三姉妹(4)
龍岳さんや霊奈が話してくれた獄界についての話を俺なりにかみ砕いて整理してみた。
約二千年以上前、浄化されない霊魂が宿った新生児がたまたま相次いで生まれた一族がその圧倒的な記憶と知識をもって獄界の世界統一を果たした。それは今の地獄がある地域、すなわち地界でいう日本を支配していた一族だった。
世界の大王となったその一族の長は、その治世を盤石なものとするべく、霊魂浄化の差別化を考えた。つまり、自分の一族の新生児には浄化されていない霊魂を宿らせることで高度な知識と記憶を一族に独占させようとしたのだ。
そのために大王は世界中から高名な十三人の科学者を召し上げ、三十年の歳月を掛けてエンマと地獄を作り上げた。エンマには人の死亡を確実に予測させ、ソウルハンター達には霊魂を漏れなく回収させて地獄に送り、地獄では回収した霊魂を浄化されるまで隔離しておくというシステムを作り上げたのだ。しかし自らが指定する一族の者の死亡が予測された時には、その者の霊魂は地獄に送らずに、一族の新生児に宿らせるようにしようとした。
この計画が実行されていたら、大王の一族の治世は永遠に続いていただろう。しかし、十三人の科学者は密かにこれを拒否し、エンマには誰の命令も聞かないような自律的回路を埋め込み起動させた。そして時を同じくして起きた革命により大王の一族は滅亡させられ、十三人の科学者をトップとする革命政府が発足した。
革命政府は、エンマの独占的管理権を持とうとした大王のような独裁者を二度と生み出さないために、エンマの膨大な主要プログラムのバックアップを十三分し、十三人の科学者の末裔に分散管理をさせるようにした。その時から現在の獄界の形は基本的には変わっていない。常に真ん中にエンマがあった。暦もエンマが稼働した年をエンマ暦元年としており、俺が獄界にやって来たのはエンマ暦二〇三一年だった。
――ところで、ここで一つの噂話があるそうだ。
十三人の科学者はエンマに、人の死亡の予想だけではなく人の運命そのものを変えて人を自由に死亡させることもできるようにして、その機能を使って大王の一族を滅亡させた後、その人の死亡を操る機能を封印したというのだ。その封印されたプログラムは、特定のキーワードを入力しないと起動しないと言われており、そのキーワードを知るためには十三に分けられたバックアップデータを一つにまとめる必要があるらしい。その噂が本当だったら、その機能を手に入れた者は人の生殺与奪を自由に行えることになり、まさに神となる。
――話を元に戻すと、十三人の科学者の末裔達は、独裁政治の再来を招かないことを国是として、まずは自らの一族を貴族として、その中から選挙によって元首を選ぶ制度を打ち立てた。そして今から約二百年前、獄界も民度が高まり、市民達から民主主義制度実現の要求が高まってくると、十三の貴族集団はあっさりと身分制度を廃止して、十八歳以上の男女全員による普通選挙が実施されるようになった。
十三の元貴族集団は、大同団結して「神聖自由党」という政党を結成し、各集団は政党の派閥として存続していった。神聖自由党は結成以来、圧倒的な多数与党であったが、近年、野党が大同団結した「民主改革連合」が、「開かれた政治」とか「一部勢力が独占しているエンマ管理権の解放」などと謳いながら、勢力を伸ばしてきているらしい。
この家の主、御上龍岳さんは神聖自由党の副幹事長であり、十三ある派閥の一つ「薫風会」の事務局長でもあった。
そして、龍岳さんには裏の顔もあった。――初対面の俺にそんなことまで教えても良いのだろうか? ――龍岳さんは薫風会のプライベートアーミー「獄門の番人」の責任者でもあった。
プライベートアーミーとは、十三の派閥がそれぞれ擁している秘密の私兵組織のことだ。貴族制度時代に有していた騎士団から派生したものだが、民主主義政治の発足以来、その武力のほとんどは治安国軍に吸収されていった。しかし、依然として他の派閥への対抗上、その一部の騎士達が非合法で秘密の私兵組織として再編され存続していたのだ。
プライベートアーミーは、一般の国民にはまったく知らされていない非合法な戦闘集団であるため、さすがに戦車とか戦闘機のように目立つ武器を持つことはできないことから、科学的な研究と訓練に基づき、その所属する戦闘員個々の肉体能力を増強させたり、特殊な能力が使用できるようにするなどして、超人的な戦闘能力を持った戦士――その由来から「闇の騎士」と呼ばれている――が、日の当たらない世界で日夜、抗争を繰り広げているようだ。
そして民主改革連合もプライベートアーミーに似た秘密の戦闘集団を擁しており、それが「解放戦線」と呼ばれるものであった。もっとも神聖自由党のプライベートアーミーとは歴史と伝統が違うとかで、霊奈に言わせると「解放戦線」は只の愚連隊だそうだ。
要するにヤクザやマフィアの世界と同じで、水面下では暴力的な抗争を繰り返しながら、表面上は政権与党の主導権争いをしているのが、神聖自由党の各派閥であって、それに野党の民主改革連合が参戦してきているという構図なのだ。
ちなみに黒ローブの男との戦いの際に霊奈が右手から出した剣も「闇の騎士」であれば誰もが有している能力の一つで、空間構成を変化させて自分が登録した武器を自由に取り出せるという「携帯武具」という能力だそうだ。
霊奈は、ソウルハンターであるとともに「獄門の番人」の「闇の騎士」なのだ。つまり、この金髪の女の子はそんな世界に身を置いているということなのだ。




