バレンタイン・俺・デス・リバイブ
さくっと読めますよ
「バレンタインなんてのは幻想だ」
「……はあ?」
バレンタインデー当日。
放課後の教室。
俺は隣の席の女子、秋穂に打ち明けた。
今の心情を隠すことなくはっきりと。
当然、そんな苦そうな顔をするだろう。
ビターチョコレートを噛み締めたような、見事な眉毛の下り具合だな。
大丈夫。説明するから、この場を離れないでくれ。
「まず初めに、バレンタインデーとはナニカッ!」
「もう、なに?」
教室の黒板にドンと張り手をぶちかます。
俺が言いたいことを言っていくから、よーく耳の穴かっぽじって聞くんだぞ?
そこ、呆れた顔しない。しばし付き合え。
「それは――バレンタインさんが憐れにも可哀想な目にあった日!」
「あー……意外と怖い由来のやつ?」
「そう! それだよ秋穂くん」
黒板にチョークで文字を書いていく。
バレンタイン、と。
……あれ、正しくはヴァレンタインだっけ?
まあいいか!
「そして歴史を重ね、菓子会社がこぞってマーケティングをしたわけだ。今日この日は、女性が男性に愛の告白する日だと。チョコも送ればいいじゃんと!」
大体こんな感じだろう。
詳しいことは知らんが、とにかくだ。
俺はこの意味不明な行事に、腹を立てている。
「どいつもこいつも、口を開けばチョコチョコチョコチョコチョコチョコ!!」
激情を曝け出し、バレンタインさんの周りにチョコの文字を刻んでいった。
「もっと敬えよ! 彼が浮かばれないだろう? リア充が正式にイチャイチャを謳歌できる空間を作り出してんじゃねぇ!」
「……何言ってるの?」
もちろん、俺の心のままだ。
「女子がチョコを渡す風習。なるほど大変結構だ、勝手にやればいい。だが俺の前ではやるな、見せつけるな。なんだ、チョコゼロの俺に対する当てつけなのか? どういう生活を送ったらあんな非道なことがッ!?」
「……やられたんだ?」
「今朝、俺の下駄箱の前で堂々とやりやがった! ちくしょう! さっさとどけよリア充どもが!」
ありのままの事実を話し終えた。
荒くなった呼吸を落ち着かせる。
そうだ、俺はバレンタインの早朝しんだ。
あの羨まし――いや、目障りなバラ色マジックによって目をやられたのだ。
これは復讐だ。幻想破壊だ!
バレンタインという日の本来の意味を、世間に知らしめるべく活動してやる!
「いやいや……意味わかんないよ? 第一、チョコ欲しくてそうしてるわけでしょ?」
「は、はあ? 別に欲しくないし」
「じゃあこれ、持って帰ったほうがいいかな」
「おう持って帰れ! そんなもの誰にあげたって俺が阻止するまでもなく俺にくれるんですか? え?」
秋穂が鞄から出したアレはなんだ。
ピンク色の包装紙の物体だな。
爆弾か? そうだ、超小型爆弾に違いない。
「わざわざ作ってきたのに……どうしよう」
「…………」
「ぎょ、凝視してないで、なにか言ったら?」
「はっ!?」
気がつけば意識が飛んでいた。
あぶない、あれは危険だ。
おそらく見たものを虜にする魔術がかけられている。
許されない、許されないぞ!
「……本当に、俺に?」
何を言っているんだ。
口が勝手に動いた。無意識の産物だ。
そうでなければ、先ほどまでの俺を裏切ることに――
「うん。今日まで友達でいてくれたお礼、かな」
彼女の頬がほんのりと赤い。
バカな。いつもの俺に見せる表情ではなかった。
さっきから目も合わせてくれないし、これは……?
「あ、言っとくけど義理チョコだから。そこんとこ、勘違いしないでくれると……たすかる」
袋を差し出され、俺は受け取った。
中身を見る。
明らかに手作り。そして手間がかかっている。
一目でわかるような、そんなチョコがあった。
「…………………………ありがとう」
「おっそ。ふふっ」
こうして、数分前の俺は裏切られた。
バレンタインさんもこんな気持ちだったのだろうか。
簡単に裏切ってしまった。
しんでしまった俺の気持ちは、もうわからない。
なにせ、俺は生き返ってしまった。
手中にあるチョコを眺めて、懺悔する。
すまない。全男性諸君。
ありがとう。全女性諸君。
俺はしに、再び息を吹き返した。
バレンタインという素晴らしき日に、乾杯。
ちなみに、私は家族からしかチョコもらえません
虚しい気持ちも深夜に小説で吹き飛ぶもんです




