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Powergame in The Hell   作者: 粟吹一夢
第三章
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三姉妹(10)

 霊奈が通っている私立柳が下学園高等部は家から歩いて十五分ほどの所にあった。雰囲気的に良家の子女が通っているハイソな学園という感じだ。その敷地は俺が地界で通っていた公立高校よりも遥かに広く、校庭は芝生で覆われ、その周りも公園のように整備されていた。また、校舎は赤煉瓦で建築されていて伝統もありそうだ。

 俺は霊奈と同じ二年二組に編入された。霊奈と一緒に教室に向かっていると霊奈が念を押してきた。

「いい、真生。あんたは私の母方の遠い親戚で、親の背負った借金から逃れるために親元から離れて私達の家で匿ってもらっているということにしているから。間違っても地界から来たなんて言わないようにね。分かった!」

 ――何でそんなに不幸な設定なんだよ! 転校前の学校で身の危険を感じるほど女子生徒達から追いかけ回されたため、避難してきたイケメンっていう設定でも良いんじゃね? ……無理かな……やっぱり。霊奈に教え込まれたとおりに自己紹介しておくか。

 しかし、生徒数三十名ほどの二年二組だけ見ても人種のるつぼという感じで、アメリカンスクールに転入してきた感じだ。見た目は外国人のクラスメイトに囲まれていると何となく気後れしてしまうのは、俺が生粋の日本人だからだろう。

 ただ、クラスメイト全員が日本人的な名前を持ち、日本語をしゃべっているから、そのうちには慣れるだろう。

 一時限目のホームルームが終わって休憩時間になると、一人の男子が俺の席に近づいて来て話し掛けてきた。男子にしては身長は低い方で、天然パーマの黒髪にラテン系の顔立ちをしている、見るからにおちゃらけキャラな野郎だ。

「旦那。あっしでがす」

 ――誰が「旦那」だ。それに「あっし」だなんて、お前は岡っ引きか?

「俺はお前を知らないぞ」

「嫌だなあ。初対面ですけど、あっしは旦那とは初対面という感じがしないんでがすよ。もう何と言うか生まれながらにして親友というか一心同体というか」

 ――男と一心同体は御免被りたい。

「だからお前は誰なんだよ?」

「これは失礼いたしやした。あっしは山里狐林(やまざとこりん)と申しやす。以後、お見知りおきを」

「こちらこそよろしく。俺もこの街には初めて来て右も左も分からないからさ。色々と教えてくれよ」

「ご心配には及びませんぜ。あっしがこと細かく親切丁寧にお教えさせていただきやす。ところで、旦那は霊奈さんの家にご厄介になっているとのこと。いや~、羨ましい限りですな~」

「何だ? お前は霊奈のことが好きなのか?」

「霊奈さんは才色兼備のお嬢様ですからね。あっしなんかには見向きもしてくれませんや。それよりも、あっしはどちらかというと妖奈ちゃんの方が……」

 確かに霊奈は気に入らない奴とは口も利かないって感じだが、妖奈ちゃんは誰とでも笑顔で接してくれそうだ。それもアイドルの営業スマイルじゃなくて天然の明るさって感じでだ。昨日一日だけだが妖奈ちゃんと話していて俺もそう実感した。だからこの野郎の選択眼は間違っていない。

「霊奈さんの家にいるということは妖奈ちゃんとも一緒ということでがすよね?」

「まあ、もれなく一緒に住んでいるけどね」

「真生の旦那!」

 狐林はいきなり俺の両手を掴んで至近距離で俺を見つめた。――だから俺は男には興味は無いんだよ。

「旦那とあっしはもう親友でがすよね。そうだ! 今度、旦那の家に遊びに行かせてもらっても良いでがすか? う~ん、いつがよろしいでがすか? あっしはいつもでOKでがす」

 ――ちょっと待て。俺の家というより妖奈ちゃんの家ってことだろうが。……こいつは危ない。正真正銘のロリコン変態野郎だ。兄代わりとして妖奈ちゃんをこいつの毒牙から守ってやらねば。

「俺もまだ御上家にお世話になり始めたばかりだから荷物の整理もできてなくてな。そんな汚い部屋にお前を招待するわけにはいかないだろう」

「あっしが駆けつけて一緒に整理しやすぜ」

「いや、他人に見られたくないものとかあるし……。分かるだろう、男なら」

「……お宝本ですかい? それとも秘蔵ディスクですかい? そういう物の整理なら全くご遠慮なさらずとも結構ですぜ。何なら旦那の知らない間にコレクションを増やしとくこともできやすぜ」

 ――自分のお古を都合良く押し付けるだけだろうが。…………獄界のそういう物も見てみたい気もするが。……いかんいかん。こんな誘惑に負けていたら、今度こそ霊奈に殺される。ここはピシッと言っとかないとな。

「とにかく、自分も今は居候の身分なんだから勝手に友人を家に招待することはまだ気が引ける。もうちょっと慣れてきたら考えるよ」

「そうでがすか。……残念でがす。真生の旦那、その時がくればいつでもあっしをお呼びくださいまし」

「ああ、分かったよ」

「おっ、そろそろ次の授業が始まりやすね。それでは失礼いたしやす」

 大仰な挨拶を残して、狐林は同じクラスの一番前の席に帰って行った。


 ――それにしても、獄界全体なのか、この学園だけなのかは知らないが、授業のレベルは高すぎだ。地界で通っていた公立高校でも平均点以下をうろうろしていた俺だからな。こりゃ及第できるか心配だ。只でさえ霊奈に馬鹿にされているのに、これじゃあしばらく立ち直れそうにないぞ。

 休み時間になり俺は疲れ果てて机に突っ伏していた。

 ――こんなに勉強に頭を使うことは最近なかったな。ずっとこんな状態では勉強のしすぎでまた死んでしまうぞ。

 突然、頭を小突かれた。顔を上げると霊奈が俺の机の側に立っていた。

「もうギブアップなの。情けないわね」

「俺が通っていた高校よりずっとレベルが高いんだよ。それに今日から通い出して、いきなりエンジン全開にはなれないだろ」

「もう、本当にヘタレね」

 ――うるさい。何とでも言え。俺はいきなり違う世界に来て生きているんだ。頭が正常さを保っているだけでも自分で大物だと思うぜ。

「それより次の授業は体育よ。早く着替えて校庭に行かなきゃ駄目よ」

「どこで着替えるんだ?」

「校庭の横に更衣室があるから体操着を持って行きなさい」

 ――そういえばスクールバックの中に体操着も入っていたな。これも龍真さんが着ていたやつなのかな?

 今日の体育は五十メートル走測定だった。俺は十五人の男子中八位の順位。可もなく不可もなくという俺のライフスタイルを象徴している数字だ。ちなみに最下位は狐林の奴だった。

 男子が全員走り終えた後、女子の番になった。男子達がグラウンドの隅に座って女子の走りを見ていたが、予想どおり霊奈がダントツのトップだった。俺のラップタイムより速い。

「やっぱり霊奈さんはすごいでがすね」

 俺の隣で座っていた狐林が呟いた。

「とにかく成績は学年でトップクラスでスポーツも万能、その上あの美貌でがすからね。霊奈さんはこの学園のマドンナなんでがすよ」

 ――あの美貌ね……。まあ、見た目は可愛いことは認めるが、みんなは霊奈の暴力的性格を知った上でその評価を下しているんだろうか?


 昼食は幽奈さん特製の弁当を狐林と一緒に学生食堂で食べた。弁当は二段重ねでお花見の時に食べるような超豪華弁当だった。どれ一つとして冷凍食品などではないようだ。幽奈さん一人でこれだけの品数を料理するなんて信じられない。妖奈ちゃんが言っていた「料理の天才」という称号を贈ることには誰からも異論は出ないだろう。

 狐林の弁当は、何故だか分からないが大きな弁当箱の中に焼きそばが単品大盛りで入っていた。とことん変な奴だが、下心があったとはいえ、転校初日から俺に話し掛けてくれた狐林のことがなんだかんだ言って俺は気に入っていた。

「なあ、狐林」

「なんでがす?」

「お前の親って仕事は何をしているんだ?」

「あっしの父親は霊魂管理庁に勤めていやすぜ」

「それじゃあ、死神、……いや、ソウルハンターなのか?」

「とんでもない。ご存じでしょうけど、ソウルハンターになるには超難関試験に合格しなきゃならないんでっせ。ソウルハンターは獄界の超エリートな職業なんでがすよ。うちの親父はノンキャリの事務職でがすよ」

「そうなのか?」

 ――霊奈の奴、どこまですごいんだ。霊奈は勉強も運動もオールマイティな奴だが、そのことを自慢して鼻に掛けるようなこともしないから、男子のみならず女子達にも人気があるようだ。今も霊奈は、ちょっと離れたテーブルで女の子の友達数名と、俺と同じ幽奈さんお手製の弁当を食べながら談笑していた。……別に作り笑いをしているようには見えない。そんな笑顔ができるんなら俺にもちょっとは見せてくれても良いんじゃね。……ったく、何で俺にはあんなに突っかかってくるんだろうな?

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