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プロローグ『父の背、海賊の旗』

***



「ごめんなさい……」

「いいや、お前が悪いんじゃない……それじゃあな、ローレンス」

 赤髪の男は、軽く会釈をした。美しい橙色の髪の女性は彼を一度だけ見て、哀しそうに瞼を伏せる。男はそんな彼女を見る事も無く背を向けて、小さな家を出て行った。

 扉の閉まる音と共に、彼女は涙をぼろぼろと流す。必死に声を押し殺して、彼女は泣いた。男は扉の前で立ったまま、俯く。しばらくして、彼は歩き出した。

 男は町の港に辿り着く。そこには、船体を黒く塗られた船が一つ。丁度荷物を運び終わった所らしく、乗組員達が慌てた様子で出港の準備を整えている。

 ――その船に掲げられた旗には――眼帯をした髑髏が描かれていた。

「……さて」

 船には、大勢の乗組員達が彼を待っていた。男は、船に乗り込もうと一歩踏み出す。


「待って、父さん!」


 不意に後ろから声がした。振り返ると、そこにはまだ幼い少女の姿があった。薄汚れた衣服を纏った少女の橙色の髪は短髪のように見えて後ろで二つに結んでおり、空と同じ色の瞳をしている。

 それは、彼と同じ瞳の色だった。潤んだ彼女の瞳に、男の姿が映しこんでいる。不安げな表情を浮かべていた。少女は男の元へと駆け寄ろうとした。

「行かないで! 母さん、お咳がこんこん出るの! 父さんが居てくれなくちゃ――」

 ――次の瞬間、銃声が船着き場に響き渡る。

 一瞬呆然とした少女だったが、足元に視線を落とすと、丸太で出来た船着き場の地面に小さな丸い穴が開いていた。穴からは、白煙が少しだけ上がっている。男の右手には、拳銃が握られていた。その銃口からも白煙が見える。

 幼いながらに何が起きたかを悟った少女は、恐怖のあまりその場に座り込んでしまった。

「父さ、ん……?」

「……俺は、お前と母さんの所には居られない。海の上でしか生きられない……そう言う性分の下に生まれた男なんだよ……お前には、分からないだろうがな」

 男は拳銃を腰のホルダーに入れ、踵を返して歩き始める。そして少女の方を振り返る事もなく、船へ乗り込んだ。帆が上がり、船が出港する。

 風で髑髏の旗が揺れていた。港から離れて行くにつれ、少しずつ船が小さくなっていく。

「父さん……父さぁん……!」

 少女――ロゼッタはぼろぼろと涙を流しながら、ただその光景を見ている事しか出来なかった。


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