悩み多き年頃7
「もう帰らないと この話しの後日談はまた今度 きっと志桜里ママ驚くと思うわ」
いたずらっ子のような笑顔を見せながら寿里は背筋を伸ばし颯爽と帰って行った。その後ろ姿に志桜里はひとり呟いた。
『良くも悪くも寿里ちゃんに起きる出来事のすべてがこれから生きていくための教訓よ 若かった私にも苦しんだり踠いたり悲しみに暮れた日々があったわ 時には誰かを傷つけたり誰かに傷つけられたりしながら泣いたり笑ったりを繰り返しながら大人の階段を駆け上ってきたわ』
しばらくして寿里から聞かされた彼との後日談に志桜里は改めて敵にまわすと女は豹変する生き物なのだとつくづく思い知らされた。まさか寿里が豹変するとは志桜里には信じ難いことだった
カウンターの端に座った寿里の話しは彼から送られてきた小包みのことからはじまった
寿里のもとにその小包が届いたのは彼と最後に会って一週間ほど経った頃だった 詫び状ともいえる書面とともに封に入っていたのは現金だった 厚さからして50万はあると思われた 50と言ったら寿里にとっては大金 ひと月必死に働いて手にする給料の倍以上にも値するその札束を寿里は箱に戻した 彼はこのお金が寿里の怒りを買うとは思いもしなかっただろう
「ねぇ志桜里ママ、私を友達と言いきった彼がどうしてお金なんて送ってきたのかしら 志桜里ママが言ったように彼の心にやましさがあったから?」
「本人に聞かないとわからないけど、やましい気持ちなんて彼にはなかったと思いたいわ 寿里ちゃんに許さないって言われた彼は自分が思っていた以上に寿里ちゃんが傷ついていた事を知ったから償いの気持ちだったのかも」
「私もそう思いたい・・でも彼はわたしに恐れをなしていたんだわ 婚約者に危害が及ぶ事を避けるため、彼女を守るために・・
わたし彼にそんな女に見られたと思ったら悲しくて悔しくてますます彼を許せなくなったの」
翌日仕事が終わった寿里はきれいな包装紙で包み直した箱を持って彼のマンションに向かった 管理室の窓を叩くと胸元に吊るした眼鏡をかけながら初老の男性が窓を開けた 彼の婚約者の友人と名乗り彼女が上京すると管理室に必ず顔を出すことを聞き出した寿里は箱を差し出して彼女に必ず手渡ししてくれるように頼んだ 箱の中にメッセージを入れた。
【これは貴方の婚約者から送られてきたものです謝罪のお金かと思いますがお返し致します いつぞやは合鍵でマンションに入りすみませんでした 私は彼の会社の者ではありません 嘘をついてごめんなさい 婚約者がいるなんて知らず誘われると彼の手料理をご馳走になったり仲良くさせて頂きましたが、今後彼とは二度と会いませんのでご安心ください 彼は貴方だけの彼、になりました】
自宅に帰った寿里は二人の修羅場を想像したが後悔など微塵もなかった。
「今のわたしは醜い・・最低な女だわ 残念だったのは私自身だった」
冷めた紅茶を手にし寿里は深いため息を吐きながら呟いた