三姉妹(13)
扉を開けて玄関に入ると、幽奈さんの優しい「お帰りなさい」の出迎えが待っていた。高校でクラブ活動もしていなかった俺は、パートで働いていたお袋やテニス部に入っていた美咲よりも早く帰宅することが多かったから、誰かに「お帰り」と言ってもらえることは久しぶりだった。やっぱり誰かが待っている家に帰るって良いよな。
「真生さん、ちょっと部屋まで来ていただけますか?」
「幽奈さんの部屋へですか? いや、まだ明るいですし……」
「あっ、いえ。真生さんのお部屋です」
霊奈の冷たい視線が俺を突き刺す。お願いだからそんな目で俺を見ないでくれ。
幽奈さんと霊奈と一緒に二階の俺の部屋に入ってみると、何もなかった部屋には家具一式が運び込まれていた。ベッドにタンス、勉強机に椅子、LANケーブルらしきケーブルに繋がったパソコンもあった。
「私が勝手に置いてしまって使い勝手が悪いかもしれませんけど勘弁してくださいね」
それにしても霊奈と違ってどこまでも奥ゆかしい幽奈さんだ。
「俺の方こそこんなにまでしていただいてすみません」
「どうせ住む所が見つかるまでの間の居候なんだから、ここまでしてあげる必要はなかったんじゃない?」
霊奈。お前はとっとと部屋で着替えてこい。俺は幽奈さんにお礼を言っているんだ。
「もし住む家が見つかったとしても、この家具とかはそのまま持って行ってもらえるでしょう。真生さんは着の身着のままでこっちの世界に来てしまったんですものね」
幽奈さんの聖母のような微笑みはこの世の中から理不尽さをなくすね。両手を合わせて拝みたくなってきたぜ。
「何か不都合があればすぐにおっしゃってくださいね」
「はい、分かりました」
「真生。勉強机も来たんだから早速今日の宿題をやっておきなさいよ!」
幽奈さんの癒される微笑みを見た後では、俺を睨んでいる霊奈の顔つきは地獄の鬼も逃げ出すほどに見えるぜ。
「分かっているよ。もううるさいな~」
「真生の事を心配して言ってあげているのに何よ!」
「本当に心配してくれているんなら霊奈が勉強を教えてくれよ。今日の宿題だって難しすぎて全然分からないぞ」
「自分でやらないと身に付かないでしょ」
「まあまあ二人とも。美味しい羊羹を買ってきたから一緒に食べましょう。霊奈も着替えてらっしゃい。真生さんの着替えはタンスの中に入れておきました。私の趣味でとりあえず買ったものですからお気に召さないとは思いますが……」
「とんでもないです! 幽奈さんのセンスは俺にぴったんこですから! はははは」
俺が幽奈さんに愛嬌を振りまくと霊奈が怒るの定理は普遍的だった。
「何、にやついているのよ!」
「良いだろう、別に。それじゃあ霊奈も俺をにやつかせるようなことを言ってみろよ」
「何よ! ば~か」
その捨てぜりふを吐いて霊奈は隣の自分の部屋に入って行った。獄界に来てから霊奈に何回「馬鹿」と言われたのか、既に両手では数え切れないはずだ。
「それではいつでもダイニングに降りて来てくださいね」
霊奈さんはちゃんとお辞儀をして部屋を出て行った。いつも微笑んでいて優しい言葉遣い。年下の俺にも敬語で話をしてくれる幽奈さんは霊奈に傷付けられた俺がその傷を癒すオアシスだ。
――それよりパソコンだ。俺は早速パソコンを立ち上げてみた。久しぶりだ。たったの二日ぶりだったのだが、しばらくマウスを触っていない気がする。
出てきた画面は何となくウィンドウズに似ており、ちょっと操作するとすぐに取り扱い方法が分かった。並列世界といってもどっちの世界にいるのも人間に代わりはないわけだ。人間が使い勝手が良いように考えるものって、やっぱり自然と似てくるものなんだろうな。
ネットにもちゃんと接続できた。まずはやっぱりエロサイトを…………。いやいや、居候させてもらっている身でいきなり昼間からエロサイトはまずいだろう。……夜になってからにしよう。
とりあえず検索サイトから、この世界の情報を集めてみよう。ニュースサイトをいくつかサーフィンした後、俺は霊魂管理庁のホームページにあった記事に目を止めた。
「エンマ暦二〇三一年度『霊魂探索捕獲者』認定試験のご案内」
――ソウルハンターの認定試験か。どんなことをするんだろう?
何々――――年齢とか学歴による制限は無いみたいだな。だから霊奈のような高校生だってソウルハンターになれるわけか。第一次試験の筆記試験と実技試験に合格した者が、第二次試験である実技演習を受けることができるようだ。過去の合格率も出ているな。…………倍率百倍! 狐林が言っていたとおりだ。
霊奈の奴、こんな超難関の試験を通っているのか。もう高校になんて行く必要は無いんじゃないか。




