第四話
あれ……?なんか短い?
「……バタフライ効果と言う言葉があります」
二人は呆けた顔を見合わせる。
「君は何を言っているのかね? 」
呆れた物言いの山口中佐。
「まぁ待ちたまえ、まずは三好君の話しを聞こうじゃないか」
制する野村司令。そしてかまわず話し始める俺。
「まず今回、丙と言う人物を例えさせて頂きます。 この丙と言う人物は良く勉学に励み、帝都大学へ入学と卒業。 そして一流の研究者となり、世界的に大発明を行ったと言う人生を送るとします」
この話しについてこれているかを確認する俺。
うなずく二人。
「その丙と言う人物がまだ帝都大学に入る前に「君は帝都大学に入学し、将来は世界的な学者になるだろう」と言われた丙はどうするでしょうか」
二人は腕組みをして考え始める。
しかし、俺は二人の回答を待たずに話し始める。
「大まかに二通りの可能性がります。 ひとつは歴史通りの人生を歩む。 そしてもうひとつは大学受験に失敗し、別の人生を歩む事です」
ここでいったん喉を湿らせる為、出されている水の一口飲む。
「しかしそれはたいした違いではなくなるのではないかね?」
野村司令が異議を唱えた。隣では山口中佐がうなずいている。
「いえ、むしろここから本番です」
一度深呼吸を行い話し始める。
「まず、大学への受験失敗による影響ですが、将来研究者への道のりが最悪閉ざされてしまいます。 閉ざされた場合、世界的に影響がでると言う人生を送っていた為、その世界的な研究がなくなります。 この影響の予想がつきませんが、とても大きな問題になるのではないでしょうか」
「そうですな、もしその研究者が疫病の原因を発見してたりした場合、その疫病の解決ができない事になるわけだ」
俺は山口中佐の理解度に敬意を評し、深く頷く。
「その通りです。 人、一人の大学受験が失敗と言う事だけを見れば、確かに些細な事と思われます。 しかし、その波紋は徐々に大きくなり、世界的な問題に発展する可能性を秘めています。
これを<バタフライ効果>と言います」
「ふーっ、難しい話しだな」
ソファーに深くもたれかかり、そう呟く野村司令。
「そうですな、この話しを聞くととても自分の未来を知りたいとは思えなくなりました」
ハンカチで額を汗のぬぐう山口中佐。
ちょっと疲れた様子の二人に畳み掛けるように言葉を紡ぎ出す。
「ご理解頂き恐縮です。 ですが、自分がこの場所にいる時点で<バタフライ効果>が発生している可能性があります」
二人の動きがピタリと止まる。
「ほう、君はどのようにしたらいいと思うかね? 」
野村司令が勢い良くのめりこむように俺に向き直る。
まずい、あの目は面白がってるよ。
「方向性は二つ程あります。 ひとつは自分がいなかった事にする。もう一つは……積極的にこの時代に関わり、未来を変えてしまうことです」
野村司令がニヤリと笑みを作った。
やばい、なにかわからんがやばい。
「ふむ、君は言ったよな、すでに「関わっている」と。 私はすでに君から未来の事を聞いた。 もう君を離すつもりはないよ?」
すでに退路は絶たれているようだ。しかし俺は自衛官。
それなりの覚悟はあるが、疑問が無いわけでもない。
「閣下、自分は何故この時代にやってきたのかはわかりませんが、元の時代に自分の居場所はすでに無くなっているはずです。」
「どうしてそう思うんだね?」
山口中佐が顎に手を当てながら聞いてくる。
「先に説明させて頂きましたが、自分は乗艦ともども吹き飛ばされています。おそらく戻れても……」
ここで言葉をとぎる。
そう、すでに死亡した人間が現れても困るだけだろう。
祖父母はいるが、両親はすでに鬼籍に入っているので俺自身に問題はない。育ててくれた祖父母には申し訳ないが。
「そうか、それはすまない事を聞いた。」
山口中佐が頭を下げる。
「いえ、とんでもない。 しかし自分がこれから暮らすに当たって問題になる事があります。」
そう、一番の問題。
「うん? なにか問題になるような事があるかね? 」
野村司令……あんた楽観的だよ。
「戸籍です。自分はこの時代にポッと湧いてでた存在しない人間なのです。ましてや日本は戸籍の登録がしっかりしている国なので、こんなわけもわからん人間が活動するのはできないのです」
「なんだそんな事か。大した問題ではないから安心したまえ。」
野村司令は簡単にのたまうた。俺がしばし唖然としていると。
「まぁその伝手があると言う事だよ。 それから三好君、明日から海軍省へ行こうと思うがいいかね?」
「……は? 海軍省ですか」
いかん、思考能力が麻痺してきた。
「そう、これから君にはちゃんと働いてもらおうと思ってね。いやなに、君の所在もはっきりしておかないといかんわけだしね。」
俺の反応を見て面白がるなよ。
俺は心の中でため息をつきつつ席を立ち、敬礼をする。
「はっ、よろしくお願いいたします。」
と。
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