冷めない紅茶と温いジュース
「ねぇ、聞いてよ」
「なに?ティータイムにちょうどいい話?」
「や。全然丁度良くないよ」
「じゃあ、なんで話すのよ」
「ちょっと語りたくてさ」
「まぁいいや。聞くよ」
「んじゃあ、そーゆーことしようと同人誌を漁ってたんだよ」
「・・・・・・」
「んでさ、NTRの同人誌があって、めちゃくちゃエロかったんだよ」
「・・・どちゃしこ?」
「うん。どちゃしこ」
「・・・今さ、私も君も昼休みにゆっくりしてるじゃん。コーヒーブレイクの最中じゃん。君のそのレッドブル、半分も飲んでないでしょ」
「まぁね。正直、そんなに好きじゃないし」
「じゃあ、なんでそんなもんばっかり飲んでるよ」
「いいからいいから。んでさ、せっかくだしってことで、その作者の本を色々読んでみたんだよ」
「その話、長そう?」
「うん。割と」
「うげぇ」
「いいからいいから。んでその作者でもイケる本とイケない本があるの。なんでだろうなーって。全部NTRなのに」
「・・・え、感想求めてる?んー知らないよ。おんなじ作者なら絵柄も一緒だろうし」
「それで色々読み漁ってわかったんだ。私はさ『何をしたか、してるか、されたかを、説明する、される』ってのが好きなんだ」
「うん。どうでもいい。友達の性癖なんて知りたくなかった」
「ま、数あるエロ本の中で1番興奮したのはさ、女性が両想いだと思ってたのに、実は違ったみたいな感じの本だったの。エロ描写なかったのに、めちゃくちゃ興奮した」
「・・・・・・帰っていい?」
「や、ここからが本題なの」
「えぇ・・・」
「私って恋人がいたの」
「え」
「その元カレとはさ、進学だから別れたんだ。その子は愛知に残るし、私はこっちに来ることになったし」
「ほーん」
「でもさ、別れ話でさ、私が『別れよ』って言ったんだよ。言い訳とか色々用意してね。したらソイツなんて言ったと思う?『わかった』だよ!何がわかったんだよ!」
「それは彼氏が悪いは」
「普通さ、呼び止めたり、理由聞いたりするよね!」
「まぁ、普通なら」
「まぁ、その元カレはさ、幼馴染みなの。私が親の都合から愛知県を7年とかそれくらい離れてたんだ。それでも彼は、ずっと変わらなかったんだ。愛知に帰ってきて、これからは一緒だって思ったら、アイツ、中学受験して、消えやがったんだ」
「んー壮絶。でもさ、中学受験ってことは、その元カレ頭いいの?」
「や、馬鹿だよ。今Fランにいるし」
「え」
「でも、作文とか、文章を書くのが凄い上手だったな。だからこそさ、何も言わなかったのが許せないってわけよ」
「なるほど」
「んで、私がこっちに来るとき、1件だけLINEが来たんだ。『また会ったら、喋ろうよ。ぬるいレモンティーとレッドブルで乾杯しよう』って。ずるいよね」
「うわぁ・・・ずるい。そのレッドブルって?」
「うん。元カレが好きだったレッドブル」
「・・・・・・」
「それで、愛知を出て1年目、私は彼の誕生日に、誕生日おめでとう。ってだけ送ったんだ」
「・・・」
「うるさい。未練がましいなんてわかってる。そしたら、『ありがと』って。『よく覚えてたね。誰にも言ってないのに。2度と祝わないで』って。
「うわぁ、最低じゃん、そのクソ野郎」
「あ、ちがう。これは毎年恒例。私が誕生日を祝って、彼が祝うなって言う恒例」
「へんなの」
「それ見て、笑えちゃったよ。変わんないなって」
「まぁ、見限るよね」
「したらさ、元カレは私に、電話できないかって連絡してきたんだよ」
「・・・」
「浅ましい私は飛びついたよ。朝の6時までずっと喋った」
「やっぱね。そんな気はしたよ」
「電話でさ、元カレは『俺はまだ、あんたのことが好きだよ』って」
「え、キモ」
「どういう意味か聞いたらさ、『さぁね。あんたよりいい女性を探してるけど、中々上手くいかないね。あんたを想ってた時間を何に使えばいいかわからないのさ』って」
「・・・キモいって言うか、重いよ」
「私は、私も好きとだけ言った」
「え、え、え、まだ好きなん?」
「うん。まだ好きだよ」
「・・・ごめん、私には理解できないや」
「したら彼は、相変わらずスカした声で、あんたが恋しいよ。って。俺さ、お前より素敵な女性を見つけれると思う?って。私はなんて言えばいいかわかんなくて、口を閉じたよ」
「そりゃ、なんて言えばいいかわかんないよね」
「最後に彼は『ま、精々祈ってくれ。もうすぐ手術なんだ』とだけ言ったよ」
「へぇ。その手術はどうだったの?」
「私にもわかんない。なんの?とは聞いたけど、目の手術としか言わなかったよ。そんなに重くとらえないでって」
「まぁ、その元カレはきっと不器用だったんだね」
「そうだね。アイツは不器用だった。んで、冬休み、私は彼と相対したんだ。相対して喋ったんだ」
「え、いつ?」
「だいぶ前だけど。1番最初、私もそいつも何も言わなかったし、何も言えなかったけど、彼はレモンティーを渡してきた。相変わらずそいつはレッドブルだった。馬鹿の一つ覚えだね」
「まぁ、バカだしね」
「いつも一緒に座ってたベンチに一緒に座って喋ったんだ。元カレと」
「・・・」
「付き合ってた頃はさ、2人の間にアイツは鞄を置いてたのに、その日は適当に足元に置かれてたんだ」
「よく見てるね」
「まぁね。んで色々喋ったんだ。サークルとか、進学、就職とか他愛のない話」
「まぁ、踏み込まない会話は心地いいよね」
「彼はさ、普段自分のことを全然喋らないんだ。でも、その日はいつも以上に喋ってくれたんだ。目のことだって、左目はもう見えてないし、右目も手術の経過が悪ければ無くなるって」
「なんて病気なの?」
「ん-、本人も病名については言わなかったな。もしかしたら近くに居たらうつる病気だったかもね」
「縁起でもないよ」
「んで、それを聞いた私はさ、何言おうか逡巡してたら、『ストップ、慰めはいらないよ。あんたは自分の人生を謳歌して』って」
「うーん、優しいけど卑怯だね」
「私は、慰める権利も奪われて、溜息をつきそうになったらさ、彼は続けてこう言ったんだよ」
「なんて?」
「大学が終わって、俺の右目が何とかなったら、やり直してくれませんか」
「・・・なんて答えたの?」
「そん時は断ろうと思ったけど、頷くことしかできなかったな。んで、彼と別れて実家で色々考えて、私は電話を掛けたんだ」
「ほん。なんて?」
「私も、君のことがまだ好き。振ってごめんなさい。手術が終わって、目が見えなくても私と付き合ってください。ってね。電話越しにも彼の驚きが伝わってきたよ」
「・・・・・・」
「ちょっと、黙らないでよ。んで、こっちに戻ってくるまでの2週間は、彼の家で暮らしたんだ。スギ薬局でおっかなびっくりコンドームを買ったのに、結局、2人してお酒も飲んでいいムードにもなったのに、セックスしなかったしね」
「ヘタレ」
「うるさい。お互い初めてなんだから。んで、東京に帰ったんだ。それから10日後、彼は、交通事故に遭ったんだ」
「・・・えっ」
「見えてない左側からバイクに激突されて、頭を打って」
「・・・・・・」
「きっと彼は今、両の目で光彩陸離を天国で見てるよ」
「・・・それは、その」
「慰めなくて大丈夫。もう3年前の話だよ」
「・・・まだ、好きなの?」
「うん。愛してる。私の今住んでる下宿には、彼の笑顔の写真と、使えなかったコンドームとひしゃげたメガネが置いてあるんだ。家族に無理言って貰ったんだ」
「・・・そう」
「・・・ごめん、重たい話になっちゃったね。コンビニ行こうよ」
「奢ってあげる。レモンティーでいい?」
「や、レッドブルにしてほしいな」
「・・・そう。じゃあ、私がレモンティーを飲むよ」




