第二十二話
~~~ 昭和5年 10月18日 横須賀鎮守府 司令官室 ~~~
朝、横須賀鎮守府司令室に出頭した。
「統合作戦参謀 三好であります。本日は艦政本部長に出頭命令がありましたのでご挨拶に伺いました」
「うむ、ご苦労」
横須賀鎮守府司令 大角中将が答礼する。
その隣に艦政本部長の藤田中将もいた。
このおっさん……横須賀鎮守府にこいとは言ったけど、どこにいるとは一言も貰ってないぞ。
なんか色々弄られているような気もするが、気にしたら負けか?
「三好大尉、ご苦労。今日は先日話ししたドックの件についての事だ」
やっぱり。
「これから建築局長と打ち合わせをしたいと思うから、ドック管理棟へいくとしよう」
俺は敬礼し、藤田中将についていくのだった。
~~~ 昭和5年 10月18日 横須賀鎮守府内 5号ドック 管理棟 ~~~
海軍横須賀鎮守府造船所5号ドック脇にある管理棟の会議室に本日の会合が開かれた。
出席者は自分と建築局から局長以下5名、艦政本部から3名が出席した。
「さて、まだ国防省から承認はおりていないが、将来大型艦の建造するにあたってのドックに関する意見交換をしたいと思う」
艦政本部長が挨拶をおこなっている。
因みに1930年の横須賀の海軍ドックは1号から5号ドックまで存在している。
5号ドックでも大正5年に完成しているから、15年程は新しいドックは建設されていない。4号ドックだけは拡張されているが。
史実では6号ドックは昭和10年に着工されている。今から5年後だ。
なので来年中に起工された場合、史実より4年早くドックが使用する事ができる計算となる。
このメリットはかなり大きい。それまで各技術の発展に力を注がなければいけないが。
「艦政本部長、質問があります。ドックを新造するくらいですから、かなりの大きさだと思うのですが……」
この言葉に艦政本部長が俺に目で指示してきた。
やっぱり説明は俺がするのね……艦政本部長、だんだん俺の扱いが悪くなってないですか?
まぁなんだ、悲しきかな軍人家業。上の階級には逆らえません……
「はっ、今回ドックの新造の理由は2点あります。まず、今後の戦争が勃発した場合による高性能大型艦の建造と、平時の民間船の建造を目的とします。我が国は四方を海に囲まれた海洋立国です。国の防衛はもちろんの事、貿易にも船舶は必要となります。これからは効率良く運べる船が必要となるのです」
「なるほど……大尉はどれほどの大きさのドックが必要とお考えかな? 」
建築局長が俺に尋ねてきた。
「将来における大型商業船を建造を考え、全長400m・幅80m・深さは20mは欲しいと考えております」
「大きすぎないかね? 」
ざわつく建築局のメンバー
「必要です。将来大型貨物船やタンカーは軒並み400m近くの船体を持ち、一度に運べる量を増やしております。その分一度に運ぶ輸送費用を抑え、効率化を図りました。軍艦もこれからは主砲を乗せた戦艦では無く、航空機を載せる航空母艦が主力となります。海の上に滑走路を浮かべるのです。大きさは必要です」
「なるほど、それで艦政本部からドックの建設できそうな場所を調査しておいてくれと依頼がでてたわけだね。君、予定地の地図を出してくれ」
参加している建築局員が机に地図を広げた。
帝国海軍・横須賀鎮守府内の地図が広げられ、ドックの位置が書き込まれていた。
その中で赤く記されている部分が6号ドックの予定地のようだ。
現在の予定地と同じである事から、おそらく前々から調査は行われていたようだ。
簡単な打ち合わせの後、実際に6号ドックの予定地へ向かう俺達。
横須賀の海軍基地。現在では日米共同で使用しているが、横須賀軍港は地形的にも良港であり、日本で始めての本格的な港である為施設も充実している。
又、東京からも近くさまざまな艦を建造や試験するのにも都合がよい為、俺は横須賀軍港を重要視している。
ひとまず横須賀の造船所で最新鋭の技術を確立し、各鎮守府へ技術供与していけばよいと考えている。
そういえば今建造中の1万トン級重巡洋艦の4番艦ってどこで建造しているんだろ?
ちょうど艦政本部の人が隣にいるから聞いてみるか。
「平賀中将、先日決まった例の先端技術導入の件。アレはどこの鎮守府でやるのですか? 」
俺は同じ車に乗っている平賀中将に聞いた。
「一万トン級重巡洋艦は佐世保、比叡はここだだ」
「なるほど」
高雄型は三菱の造船所でやってるわけだな。三菱なら問題ないだろう。あそこは溶接技術は現時点では日本随一だし。
比叡は前の軍縮会議で練習艦に変更する事になった為、思い切って改造ができるようになっている。
そうこう話ししている間にドック予定地に到着した。さすがドック予定地だけあって、だだぴろい空き地だけとなっている。
うん、ここなら400mクラスのドック建設も問題はないだろう。艦政本部の人間もしきりに頷いている。
問題なのは既存のドックからちょっと離れた場所にあるくらいか。それは資材搬入用の鉄道と道路を建設すればいいと考えている。まぁ、その辺は建設局の人がかってにやってくれるだろう。
「どうでしょう。ここがこの横須賀鎮守府では最後のドック建設可能地となります」
「自分は問題ないと思います」
そりゃー史実でもこの場所で建造したわけだし。
「局長、よくこんな場所が残っていたね」
「まぁ……ここはちょっと鎮守府から離れていますからね。作ろうと思えばもう一つくらいはできますぞ」
「うむ、ここの計画書をまとめて頂きたい。後日国防省に承認を得るようにする」
「はっ、了解いたいました」
艦政本部長と建設局長のやり取りが終わり、鎮守府に戻る一行。
「そうだ大尉、ついでに建造中の一万トン級重巡洋艦と改装中の比叡を見ていくかね?」
「はっ、ぜひ」
と一言俺は返事をした。
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皆様よいお年をー。




