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Powergame in The Hell   作者: 粟吹一夢
第二章
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獄界(8)

 霊奈は深い森の手前にある野鳥の観察場所のような木製のテラスの前でスクーターを停めた。

 そこには景色の良い観光地にはどこにでもあるコインを入れて見る望遠鏡のようなものが設置されていた。

「ソウルハンターは訓練によって裸眼の構造を組み替えて霊魂を見ることができるけど、一般の人は特殊なフィルターを通してじゃないと見ることはできないのよ。これがそのフィルター付きの望遠鏡よ」

 霊奈がコインを一枚、望遠鏡に入れると俺に接眼部を向けた。

 俺はその望遠鏡に目を当てて森の方を見てみた。

 暗い森の中では裸眼では見えなかった沢山の老若男女がたむろしていた。地獄ライフをエンジョイしているんだろうか? みんな笑顔だった。

「色んな年代の霊魂が見えると思うけど、若い姿をしている霊魂ほど浄化が進んでいるということね」

「そうすると、赤ん坊の姿の霊魂は浄化済みってことか?」

「浄化がほぼ終わっていると言って良いわね。浄化が終わった霊魂は人の形も忘れて、単なる光の玉のようになるわ」

 そういえば火の玉のようなものもいくつか漂っている。怪奇現象特番によく出演している火の玉は本当に霊魂だったんだ。

「浄化が終わった霊魂は地獄から解放されて、その一部はランダムに地界にも送っているわよ」

「それじゃあ、今、通ってきた町中にも、この火の玉がいっぱい浮かんでいたってことか?」

「そうよ。新たに宿るべき肉体を探しながらね。……それじゃ次に行ってみましょう」

 俺は再び霊奈の運転するスクーターに乗って地獄の敷地内を低空で走って行った。

 森を抜けると、そこには湯気が立ち上る広大な露天温泉があった。温泉は鉄分が多いのか、やや黒づんだ赤色をしていた。まるで血の池地獄だ。

 ここでも見学者用の望遠鏡が設置されていた。風呂場を望遠鏡で覗くのはちょっと犯罪の臭いがするが…………。しかし温泉に浸かっている霊魂達は皆気持ち良さそうだった。

「あの温泉には霊魂でも温感が感知できる特殊な薬剤が混入されているの。霊魂をリラックスさせることで、より浄化を速めることができるのよ。ぐだぐだと考えているよりさっぱりした方が速く忘れることができるでしょ」

 それは理解できる。テストが終わった後、家でエロゲに熱中している時には、そのテストのことなんて記憶の片隅にすら残っていないからな。

 次に俺達は温泉の隣に建つ病院のような白く巨大な建物に入って行った。建物の中には向こう側の壁が見えないくらいに大きな部屋があり、そこには無数のベッドが並んでいた。入口付近に備付の望遠鏡を覗くと無人に見えたベッドの上には霊魂達が横たわっていた。

「あのベッドには特殊な微電流が流れていて、やっぱり霊魂にリラクゼーションを与えているの。まるで針治療を受けている感じかな」

 ――針地獄ってところか。……って地獄じゃないだろう。霊奈が言っていたとおり、俺の想像していた地獄とは全然違う。大規模なリハビリセンターって感じだ。

 そして、さっきから俺は気になっていることがあった。施設の中にゴーグルのような物を目に掛けた若い女の子が大勢いたことだ。しかもみんな虎柄のビキニのような服を着ている。

 ――正直に言うと俺は望遠鏡で霊魂達よりその女の子達の方を重点的に見ていたんだが、いったいこの女の子達は何をしているんだろうか? これは霊奈に訊くしかないだろう。

「あれは監視員よ。もっともみんな派遣やバイトだけどね。本当は霊魂ともコミュニケーションが取れるソウルハンターが全部の監視をすれば良いんだけど、ソウルハンターの絶対数は不足しているし、人件費削減のためには正職員だけじゃできないのよ。ちなみにあのゴーグルはこの望遠鏡と同じようにソウルハンターじゃなくても霊魂が見られるものよ」

「霊魂は見えるけど話はできないんじゃないのか?」

「そうね。だから異常事態があれば、本部に常勤しているソウルハンターに連絡をして来てもらうようになっているのよ」

 地界でも最近は事業仕分けとかあったけど、地獄にも経費削減の嵐が吹き荒れているようだ。でも経費削減ってことは、この地獄もどこかが経営しているってことだよな。

「なあ、霊奈。地獄はどこが経営しているんだ?」

「もちろん国営よ。エンマの管理と一緒に地獄の経営も霊魂管理庁の所管業務よ」

「税金で運営しているってことか?」

「そういうこと。地界から税金を取ることはできないからその分は持ち出しになるけど、獄界では死んだ人の遺族から『地獄利用税』を徴収しているの。だけど税金の使い道については最近はめっきりうるさくなってきているからね」

「例えば、地獄なんて税金の無駄遣いだとか?」

「地獄業務は絶対必要だって事はみんな理解しているから、地獄が無くなることはないわね。でもね、地獄の業務を官から民にという動きはあるの。民営化すれば何でも効率的に行えると思っているみたいね」

「地獄業務を民営化したってあまり利益を生むとは思えないけどな」

「それはそうよ。でも民営にして『地獄利用税』を『地獄利用料金』にすれば、もっと安くすることができるって思っているみたいね」

「そんなに言うんなら、いっそのこと一度民間に任してみれば?」

「地獄の管理だけならそれほど問題は無いんだろうけど、地獄の管理はエンマの管理と切り離すことはできないの。エンマの管理を民間が握ったらどうなると思う?」

「何か変わるところがあるかな?」

「エンマは獄界と地界の全人類の死亡予測がほぼ百パーセント確実に行えるのよ。そして、その機能を発展的に利用することで、全人類の生殺与奪を握ることができることも可能よ。神と同じ力を特定の一部の者が手にすることができるのよ。新たな権力者がこれを悪用しないってことは言い切れないでしょ」

「でも、今も特定の国家公務員が管理しているわけだろう。それが民間になるだけの話じゃないのか?」

「これまでの政府は、ずっとエンマを特定の個人によって管理させないようにしてきたの。そしてエンマと同じものを作る事もできないようにもね」

「どういう風にして?」

「エンマのすべての仕組み、つまりプログラムは分割管理されていて、誰一人としてその全体としての仕組みは知らないし、知る事もできないの」

「そのプログラムの分割管理をしているのは誰なんだ?」

「エンマを作った科学者達の末裔である私達よ」

「末裔?」

「そうよ。エンマは、その昔、獄界を統一した大王が科学者達に命じて作らせたものなの。でも、そのエンマを作った科学者達が中心となって反乱が起き、大王の治世が終わった後、獄界はその科学者の子孫達が集団統治する統一国家となったの。それ以来、獄界ではずっと一つの国なの」

 ――なるほど。獄界には外国という概念が無いと言ったのはそういうことか。

「それで、その科学者達がエンマを作ったのはいつ頃なんだ?」

「二千年以上前よ」

「に、二千年前!」

「エンマを作った十三人の科学者達は、エンマが特定の個人や勢力に利用されないようにするため、エンマのプログラムのバックアップを十三等分して、それぞれの子孫に引き継がれるようにしたの。そして十三人の科学者の子孫達は、それぞれ政治集団を作り、時には協力しながら、時には争いながら、牽制しあって、独裁政権ができることを防いできたの」

「二千年間、ずっと?」

「そうよ。二百年くらい前からは、この国も民主主義体制になったけど、十三の政治集団が大合併をして『神聖自由党』という政党を結成して、現在までずっと政権与党の座を守っているわけ」

「その神聖自由党の党員はみんな、その十三人の科学者の末裔ということなのか?」

「いいえ。民主主義になってからは誰でも政治に参加できるわけだから、今の神聖自由党の党員はみんな末裔とは限らないわよ」

「でも霊奈はその末裔の一人だということか?」

「ええ」

「神聖自由党の党員でもあるのか?」

「私の父親は神聖自由党の党員だけど、私はまだ入党していないわ。まあ、いずれは入ることになると思うけど」

「霊奈はソウルハンターだって言っただろう。ソウルハンターとその政党は何か関係はあるのか?」

「特に関係は無いわよ。ソウルハンターというのは認定試験を通った者だけが名乗れる資格のことなの。霊魂管理庁に常勤している国家公務員のソウルハンターもいるし、私みたいに霊魂回収を嘱託として請け負って報酬を得ているフリーのソウルハンターもいるの。でもいずれにしても職業の一つで政治とは直接の関係は無いわ」

 ――見た目、霊奈は俺と同じくらいの年齢のように見えるけど、もう仕事をしているんだから本当は俺よりも年上なんだろうか? 本当は霊奈「さん」って呼ばなきゃいけなかったのかも……。でも今更だよな。

「あっ、もうこんな時間だわ。あんたのことを霊魂管理庁の上役に報告しなければならないからついて来て」

 腕時計を確認した霊奈は病院のような建物から外に出た。俺も霊奈について行き、再びエア・スクーターの後部座席に乗った。

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