ソウルハンター(6)
俺は沙奇さんとタクシーに乗って、エンマシティ第五十二街区に向かった。ここは龍岳さんの選挙区で、龍岳さんの家がある住宅街を含むエンマシティの郊外に当たる地区だった。
龍岳さんは選挙区選挙で毎回トップ当選を果たしているようだが、党の副幹事長という職業柄、あまり選挙区の方に顔を見せることができないようで、沙奇さんが龍岳さんに代わり定期的に選挙区に出向いて国会での龍岳さんの活動報告をしており、今日がその日だったのだ。
地元の後援会事務所に着くと、四・五人の後援会幹部が出迎えてくれた。
後援会事務所は龍岳さんの家に近い商店街の一角にあるプレハブ造りの建物であった。引き戸を入った事務所の一階は広い集会所のようになっており、支持者らしき人達が三十名くらいパイプ椅子に座って待っていた。
そんな中、沙奇さんは演台に立ち、龍岳さんが党務で来られないことをまずお詫びした上で、現在の国会の状況等をしゃべり出した。言語明瞭だったが抑揚の少ない話し方は眠気を誘うし、政治の事に詳しくない俺はまったく意味不明だった。
よく見ると沙奇さんの話を聞いている支持者の人達も欠伸をしたり居眠りをしている人もいた。やっぱり龍岳さん本人が来ないと盛り上がらないよな。
沙奇さんの話が終わると、支持者の人達は一応、お義理的な拍手を送って、集会は三々五々解散していった。
後には後援会の幹部達だけが残った。
丁度、昼時になって、俺が沙奇さんと後援会幹部の人達と一緒に仕出し弁当を食べていると、みんなが俺に話し掛けてきた。
「真生君は御上先生のご親戚とのことだが、これから先生の手伝いをされるのか?」
「はい。少しずつお手伝いをさせていただこうかと思っています」
「先生も三年前に龍真君を亡くされてから何となく元気がなかったけど、噂に聞くと真生君が家に来てからはすっかりと元気になられたというじゃないですか」
「あっ、いえ。まあ、俺、いや、僕は何もしていないですけどね」
「先生は本当に真生君を後継者にしようと考えているんだろうね」
「でも、僕にできるでしょうか? 今まで政治なんて興味もなかったんですから」
後援会の人達は顔を見合わせながら一斉に大笑いをした。
「はははは。真生君は正直者ですな。後継者候補が政治に興味がなかったなんて」
「でも、本当のことですから」
「確かに若者の政治への関心はどんどん薄れるばかりだ。これは真生君の責任じゃなくて、我々大人の責任なんだろうね。真生君も政治に興味を持ってもらって、同年代の若者に政治に積極的に参加するようにアピールしてもらいたいよ」
「あっ、はい。……ところで話は変わりますけど、皆さんは龍真さんとお会いになったことはあるんですか?」
「もちろんだよ。龍真君は先生の後継者だったからね。しかし、あの好青年が交通事故で死ぬなんてねえ」
「あの、皆さんはその交通事故のことはご存じなんですか? 龍岳さんや娘さん達にはなかなか聞きづらくて」
「エンマシティの海岸沿いの高速道路を時速二百キロでぶっ飛ばしていて、ハンドル操作を誤ってガードレールを突き破り海に車ごとダイブしたらしい。車は海底から発見されたが、龍真君の遺体は結局、見つからなかったそうだよ」
――遺体が行方不明? そんな話は初めて聞いたな。
「龍真さんってそんなに車を飛ばす人だったんですかね?」
「龍真さんはそんな人ではありません!」
俺の隣に座ってこれまで黙って俺達の話を聞いていた沙奇さんが大きな声を出した。沙奇さんもこんなに感情のこもった声が出せるんだ。でも、どうしてそんなに感情的になっているんだ?
「あ~、それより真生君。先生の後継者候補になるには演説も巧くならなくてはな」
「はあ?」
何か強引に話題を変えられたみたいだが? 沙奇さんを見てみると俯いて黙っているだけだった。
「どうだい。ここでちょっと練習してみるかい? ここにいるのは昔からの先生の支持者達だから少々変なことを言っても大丈夫だよ」
「さっきも言いましたけど、僕はこれまで政治に興味がなくて何をしゃべったら良いのか見当もつきません。まだ全然無理ですよ」
「まあまあ、内容はともかく度胸を付けるための練習にしてみれば良いじゃないですか」
昼間から若干お酒も入っている後援会幹部の人達に囃し立てられて、結局、俺は演説の練習をすることになった。




