三姉妹(18)
翌日の夕方。
俺は家の庭に椅子を持ち出してそれに座った。近くには木刀をもった霊奈が立っていた。……何で木刀を持っているんだ? できなければ、あれでぶっ叩かれて強引に霊魂を取り出すってことじゃないだろうな。
「いい、真生。まず自分の霊魂の存在をイメージするの。イメージできたらそれと同期をして殻を破るような気持ちで体から離れるのよ。……それじゃ集中して!」
俺は目を閉じて自分の心の中の奥底を見つめてみた。
――ぼんやりとだが人の影が見えた。
あれっ? ……その人影は逃げるように消えていった。俺ってそんなに恥ずかしがり屋さんだったかな?
――もう一度、集中してみた。…………見つけた。……んっ? さっきの影とは違うような…………。今度の影は逃げなかった。俺はその影と同期するように近づいて行った。間違い無い。俺の霊魂だ。……捕まえた。肉体を介して認識していた俺の自我をダイレクトに感じることができるようになった。俺の視線から俺の霊魂の影が消えた。俺の霊魂と自我が同期して同じものを見る事ができるようになった。
自分の霊魂と同期する事ができた俺は、次にこの肉体という殻から霊魂を解放させる事に挑戦した。…………自分でもあっけないほど簡単に俺は自分の肉体から抜け出ることができた。
そうだ。この感覚だ。死んだ後に地界で彷徨っていた時の感覚が蘇った。俺の側に立っていた霊奈がちょっと驚きながらも笑顔を見せていた。後ろを振り向くと椅子に座った俺がいた。目を閉じて身動き一つしない。
霊奈が俺に話し掛けた。――俺というのは霊魂の方の俺だ。
「真生。やっぱり筋が良いわね」
「一回、死んでいるからかな。いや、三年前にも一度死にかけているからな」
「三年前に死にかけたって?」
「こっちの世界に来る時に渡った川があっただろう。あそこで釣りをしていて川に落ちたんだよ。気がつくと川岸に寝かされていた。心臓も止まっていたみたいだけど、近くにいた人が人工呼吸をしてくれて生き返ったらしいんだ」
「ふ~ん、そうなの。……心臓が止まっていたのなら、あんたの霊魂はその時にも一旦は肉体から離れたのかもしれないわね。そうすると本当に死んだ時も入れると過去に二回、霊魂が離脱を経験しているから、確かに慣れているのかもね」
「あんまり、そんなことに慣れたくはないな。せっかく生き返ったんだからしばらくは死にたくはないよ」
「死なないわよ」
「本当に?」
「……わ、私はエンマじゃないんだから、私が保障できるわけないじゃない。でも、…………もう、死なない」
「…………?」
「…………いいから、練習を続けるわよ! それじゃあ肉体に戻ってみて」
時々、意味が分からないことを言いやがる。まあそれはそれとして霊魂を肉体に戻そう。
俺の霊魂はあっさりと肉体と一体化することができた。椅子に座っていた俺は目を開けて立ち上がった。
「うん。上出来ね。でも試験の時には何があるか分からないから何回も練習をしておくこと」
「でもさ、そもそもソウルハンターの試験を受けに来る奴は前提条件として幽体離脱ができるはずだよな。それができないとそもそも実技が通らないんだからさ……。そうすると実技試験はどこが難しいんだ?」
「一番多いミスが制限時間まで離脱できないことね。やっぱり霊魂と肉体を分離させることは危険なことだから本能的に肉体がその霊魂を戻そうとするのよ。また試験中という特別な緊張感がそれを強めることもあるから、普段はできていても試験中には一定時間になると霊魂が肉体に強制的に戻されてしまうってことが多いみたいね」
「なるほど。そうなのか」
「霊魂というのは人間の精神的活動を司っているものだから、やっぱりメンタルな影響を直接に強く受けるものなの。ソウルハンターになるには強い精神力も必要ね」
霊奈が強い精神力を持っていることは否定できない。これだけ俺に罵詈雑言を浴びせても平然としているんだからな。…………でも、それに耐えている俺もけっこう強い精神力を持っているんじゃないか?




