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Powergame in The Hell   作者: 粟吹一夢
第三章
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三姉妹(9)

 昨日の話から「獄門の番人」の責任者である龍岳さんが襲われるかもしれないってことは分かるが、「闇の騎士」だとはいえ、まだ高校生の霊奈が襲われるということはどういうことなんだろうか? 霊奈だけではなく幽奈さんや妖奈ちゃんも襲われる危険があるんだろうか?

「霊奈。霊奈の強さは俺も見せてもらって分かっているけど、幽奈さんや妖奈ちゃんは襲われることはないのか?」

「私の家には常に人工結界を張っているから、いつも家にいる幽奈は大丈夫よ」

「結界? 結界って何だ?」

「結界というのは、空間構成を変換して一定範囲の空間を閉鎖してしまうものよ」

「空間が閉鎖されるってどういうことだ?」

 霊奈は立ち止まって辺りを見渡した。俺もつられてキョロキョロと見渡してみたが、辺りには誰もいなかった。

 霊奈が右手を天に向けて伸ばすと、突然、周りの景色が揺らいで見えるようになった。

「今、私が小さな結界を張ったわ。この結界の中にはあんたと私しかいない。真生。私から離れて行ってみて」

「よし!」

 俺は霊奈から離れるように歩いて行った。しかし、五メートルほど行ったところで目に見えない柔らかい壁のようなものにぶつかってそれ以上前には進めなかった。手を伸ばして触れてみると柔らかく透明なゴムのような感覚で、まるでシャボン玉の中にいるような錯覚を覚えた。

「これが結界なのか?」

「そうよ。結界を張ると外からの侵入者を防ぐこともできるし、中から逃げることができないようにすることもできる。それから……」

 丁度その時、そのシャボン玉の外を男子学生が二人話しながら通り過ぎて行ったが、道の真ん中に巨大なシャボン玉があることも分からないようだった。

「彼らは歩道の真ん中を歩いているんだけど、結界がある所は空間が歪んでいて、彼らは結界の縁に沿って曲がって歩いていることに気がつかないでまっすぐ歩いていると感じているの。実際、彼らは歩道から出ていないでしょ」

 確かに男子学生達はガードレールを超えることなく歩道を歩いて通り過ぎて行った。つまり結界の中にいる俺から見るとガードレールで車道と隔てられている歩道の幅が十メートルほどに拡大しているように見えているんだが、結界の外ではこの巨大なシャボン玉は存在していないと同じなのだ。

「外からは俺たちも見えていないのか?」

「ええ、そうよ。『闇の騎士』であれば、ほとんど全員が結界を張ることができるはずよ。結界を張ることで闇から闇に人を消すことができるから必須の能力ということね」

「人から見えなくて、しかも入れない場所を作っておいて、その中で人を密かに消すということか? ……でも死体はどうやって処理するんだ?」

「結界にも色々と種類があって、結界自体を消滅させるとその中にあった霊魂を失った肉体を一緒に消滅させてしまうこともできる結界もあるの」

「なるほど。まさしく暗殺者用の結界というわけだな?」

「ええ。私の家に張っている結界は機械で発生させているもので、単に侵入者を防ぐという役割しかないものよ」

「目に見えないバリアを張っているみたいってことか?」

「そう考えてもらって良いわ。家族でしか結界を通ることができないようにセットされているの。あんたも、朝、玄関の扉で生体認証をセットしたでしょう。それは扉の解錠プラス結界の解除のために必要なの」

「そうか。だから幽奈さんは家にいる限りは安全ということなんだな?」

「ええ」

「それじゃあ、妖奈ちゃんは? 妖奈ちゃんも学校に行っているんだろう?」

「やっぱり妖奈のことも気になるんだ。……ロリコン」

 そのジトっとした目で俺を見るのは止めてくれ。

「俺にだって妹はいたんだ。年下の女の子に欲情する奴の気は知れない」

「どうだか? …………まあ、良いわ。信じてあげる。妖奈は女子校の中等科に通っているんだけど、事務所の車で通っているのよ」

「事務所って?」

「妖奈の所属している芸能事務所よ。あの子も学校と仕事を両立させて、けっこうハードスケジュールをこなしているからね。学校の外でもマネージャーとか事務所の関係者がいつも近くにいるから、妖奈も襲われることはないはずよ」

「どうして?」

「関係のない第三者達と一緒にいる時に結界を張るとその第三者も一緒に結界に入り込んでしまうでしょ。プライベートアーミーはその存在自体を秘密にしているから関係のない第三者を巻き込むことは絶対にしないわ」

 そう言うと霊奈は辺りを見渡して誰もいないことを確認すると結界を解いたようで、揺らいでいた辺りの景色がはっきりと見えるようになった。

「霊奈も結界を張れるってことは、それを利用して、その、…………危険な事とかしているのか?」

「人を殺したりとか?」

「あ、ああ」

「私がそんな人間だったらどうする?」

 霊奈は俺の答えが気になるように上目遣いに俺の顔を見た。

「霊奈は意味もなく人を殺すような人間じゃないだろう? 俺はそう信じている」

「…………私は自分から結界を張って人を殺したことはないわ。でも、敵が張った結界の中で襲われてくることは何回もあって、自分の身を守るために敵を殺したことはあるわよ。……軽蔑する?」

「いいや。実際、黒ローブの男に襲われた時に、あいつを倒さなくっちゃ、こっちの命が危ないってことは俺も身に染みて感じた。生か死かって時には仕方が無いよな」

「…………」

「でも、どうして霊奈が襲われるんだ? 龍岳さんが『獄門の番人』の責任者なんだろう?」

「お父様にも秘書とか政党の職員とか、あるいはマスコミ関係者がいつも一緒にいるから、お父様が一人になるということはほとんどないからじゃないかな? でも、私は一介の女子高生だからね」

「それならなおさら霊奈も車で移動した方が良いじゃないのか?」

「私が襲われやすくしていれば、お父様や幽奈とか妖奈に矛先が向くことは無いでしょう」

「えっ、……お前は自分を家族の盾にしているのか?」

「お兄様がいない今、私がするしかないのよ」

「お前って奴は…………、あんまり無茶をするなよ」

「…………分かっているって。…………あっ大変! 遅れそう。真生、走るわよ」

「おい、ちょっと待ってくれよ」

 ちょっと顔が赤くなっていたような気がしたが、それを確認する隙もなく霊奈は駆けだした。

 ――それにしても…………霊奈、足速すぎ!

 俺はぜいぜいと息を切らしながら霊奈の後をついて行くしかなかった。

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