第八話
先日1930年の軍備状況を教えて頂きました。
……自分で調べたのとずいぶん違うー。
そんなわけで修正しなければならないですが、とりあえずはこのままの規模でやりたいと思います。
どうかご容赦よば。
8個師団・20万人の削減の言葉を聞いた会議場全体のざわめきは止まらない。
「貴様!海軍は警備隊などと言う組織で名義替えで削減させないでおきながら、我らには削減せよと言うのか!」
関東軍司令官の菱刈大将が吼える。
その気迫は出席者全員の黙らせるには十分な迫力だった。
しかし俺は冷静に、そして冷酷に告げる。
「現在の帝国の経済状況では、この削減を無くして陸軍の近代化は成し得ません。それに海軍の海上警備隊は戦争が終わっても海軍に戻さず、海上警備隊として存続させます」
「なん……だと?」
今度は海軍から声が上がった。
俺は声の方へ視線を向けると艦隊司令長官が立ち上がっていた。
「中尉、ロンドン海軍軍縮の条約があるだけの話しではないのかね?」
山本司令長官がよもや?と言う表情で聞いてくる。
あれ 一時的な物を思われていたんだろうか。ここはいっぱつ打ち砕いておくべきだろう。軍のあり方を。
「違います。軍には戻しません。海上警備隊はこれから必要な組織です。海上警備隊の管轄は海難救助・交通安全・防災及び環境保全・治安維持を目的とし、海上の警察・消防機関として活動を行います」
山本司令長官を見ると唖然としてこちらを見ている。
「戦時に入ればこの警備隊は海軍傘下に組み込まれ、輸送船団の護衛……対潜水艦戦闘や機雷除去等も担当する事になります。ある意味海軍より業務は多いかと考えます。」
海軍将官達の席を見ると、一部頷いたり納得顔をしている。
「それに戦争が終結すれば、軍縮は必須となります」
「ほう、何故戦争がなければ軍縮が必須なのだ?」
思いがけない場所からの言葉だった。
「はっ、そもそも軍と言う組織は非生産の組織だからです。もっと簡単に言えば金を消費するだけの組織なのです、陛下」
陛下が笑いだす。
「なるほど、朕もそのような事考えた事がなかった。そちは軍人と言うより経済学者みたいだな」
俺は陛下に一礼し
「畏れ入ります。自分の親友が経済学者の卵でして、自分が自衛官になった時からよく説教を食らっておりました。なんで国の経済に貢献しないのだと。」
俺は肩を竦めて見せると、会議場全体から軽い笑い声が聞こえる。
これで毒気が抜かれたのか、その後の軍縮案・組織変更案は反発は多少あったが、強い物では無かったためにスムーズに決まったのだった。
・削減人員は約20万人・8個師団規模とする
・騎兵隊の廃止し、機甲部隊として再編成する。
・騎兵隊の廃止に伴い軍馬補充部を廃止、軍用車両研究室を新設し、技術本部の一室とする
・常設師団の内、2個師団を補給・支援師団として再編成をする
・補給・支援師団は各師団への補給・支援を目的とする。国内災害時には災害救助・支援活動も行う
・補給・支援師団は最新の重機を取り扱い、施設・整備等の部隊も含める。
・補給・支援師団の定員は1師団2万名とする。
・常設師団は1師団2万5千名を定員とする。
・師団司令部は次の通りとする。
・近衛師団(司令部:東京)
・第一師団(司令部:東京)※関東・甲信越地方を担当範囲とする。
・第二師団(司令部:名古屋)※中部・北陸地方を担当範囲とする。
・第三師団(司令部:大阪)※近畿・中国地方(岡山・鳥取県)を担当範囲とする。
・第四師団(司令部:宮城)※東北地方を担当範囲とする。
・第五師団(司令部:広島)※中国地方(広島・島根・山口)四国を担当範囲とする。
・第六師団(司令部:札幌)※北海道・南樺太を担当範囲とする。
・第七師団(司令部:熊本)※九州・沖縄本島までを担当範囲とする。
・第八・九師団(司令部:大連)※満州を担当範囲とする。
・第十師団(司令部:台湾)※台湾・沖縄本島以西を担当範囲とする。
・第十一師団(司令部:釜山)※朝鮮半島を担当範囲とする。
・第十二師団(司令部:横須賀)※海軍と共に南洋諸島を担当範囲とする。
・第一支援師団は下記の様に大隊にて配置する。司令部は東京。
・第一大隊は関東・甲信越地方を担当。
・第二大隊は東北・北海道地方を担当。
・第三大隊は中部・近畿・北陸地方を担当。
・第四大隊は中国・四国・九州・沖縄本島までを担当。
・第二支援師団は下記の様に大隊にて配置する。司令部は大連。
・第一大隊は台湾・沖縄本島から以西を担当。
・第二大隊は朝鮮半島を担当。
・第三大隊は満州を担当。
・第四大隊は南洋諸島を担当。
これを基本編成とした。後は陸軍方が形にしてくれると思う。餅は餅屋って言うしね。
又、期初めの国内の経済状況により、陸軍の兵員の増加を決める事とする。
これを決めておかないと、陸軍の暴発の可能性がでてくる為だ。
それに大東亜戦争にはいってしまうと現有戦力の他に、最低でも10個師団はないと南方を平定する事が難しいと思われる。
さしあたって国内の経済を見直し、国を富まさせてからでないと軍備拡大をしてはならないと主張。これには政府の賛成を呼び、軍部も渋々ながら同調を得た。
いったん休憩を挟み、会議は続けられる事なった。
「それでは続きを始めさせて頂きます」
そして一礼。
「今からお話しさせて頂く事は、政府の一部と軍組織に関する事になります」
「またなんかされるのか? 」とか「ワシらの扱い悪くなるのか? 」とかのざわめきが聞こえてくる。
「現在軍の統帥権は陛下が持っておられます。そしてその下に両大臣が軍を掌握し、海軍では軍令部と連合艦隊、陸軍は参謀本部と軍団・師団となります。ここまではよろしいでしょうか」
陸・海軍、そして陛下も頷くのが見える。
「この組織体制が今後の問題……陸・海軍の協力体制の弊害となっていきます。現在ですら良好とはいえないのではないですか?」
陸・海軍の将官達はお互いのめを合わせようとしない。
ただ一人こちらに視線を送ってくる人物がいる。
陛下だ。
「そうよな、そち達は少し仲が悪いように思う。いつも互いに自軍の事しか考えてないのだろう」
両大臣が立ち上がり一礼する。
「面目ありません。しかし我々と海軍では方向性が違うのもまた事実であります」
陸軍大臣が額の汗を拭きながら答える。
そう、この時代の陸軍の目は大陸に、海軍は南方に目が向いていたのが原因で反目していたのだ。
「ふむ、それではどうしたらよいのか」
よし、陛下お墨付きだ。
先ほどから陛下には助けられっぱなしだ。
「はっ、まず軍の大臣職を一本化いたします。現在海軍と陸軍から一名づつ大臣を任命していますが、今後の軍の組織変更を行うにあたって命令系統を一本化いたします。つまり国防省を創設いたします」
静まり返る会議室。
「この国防省創設にともない、陸軍・海軍をその国防省の傘下に収めます。そして陸軍の参謀本部、海軍の軍令部を統合作戦本部として統括・指揮を行うようにいたします。」
「「何だと!? 」」
同時に立ち上がったのは、谷口軍令部長と金谷総長。
「これからの戦争は総力戦です。陸・海軍がバラバラに作戦を立てていては米国には勝てません。国防省を創設するのも、今後の日本の国防を一本化する為です」
「しかし我が陸軍は海の上では戦う事ができないがね」
武藤大将がやんわり質問してくる。ちょうどいいタイミングで質問してくれた。教育総監にも意識を変えてもらう必要がある。
「たしかに海の上では陸軍には活躍の場はありません。しかし、島嶼戦闘に歩兵は必要です。太平洋には無数の島があり、主な目標は米国領比島と羽合、和蘭領インドネシアです。陸軍には島嶼攻略に必要な部隊の創設もお願いしたく思います」
「もっと詳しく教えてもらえるとありがたいな」
武藤大将はわりと好意的に今回の組織変更をとらえているようだ。
「申し訳ありません、本日は全体の事柄にたいしての提案となります。軍の技術的な話し等はまた個別に実施させていただきたく思います」
さあ、次は軍再編の目玉。空軍の創設についてだ。
「続きまして、陸軍・海軍は現在航空機の研究を行っているかと思います。陸軍であれば陸軍航空本部、海軍は航空本部で航空機の開発・調達を行っております。これを統合し空軍を創設いたします」
「その理由を教えてもらってもよか? 」
今の声は誰だろうと声をした方向に視線を振り向く。
「山本……五十六閣下……」
にこやかな雰囲気で問うてきたのは山本五十六少将だった。
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