三姉妹(7)
食事の後、俺は風呂に入った。浴室自体はけっこう古かったが、一応、シャワーも付いていた。娘の要望で後から取り付けたんだろうか?
身体を洗っていると、曇りガラスの向こうから幽奈さんが声を掛けてきた。
――ひょっとしてお背中でも流してくれるとか?
「真生さん。取りあえず下着と寝間着を買ってきましたので置いておきますね。私が見た目で決めたサイズのものを買ってきたので合わないかもしれませんけど……」
「あ、ありがとうございます」
――いかんいかん。幽奈さんにそんなよこしまな感情を抱くだけで罪悪感を覚えてしまう。俺の妄想の中でさえ、清楚な幽奈さんを汚すことは許されないのだ。…………でも、妄想を止めるだけの理性を持ち合わせているかと訊かれると……自信は無いな。
夕食の時の話によれば、幽奈さんは十七歳の霊奈より四歳上の二十一歳。大学に行っていたが病気で体調を崩してしまい、今は元々好きだった家事に専念しているということのようだ。ちなみに龍真さんは幽奈さんの一つ下で生きていれば二十歳。妖奈ちゃんは霊奈よりも三歳下で十四歳の中学二年生だそうだ。
俺は風呂から上がると、幽奈さんに案内されて龍真さんの部屋だった二階の一室に入った。家具も何も無い部屋の真ん中に布団が一つ敷かれていた。
「何もなくてごめんなさい。明日には生活用品を揃えますから」
「いえいえ、とんでもない。野宿しないだけでもありがたいです」
「ふふふ。では、おやすみなさい。明日は七時には朝食を食べられるように準備しますから、それまでにダイニングに集まってくださいね」
「分かりました。おやすみなさい」
幽奈さんは深々とお辞儀をして部屋から出て行った。
――幽奈さん、……良い! 素敵だ。俺もこんなお姉さんが欲しかったぜ。エロゲでもお姉さんプレイはしたことがなかったから、俺にこんな属性があったなんて新発見だ。――だが、そんな自分の新しい一面を見つけたからと言ってはしゃいでいても仕方が無い。明日はさっそく獄界の学校に行くことになったんだから、今日はもう寝るとするか。
俺は布団に入り枕元の電灯を消して目を閉じた。
――今日は本当に色んなことがあったな。…………ひょっとして、朝、目が覚めると、地界にある俺の家の俺の部屋のベッドで目が覚めて、親父とお袋と美咲の顔を見ながらトーストとベーコンエッグの朝食を食べているんじゃないか? やっぱり夢なら醒めてほしいという気持ちもあったが、そうすれば幽奈さんとはもう会えないってことだ。それはそれで寂しい。
そんなことをつらつらと考えながら俺は眠りに入った。
俺は気が付くとまた暗闇の中にいた。
やっぱり夢だったのか? するとここは地界の俺の家の俺の部屋…………じゃないみたいだ。……部屋の中なのか外なのかも分からなかった。
目が暗闇に慣れてくると、俺は黒い背広を着た男達に囲まれていることが分かった。みんな剣を持っている。
何なんだ、お前達は? ……危ないじゃないか。そんなもん仕舞えよ。
しかし、男達は問答無用で一斉に俺に襲い掛かって来た。
俺は体中を串刺しにされた。
「……!」
目が覚めると、カーテンの隙間から差し込む朝の光で明るい部屋にいた。……龍真さんの部屋だった部屋だ。
あの黒ローブの男のことが記憶に残っていたのか、とんだ悪夢を見てしまった。体中に汗をいっぱいかいていた。俺は目だけを動かして部屋を見渡してみた。もちろん剣を持った黒服の男達はいない。
――やれやれ。昨日は、死んで、時空を越えて並列世界に来て、襲われて、そして生き返って……と、てんこ盛りな一日だったんだから、夢だけでももっとのんびりしたかったぜ。幽奈さんに「あ〜んして」とか言われながら飯を食わせてもらっている夢とか……。
――んっ?
寝起きのボーッとした状態からやっと頭がアイドリング状態になった俺は、お腹の辺りに何かがいるような重みを感じた。まさか……。
俺は起き上がろうとしたが重さで起きあがれなかったので、とりあえず首だけ起こして見てみると、そこには黒服の男……じゃなくて、パジャマ姿の妖奈ちゃんが俺の掛け布団の上に猫のように俯せに横たわっていた。
「ちょ、ちょっと、妖奈ちゃん」
俺は何とか上半身を起こして、妖奈ちゃんを揺さぶった。すると、妖奈ちゃんは眠そうに目を開けて俺を見つめた。
――う~む、さすがアイドルしているだけあって、寝ぼけ眼の妖奈ちゃんも危険なほど可愛いぞ。
「ふあ~、……あっ、お早う。真生兄ちゃん」
「お、お早う。…………じゃなくて! なんでここにいるんだよ?」
「あれっ?」
妖奈ちゃんはキョロキョロと辺りを見渡して自分の部屋じゃないことがやっと分かったようだった。
「そうか。トイレに行った時に部屋を間違えたみたい。よくやるんだよね。へへへ」
「『へへへ』じゃなくて~」
「じゃあ、おやすみ~」
妖奈ちゃんは四つん這いになりながらドアの方に向かって行った。
――やれやれ。
枕元の目覚まし時計を確認すると午前六時五十分だった。確か七時から朝食だったから、後、十分は寝ることができるぞ。とりあえず七時まで寝よう。
俺はまた掛け布団を被って横向きに寝ながら再び眠りに着こうとした。
――んっ? ……今度は背中に何か動くものを感じるぞ。……何だ? やっぱり刺客が?
俺がすばやく掛け布団をはね除けて振り向くと、……妖奈ちゃんが俺の背中に張り付くように寝ていた。
――さっき部屋から出て行ったんじゃなかったっけ? ……いや、よく考えるとドアが閉まる音はしなかった。どうやら一旦ドアの方に這って向かっていた妖奈ちゃんがUターンして俺の布団に舞い戻って来たようだ。
「ちょ、ちょっと、妖奈ちゃん! 起きなよ」
俺は、横になったまま身体を反転させ妖奈ちゃんと向き合うようにして、妖奈ちゃんの身体を揺さぶった。
「う~ん、おやつ、まだ~?」
今度はなかなか起きないぞ。それにしても寝起きの悪い娘だ。
「真生~。朝ご飯できたぞ。早く起きろ!」
間が悪い時はとんでもなく悪い時があるよな。ドアがノックされると同時に、既に学校の制服姿の霊奈がドアを開けて俺の部屋に入って来た時、俺は妖奈ちゃんと添い寝をしているみたいな体勢になっていた。
霊奈の顔に青筋が立つのが見えた。
「あ、あんたは幼気な中学生にいったい何をしているんだ!」
霊奈の右手から剣が出てきた。――朝っぱらからそんな物騒な物を出すな!
「違う、違うんだ! 誤解だ~っ!」




