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第十話

午前会議は終了します。


でもまだまだ続く一日は長いのであります。

「そして軍全体に関してですが、女性兵士の任官を承認していただきたく思います。」


「ならん」


即答だった。


武藤大将だ。

あれ?この人は人格的にはできた人だったと言うけどどうしたんだろうか。


「女なんて前線では力不足ではないのかね?」


「たしかに陸戦の最前線での活動は難しいかもしれません。しかし軍の後方や司令部等では有能な人材になるかと思います。世界の人口の半分は女性なのです。これを有効活用するべきではないでしょうか。なので、来年度から下士官の募集。そして士官学校への募集をかけるべきです」


「……よかろう。だが最初は100名程度の募集しかしないぞ。後は使えるかの結果が出しだいだ。それでいいかね?」


武藤対象が決断し、陛下の承認を得る。これで女性兵の徴用が来年度から決まった。


この決定で休憩・夕食の運びとなり、別室で簡単に晩餐が開催された。

出席者は会議に参加していた全員。陛下も臨席された。


若干緊張感はあるものの、ある程度の会話は続いている。

内容は軍の再編にあたってのワシらの仕事云々と言う会話が主だ。

他にも三好中尉はワシらを過労死させるかもしれんとか言う内容まである。

その言葉に俺は苦笑せざるを得ない。


「所で中尉」


夕食の焼き魚料理をつついているとふいに声をかけられた。

視線を上げると徳利を持った総理大臣が立っていた。


「はっ、なんでありましょうか」


俺はすぐさま立ち上がり、お猪口を総理大臣に差し出す。

総理は俺のお猪口に酒を注ぎながら


「硬くならんでいい。酒を飲みながら聞きたい事があるんだ」


俺は注がれた酒を一口の飲み干し、一礼すると総理はにこやかに頷き隣に座った。


「まだ国の方針の一つを聞いておらんかったはずだが」


総理が俺のお猪口に酒を注ぎながら問うてくる。

はて? なにか言い忘れてた事があっただろうか?

注がれた酒を口につけたところで総理がこう答えた。


「朝鮮半島をこれからどうするべきなのかね?」


と。


そういえば後でお話しするといいながら、軍関連の話しが長引いてしまい、話せずにきてしまっている事にいまさらながら気づく。

注がれた酒を飲み干し、お猪口を机に置き答える。


「はっ、朝鮮半島は独立させるべきと考えます」


「ほう、どうしてかね? 」


俺は総理の杯に酒を注ぎ、徳利を置くと理由を話し始める。


「朝鮮民族は過去数千年にわたって、支那の属国として支配されていました。その支配期間は民族としての深層心理すら変えてしまう物でした。そう、彼らは支配者は誰であれ「支配者を恨む」のです」


「ふむ……ふぅ、それで独立させるのか」


総理大臣が注がれた酒の飲みながらやるせなさそうに答える。

俺は空になったお猪口に酒を注ぎながら防衛大学時代に共同で執筆した論文の内容を思い出す。


「はい、設立は日本が関わります。憲法・軍備・教育等の草案は我が国で行い、独立から10年程度の政策をある程度示した状態で独立させるのです。憲法・教育によって親日国家へと誘導し、軍備はこれから我が国が近代化するにあたっての旧式武器を売却先とします。これを聞けば属国状態となりますが、最初の10年間の政策以降は自分達で国の政策を決めるように教育していくのです」


「なるほど……しかし朝鮮半島を手放すのは痛手にならんか?」


「それほど痛手になりません。朝鮮半島に有益な資源はありません。さしあたっては農業立国としての産業を確立すべきかと思います。それに朝鮮半島全てを返すのはもったいと考えます。朝鮮半島の半分程度でよいでしょう。」


「君は辛辣だな」


どうやら総理との会話を聞いていたのか、外務大臣の幣原大臣が会話に加わってきた。

もちろん片手には徳利を持っている。


「朝鮮民族の人口は2000万人もいません。朝鮮半島は日本本土の半分程度とは言え、全ての土地を彼らに返すのは少々勿体ありません。それにこれからドイツが政変がおこり、ある政策が有言実行されます。その対応の受け皿に残りの朝鮮半島を利用しようと考えています」


気がつけばいつの間にやら夕食会は会議へと元に戻っていた。

違うのは酒を飲みながら・料理を食べながらと言う所か。


「ドイツで政変とな? 」


「はい。今から三年後、1933年にドイツ労働党と言う政党が、ドイツの政権を握る事から全てが始まります。このドイツ労働党の党首・アドルフ・ヒトラーが持論としての思想がそのまま国策になります。主に「アーリア人至上主義」「反ユダヤ主義」「反共産主義」があげられます」


「なんだねそれは?」


違う方向から疑問が降りかかってくるが、俺はいちいち声の主を確認する事なく言葉を続ける。


「アーリア人至上主義は言葉のまま、アーリア人種が世界でもっとも優れた人種であり、世界を征服すべき権利があると言う主張です。まぁ、この思想は正直妄想と幻想でしかありませんが」


俺は肩を竦めてこの思想を締めくくる。


「次に反ユダヤ主義、これはユダヤ人・ユダヤ教を反する思想です。これはちょっと複雑でユダヤ人は代々ユダヤ教を信仰しています。ユダヤ教に限らないのですが、絶対唯一の神を崇め、他を許さない言うちょっと危険な教義があります。これをヒトラーは国策として弾圧する事となります。ただ単に、ヒトラーがユダヤ人にいじめられたと言う説もありますが、これが本当ならば個人の感情を国・軍と言う暴力機関を使って復讐をしたと言う阿保みたいな話しです。本人にとっては真剣だったんでしょうが、周囲とっては迷惑極まりない事でしょうね」


「君と言うやつは……まぁいい、最後の反共産主義とは?」


多少呆れ顔な総理大臣。


「文字通り共産主義に反する……ってやつです。どうやらヒトラーはマルクスが提唱した共産主義ってやつに反目しているみたいなのです。これは小官の勉強不足なので、これ以上の解説は申し訳ありませんが、できません」


「ふむ。そのヒトラーって者はかなり危険のようだな」


俺のお猪口に酒を注ぎながら確認してくる総理大臣。


「はい、しかし侮れない人物でもあります。史実ではヨーロッパ一帯を支配下に置いた手腕は無視できません」


腕を組み考え込む総理大臣。


「これから政権をとるドイツ労働党のドイツと手を握るのは愚策ですが、ドイツを手を結ぶべきだと小官は思います」


周囲が唖然とする。


「……んー。言ってる意味がよくわからないが」


俺は総理大臣に返杯しながら苦笑をもらす。


「そうですね。それだけこれからのドイツが困ったちゃんになるからなのです」

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