デュアルソウル(4)
その日の夜、家に帰って来た龍岳さんに俺達は昼間の出来事を報告した。
「真生君が龍真の青龍聖玉大鎌を……」
「びっくりしちゃった。真生兄ちゃんは本当に龍真お兄様の生まれ変わりなのかも」
「真生君は何か思い当たることは無いかね?」
「戦いの最中に、俺の心の中で俺じゃない誰かが『戦え』とか『自分ならできる』とか言っていたような気がするんです」
「どういうことなの?」
ソファの俺の隣に座っていた霊奈が俺に顔を近づけながら訊いてきた。
「それは俺の方が訊きたいよ」
「お父様。お兄様は三年前に事故で亡くなられたんですよね。でも真生は十七年前に生まれている。生まれ変われることってできるんでしょうか?」
「……分からん。しかし、今のみんなの話を聞くと真生君は龍真の生まれ変わりだと考えざるを得ないが何も証拠があるわけではない。儂ら家族の願望がそう思わせているだけかもしれん」
俺の心の中で響いてきた俺じゃない人の声。あれは龍真さんだったのだろうか? 龍岳さんの後援会事務所で演説の練習をさせられた時にも、俺じゃない誰かが俺の声を使って演説をしたような感覚だった。俺の中にいる誰かが龍真さんではないかとみんなも俺も思っている。
しかし、何故三年前に死んだ龍真さんの声が俺に聞こえるんだ? それと俺自身にも信じられない超人的な戦闘能力。あれは俺の肉体の元オーナーである黒ローブの男が有していた能力だったのだろうか? そしてその黒ローブの男と龍真さんとの関係は?
何も答えは見つからなかった。そして俺にはもう一つ気になることがあった。
「それより今日の黒服達は何故、俺達を襲ってきたんでしょうか?」
「その答えは儂にある。儂が『獄門の番人』の責任者だということは、それだけで他のプライベートアーミーからの標的にされているということなのだ。その儂の娘達にも何かしらの利用価値を見出せば、当然のごとく刃を向けてくる。だから儂は娘達にも我が身を守るだけの戦闘能力を身に付けさせた。霊奈に至っては『獄門の番人』でも一・二を争う女性戦士になっている。こんな家にやっかいになっている君も大変だな」
「いや、もう慣れました」
「はははは。それは頼もしい。とにかく、みんな、これからしばらくは気を抜くことのないようにな」
俺は龍岳さんの話を聞きながら、何か釈然としない気持ちになっていた。あの黒服達は三姉妹を襲って来たのではなく俺を狙って来たような気がしてならない。俺が獄界に来てから三か月以上、俺がソウルハンターになるまでは、俺が襲われることはなかったし、三姉妹が俺の知らないところで襲われたということも聞いていない。しかし、俺がソウルハンターになって龍岳さんと一緒に党本部に行ってから、尾行が付いたり殺されかけたりし始めたような気がする。龍岳さんが俺を党本部に連れて行ったことは何か特別な理由があったんじゃないのだろうか?
しかし、その疑問は俺が漠然と感じているだけで、恩義を感じている龍岳さんにそれを問い質すことはできなかった。
俺が自分の部屋でベッドに横たわりながら今日の出来事を思い出しているとドアがノックされた。
俺がドアを開けると、ロングTシャツ一枚を着て、髪をアップにした霊奈が立っていた。風呂上がりのようでシャンプーの良い香りがしていた。
「ちょっと中に入って良い?」
えっ、風呂上がりに男の部屋に入り込む……。ひょっとして今日のお礼に私の体を……って考えすぎだ。そんなことを考えていたら霊奈に怪しまれるぞ。……って、本当に怪しんでいるし!
「な、なんか変なこと考えたんじゃないの! 今、何だかすごく身の危険を感じたんだけど」
「な、何を言っているのかな~。そ、それじゃあ応接間に行くか?」
「……ううん。ここで良い」
霊奈は俺の部屋に入ってベットの上に腰掛けた。俺も自然にその隣に座った。
「ちょっと、必要以上に近づかないで! もうちょっとあっちに行ってよ」
へいへい。分かりましたよ。俺はちょっとだけ腰を浮かして二センチほど横に移動しただけだったが、霊奈は何も言わなかった。
「この部屋に家具が入ると、本当にお兄様が生きていた時の頃を思い出す」
霊奈は遠くを見つめるような表情でポツリと呟いた。
「やっぱり、あんたはお兄様の生まれ変わりだったんだ」
「それならさっき話したじゃないか。それを証明することはできないって」
「いいえ、絶対そうよ。あの戦いの最中、あんたは何て言ったか憶えている?」
「さあ、よく憶えていない」
「『霊奈を虐める奴は許さない』って言ったの」
「ああ、そう言えばそんなことを言った気もするな」
「それはお兄様がいつも私に言ってくれていたことなの。……私、こう見えて小さい頃は弱虫で男の子達からいつも虐められていた。そんな時、お兄様がいつも私を助けに来てくれた。私が泣いていると、いつでも来てくれた……」
霊奈の目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。いつも勝ち気な霊奈しか見たことの無い俺はちょっと戸惑ってしまった。
「……霊奈は龍真さんのことが本当に好きだったんだな」
「そうよ。ちっちゃい頃は、私はお兄様のお嫁さんになるのが夢だったから」
それは叶わない夢だな。ちょっと危険な香りもする。……でも霊奈は龍真さんが死んで、龍真さんのお嫁さんになるという夢が破れたから、ソウルハンターになって、そして龍岳さんの後継者になろうとしたんじゃないのだろうか?
「ねえ、真生」
そう言うと、霊奈は俺のすぐ側まですり寄って顔を近づけてきた。
「な、何だよ、いったい?」
「あんた、私に隠していることは無いの? お兄様のことで何か?」
「何も知らないって」
「そう」
そう言うと、霊奈は悲しい顔をして俯いてしまった。でも、……体は密着したままなんですけど。
「あ、あのさ、逆に訊くけど、俺と龍真さんの接点って何かなかったのか?」
「一つある」
「何だ?」
「あの第三百三十三支部で会った黒ローブの男。あの男も青龍聖玉大鎌を出したの。あの黒ローブの男がお兄様と何か関係があったのかもしれない」
そうだよな。それしか思いつかないよな。
「……霊奈。明日、学校が終わった後、第三百三十三支部に行ってみようぜ」
「あそこに?」
「ああ、もう一度、あの場所を詳しく調べてみれば何か分かるかもしれないぞ」
「…………そうね。手掛かりがあるとすれば、あそこしかないか」




