三姉妹(17)
翌日の月曜日からいつもの一週間が始まり、日曜日を挟んでまた次の一週間が始まった。獄界に来て、御上家で居候をしている間に、俺の頭の中で一つの考えが段々と大きくなってきて、いつの間にかこびり付いて離れなくなってしまった。
――それにしても俺は一体どうしてしまったんだろう? こんなことを考える俺じゃなかったはずだ。一度死んでから性格まで変わってしまったんだろうか?
夕食が終わって自分の部屋のベッドに寝転がっていると、今日も何かをしたいと真剣に考えている自分に気がついた。
今まで何かをしなければならないといった使命感とか義務感を感じたことなんてなかった。
将来なりたい職業なんて夢ででも考えたことは無いし、高校だって、みんなが行っているから、なんとな~く通っていた。高校を卒業したら、学力に見合った大学に入って、四年間、好きなことをした後には、そこそこの会社勤めをして……、なるようになるってしか考えてなかった。
俺の親父は会社人間だけど出世しているわけでもなく、休日には家でゴロゴロしていることが多かったし、お袋もパートで働きに出ていたけどそれを言い訳にしてけっこう家事は手を抜いていたし、休日はテレビの前から離れることはなかった。美咲も中学校のテニス部に入部していたが、その動機は格好良い男の先輩がいたからだそうで、練習もあまり熱心にやっていないみたいだった。そんな家族の中にいれば、俺が一人しゃかりきになって何かをしなくてはなんて思わないよな。
でも、今、俺は獄界にいて御上家で居候をさせてもらっている。そして、龍岳さんとも霊奈とも幽奈さんとも妖奈ちゃんとも、血も繋がっていなければ、俺が世話されるだけの恩を売ったわけでもない。それなのに獄界では独りぼっちの俺をみんなが家族にように接してくれている。約一名、厳しい言葉を浴びせ掛けてくる奴がいるが、最初に家に来るように言ってくれたからな。
そして、この家族はみんな働き者だ。政治家の龍岳さんは最近は朝食も夕食も一緒に食べることが無い。
霊奈も休日はソウルハンターの仕事に出ている。特に休日出勤を命じられているわけではないみたいだが、ソウルハンターの仕事にもっと熟練したいからと言って、志願して仕事を請けているようだ。
妖奈ちゃんは中学校の授業にも欠かすことなく出席し、放課後や休日には番組の収録やコンサートをし、暇を見つけては歌と踊りのレッスンというハードスケジュールをこなしている。
幽奈さんは家事を完璧にこなしているし、料理の研究も怠らず、週に一回は必ず新しいメニューが登場する。
俺は、…………何もしていない。高校生だから勉強が仕事だといえばそうだが、レベルが高くてついて行くのがやっとの状態だ。それ以外で俺も何かをしなければって思い始めたんだ。これはけっして勉強から逃げているんじゃない。俺が突き進んでみたい道は、勉学の道ではなく別の何かだった。
でも、何をすればいいんだろう? 俺はまだ高校生だし、どこかでアルバイトでもするしかないのか?
待てよ。……高校生だってできる仕事があるよな。…………霊奈に訊いてみるか。
そう思い立った俺は部屋から出て、隣にある霊奈の部屋のドアをノックした。
「霊奈。ちょっと話があるんだけど」
「何?」
ちょっとだけドアが開くとその隙間から、部屋着にしているワンピース姿の霊奈が顔だけ出してきた。――やれやれ、まだ俺という人間を誤解しているようだ。女の子をいきなり襲ったりしないって。
「ちょっと話があるんだけど、今、良いか?」
「何の話?」
「俺、……ソウルハンターになりたいんだ」
「えっ?」
「だから、霊奈に色々と話を訊きたくてさ」
「…………分かった。入って」
霊奈はドアを大きく開いて、俺を部屋に招き入れようとした。しかし、いざという時に弱気になる俺の方が躊躇してしまった。
「入っても、……良いのか?」
「……そんなこと言うから変に意識しちゃったじゃない。……やっぱり応接間に行く」
霊奈と俺は一階の応接間に入って向かい合って座った。
「でも、突然どうしたの?」
「俺、ここでお世話になっているけど、居候しているだけじゃ申し訳無いなあって思ってさ」
「別にあんたは望んで獄界に来たわけじゃないから、そんなに気にすることはないわよ」
――あれっ、……確か二・三日で俺を追い出すつもりじゃなかったのか?
「でも、幽奈さんは家のことを一手に引き受けているし、霊奈も働いているだろう。それに妖奈ちゃんもすごく頑張っているし……。俺も何かしなくちゃって思ったんだよ」
「……それで、どうしてソウルハンターになりたいって思ったの?」
「霊奈が俺には素質が有りそうだって言ってくれたからさ。それに、……霊奈と一緒に働ければ良いなって思ったから」
「…………で、でも、真生。ソウルハンターになることは、そんなに簡単なことじゃないわよ」
「認定試験の倍率が百倍を超えていることも知っている。一回や二回の挑戦で受かるとは思っていないよ。何十年掛けても結局駄目かもしれないけど挑戦をしてみたいんだよ」
「う~ん」
霊奈は目を閉じて腕組みをしながら考えていたが、しばらくすると覚悟を決めたみたいに目を開けた。
「……分かった。真生がせっかくやる気を見せているんだから私も協力するわ」
「本当か?」
「ええ、ソウルハンターの専門学校もあるけど、私が個人レッスンしてあげる」
「こ、個人レッスン……」
何となく淫靡な響きがある言葉だ。
「……真生。何か変な期待をしているんじゃないでしょうね?」
「い、いや、そんなことはないよ」
「厳しくするわよ。ついて来られる?」
「お、おう」
「それじゃ、まずは幽体離脱ができるかどうかを確認しておかないとね。これができなければお話にならないからさ」
確かにそうだよな。いくら筆記試験の成績が良くても、幽体離脱ができなければ霊魂と接することはできないし、地界に行くこともできないんだからな。
「明日、学校から帰ったら、ちょっとやってみましょう」




