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婚約破棄した元婚約者と夜会で再会しましたが、今はダンスが楽しくてそれどころではありません

作者: はたの
掲載日:2026/03/10



約束の時間、いつものカフェに行く。


そこには死にそうな顔をした男が座っていた。

婚約者である。


嫌な予感しかしない。


彼の向かいに座り、いつもの紅茶とケーキを頼む。


その間も、いや、とかううん、とか、もだもだして進まない男を前に、私は聞いた。


「……口数が少ないですけど、体調でも悪いのですか?」


「いや……」


ずっとキョロキョロとしていた彼は、意を決したように、口を開いた。



「僕との婚約を、無かったことにして欲しい」


唖然、である。

私は十六、彼は十八。

結婚秒読みのこのタイミングで、婚約破棄?


「何故か、聞いても?」


「メアリーに会って、僕の人生は変わったんだ」


さっきまでとは別人のように、生き生きと語り出した彼の話を要約する。


最近会った女性がめちゃくちゃ積極的で、好きになっちゃったので、別れたい。ごめんね!


こんな事で私の人生も変わるのか……


まともな人間だと思ってたのに、ここで裏切られるとは。


「あなたが考えて、決めたのですね?」


最終確認。

我が家との繋がりも、弱くなることを分かっての決断よね?


「ああ、すまない……」


ふぅ、と息を吐いて鼓動を落ち着ける。

おそらく、この男に否定は通じない。


それなら。


「分かりました、その婚約破棄、了承致します」


「……ありがとう」


顔に血色の戻った男が、申し訳なさそうに微笑んだ。


すぐに席を立ち、帰路に着く。


人生設計のし直しだ。



ノックもそこそこに、執務室の扉を開ける。


「婚約破棄されました」


端的に伝えると、注意をしようとしていた父の顔がポカンとする。


こんな父の顔は、初めて見る。


「冬には結婚という話だっただろう?」


「ええ。でも好きな人がいるから、私とは結婚出来ないって」


「そうか……」


父は額を押さえた。


「あいつは馬鹿なのか?」


「阿呆だと思います」


父はしばらく黙りこんだ後、大きく息を吐いた。


「分かった。なら次を探せ」


「はい」


そう来るだろうと思っていた。

まあ、落ち込んでばかりもいられない。


帰宅する前に、仕立て屋に寄ってて良かった。



数日後。

私は夜会に出席していた。


結婚相手探しということで、いつもより派手めなドレスを纏う。

手近なグラスを一つ取り、軽く口をつけた。


婚約破棄の話は、すでに広まっているみたいだ。



「一曲いかがですか?」


……久しぶりのダンス、楽しめるかしら。


「えぇ、お願いします」


数打ちゃ当たる。

とりあえず、この人との時間を楽しんでみよう。



結果。


めちゃくちゃ楽しかった。


大きな手が私を支えてくれて、今までとは全然安定感が違う。


早めのリズムに身を任せると、世界がくるくると回る。

気持ちが高揚した。



……ダンスって、こんなに楽しかったのね。


ありがとう、と男性と別れた後。

休憩用のテーブルでは、久しぶりの令嬢たちと話が弾んだ。


夜会とは、想像以上に楽しい場所だったらしい。



その日だけでは終わらなかった。


何人もの人と踊り、気づけばすっかりダンスが好きになっていた。


それから私は、いくつもの夜会に顔を出すようになった。


そして、ある夜会で。

懐かしい顔を見かけた。


恋人がいるはずの彼が、何故一人で?


そこまで考えて、まあ関係ない事だと思考を放棄する。


今夜もめいっぱい、ダンスを楽しもう!


最近知り合った人、初めて会う人。

とにかく踊って、踊って。


疲れた私は、人の輪から少し離れた。


黄色に輝くシャンパンで、喉を潤す。



「久しぶりだね」


声をかけられて、私は振り返る。


……ああ。

婚約者だった人だ。


「まあ、お久しぶり」


とりあえず笑っておく。

何故か安心したように、彼は私の隣に並んだ。


楽しげに踊る人を見ているのも、楽しい。


音楽が止まり、お辞儀をする人たちに拍手を送る。


「メアリーとは、別れたんだ」


「そうなのですね」


本当の恋だと言っていたのに、別れてしまったのね。


「幸せになって頂きたかったですのに……」


可哀想に。

世の中、思うようにはいかないものね。


「夜会にいらしているということは……僕にもまだ可能性はあるのかな?」



シャンパンを口に運ぼうとした手が、止まる。


「え?」



阿呆だと思っていたけど。

ここまでとは。


自信ありげにこちらを見つめる男。

なんでそんなに確信を込めた目線を寄越すのか。


思わず、笑いが零れた。


「あなたって、本当に私のことを知らないのね」


だって、私。

今すごく楽しいの。


そう言いかけた時だった。


「レディ」


聞き覚えのある低い声が、私へ手を差し出す。


「ダンスを申し込んでもよろしいでしょうか?」



踊ることの楽しさを最初に教えてくれた人。

最近は会う度にダンスに誘ってくれる人が、いたずらな笑みを浮かべていた。



「ええ、もちろんですわ」


背の高い彼の手を取り、ダンスホールへ進む。


今夜も、とっても楽しめそうだわ。




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