デュアルソウル(3)
「幽奈! 大丈夫?」
妖奈ちゃんがすぐに幽奈さんの側に駆け寄った。その隙を突いて黒服の一人が走り寄って来たが、妖奈ちゃんが咄嗟に投げたナイフを慌てて盾で防いで、それ以上は近寄って来なかった。
――今の黒服……。苦しそうにしていた幽奈さんではなく、俺に向かって来ていたように見えた。……こいつら、俺をターゲットにしているのか? サングラスに隠れてはっきりとは確認できなかったが、黒服達の視線は、俺の前に立ち塞がっていた幽奈さんや妖奈ちゃんを通り過ぎて、俺に向いているような気がした。
もし、こいつらのターゲットが俺なら、三姉妹は巻き添えを食ったことになる。……霊奈は大丈夫か?
心配は無用だった。霊奈は既に二人を切り倒して、残り三人の黒服達と対峙していた。しかし多勢に無勢だ。こっちにはまだ四人も残っている。しかも幽奈さんの様子もおかしい。
幽奈さんの様子に気がついた霊奈も敵の隙を突いて俺達と合流した。
「幽奈! 大丈夫?」
「ええ、……久しぶりに暴れたからかしら。でも、……もう平気よ」
幽奈さんは大きく息をした後、しっかりと背を伸ばして薙刀を構えた。
黒服達も七人が一団となって俺達を取り囲んできた。
屈強な黒服達を前にして、幽奈さん、霊奈、妖奈ちゃんが俺を守ってくれるように立ち塞がっていた。
黒服達のうち三人が高くジャンプをして俺達の背後に降り立つと、三人が一斉に俺に襲い掛かって来た。
しかし、霊奈がすばやく回り込んで、俺が三人の黒服に切り刻まれるのを防いでくれると、黒服達は、また素早く合流して、七人がまとまって俺達に迫ってきた。
「霊奈。俺は大丈夫だから思う存分戦え!」
「馬鹿言わないで! あんた一人守るくらい全然平気よ!」
いや、この状況は全然平気じゃないだろう。それにしても……、こんな俺を、赤の他人の俺をどうして必死で守ってくれるんだ? 俺を気にせずに戦ったらもっと有利に戦えたはずだ。どうして?
……理由なんて無いんだろう。この三姉妹はそんな女の子達だってことは三か月も一緒に暮らして分かっている。そんな三姉妹を傷つかせたくはない。
くそ! 何で俺だけ何もできないんだよ。ソウルハンターと一緒に「闇の騎士」の訓練もしていたら良かったぜ。
――――んっ? 何だ、これは?
俺の体の中から何かが湧き上がってきた。一体何だろう?
「霊奈を虐める奴は許さない」
俺の気持ちがそう言っていた。…………俺の気持ち? ……違う。俺の気持ちじゃない。俺の心の中で叫ばれているのに、それは俺じゃない誰かが叫んでいるみたいだった。
俺は、俺は…………。
「みんな、どいてろ」
俺は前に立っていた三姉妹を押し退けて黒服達の前に立った。
「真生。危ないから後ろにいて」
霊奈が俺の肩に手を掛けて言ったが、俺は肩に置かれた霊奈の手を上から包み込むように握って振り向きながら三姉妹を見渡した。
「お前達は俺が守る!」
俺自身がこんなにドスの利いた声が出せるなんて思ってもいなかった。
霊奈達も驚いて立ち尽くしているようだった。
俺は更に数歩、黒服達の前に進んだ。
「貴様らの相手はこの俺だ」
――俺は何を言っているんだ? 勝てるのか、こいつらに?
――――――勝てる! 俺なら勝てる!
何故だか分からなかったが、俺の中の俺じゃない誰かがそう保証してくれていた。
俺は、霊奈が剣を出す要領で、一旦、顔の横まで上げた右手を勢いよく振り下ろした。俺の手には、あの黒ローブの男が使っていた鎌のような武器が握られていた。
間髪を入れずに俺は黒服達に突進した。最初の一人は盾を構える隙も与えず、振り下ろした大鎌で身体を縦に切断した。二人目は盾をはじき飛ばして胴体を真横に切断した。俺には黒服達の動きがスローモーションを見ているかのように見えた。どうやら俺自身の動きが速くて、相対的に黒服達の動きが遅く見えているようだ。俺のどこにこんな力があったんだ? ……いや、今はそんなことを考えている隙はない。
俺は残った五人の黒服達に向き直って鎌を構えたが、黒服達は示し合わせたように高くジャンプをして俺を飛び越え、霊奈達に襲いかかった。俺の活躍に驚いていた三姉妹は油断をしていたのか武器を構える隙もなく黒服達に剣を喉元に突き付けられてしまった。
「その武器を捨てろ。さもなくばこの女どもがどうなるか保障できんぞ」
こもったような声で黒服の一人が脅してきた。
しかし俺は大鎌を捨てることなく近付いて行った。……大丈夫だ。霊奈達に危害を加えることなんてできやしない。この俺の前でな!
突進した俺は黒服達が行動を起こす隙を与えず前衛の二人を切り倒した。残りの三人は霊奈達に剣を突き付けながら後退し始めた。
「その子達を離せ!」
俺の怒りは頂点に達していた。それが言葉として吹き出していた。
「どうしても離さないか?」
黒服達の表情に恐怖が見て取れた。
「霊奈を虐める奴は許さない」
俺の心の中で叫ばれていた言葉がつい口に出た。その言葉を聞いた霊奈は目を見開いて俺の顔を凝視していた。
しかし、すぐに我に返った霊奈は、自分に剣を突き付けていた黒服の隙を見てその脇腹に蹴りを入れた。幽奈さんと妖奈ちゃんに剣を突き付けていた二人の黒服が霊奈に蹴られて横にすっ飛んでいく仲間に視線を奪われていた隙を見て、俺はその二人に突進して抵抗する隙も与えず切り倒した。
そして、霊奈に蹴り倒されていた黒服の側に行き、剣を取り上げてから、サングラスを取って胸ぐらを掴んだ。
「お前達はどこの組織の者だ?」
「そんなことを言えるわけがないだろう」
死をも恐れない「闇の騎士」がそんなことを白状するはずはなかった。そいつは舌を噛みきって絶命した。ソウルハンターである俺は目の構造を切り替えて、そいつの霊魂が空に逃げて行くのが確認した。野良霊魂にならないように霊魂管理庁に連絡をしておくべきだな。……いや、エンマならもう予想済みだろう。
三姉妹が俺の側に走り寄って来た。
「真生! その武器は?」
霊奈が驚いた顔で俺に訊いてきた。
「青龍聖玉大鎌。龍真の持っていた武器ですね」
幽奈さんの顔もいつもより相当青白かった。もう胸は大丈夫なのだろうか?
「真生兄ちゃん、それどこで手に入れたの?」
「いや、別にどこかで買って手に入れたわけじゃないけど……」
「真生。あんたはいったい……」
結界が融け始めた。俺が念じると大鎌が消えた。幽奈さんも霊奈も妖奈ちゃんもそれぞれの武器を仕舞っていた。
黒服達の死体とともに結界が消えると、辺りは元の閑静な裏通りに戻った。




