復讐(1)
次の日の夕暮れ時。
少し前には街灯も点灯し出した、通学路の途中にある広い緑化公園には、子供達はもちろん、大人の姿も見えなかった。
俺は公園の茂みの中に隠れるようにしゃがみ込んでいた。こんなところを誰かに見られたら覗き魔の痴漢にでも間違えられそうだ。もっとも本当にそんな趣味を嗜んでいるとしても、学校の帰り道に制服姿のままで覗き趣味を満喫するほど俺も馬鹿ではない。学校に通報されてしまうと一発退学モノだからな。
断じて言っておくが、俺は好き好んでこんな所にいるわけではない。霊奈の奴が普段は見せたことのないウルウル瞳で「側にいて」と俺に懇願しておきながら、「でもあんたが一緒にいると巧く訊き出せないと思うからどっかに隠れてて」と抜かしやがったからだ。
その霊奈は、俺が隠れている茂みのすぐ前にあるベンチに学校の制服姿のまま一人で座っていた。
誰かが霊奈に近づいて来ている足音が聞こえた。どうやら待ち人が来たようだ。俺が茂みの隙間から覗き見ていると、そいつは霊奈が座っているベンチの前に立っていた。
「嬉しいねえ。霊奈から誘ってくれるなんて」
「ちょっと話がしたくてね」
「こんな所じゃムードが出ないじゃないか。僕の行き付けのカフェがあるから、そこに行ってしっぽりと話をしようじゃないか」
「そんな所じゃできない話だから。それに誰かに話を聞かれると困るのはあんたの方かもよ」
「ど、どういう意味だ?」
霊奈がベンチから立ち上がり、そいつと向かい合って立った。
「あんたはお兄様とは同級生だったわね」
「……ああ。……それがどうした?」
「お兄様が亡くなられて、もう三年になるわ」
「ああ、そうだな。今でも龍真が事故で亡くなったとは信じられないね」
「本当に事故だったのかな?」
「えっ?」
「あんたはお兄様が死んだのが事故じゃないって知っているんじゃないの?」
「じ、事故じゃないってどういうことだ? ……警察だって事故だと発表しているぞ」
「でも、お兄様の遺体は見つかっていない」
「……かなりのスピードを出していたようだから海に放り出されたんじゃないか。あの辺りの海は意外と水深もあるようだからな」
「遺体だけじゃない。お兄様の霊魂もまだ見つかっていないの。そして、……私はソウルハンターよ」
「……! まさか?」
声を聞いているだけでも動揺しているのがありありと分かった。意外と気が小さい奴のようだ。
「龍真の霊魂が見つかったのか?」
「見つかったとしたら?」
「ははっ……はははは、何を今頃言っているんだ、霊奈。あれからもう三年も経っているんだ。仮に龍真の霊魂が見つかったとしても、もう忘れているはずだ!」
「何のこと? 何を忘れているの? あんたはお兄様に忘れてもらいたいようなことをしたの?」
「…………」
「この前のエンマの誤作動、まだ正式な結論は出ていないけど、嵐月会がバックアップデータを保存しているライブラリにバグが見つかって、それが原因ではないかと考えられているみたいよ。約三年前に何らかのデータ処理がされていたようだけど、……あんた、何か心当たりは無い?」
「…………知らない。何も知らない」
「それじゃ、あんたの体に訊いてみましょうか?」
「ひい~」
霊奈の奴、こんな平和な公園で剣を出しやがった。まあ、気持ちは分かるが闇の騎士でもない奴に剣を突き付けているところを誰かに見られたら強盗犯だって思われちゃうぞ。霊奈と一緒に痴漢と強盗の容疑で新聞ネタになるのは御免だ。そろそろ出て行って止めてやるか。




