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死んだ幼馴染と同じ顔をしている(蓋魔の瓶夫:③第三原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ
二章:山羊の教典

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第6話 “32歳の老人”

「いつからあのホテルにいたんですか?」

「気づいたときから」


 ビョークの質問に対し、ハルはたんぱくだ。

 彼を嫌っている。

 

 集会場の外は賑わっていた。

 眠る気配がない。集会場の中もまだやかましい。


「ホテルで何をしてたの?」


 チユは代わりに聞いた。


「扉の開け閉め」

「なにそれ」

「三階のパーティースペースが山羊たちの寝床なんだ。その部屋の扉を僕が閉めるんだよ」

「ハルもそこで眠るの?」


 ハルは首を振った。


「僕はパーティースペースには入れないんだ」

「どうして?」

「僕だけ二足歩行だから。気味悪がられてるんだ。パーティースペースは、普通の山羊たちの居場所なんだよ。だから山羊たちは安心して眠ることができる」

「閉めたら、ハルはどうするの?」

「朝まで外で待つ」

「朝になったらハルが開けるの?」

「そ」

「変なの。ハルは気味悪がられてるのよね? なのにハルが外で見張ってるから安心ってこと? おかしくない?」

「そうかなぁ。そういうものなんじゃない?」

「どういう意味よ、そういうものって」

「知らない。そういうものは、そういうものだ。そういうふうになってるんだよ」


 チユは山羊たちに腹が立ってきた。

 ハルに気を遣って手をつけなかったが、あの皿のラム肉を食らってやればよかったと後悔した。


「でも今は自由だ。あのホテルにはもう戻らない」


 丘を眺めると、いまも黒いシルエットだけが見えている。


「そういえば、ビョーク。さっき何か言ってなかった? 教典がどうとかって」

「大したことじゃありません。離脱現象といって、教典にも似たような症状があるんです。忘れてください」


 ふうん、とチユは鼻で返事をした。


「あの、すみません」


 声をかけられた。

 一同が振り返ると老人が立っていた。


「さきほど、なかであなた方が話しているのを聞いてしまいまして」

「話?」


 ビョークが応じた。


「あの丘に咲いていた花々のことを、あなたは覚えているんですか?」

「青く光る花々のことですか? はい、覚えてますよ。もう二年前ですけど」

「そうですか……うれしいな。同じ記憶を保有している人に出会えた。わたしも覚えているんです」


 老人の口元に笑みが浮かんだ。


「しかし、その景色についてはまったく思い出すことができません」

「それは……お気の毒に」

「字のごとく、覚えているというだけです」

「おじいさんも逗留者なんですか?」


 チユの声に、老人が顔をぱっと上げる。


「はい?」

「わたしたち、この島のことを調べに来ていて、今日登頂したんです」

「あの、すみません。そんなに老けているでしょうか?」


 老人の表情が弱った笑みに変わった。

 おじいさん、と言ったことがまずかったらしい。年齢を気にするタイプか。

 ビョークがチユを見て首を小さく振った。


「島にはいつ頃からいらっしゃるんですか?」


 ビョークが話を変えた。


「二年前の一般開放日からです。わたしも調査隊に参加したんですよ。島じゅうを巡りました。わたしは、あの不良たちとは違いますから」

「不良たち?」

「最初はみんな冒険を楽しんでたんです。この島の神秘性に惚れる人もたくさんいた。しかしお金稼ぎが目当ての拝金主義者どもがいつのまにか増えた。すると島は踏み荒らされた、あの花々のように。塔も逗留先に使われ、汚されました。地上もここ二年で治安が悪くなったと聞いています」

「まあ、旅人が増えたのは事実ですね。地上にもたくさんいますし」

「過疎のころは人々が優しい。でもそれが流行り、ミーハーどもで溢れると全体の民度が下がる。舞い込んでくるミーハーは、素行不良の人たちだ」

「おじいさんはミーハーじゃないの?」


 ハルが訊いた。

 老人の顔が凍りつく。


「すみません、この子……」


 チユが間に入ろうとする。


「あの丘にいた山羊ですよね、話が聞こえていました」


 老人は膝を曲げ、ハルに目線を合わせた。


「おじいさん、と言ったかい?」


 そう聞かれ、ハルはチユを見た。

 チユはどうフォローしていいのかわからなかった。厄介な老人だ。


「俺はまだ三二歳だ、おじいさんだなんて呼ばれる歳じゃない」

「三二?」


 ビョークが思わず口に出してしまった。

 どう見ても三二歳ではない。

 肌は皺まみれ、老人だ。

 チユが奇異の目を向けると、老人は苦笑いを浮かべた。

 やがてチユやビョークへ怪しむような目を向け、そのまま立ち去った。


 チユは言いようのない恐怖を感じていた。

 それはビョークも同じであるように思えた。

 二人はしばらく黙った。


「変なおじいさん」


 ハルが言った。

 町の見え方が変わっていた。

 どうしていままで気がつかなったのだろう。

 町を見渡すと、路地を行き交う人々のほとんどが老人だった。


「島を下りましょう」


 ビョークが神妙な顔をして言った。

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