邸の裏門が見える位置まで来ると街路樹の陰に隠れた。当然のことだが、ここにも分厚い警備の壁が立ちはだかっていた。

「真生。ここでちょっと待ってて」

 霊奈はそう言うと、一人で正門の方に戻って行った。しばらくすると正門の方で爆音が響いた。――霊奈の奴。手加減ということを知らないのか?

 裏門で警備していた武装警官達も全員が正門の方に向かって走り去って行くと、すぐに霊奈が戻って来た。

「霊奈。いったい何を爆発させたんだ?」

「花火を打ち上げただけよ。ちょっと火薬の量が多かったかもね」

 まあ、花火の季節ではあるけど……って、家の玄関で花火なんて、良い子のみんなは真似しちゃ駄目だぞ。

「それより今のうちよ」

 霊奈は裏門に近づき、我蘭から取り上げた訪問者用カードキーをポケットから取り出して裏門のセンサー部分に近づけた。音もなく開いた門扉をすり抜けて俺達は官邸の敷地内に入り込んだ。

「さあ、ぐずぐずしないで。行くわよ」


 同じカードキーで裏口から官邸の中に入った俺達は、赤絨毯が敷かれた廊下をプライベートスペースまで歩いて行った。廊下は節電のためかやや薄暗かったが、さっきの正門前の花火騒ぎで官邸内部の警備も手薄になっているようで、警備の警官には一人も会わなかった。

 総理がリビングとして使用している部屋までは、龍岳さんからもらった官邸内部の見取り図のお陰で迷うことなくたどり着くことができた。

 ドアに耳を付けると総理の話し声が聞こえた。

 俺がゆっくりとドアノブを回すと鍵は掛かっていなかった。ドアを少し開くと部屋の灯りが薄暗い廊下に一筋の光を映し出した。

 俺と霊奈はノックもせずにそっとその部屋に入ると、静かにドアを閉めた。

 シャンデリアを模した灯りが煌々と部屋の中を照らしており、ドアに背中を向けた応接セットのソファに座った総理のバーコード後頭部が見えた。どうやらバスローブを着ているみたいで、右手には高そうな酒が並々とつがれたブランディグラスを持ち、口には葉巻を咥えていた。そして、同じソファに座っている下着姿の女性が総理の方にしなだれかかっていた。

 ――どうみても成金親父が愛人を侍らせている図としか見えないぜ。

 霊奈は携帯電話を持ち出すとカメラのシャッターを押した。カシャッというシャッター音に総理と女が驚いて振り向いた。

「な、な、何者だ? お、お、お前達は誰だ?」

 やっぱり親子だな。動揺している時の様子は我蘭そっくりだ。

「お楽しみ中、申し訳ありません。私は神聖自由党副幹事長御上龍岳の娘、御上霊奈と申します」

「俺は、いや僕は、以前に党本部でお会いしました、副幹事長の秘書見習いの永久真生です」

「な、何の用だ?」

「総理。それよりそちらの女性は奥様ではないようですが……。総理のお子様は息子さんだけのはずですから娘さんでもないはずですね。……一国の総理官邸にどこの誰だか分からない女性を連れ込むのは情報管理の面からもいかがなものでしょうか。良い雰囲気のツーショット写真も撮れましたから公表しても良いんですけど……」

「わ、私を脅迫するつもりか?」

「正直に話してくれなければ……」

 霊奈は下着姿の女性に床に落ちていた洋服を投げて寄越した。

「あなたは出て行ってちょうだい。それと外のSP達には何もしゃべらないこと。良いわね!」

 女は慌てて服を着始めた。

「総理からもこの女性にそう言っていただけませんか。これから私達が総理にお話しする内容がSP達に聞かれるとお困りになるのは総理の方だと思いますから」

「何の話だ?」

「龍真お兄様のことです」

「……何の事だかさっぱり分からないのだが」

「あなたの息子さんがすべて話してくれましたよ」

「……! 分かった。お前はそのまま帰れ。SP達にも何も話すな」

 そう言うと総理は財布から数枚の紙幣を出して女性に投げ渡した。

 女性は紙幣を拾い集めると部屋から出て行った。

「それで話というのは?」

 総理は何とか威厳を示そうとしているのか、ソファにふんどりかえって俺達を見た。しかし霊奈がそんなことで萎縮するはずもなかった。

「座って良いですか?」

「ああ。ど、どうぞ」

 霊奈と俺は総理が座っているソファと直角の位置に置かれていたソファに腰掛けた。

「単刀直入にお訊きします。三年前にお兄様を殺すように嵐月会のプライベートアーミー『新月のさそり』に命令したのは、……総理、あなたですね?」

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