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対魔王人類同盟  作者: 茅ヶ崎栄太郎


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第4話 裁き

焦土の野営地で兵たちの手当てに追われていた

九日目の朝、北から砂煙が上がった。


「団長、北方より軍勢が接近中!」


見張りの報告に俺は疲れ切った身体を引きずって

陣幕の外に出た。


北。法王国の方角だ。

魔物の領域は南にある。

北から来るのは法王国からの援軍か

あるいは——


「旗を確認しろ」


副官が望遠の魔道具を覗き込み、顔色を変えた。


「……法王国の聖騎士旗です」


法王国。

対魔王共同戦線の盟友であり

条約を主導した良識の国だ。


「増援か?」


隊長の一人が期待を込めて言った。

確かに魔物との戦いでこれほどの被害を受けた以上

同盟国として援軍を送ってきてもおかしくはない。


だが俺の胸に一抹の不安がよぎった。

事前に何の連絡もなく

これほどの規模の軍を動かすのは異常だ。


聖騎士の白銀の鎧が地平線を埋め尽くしている。

その数は我々の残存兵力を優に上回っていた。


---


法王国の軍勢は野営地を取り囲むように展開した。

援軍の陣形ではない。

包囲の陣形だった。


「何のつもりだ」


俺は馬を駆って法王国軍の前に出た。

白い外套をまとった指揮官が数騎を従えて現れる。


「王国第二騎士団長殿ですね」


「そうだ。これは一体どういうことだ。

 我々は魔物との死闘を終えたばかりだぞ。

 同盟国がこのような陣形で迫る理由を聞かせてもらおう」


指揮官は冷静な目でこちらを見つめた。


「王国軍に対し、即時武装解除を要求します」


「……何だと」


耳を疑った。


「対魔王共同戦線条約第八条に基づき

 武装放棄を求めます。」


条約第八条。

同盟国が条約の精神に著しく反する行為を行った場合

他の締約国が介入する権限を定めた条項だ。


「条約違反だと?

 我々が何をしたというのだ!」


俺の怒声に法王国の指揮官は眉一つ動かさず答えた。


「貴国は同盟国たる共和国に対し

 全面侵攻を行い、さらに禁忌の大規模魔法を使用して

 共和国の都市と住民を壊滅させました」


「何の話だ?住民は誰もいなかった。

 あそこに居たのは夥しい数の魔物たちだけだ。」


「あれほどの虐殺をしておいて何故そのような嘘が言えるのです?

 まったくもって理解に苦しみます。」


一瞬、頭が真白になった。

次の瞬間、腹の底から煮えたぎるものがせり上がってくる。


だが俺はそれを呑み込んだ。

この男の目を見ろ。

冷静で、淀みがなく、そして——用意ができている目だ。

こいつはすべて分かった上で言っているのだ。


我々が魔物と戦って疲弊しきったところに

圧倒的な兵力で現れ、包囲し、武装解除を迫る。

そのために「共和国への侵略」などという

荒唐無稽な口実を並べ立てているのだ。


「……なるほど」


俺は奥歯を噛みしめながら

努めて低い声で言った。


「つまり法王国は、我々が魔物と命がけで戦っている間

 その背後で軍を整え、疲弊したところを叩く算段だったわけだ」


指揮官の表情がわずかに動いた。


「共和国と示し合わせたか。

 あるいは法王国の独断か。

 いずれにせよ出来すぎている。

 我々が全軍の六割以上を失ったこの瞬間に

 これだけの兵力で現れるとはな」


「王国第一騎士団は壊滅した。

 第四騎士団は殿を務めて全滅。

 歩兵二個連隊が禁忌の炎に焼かれて死んだ。

 すべて魔物を倒すためだ。

 それを侵略だと…?

 貴国は最初から我々を潰す気だったのだろう」


俺は一語一語に怒りを押し込めながら吐き出した。


法王国の指揮官は一瞬沈黙し、それから静かに言った。


「我々の先遣調査隊は

 貴国軍の進路上にある街で数千の遺体を確認しています。

 すべて人間です。

 共和国の市民と兵士です」


法王国の用意した筋書きのおぞましさに

どす黒い感情が溢れる。


「……貴様ら」


俺は絞り出すように言った。


「我らが到着したときには既に街は魔物で溢れていた。

 魔物に襲われて死んだ者たちの遺体があって何の不思議がある!

 それを我らが殺して回ったとでも言うつもりか?

 語るに落ちるとはこの事だな法王国の薄汚い偽善者め!」


指揮官の目に動揺の色が走った。

やはりそうか。


だがすぐに元の無表情に戻る。


「……貴国の将兵からの聴取も行わねばなりません。

 武装を解いて我々に従っていただきたい」


感情を感じられない声だった。

何を言っても聞く気がないということだ。

結論はとうに決まっている。


---


我々に抵抗する力は残っていなかった。


出征時の四割を切った兵力で

法王国の精鋭聖騎士団に抗うのは不可能だ。

仮に戦えたとしても

同盟国同士で剣を交えることに何の意味がある。


武装解除に応じた俺たちは

法王国軍の監視下に置かれた。


兵たちの動揺は酷いものだった。

魔物と命を賭けて戦い

仲間を失いながらもようやく勝利を掴んだのだ。

その直後に罪人のように扱われている。


「魔王軍本隊は健在だというのに

 同盟国である我が国の後背をつくなど

 法王国は何を考えているのでしょう…」


副官が顔面蒼白で問いかけてくる。


「条約自体が罠だったのだろう。

 あるいは魔王国と裏で手を組んだのかもしれんな」


俺は声を落として答えた。


「考えてみろ。

 条約を主導したのは法王国だ。

 その上で共和国を魔物に襲わせて

 条約に基づき救援に入った王国を背後から攻撃する。

 王国を法王国が取り、共和国を魔王国が取ると

 事前に取り決めたのやもしれん。」


「まさか……そこまで」


「でなければ説明がつかん。

 我々の決死の闘いもすべて法王国の枢機卿どもの

 手のひらの上だったというわけだ。」


かつては大陸において圧倒的な権勢を誇った法王国だったが

精強な騎士団を擁する王国が周辺国を併合して拡大し

共和国が経済力を背景に勢力を伸ばしたことで

3番手に甘んじるようになった


だが、これで逆転というわけだ



---


数日後、最も恐れていた知らせが届いた。


「国王陛下が法王国により拘束されました」


伝令の報告を聞いた瞬間

俺の中で何かが切れた。


「陛下を、だと……?」


「法王国は王都に進軍し

 王宮を制圧して陛下の身柄を確保したとのことです。

 禁忌魔法の使用および共和国への侵略行為について

 聖都で裁判を行うと」


拘束された場所で声を上げることしかできない

この無力さが何より堪えた。


陛下は民を守るために決断されたのだ。

禁忌の使用がどれほどの苦渋であったか

勅令を読んだあの時の俺の手の震えが証明している。


魔物の大群が国境を越えようとしていたのだ。

あのまま放置すれば王国本土が蹂躙されていた。

禁忌を使う以外に道はなかった。


「団長」


副官が俺の顔を覗き込んだ。

俺の表情がよほど険しかったのだろう。


俺は立ち上がり、天幕の柱に拳を叩きつけた。

一度。二度。拳の皮が裂けて血が滴る。


三度目で止めた。

ここで取り乱すわけにはいかない。


「……陛下は民を守るために決断されたのだ」


血の滴る拳を握りしめたまま

俺は低く、静かに言った。


「禁忌の使用がどれほどの苦渋であったか。

 味方を焼いてまで戦ったのだ。

 それを罪だと断じる連中が正義を名乗るのか」


副官は何も言えず俯いた。


---


聖都での裁判の日が来た。


俺たちには傍聴すら許されなかった。

陛下は法王国の聖都に連行され

そこで裁きを受けると聞かされただけだ。


後に聞いた話では

法王国は大規模な公開裁判を行ったという。

大陸中から集めた証人を並べ立て

王国の罪を糾弾する場を設けたのだと。


やがて法王国の使者が来た。


「聖都における裁判の結果

 王国国王は禁忌魔法の使用

 および同盟国に対する侵略の罪により

 処刑が執行されました」


時が止まった。

耳鳴りがする。


「……陛下」


誰かが呟いた。

俺だったのか副官だったのか分からない。


天幕の中で膝をつく兵が何人もいた。

声を上げて泣く者もいた。

こぶしを握りしめて震える者もいた。


「決して…

 決して許さぬ……」


俺たちは牢の窓からのぞく恐ろしく冷たい月の光に

法王国への報復を誓ったのだった


---

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