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対魔王人類同盟  作者: 茅ヶ崎栄太郎


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第1話 調査

法王国から調査官として派遣された私は

石造りの尋問室で途方に暮れていた。


窓から差し込む月明かりを眺めてため息をつく。

蝋燭の灯りが揺れてかすかに音をたてた。


「もう一度伺います」


私は調書に目を落とす。

目の前の男は王国騎士団の中隊指揮官だ。


「貴国は共和国に侵攻して住民を虐殺した…何故です?」


騎士が顔をしかめ、怒りを露わにして答える。


「またそれか…

 お前たちは何を言っているんだ」


「共和国は魔物の攻撃を受けて魔物が支配する領域になってしまったんだ。

 我々は同盟国を救援する為に共和国領内に入ったが予想以上に状況が悪く

 共和国民の生存者は1人も残っていない有様だった。

 膨大な数の魔族たちを決死の攻撃で打倒してなんとか排除したところを

 同盟国でありながら後背から攻撃して

 残り僅かだった騎士団の兵員を壊滅させたのは貴国ではないか!」


これで七人目。

それぞれ部隊も立場も異なる顔ぶれから

まったく同じ供述が返ってくる。

共和国は魔物に支配されており、我々はそれを討伐しただけだ、と。


事態を整理しよう。

昨年末、魔王の脅威に対抗するべく

対魔王国共同戦線条約が締結された。


法王国が主導して王国、共和国と結んだ同盟により、我ら人類同盟の戦力は魔王軍を大きく上回り、このままでは各個撃破されかねなかった状況は大幅に改善するはずだったのだ。


仲の悪い王国と共和国を説得する為に我々下っ端官僚は走り回ったが、その苦労が実りとうとう条約が締結された。

後は武官たちにまかせて本国に帰れる、そう思った矢先の出来事だった。


しかも何ということか、王国は共和国に禁忌魔法による無差別大規模攻撃まで使って共和国内で多くの住民ごと焼いてしまったのだ。法王国はこれを異常事態と認定してただちに介入したが、住民を虐殺する兵を止める為に王国軍との交戦も発生している。


先遣隊に随伴するよう命じられた我々調査団が目にしたのはおびただしい数の

共和国非戦闘員の亡骸で、あまりの光景に騎士団でさえ顔を青くしていた。

その原因を確かめる為、口裏合わせできないように立場の違う者をバラバラに拘留して1人ずつ尋問しているのだけど、全員がわけの分からない証言を繰り返しているという状況だ。念の為に戦場になった街をくまなく調査したが、魔物や魔族の死体はただのひとつも見つかっていない。こいつらの妄言を信じるべき理由はどこにも存在しないのに、何故どいつもこいつも自信満々で同じ証言を繰り返すのだ…?


次の証人に私は問う。


「あの日、国境で何を見ましたか」


次の証人は元歩兵だ。


「魔物の大群です。大地を黒く覆うほどの」


「共和国の軍勢ではありませんか」


男は首を振る。


「ありえません。あれは人ではなかった」


嘘の気配はしない。

目を見ればわかる。

この男は本気で信じているのだ。


書記官が私に耳打ちしてくる。


「口裏を合わせていると思われますか?」


「ないでしょう」


私は答える。


「階級も部隊もバラバラだし

 拘束後は独房に隔離してありました。

 拘留担当者がサボっていないか確認しましたが

 思った以上に厳密にマニュアル通り拘留されていました」


指揮官だけでなく現場の兵士まで聴き取りを行った

そのすべてが口裏を合わせられるとは思えないし

何より彼らの表情も演技とは思えない。

共和国を攻めた負い目どころか

魔物を撃ち滅ぼした誇りすら滲んでいる。


「となると、彼らは本気でそう信じこんでいるのでしょうか。

 一体何故…?」


書記官の問いに私は答えられなかった。


---


王国国王への尋問許可が出た。


玉座で謁見というわけにはいかないので

軟禁している王宮の客室で向かい合う


「陛下にお尋ねします」


条約締結の場で見た威厳に満ちた顔に

深い疲労の色が浮かんでいる


「なぜ共和国への侵攻を命じたのですか」


「共和国は魔物に支配されていた。

 その討伐だ」


国王もまた同じことを言う。


「共和国を覆い尽くした魔物から民を守るために戦った。

 国境付近の状況しか分からなかったので強行偵察を行い

 状況に応じて魔物の排除を行うように命じた。

 我が国の騎士団が貴様らの言うような所業に及ぶわけがない。

 妄言はいい加減にせよ」


妄言ときたか。

失笑しないように意図的に淡々と話す。


「陛下、共和国内に魔物などおりませんでした。

 王国の兵が殺したのは共和国の兵士と市民です。」


私は共和国側の被害報告書を差し出す。

報告書には都市や集落ごとに死者の数が記載されていて

王国の主張を受けて死体の数は人間と魔族の数が分けて書かれているが

魔族の数はほぼゼロだ。完全なゼロでないのは共和国が

亜人を受け入れる国柄だからだろう。魔族と呼んでいるが

見た目の違い以外は人間も魔族も大差ないのだ。


国王は報告書に目を通した後、無言で目を閉じる。


「……こんな物まで用意して、法王国は何のつもりだ」


王の声に怒気がこもる

再び開いた眼には強い敵意がこもっていた


「共和国は既に魔物に飲み込まれていたのだぞ!?

 我が国はそれを討伐しただけだ!

 こんな偽りの報告で我が国を陥れようというのか!?

 魔王軍が迫るこの状況下で一体何を考えているのだ!!」


どう見ても本気で言っている。

途方に暮れた私は、部屋に響く書記官のペンの音を聞きながら

まっすぐにこちらを見る王の目を見つめて沈黙するしかなかった



---



聖都への帰路。


馬車の中で報告書を読み返していると

向かいに座る書記官から問いかけられた。


「調査官殿、我々は魔王に勝てるでしょうか」


この大陸の人類国家は法王国、王国、共和国の三カ国だ。


王国軍の侵攻により共和国は壊滅

王国軍自身も共和国の反撃により甚大な被害を受けている。


まともに戦えるのは残る法王国だけ。

そして、法王国だけでは魔王国に対して苦戦を免れないだろう。

書記官の問いに私は答えられなかった



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