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死んだ幼馴染と同じ顔をしている(蓋魔の瓶夫:③第三原稿)  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ
一章:熱線少女は山羊を狩る

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第14話 “変身”

 折れた両腕。

 曲がった足首。

 腫れた顔は原型を留めていない。

 それがハルタであるとは誰が見てもわからないだろう。

 

 瀕死の肉塊を置いて離れてゆく脚家の足が止まった。

 

「なんだ、まだ生きてんのか」

「しぶといですねぇ」

「だいぶ蹴りましたよ? 楯蓋の角でも殴ったし」


 突然ハルタの肩と腕が膨れ上がった。

 バルーンアート用の風船に空気を入れるみたいに、それが全身へ広がってゆく。

 肥大してゆく。


 脚家たちは圧倒され、後ずさった。

 ハルタは大きな獣と化した。

 首から下は人のものと相違ない。

 マーコールのような角に、離れた「一」の目。

 山羊だ。


 奇声の波がグラウンド全体を襲った。

 衝撃波に三人の肌がぴりつく。


「ハルタ……おまえ、ヘルデだったのか」


 脚家はわくわくした。

 すでに臨戦態勢に入っていた。

 いつでも楯蓋を使えるよう従騎士二人が広がり、配置につく。


「あの事件の影響、おまえも受けてたんだな」


 脚家は笑い声を上げた。


「これがおまえの最後か。いやぁ、蓋魔に相応しいなぁ。もういい、おまえ蓋しろ。流石にこいつを腕っぷしでどうこうってのはきつい」


 突風が吹いた。

 一人が頷き、ヘルデの頭上まで飛んだ。

 楯蓋を下へ向け、そのまま綺麗に落下してゆく。

 強烈な風圧がヘルデを襲う。

 その巨体であれ、ヘルデはもう立っていることすらできない。


 ──そうなるはずだった。


 腕全体を使い、チョークで黒板に大きな正円を描くように、ヘルデが腕を回した。

 中空にいた従騎士の姿が消えた。

 瞬間、パーンという鈍い音がした。


 脚家は音のした方向を見た。


 校舎の壁に従騎士が張り付いていた。

 腕が明後日の方向に曲がり、内臓が飛び出ている。

 白目を向いている。

 背景の壁に血と肉変が花開くように広がっていた。

 水風船をアスファルトに打ちつけた際のようだった。

 股下から小便みたいに血肉が垂れている。


「冗談じゃねぇ……撤退だ! 耳絶ちが効かねぇ。やつの特性を継いでやがる」


 霧の中からすうっと物が見えるように、ヘルデの手に角材が現れた。

 背を向け、離れようとしていた従騎士の姿がまた一つ消えた。

 初動がなかった。

 ヘルデは角材を片手で軽々と振った。

 従騎士は縦に回転しながら飛んでゆき、グラウンドと校舎の境にある短い階段でバウンドした。

 腕と脚を一本ずつ欠損し、血を撒き散らしながら校舎の壁に激突する。

 ぼとん──。

 地面に落ちた。

 潰れた体がぷるぷる痙攣している。


 次は脚家だ。

 ヘルデがこちらへ近づいてくる。

 脚家は楯蓋を振り、耳絶ちを起こした。

 他の二人のものより強い風が吹いた。

 さらにバックハンドのように振って風圧をヘルデへ当てた。

 何度も、何発も。

 ヘルデはまったく影響を受けない。微動だにしない。

 距離が縮まってゆく。


「あれぇ?」


 脚家の口角が吊り上がり始める。


「嘘だろぉ?」


 痙攣した笑みを浮かべた。

 バックハンドした拍子に楯蓋を落としてしまった。


「しまっ!」


 脚家へ、手の形の影が覆いかぶさった。

 彼は見上げた。


「やめっ──」


 蚊をしばくようだった。

 ヘルデは開いた片手の平を脚家へ叩きつけた。

 乾いた音だった。

 手の平の下から、ややねばっこい赤い汁が広がった。


 雄叫びを上げるヘルデ。

 追悼花壇から霧が漂いはじめていた。

 それはグラウンドじゅうへ広がった。

 霧に呑まれるとヘルデの姿が透けた。

 霧が晴れる頃、ヘルデの姿はなくなっていた。





「待って」


 背中でチユが言った。

 住宅街を走るビョークの足が止まった。


 ビョークの背から滑り降りたチユは二、三歩引き返した。

 西の住宅街から見る小学校の敷地内は高低差がある。

 地盤を囲む擁壁と、高台のグラウンドには鉄フェンスが張り巡らされていた。

 フェンス奥に生え並ぶヒノキが邪魔をして中が見えない。


「いま声が……」

「行きましょう。ハルタさんの足止めが無駄になります」


 ハルタの声がした。

 気のせいだろうか。

 チユはフェンスの先を凝視する。

 

 ややあって向きなおり、視線がアスファルトの上を通ってビョークを見た。

 

 この場を離れたくない。

 ハルの傍にいたい。

 やりきれない思いを胸に、チユは頷いた。


 ビョークの助走に合わせて走り出した。

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