ソウルハンター(2)
俺は獄界に戻って霊魂管理庁の試験官に事情を説明した。
「君もか」
試験官は憔悴しきった顔で答えただけだった。
どうやらエンマの死亡予想が外れたのは親父だけではなく、受験生が案内する予定だった何人かの試験対象者は死亡予定時間に死ななかったようだ。霊魂管理庁はてんやわんやの大騒ぎだった。
――とりあえず試験は延期となった。
俺が霊魂管理庁一階のロビーのソファに呆然と座っていると、ゴスロリ調のドレスを着た霊奈がやって来た。どうやら、このドレスはいくつかあるソウルハンターの制服の一つのようだ。
霊奈は俺の隣に座って、珍しく優しい顔をして話し掛けてくれた。
「真生、聞いたよ。試験対象者はあんたのお父様だったんだね」
「ああ、……でも、予想が外れて正直嬉しいよ」
「そう、……そうだね。…………良かったね」
「ああ。……ところで霊奈。エンマの誤作動の原因は分かったのか?」
「まだみたいね。もちろん、エンマも神ではないから、何百億回に一回くらいの確率では予想がはずれることはあったけど、今回みたいに何十人も同時にはずれるなんてことは初めてね」
「二千年も経って少々ガタがきたのかな?」
「ハードの交換は二十年ですべての部品が新品になるように毎年計画的にされているわ。私が職員から聞いた噂ではエンマ本体のプログラムに古いアクセス痕が見つかったらしいの。それが影響しているんじゃないかって言われているみたい」
「誰かがエンマのプログラムを操作してバグを起こしたってことか?」
「そこまではまだ分かっていないみたい。分かったとしても私みたいな下っ端でフリーのソウルハンターに教えてくれるわけはないからね」
「そうか」
「それよりも、これが民主改革連合にとって強力な追い風になることは確かね」
――霊奈の予想どおり、エンマの誤作動は野党からの恰好の追及材料になった。神聖自由党の長期独裁政権の緩んだ体質が今回の誤作動を引き起こしたと言って、鬼崎総理は連日厳しい答弁を強いられていた。龍岳さんも今まで以上に帰りが遅くなり、何日も家に帰って来ないこともあった。
一方、地界の俺の親父は奇跡的な回復をみせて、左足が若干不自由になっただけで済んだ。今まで勤務していた会社も続けることができるみたいだ。
約二週間後、延期されていたソウルハンターの第二次試験が実施された。
今度の試験対象者は日本ではなくアメリカの死亡者だった。英語を話す自信はなかったが、これもソウルハンターの必須能力である「意思伝達プロトコル」-意思伝達に限定されたテレパシーのような能力のことだ-を修得した俺は、何語だってノープロブレムだぜ。地界でも早くこれを開発してやったら外国語の授業で悩む学生の救世主になれるだろうに。
死亡者は御歳九十五歳の老婆で、自宅で大勢の子や孫に看取られながらの大往生だった。こんなシチュエーションなら気が楽だ。
しかし、この婆さん、話し好きで、俺が地獄に連れて行く間、ずっと子供の頃の思い出だとか、既に死んでいる爺さんとのなれそめとか、子供達についての愚痴だとかを延々としゃべっていた。俺も適当に相槌を打ちながら、無事、婆さんを地獄に送り届けた。
――俺はソウルハンターになった。




