悩み多き年頃8
たとえ寿里を慮っての好意だったとしても彼のしたことは大きな過ちだった。男女間の溝にお金など持ち出す行為は気持ちを踏みにじる以外の何物でもない。断じてしてはならない事を犯した彼は自業自得なのだと寿里は強気だった。しかしそんな寿里にも一つだけ後味悪いことがあった。それは当事者ではない婚約者を巻き込んでしまったことだった。
「寿里ちゃんが言うように確かに彼女には何の罪もないから気の毒だけどこの件で波風立ったとしても二人がこれからも一緒に生活する道を選んだとしたら今まで以上にいい関係になれると思うわ」
「もう一度、管理人のおじさんに会ってこようかな うまくいってるなら二人は今まで以上に幸せだって事でしょ 彼女を不幸にする理由なんて私にはないもの」
「そんな確認しなくたった大丈夫よ 二人はうまくやっているわ」
「どうしてわかるの」
「結婚の約束をしている彼と彼女はもう夫婦同然よ 夫婦の絆ってね、そう簡単には断ち切れないように出来てるからよ」
「そうなの・・だからパパとママも」
「両親がどうかしたの」
「ううんなにも わたしね彼との事があってから男の人に御馳走になったりプレゼントを貰ったりすることが出来なくなったの・・ 彼女のいる男性とのお付き合いは絶対NGだけど出会った人に彼女いますかなんて聞けないでしょう だから恋愛も面倒で億劫になって何だか疲れちゃった」
「それしきぐらいの事でめげていたらこの先の人生しんどいの連続よ 寿里ちゃんらしくないわ」
「志桜里ママが言う私らしいってなぁに 他の人に私はどんなふうに見えているのかな 志桜里ママ、私はママが思ってるような子じゃないの」
「小賢しく繕ったところで鍍金は剥がれるもの 私が見てきた寿里ちゃんは見立て通りの良い子よ間違いないわ 卑下したりしないでもっと自分を誉めて自信を持って」
「・・・・」
「寿里ちゃん今度お店が休みのとき遊びにいらっしゃい ゆっくり話せるように寿里ちゃん貸切にして待っているから」
「はいって即答できなくてごめんなさい でも志桜里ママの気持ちすごくうれしいです」
彼との事ではない何かに一人思い悩んでいるに違いない寿里の様子に志桜里はうすうす気づいていた。