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Powergame in The Hell   作者: 粟吹一夢
第三章
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三姉妹(8)

 この日の朝食も鮭の塩焼き、卵焼き、焼き海苔、野菜のお浸しと純和風定食だった。

 幽奈さんは、今朝は薄紅色の着物に昨日と同じ割烹着を着て、ご飯をお代わりした俺のお茶碗にご飯を山盛りに盛っていた。

「はい。たんと食べてくださいね」

「『居候、三杯目にはそっと出し』っていうことも知らないみたいね」

 ――誤解は解けたはずなのに、なんで朝からそんなにカリカリしているんだろうな、霊奈の奴。しかも俺はまだ二杯目だ。……だが、このおかずの美味さでは三杯目も軽くいけるぞ。

 妖奈ちゃんはひまわりのイラストの付いた黄色いパジャマ姿のまま、俺の前で朝食を摂っていた。

「ごめんね。真生兄ちゃん。今まであの部屋は誰もいなかったから間違って入っても朝まで寝放題だったんだよね」

 ――まだツインテールにしていないボサボサの長髪も寝起きの顔も、ファンの男達が見たら失望するようなこともなく、やっぱり可愛い。あの龍岳さんからどうしてこんなに綺麗で可愛い娘達が生まれたんだ? 死んだという霊奈達のお母さんは余程美人だったんだろうな。

 それはそうと……、地界の俺の家では親父が食事の時にはテレビをつけない主義だったから、俺は食卓にテレビの音声が流れていることにやや戸惑っていた。

「食事の時には、いつもテレビをつけているんですか?」

「お父様は政治家ですから、朝はあちこちのニュース番組を見るようにしてて、うちは昔から朝食時にはいつもテレビをつけているんです。真生さんが気になるのであれば消しますけど?」

「いえ、全然、大丈夫ですよ」

 ――幽奈さん、あなたを責めている訳ではないんです。そんなに申し訳ないような顔をしないでください。……しかし、神様は何故、幽奈さんの優しさを少しは霊奈に分け与えなかっただろうか?

 テレビのニュースでは鬼崎という総理大臣が記者達に囲まれてインタビューを受けていて、地獄業務の民営化について改めて反対の意思表明をしていた。

 ――これが総理大臣? 総理だなんて言われなかったら焼鳥屋でくだを巻いてそうな疲れたバーコード親父だぞ。……でも、人は見た目じゃ分からないからな。本当はきっとすごい人なんだろう。

 しばらくすると龍岳さんがダイニングにやって来た。昨日の夜遅くにまた家から出掛けていたが、いつ帰って来たのかは気づかなかった。

「お父様。朝食はどうされますか?」

「すぐに出なければならない。コーヒーだけでよい」

「分かりました」

 幽奈さんがキッチンにコーヒーを入れに行った。

「真生君。昨日はよく寝られたかな?」

「あっ、はい。お陰様で……って言いたいところですが何か変な夢を見て……」

「変な夢?」

「はい。大勢の男達に囲まれて剣で刺されてしまう夢でした。何だか妙にリアルで……」

「……そうか」

 龍岳さんには何か思い当たる事があるように思えた。

 ――でも俺の夢が龍岳さんとどんな関係があるというんだ? 龍額さんは乙女のように夢占いでもしているのか?

 龍岳さんは幽奈さんが持って来たコーヒーをちょっとすすっただけで席を立った。

「途中、寄る所があるから、もう出掛ける」

 霊奈と妖奈ちゃんの「行ってらっしゃい」の声に送られて龍岳さんはダイニングを出て行った。幽奈さんも龍岳さんの鞄を持ってダイニングを出て行った。

 丁度その時、テレビでは政治のニュースが終わり芸能関係のニュースになった。

 どうやら今、獄界では「鬼っ子クラブ」という女の子十人のアイドルグループが人気絶頂のようで、新曲発表会に五万人が集まったというニュースをしていた。しかし……この女の子達の格好ときたら、ブラとミニスカートで、しかも布の面積も異様に狭い。朝のニュース番組には刺激が強すぎだろう。

 ――あんまりこの娘達を注視していると、また霊奈から変態扱いされかねないぞ。後ろ髪を引かれるが、ここはテレビから視線をはずして妖奈ちゃんに話を振ってみよう。

「妖奈ちゃんも彼女達は知っているんだよね?」

「もちろん知っているよ。でも私は路線が違うから」

「路線?」

「私にはこんなに胸が無いことは真生兄ちゃんも知っているでしょう」

 ――妖奈ちゃん。誤解を更に複雑にするようなことは言わないように! 服の上からでも胸が残念なのは分かるけど、直に触ったんじゃないかとか誤解している奴がこっちを睨んでいるからさ。

「真生! 早く食べなさい! このままじゃ遅刻しちゃうわよ」

 霊奈の青筋に急かされて三杯目のご飯を味噌汁で流し込んだ俺は霊奈と一緒に玄関を出た。

「行ってらっしゃい」

「行って来ます」

 玄関先で幽奈さんが優しく手を振って見送ってくれた。学校に出掛けるのに誰かに見送ってもらえるのは初めてだ。なんだか新婚さんになった気分だ。

 お出掛けのチューとかは……まあ、ないだろうな。

 俺は霊奈と並んで歩き出した。学校の制服姿の霊奈もよく見れば学園ドラマのヒロインになれるくらいは可愛かった。

 女子の制服は、胸ポケットにエンブレムが付いたベージュ色のジャケット、白いワイシャツに赤いリボン、チェック柄のミニスカート、紺色のハイソックスに茶色のローファーだ。俺の着ている男性用の制服は、リボンがネクタイ、スカートがズボンになっている以外は同じ配色と柄だった。

 ――しかし、龍真さんってよっぽど俺と体格が似ていたようだ。俺が着ている制服はジャストフィットだ。

「ちょっと、あんまりこっちに近寄らないでくれる。変態が移るから」

 並んで歩いているんだから仕方無いだろう。一緒に行くのが嫌なら学校までの地図を渡してくれれば良いものを。それにしても…… 妖奈ちゃんの件で変態確定の烙印を押されてしまったようだ。でも、あの場合、俺はどうすれば良かったというんだ?

 とにかく俺がすぐに女の子に手を出すような男ではないことは自分でも分かっているつもりだし、霊奈だってすぐに分かるだろう。俺にはそんな度胸なんて無いのさ。

 ――ところで朝の通学路。俺と霊奈は歩道を歩いていたが人通りはそれほど多くなかった。

 一方で車道には黒塗りの高級車が次から次に通り過ぎて行った。高級住宅街であるこの周辺には政治家とか会社の社長とかがいっぱい住んでいるんだろう。その車のうち何台かの後部座席には学生らしき姿も見えた。

「なあ、霊奈」

「何?」

「霊奈は天下の政権与党の副幹事長の娘なのに歩いて登校しているのか?」

「どういうこと?」

「いや、セレブな家庭のお嬢様はみんな車で送り迎えされているものだと思っていたけどさ」

「私は別にセレブなお嬢様なんかじゃないわよ。それに家から学校はすぐ近くなのに車で行くなんてもったいないじゃない」

「ふ~ん」

「毎日、車に乗って移動していると何だか体が鈍ってきそうな気もして、いざという時に困るかなって思うしね」

 ――「いざという時」とは、あの黒ローブの男に襲われた時のようなことを言っているんだろうか?

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