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WOMAN  作者: 佳穏
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悲しき再会2

「もっちゃんそんなに慌ててどうしたの」



「ママあいつ・・さっき話した怪しい男だ 間違いないよ」



「本当なの・・」



「助けが必要になったら拳をあげろ、それが合図だ あっ奴がこっちに来たから退散するよ」



「もっちゃん、ありがとうね」



辺りを見渡し近付いてきた男性はカウンター席に座った。男性が注文した珈琲を差し出した志桜里の手は心なしか震えて見えた。離れたテーブル席の茂木もっちゃんといつも一緒に来店する幼なじみの山田やまちゃんは心配そうにカウンター席を見ていた。


カップを取ろうと背を向けた志桜里にカウンター席にいた男性が声をかけてきた。



「あのぅ申し訳ないのですが少しお時間頂けないでしょうか」



「・・私に何か・・」



「すみません 最初にお渡しすれば良かったですね 私はこういう者です」



男性はジャケットの内ポケットからクロコダイルの名刺入れを取り出して名刺を志桜里に手渡した。



「興信所にお勤めなんですね 興信所の方がわたしにお話とは・・なにを聞きたくていらしたのですか」



「ある方からのご依頼で調査をしてまして」



「調査、それで私のこと聞き回っていたのですか」



「はい、貴方に会いたいから何としても探し出して欲しいとのご依頼がありまして」



「私を探して欲しい・・

その依頼人って方は誰ですか」



「ご依頼人様は自分の名前を聞いたらあなた様はすぐにお分かりになると言っていました。その方のお名前は佐々木勝之様です 現在佐々木様は入院中です」


「入院・・いつ退院出きますか 元気になられてお店に来ていただければ」



「いいえそれでは駄目なのです出来ないのです」



「出来ないとは」



「すみません感情的になってしまって

実は佐々木様は余命宣告され今はベッドで起きていることさえお辛い状態なのです」



「そんなにお悪いのですか」



「三回目の入院ですがご家族様が言うには今回は予断許さない状態だと」



「・・・・」



黙ったまま立ちすくむ志桜里の顔から血の気がひいていった。



青白い蒼白な志桜里を見た茂木と山田は只事ではないと立ち上がりカウンター席に歩み寄って来た。



「貴様ママになんか言ったのか」



「えっ私はなにも・・」



「ママの顔を見てみろ、困惑しているのが分からないのか」



「私は何も・・仕事で来ただけで」



「だったらよ、なんでママがこんな青い顔してるのか教えて貰いたいな」



「もっちゃんやまちゃん止めて、心配しないで この人は本当にお仕事で私に会いにこられたのよ 勝手に早合点してお客様に失礼だわ ちゃんと謝ってちょうだい」



「そうだったのか なら安心したよ 俺たち又ママに倒れられでもしたら困るから心配だったんだ 新顔のお客さん悪かったね この通り頭を下げてお詫びします 山ちゃんも早く頭下げな」


「私も早とちりした不躾を謝ります ママがいつも口にしている家族と同じ大切お客さんに失礼なことしでかしてママにもすまないと思っているごめんよ さっきは本当にママの顔蒼白だったからもっちゃんと心配してたんだ本当に大丈夫か」



「ありがとう もう大丈夫だからテーブルに戻って」



「わかったよママ 客人よ悪かった 懲りずに近くにきたらまた寄ってくれよな じゃ失礼するよ」



「あ、はい」



「本当にすみませんでした。私からもお詫びいたします」



「気になさらないでください このお店はいいですね ここのお客はみんなあなたのファンなのでしょうね 愛されているのですね」



「私もお客様を愛していますよ 大事なお客様に助けられ守られてわたしは今日までひとり孤独な人生を生き伸びて来られたと感謝しています」



「なんとなく貴方という女性の人となりがわかってきました 佐々木様の貴方と一目でいいから会いたいとのお気持ちがわかるような気がします あっ先ほどの話の続きですが早急に佐々木様に会っていだけますでしょうか お店がありますから大変かと思いますが佐々木様の最後の願いを叶えるため会ってあげてほしいのです 宜しくお願いします」



頭下げた男性はB5サイズの封筒をカウンターに置いた。



「こちらに入院先の病院の詳細が入っていますので目を通してわからないことがあればお渡しした私の名刺の携帯にご連絡下さい それでは私はこれで失礼します」



「あの人勝之さんに取り急いで会いに行きますと待っていて下さいとお伝えください」



「分かりました お伝えします 今日はお時間を割いて頂きありがとうございました」



「こちらこそありがとうございました」



志桜里はずっと心配そうにカウンター席を覗き見ている茂木と山田に笑顔でVサインを送った。安堵したのか二人はいつも通り笑い声を上げ会話を始めた。



志桜里は自分の一挙一同に気配ってくれる常連客がいる有りがたさをしみじみ感じていた。


常連客みんな私の家族。愛する人と別れ痩せ細ってしまった私を心配し買い出しや仕込みをみんなが手分けして助けてくれた 倒れたときもみんなして代わる代わる介護してくれた 具合が悪くなったあの時も、もっちゃんが鍵かけてお店貸し切りの張り紙を貼ってくれた おかげでゆっくり体休める事ができた 横たわる私の側で父親みたいに優しく手を握ってくれたっけ・・


志桜里の脳裏に感謝しきれない出来事が数知れず浮かび上がっていた。

 


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