第二十話
とうとう二十話到達です。
いや、文字数は少ないですが……
「自分の議案としては次が最後となります。今回は各艦隊司令官にも集まっていただいた理由の一つでもある、艦隊旗艦についてとなります」
「艦隊旗艦? 旗艦がどうかしたのか?」
海軍長官が首を傾げながら問うてくる。
他の艦隊司令官も同じような表情だ。
「はい。現在、帝国海軍の艦隊司令官はどのような指揮を執っておられますか? 」
「むろん陣頭指揮だ。司令官たるもの艦隊の先頭に立ち、兵の士気をあげるのが司令官たる者の責務だと我が帝国海軍の伝統だ」
長官をそういうと、各艦隊司令官は「その通りだ」といわんばかりに頷く。
「自分はそれに反対です」
「!!??」
空気が変わった。
海軍長官や各艦隊司令官達がいっせいに俺を睨んでくる。
「お聞きします。司令官は何をする物でしょうか」
俺の問いに沈黙し、互いの顔を見合わせる司令官達。
「司令官とは指揮を執る事……かね? 」
それは呟くような声だった。
「その通りです、塩沢参謀長。艦隊司令官とは、艦隊を指揮する職の事を指します。なので、司令官が最前線で砲を撃ち合う場所にいるのは反対です。司令官とは最後まで指揮を執り続けなければいけないと考えます」
「ではどうしたらいいのかね? 」
司令長官が半ば睨みながら聞いてくる。
「艦隊司令官が座上する旗艦には司令部が設置されます。司令部に必要な設備は指揮を行う為の通信設備と、索敵設備です」
「通信設備はわかるが、索敵設備とはなんだ?」
参謀長が疑問をぶつけてきた。
この時代の索敵とは、主に人の目視でしかしていなかった。もちろんレーダーなどの電装品なんてないわけだ。
レーダーが開発されるまではもっぱら航空機による索敵がこれからの主流となる。
そこで、旗艦には武装を減らしてでも、通信設備と索敵を行える航空機を複数乗せられる艦が望ましいと考えている。
そう、かつて帝国海軍にもそういう用途の艦があった。軽巡洋艦・大淀だ。
……っと、参謀長に説明しないといけない。
この旗艦構想は、まず司令官達を納得させないといけないから。
「索敵とは文字通り、敵を捜索する事です。敵を捜索するには今までできるだけ高い建造物から見渡す他ありませんでした。しかし、これからは航空機がその役割を果たし、さらにはレーダーが加わります。レーダーとは電波を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向を明らかにする装置です。これはイギリスとドイツで研究開発が進んでおり、これを利用することで、いち早く敵を発見し要撃する事ができます」
ざわつき始める会議室。
「この通信・索敵の機能を強化した艦を艦隊旗艦として使用する事により、艦隊司令部の機能を強化、艦隊指揮の効率を図ります。又、艦隊旗艦を戦闘艦戦列から切り離す事により、司令部の壊滅を防ぎます」
俺は一枚の図面をいつもどおり、黒板脇に貼り付ける。
この図面は組織変更してから、現在統合作戦本部にいる艦政本部出身の担当官に書かせたものだ。
一つは前部砲塔が二つ、その後ろに艦橋・煙突と続き、その後ろには大きな格納庫を備える。
その格納庫からは一本のカタパルトがある。
そう、大淀型だ。
そしてもう一つは前部に4つの砲塔があり、艦橋・煙突、その後ろは格納庫はないが、カタパルトと言う形をしている。こちらは利根型だ。
大淀型に関しては、その性能について艦隊旗艦に申し分ない性能と考えている。
もう少し対空装備を充実してやれば、戦艦の砲撃以外には耐えうるには十分だろう。
航空機も水上機ではあるが複数機を積み込む事ができ、索敵・対潜にも使える。
利根型は前部の砲塔4基は浪漫としてはいいが、実用的ではない。
砲塔を二つに減らし、艦橋・煙突の位置を前にずらし、後部を格納庫と甲板か、カタパルト用のレールを設置すれば、立派な情報艦としてなりたってくれるだろう。
大淀も利根も200mある全長を有しており、スペースとしては問題ないはずだからだ。
「このような艦を艦隊旗艦として用意したく思います」
「なんだこれは、ぜんぜん武装がないではないか。」
平賀中将が声を上げた。
さすがは妙高型重巡洋艦を設計した人だ。
「はい、艦隊旗艦は単独で行動する事はないと考えています。その為、武装も必要最低限の物しか装備しません。その代わり、先ほどお話しした、通信設備の充実と索敵用の航空機を複数乗せる事とします」
「面白い発想ではあるが、この案はしばし保留させてもらう。艦隊司令官達が納得していないようなのでな」
長官の言葉は反論を許さない響きがあった。
他の司令官達を見ると難しい顔をして頷いている。
俺はただ黙って一礼するだけだった。
会議は終わり、俺は一人後片付けをしていた。
「やはり艦隊旗艦の提案はちょっと早かったかな……」
「まぁ仕方ないだろう。艦隊司令官とは言えども彼らは武人と言う意識が強い連中だからな」
俺の独り言に返事が返ってきた。
驚きのまま振り返ると、平賀中将と数人が後ろに立っていた。
よく見ると艦政本部の技術者達だ。
「理解はできても納得はできないと言うやつでしょうか」
「うむ、その通りだと思う。まぁ、この話しはさておき、三好大尉はこの後の予定はあるかね」
中将がいい笑顔で聞いてくる。
なにやだ、怖い。
「……いえ、特に予定はありませんが」
「いやなに、君と飲もうと思ってね、うちの連中も君に興味があるようだ」
俺は姿勢を正し、敬礼をした。
「はっ、お供いたします」と。
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