第十五話
この物語が始まって一ヶ月半が経過。
まだまだ先は長いー。
~~~ 昭和5年 10月13日 国防省 陸軍会議室 ~~~
今日は陸軍の長官・各師団長・車両補充部長と会議だ。内容は今後の陸軍の近代化について。
陸軍の近代化についての会議には、統合作戦本部の技術部から数名、民間からも三菱・中島・石川島・東京瓦斯電・実用自動車製造・日立製作所・川西機械の技術者達も会議に参加させた。
軍内で話しあった結果を依頼するのでは無く、技術者達にも意見を述べてもらいたいのが狙いだ。
因みに昨日の10月12日に中国で第二次間島暴動が史実通り発生した。
事前に中華民国と連絡を取り、諜報により10月12日に暴動が発生するという情報を蒋介石に伝え(本当は諜報ではなくこちらの知識を使った)秘密裏に2個大隊を間島周辺に移動させ、暴動発生直前に暴動を抑え込む事に成功した。
今回暴動に参加したほぼ全ての共産党員を検挙できた為、抗日パルチザンも活動できないだろう。
後は中華民国に引き続き取り締まってもらい、こちらも諜報員も潜伏させておく。
それと組織変更に伴い、外地の治安員達にも改めて現地民への横暴をやめるように通達している。
外地と言っても日本国内になるから、住民の反発は避けなければならない。
このおかげで10月27日に発生する霧社事件の発端である事件はなかった。
ひとまずは外地でも良い方向へ向かっているようだ。
「では全員が集まりましたので、本日の会議をはじめさせて頂きます」
司会進行役の陸軍佐官の発言により、俺の意識は会議に戻った。
今日の俺の役職は統合作戦本部・技術部からの出席となっている。
「本日の会議の趣旨を統合作戦本部の三好大尉からお願いする」
俺は起立・敬礼をすると官位・姓名を名乗り陸軍近代化に向けて話し始めた。
「はっ、統合作戦本部所属、三好大尉であります。本日は陸軍の装備の近代化についての会合となります。先日、軍の大幅な組織変更に伴い、騎兵隊と言う陸軍中核とする機動部隊が廃止されました。それに変わるわけではありませんが、これから先で必要になる機甲部隊を作り、陸軍の近代化を図る必要があります」
俺は会議室に備え付けられている黒板に要点を書き込みながら説明をしていく。
「まず機甲師団の中核をなす戦車。相手の戦車の制圧や防御線の突破、歩兵の盾となり軍の進撃を助けます」
「騎兵隊を廃止してまで作る必要はあるのか?」
突然声があがる。
そちらを見ると怖い形相で睨みつける士官が一人いた。
「必要です。25年前に発生した日露戦争の旅順攻略戦にてロシア軍の重機関銃による掃射で人馬もろとも無力化されました。つまり馬も機関銃には脆いのです。その重機関銃に対抗する為、第一次世界大戦で重機関銃の弾幕を対抗しうる装甲を取り付けた車……戦車を開発したのです」
ここまで反論したら押し黙ってしまった。
おそらく廃止された騎兵隊の所属だっただのだろうか。だがいくら「栄光の~」とか言われても弱点の多い騎兵をそのままにしておく事はできない。
戦争は消耗戦なのだ。その消耗をいかに防ぐかが敗戦を防ぐ一手になるのだから。
「これから陸上における主戦力は戦車と航空機になります。航空機に関しては空軍の管轄となる為、今この場では議論しませんが、陸上兵器の技術開発を統合作戦本部・技術部を主体となり、今日お集まり頂いている民間企業の技術者と議論する場を設けさせて頂きました」
「質問いいですか」
一人の民間技術者が挙手する。
「どうぞ」と発言を促す。
「ありがとうございます。私は実用自動車製造の栗田と申します。我が実用自動車製造は自動車の開発・製造はおこなっておりますが、戦車の開発はおこなっておりませ……」
俺は途中で栗田と言う技術者の発言を手で制した。
「途中で発言を止めさせて貰う事をお許しください」
俺は非礼に対して一礼する。
技術者達は驚いた顔をして俺を見ている。
おそらく軍人に謝罪を受けるとは思ってなかったようだ。
「今日軍事兵器以外にも、自動車関連企業をお呼びしたのにはちゃんとし理由があるのです。それを聞い頂きたい」
技術者達は戸惑いながらも姿勢を正し、俺の話しを聞こうとする表情に変える。
「まず政府は国内の経済対策の一つとして、東京から名古屋を経由して大阪・神戸まで高速道路を建設する事を先日閣議決定いたしました」
技術者や陸軍の担当者・技術部の担当者達からもざわつきが始まる。
「高速道路ってなんだ? 」と言う声も聞こえてくる。
「話しを続けます。高速道路とは文字通り高速にて走行できる自動車専用の道路を指し示します。ドイツではアウトバーンと言う物になります。高速道路建設により、各地域の経済を活性化させるのが目的となりますが、本当の目的は自動車の開発にあります」
再びざわつく技術者達。
「どういう事か説明してもらえるかね? 大尉」
技術部の士官が尋ねてくる。俺は一度頷くさらに説明を続ける。
「自動車開発の技術者の方に伺います。現在製造している自動車で時速100kmで500kmの距離を走行できる自動車はありますか? 」
静まり返る会議室。
技術者達は誰も口を開こうとしない。
「答えは否だと言うことです。陸上の戦闘は戦車だけではありません。歩兵や食料・武器弾薬と言う補給物資を運ぶ輸送手段も必要なのです。これが回答の一部です」
沈黙が続く。苦い表情をしている技術者もいる。
「人を殺す道具を作るのは嫌と言う方もいらっしゃるでしょう。しかし、いつの時代も技術革新と言うのは軍事ありきなのです。それはやがて民間に戻り、国民の生活に還元されます。今は世界が戦争への道を歩んでいます。我が国も戦争への道を逃れることはできないでしょう。なおさら戦争に負ける事は許されないのです。どうかご理解いただきたい」
俺は技術者達に深く一礼をする。
集まった技術者達は一斉に立ち上がり協力を約束してくれた。
俺は心の中で知らない嘘をついた事を謝罪したのだった。
その後の軍用車に関する会合は、とてもスムーズにいった。
4トンの積載量を持ち、最高時速60km、時速40kmで300kmを走行できるトラックを要求したところ、「やります!」「開発してみせます!」と言う声があがった。
うん。とてもいいことかな。
それと政府がドイツの企業から技術者と技術、工作機械を輸入する事を決定している事を言うと、俄然やる気がでたようだった。
この勢いであれば1940年にタトラが10tトラックの最高時速90kmの誇ったT111に追いつけるかもしれない。
普通の自動車も開発を要求したが、燃料は軽油を使うディーゼルエンジンを紹介。これからの主流になり、メリット・デメリットの合わせて説明した。
ディーゼルエンジンのデメリットって騒音と振動・そして環境問題くらいなのよね。ガソリンより燃費はいいし、なにより燃料事情をある程度緩和できるのが大きい。
それにディーゼルエンジンの開発が進めば、より高火力の戦車の開発ができるからだ。
休憩を挟み今度は主目的である戦車の案件にはいる。
まず現状の確認から技術部の士官から説明させる。
「現在技術部では試製2号戦車を開発しております。全長6.3m・全幅約2.5m・全高約2.6m・重量18tとなり、現在の最高速度は22km、主砲は70mm戦車砲を装備する予定となっております」
しきりにメモをとる技術者達
「エンジンはどのような性能なのでしょうか」
一人の技術者が質問する。
「エンジンはドイツ BMW社製の航空機用のエンジンを積んでおります。性能は水冷6気筒で出力は220馬力となります」
技術者達はなにやら小声で話し合っている。
「お聞きの通り、現在の戦車開発状況はこのようになっております。しかし、現在我が国の戦車……戦車だけではありません。全てにおいて欧州の国から遅れている状態です。戦車は不整地で最高速度35km、装甲は9センチ砲を耐えうる防御力を持ち、主砲は8センチ以上の砲を積む事を目標とします」
「た、大尉、そんな実現不可能な目標を立ててもらっては……」
俺は技術部士官の発言を手で制する。
「今は不可能です。しかし10年後はどうですか?飛行機を例えに出しますが、ライト兄弟が1903年に初飛行に成功してから1927年には、リンドバーグが大西洋横断を達成しているのです。この開発スピードはすさまじいと思いませんか。たった25年程度で飛行距離を20mから5,810kmまで伸ばしました。不可能ではないのです」
軍の技術士官といえども技術者の端くれ、俺の話しに感銘を受けたようで「あっ」と言う顔をしている。
もちろん技術者達もだ。
そう、技術に終わりは無いのだ。
「なるほど、では発動機に関しては民間にまかせてもいいのだな。我々は武装を中心に開発すればよいかと思うのだがどうだろう」
技術士官が腕組みをしながら考え込んでいる。
たしかにエンジンは民間にまかせてもよいだろう。
「戦車砲は海軍の方で用意ができますよ」
俺の言葉に技術士官達が沈黙した。
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