デュアルソウル(7)
「三年後、霊奈が手にした死亡予定レポートに君の名前があることを知った。霊奈なら予定どおりに真生君の霊魂を連れて来るだろうから、儂はその日の朝早く支部に寄り解除タイマーをセットしてから党本部に向かったのだ」
「私が真生の霊魂を連れて来た時には、既にお兄様の肉体は冷凍が解除されていたということなんですね」
「そうだ。儂はそれ以上は何もしていない。しかし、龍真の霊魂と一体化している真生君の霊魂が支部に来ると何かが起きる気がしていた。そして、儂の予想どおり、その何かが起きたようだ」
「それじゃあ、あの黒ローブの男はやっぱりお兄様だったんですね?」
「儂もその時には現場にいなかったから確実なことはいえないが、そうとしか考えられない」
「でもどうして霊魂が宿っていないお兄様の肉体が勝手に動き出したんでしょうか?」
「これも推測だが、かつての宿り主だった龍真の霊魂と一体化している真生君の霊魂の強力な霊エネルギーに共鳴して動き出したのだろう」
「それじゃ、あの黒ローブの男は真生がリモートコントロールしていたってことですか?」
だから俺を睨むな。俺はまったく心当たりは無いぞ。
「ひょっとしたら龍真の霊魂がそうさせていたのかもしれないな?」
「お兄様の霊魂が? そうだとしたら、どうして私達を襲ってきたんでしょうか?」
「霊奈が戦いを挑んで来たからだろう」
「えっ……」
「龍真は、いや、龍真の肉体はお前達を殺すつもりなどなかったはずだ。龍真が本気を出すと霊奈などは一撃も反撃できないのではなかったかな?」
「確かに……。でも、どうしてお兄様は私に名乗ってくれなかったんでしょう?」
「龍真の肉体には多数の刺し傷があって、手当をしてもその傷跡は醜く残っていた。霊奈にそんな自分を見られるのが嫌だったんだろう」
「……」
「しかし真生君の霊魂はその強力な霊エネルギーで、瞬時にその肉体の傷を修復するとともに生前の真生君の容姿に改変したんだろう。その時に起きた衝撃というのは、肉体改変の際に発せられたエネルギー放射ではないかと考えている」
――俺の中には龍真さんがいる。……そうだとすれば、戦闘の時、身体の中から沸き上がってきた俺ではない声は龍真さんの声だということになる。そして、元々、龍真さんが持っていた能力もそのまま引き継いだということであれば、俺があんな超人的な能力を発揮できたことも納得ができる。
でも普段の俺は霊奈の駆け足について行くのにも精一杯なのに……?
「おそらく真生君の霊魂が肉体を支配しているということは生前の真生君の肉体能力を復元したものになっているのだろう。しかし、元々、その肉体は龍真のものであって、潜在的には龍真が有していた能力が出せるはずなのだ。そして戦闘とか演説といった真生君が経験していないことをしなくてはならなくなった時、真生君の霊魂は一体化している龍真の霊魂の助けを借りているのではないだろうか」
「いつもは自分が肉体の真ん中に居座っておいて、自分が苦手なことをしなくちゃいけない時にはお兄様の霊魂に手伝わせているってこと? 真生、あんたって奴は……」
おいおい、だから俺が自らの意志でしていることじゃないって。
「でも、そうするとお兄様の霊魂は真生の霊魂に吸収されて消滅してしまったわけではないのですよね?」
「真生君が龍真の有していた能力を遺憾なく発揮しているところを見るとそうなんだろう。ひょっとしたら、また龍真の霊魂が分離されることがあるかもしれないし、そんなことはあり得ないのかもしれない。それは誰にも分からない」
龍岳さんは俺の側にやって来た。
「真生君。儂を軽蔑するかね? 我が息子を失ったことで儂も冷静な判断を欠いていたところもあったようだ。法律で禁じられている人工冬眠装置を使用したり、ずっと見張っていた君の霊魂が獄界にやって来ると分かったら、龍真の肉体を解凍しておき、何かが起きることを期待していた。そして儂の期待どおりに龍真の肉体は蘇った。もっとも蘇ったのは真生君の記憶と容姿となった龍真だったがね。…………儂は君を利用したのだ。儂自身の我が儘を通すためにな」
俺を見つめる龍岳さんの目は老獪な政治家のものではなく、霊安室で親父が見せていたあの目と同じ、息子を失った父親の目だった。
「俺はソウルハンターの試験の時に親父が死ぬと告げられて、やっぱり悩みました。肉親が死んでしまうということはすごく悲しいことです。……あなたを責めることはできません」
「そうか。……龍真は自ら君に宿ることを選んだのかもしれないな」
「それはどういう意味ですか?」
「いや、何となくそう思っただけだ」
俺の肉体が宿りやすかったということなのか? それとも……。
「それよりお父様。お兄様を殺したと思われる奴は誰なんですか?」
霊奈はそいつの名前を聞いたら、すぐにでも飛び出して行きそうな勢いで龍岳さんを問い詰めた。
「それを聞いてどうするつもりだ?」
「私がお兄様の仇を討ちます」
「証拠は無いぞ」
「証拠? 証拠ならお父様がお兄様の霊魂から直接聞かれたことが証拠です。殺された本人が言っていることなんですから、これ以上の証拠はありません」
「龍真を直接襲ったのは『闇の騎士』にすぎない。犯人がそれを命じたという証拠は何も無い。龍真も自分の推測を述べたにすぎないんだ」
「でも……」
霊奈は本当に悔しそうに両拳を握りしめて俯いて唇を噛み締めていた。
しばらくそんな霊奈の顔を見つめていた龍岳さんが突然笑い出した。
「はははは」
「お父様?」
龍岳さんは、きょとんとした顔をしていた霊奈を笑顔で見つめながら言った。
「霊奈は儂が止めても突っ走って行ってしまうだろう」
「お父様……」
さすが龍岳さんは自分の娘のことはよく分かっている。
それに俺も利害関係者だ。俺の中には犠牲者である龍真さんがいるんだからな。
「龍岳さん。俺も知りたいです。全ての元凶を作った奴が誰かを?」
「…………分かった」




