三姉妹(12)
しかし……、よく考えると俺は女の子と一緒に登下校しているんだよな。エロゲでも親しくなる第一のフラグのはずだ。現実にそんな経験のなかった俺にとっては夢にまで見た出来事なんだからもっと喜んでいいはずじゃないか? ……でも、隣で歩いている女の子が見るからに不機嫌な顔をして無言で歩かれても全然嬉しくないぞ。
そんな気分のまま家に着くと、俺は車庫に置いている霊奈のエア・スクーターが目に止まった。
「霊奈」
「何?」
歩いている間に若干は霊奈の機嫌も直ったみたいで、普通に返事をしてくれた。
「うちの学校ってバイク通学は禁止なのか?」
「別に禁止されていないと思うけど」
「それじゃ、エア・スクーターを通学に使えば、あっという間に着けるんじゃないか?」
「エア・スクーターはソウルハンター専用の乗り物なの。ソウルハンターの仕事以外では使用禁止なのよ」
「そうなのか。でもあんな便利なものがどうして使用禁止なんだ?」
「あんたは獄界に来て、飛行機やヘリコプター以外で、エア・スクーターのように空を飛ぶ乗り物を他に見た?」
SF漫画でよく出てくる未来的な景色に不可欠なものと言えば、ビルとビルの間を飛び交っている空飛ぶ車だよな。エア・スクーターが作れる科学力を持った獄界になぜ空飛ぶ車が無いんだ?
「そういえば見てないな」
「そうでしょ。つまりエア・スクーターは一般の人は乗れない特別な乗り物なのよ」
「値段が高いのか? それとも免許を取るのが超難関だとか?」
「違うわよ。エア・スクーターを動かすためには、ソウルハンターのように自由に幽体離脱ができるくらいの霊エネルギーが必要とされるからよ」
「エア・スクーターって霊エネルギーで動いているのか?」
「そうよ。ソウルハンターは一般の人よりも高い霊エネルギーを発していて、エア・スクーターはそれを動力源にしているの」
霊奈と俺は車庫に入ってエア・スクーターに近づいて行った。
「このハンドルの中心にあるのがロックを外す生体認証とエンジンをかけるための霊エネルギーセンサーよ」
霊奈がハンドルの中心部分に右手をかざすと静かにエンジンがかかり、もう一度、手をかざすとエンジンが切れた。
「そうか。……それじゃ普通のスクーターとかは無いのか? 通学は駄目でも普段移動するのにあれば便利だよな」
「事故で死んだのに懲りない奴ね」
「ちゃんと安全運転に心掛けるよ」
「残念ながら普通のバイクとかスクーターは家には無いわよ。真生が必要だと思うのなら自分で買えば」
――だから俺はお金を持って無いの。……でもまあ今すぐに必要なものでも無いからな。しばらく我慢するか。
「俺もこれに乗れたらなあ」
俺は何気なくエア・スクーターのハンドルの中心部分に右手をかざしてみた。
――んっ? ……エンジンがかかった音がした。
「えっ?」
霊奈も驚いていた。
「……あんたも一回死んでいて幽体離脱をしているのと同じ状態を経験しているから、これを動かせるだけの霊エネルギーを持っているのかもしれないわね」
「俺にもこれが使えるってことだよな?」
「駄目よ。ソウルハンターにだけ支給されているものだから」
「そうか」
欲しい玩具がもらえなかったみたいに落胆した俺に霊奈が言った。
「あんたもソウルハンターになれるかもしれないわね」
「俺が?」
「うん。素質があるかもね」
――それって只の慰めの言葉なのか? それとも本当に見込みがあるのかな?




